【自主レポート】
群馬県の財政分析(2002)
群馬県本部/群馬県庁職員労働組合
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はじめに
(1) 財政事情の濫用はこれ以上許さない!
「厳しい財政事情」。今や確定交渉の当局スローガンとなっている聞き慣れた言葉です。そもそも職員の給与は第3者機関である人事委員会の勧告及び交渉で決めていることであって、「台所事情が厳しいからお前も我慢しろ」と言うのは本来筋の通らない話であります。
しかし、残念な事にこの言葉に我々組合員が幾度と無く翻弄され続けて来たことも一方事実であるわけです。組合員からの不満のほとんどは、当局のスローガンを呪文の様に連発する理不尽な姿勢にあり、そしてそれに反撃する手段を持たないことに対する苛立ちにあるのではと考えます。
こんな現状を許すわけにはいけない! と、県職労は立ち上がりました。そして本年度より本県の財政事情に対する分析を行い、組合なりの財政に対する独自の認識を持たねばと言うことで、見慣れない財政指標と睨めっこをしながら取り組んでいます。
(2) 何をテーマとするか
さて、財政分析と言っても一体どのようなことをすれば組合員の皆さんに役立てる物になるのか? そこが最も難しい問題です。
おそらく、相当財政に精通している方を除き、多くの皆さんは何となく財政状況が悪いというのは感じているけど、一体どれくらい悪いのか? そして原因は何なのか? と問われるとどうもよく分からない。というのが正直な感覚ではないでしょうか。財政部局からは資料やら情報なりが提供されていますが、それを読んでも正直言って理解するのは相当困難です。
このような状況ですから、当局流に「きちんとした財政運営をされているか県民一人ひとりがチェックしていかなければならない」などと理想論を言うのは容易ですが、まず無理と申し上げざるを得ません。
そこで、初年度の財政分析においては、下記のように素朴な疑問点を明らかにすることを目的に構成しています。
① 財政がどんな風に悪いの?
② 悪いのはなぜ?
③ 本当に人件費が財政を悪化させているの?
(3) やればやるほど奥の深い財政分析
初年度ということでノウハウ不足とスタッフ不足を言い訳にするわけではありませんが、内容的にはまだまだで、財政部局が提供する資料を分かり易く説明する程度のレベルでしかない部分もあることをお許しください。ただ、それだけでも組合員の皆さんが県財政について問題意識を深める一助となってはくれるはずと信じています。
県職労の目標はあくまで独自の財政認識を持つことにあります。しかし、財政は私たちの想像以上に深く難解な物でして、その道のりは長く険しいです。今後もあきらめることなく地道に取り組みを継続していきますので、意見・アドバイス等がございましたら、何なりとお寄せください。よろしくお願いします。
1. 歳入・歳出の構造
財政の基本は歳入と歳出について知ることにあります。「厳しい財政状況」と言ってみても、何となくそんな気がするものの実際のところ何が厳しいのか今ひとつよく分からないのが正直なところだと思います。
まず、歳入については今年2月に行われた突然の給与カットの際、「地方税収入額が当初予算見込みを大きく下回った」という説明があったのですが、本当にそんな言い訳が通用するのか? 疑問は尽きません。
また、歳出の方では近年どんどん厳しさを増す人件費攻撃をはじめ、歳出カットの流れは著しいものを感じます。しかし、「人件費ってそんなに財政を圧迫しているの?」「人件費以外の歳出(公共事業費等)は削減されているの?」とこれまた疑問は尽きません。
そこで、財政分析の視点からこれらの素朴な疑問を明らかにするために、まず群馬県の歳入と歳出の構造を知ることから始めます。
(1) 歳入の構造
群馬県の歳入は、地方税、地方交付税、国庫支出金、地方債の主要項目で約8割の収入を占めています。
過去10年間における、この4項目の歳入全体に占める構成比の推移を(図1)、91(H3)年度を100とした伸び率を(図2)に示しました。以下、各項目についての特徴を整理したいと思います。
① 地方税
群馬県の地方税の特徴は、法人事業税・法人住民税という法人の利潤に課税する租税が約3割の税収を占めています。それはつまり、景気変動に応じて税収の変動が大きくなりやすい傾向があることを意味します。本県においてもバブル崩壊後、景気を反映して地方税収入は落ち込み、構成比も91(H3)年度から後の数年において大きく下落していることが分かります。
その後は徐々に回復傾向にありましたが99(H11)年度に下落しているのは、景気対策のための恒久減税(一時的な減税でなく税率自体を変えることによる減税)が影響していると考えられます。
② 地方交付税
地方公共団体の財源の均衡化を図ることを目的として交付されるお金です。具体的には国税の中の所得税、法人税、酒税、消費税、たばこ税の一定割合を地方に交付する方式で行います。98(H10)年度まで安定して推移していたのが99(H11)年度から急増していることが分かると思いますが、これはその割合が増えたことが理由です。そういうことを何故したのかというと、地方税の項で述べたとおり景気対策のため恒久減税を実施したことに伴う減収分を地方交付税によって補填するためです。
③ 国庫支出金
国から県に対し支出される補助金、負担金等を指します。地方交付税との違いはこれがいわゆる「ヒモ付き」、つまり使途があらかじめ決められているお金だということです。ここ10年、比率的には20%を欠ける位で大きな変化はありません。
④ 地方債
ここ10年最も大きな動きを見せていているのが地方債です。98(H10)年度まで急増しその後減少していますが、残高的にはほぼ年度予算と同額になるまで急増しました(図8)。景気の悪いときにはある程度の借金をしてでも財政支出をするのは行政の使命ですが、そうは言ってもここ10年間の伸びは異常と言わざるを得ません。
また、県が借金をする目的は税収が減った場合の穴埋めのためであると安直に考えがちですが、地方債を論じるときには必ずしもその考え方は当てはまりません。地方債は言うまでもなく県の借金ですが、国債と大きく違う点があります。それは、地方財政法により起債の目的が公共事業等の投資的経費に限定されており、経常経費(人件費、物品費等)を賄うための赤字地方債は認められていないということです。それはつまり、公共事業費と地方債発行は連動しがちなこと、また地方自治体にとって公共事業が魅力的であるということと深い関係があります。このことについては3.で説明します。
(2) 歳出の構造
歳出項目には様々なものがありますが、群馬県では人件費、普通建設事業費、公債費で約7割を占めています。
歳出についても歳入同様、過去10年間における主要項目の歳出全体に占める構成比の推移を(図3)、91(H3)年度を100とした伸び率を(図4)に示しました。以下、各項目についての特徴を整理したいと思います。
① 人件費
人件費は私たち職員の給与、知事等、議員、委員等の報酬の合計に退職金、地共済負担金、職員互助会負担金等が加わります(要は公務員等にかかる費用全部ということ)。うち職員に係る部分が9割以上です。歳出に占める比率は約3割程度でほとんど変化はありません。注目したいのは10年間で最も伸び率が低いのは人件費であるということです(図4)。歳出総額の伸びと比べても非常に低く、これだけでも財政状況悪化の犯人とは言えないことが分かると思います。
② 普通建設事業費
俗に言う「公共事業費」のことです。00(H12)年度あたりからようやく本格削減が行われ、減少傾向にあることは評価できますが、それまでは圧倒的な伸びで財政を圧迫してきた真犯人であることは一目瞭然です。
それだけの公共事業か必要だったかどうかという議論は非常に深い議論ですので、今回の財政分析では行いません。しかし、1つだけ言えることは、政治的圧力があった云々の話は抜きとして、なぜそれほどに公共事業が行われたのかを純粋に財政分析の観点から説明することは可能だということです。これについては3.で説明します。
③ 公債費
公債費とはこれまで借りた地方債の返済に充てるための支出です。ですから当然地方債の発行金額が伸びれば、公債費もそれについていくような形で伸びて行くわけです。図2と図4を見比べてみても、地方債の伸びに数年遅れて公債費も飛躍的に伸び始めていることが分かると思います。
2. 財政指標から県財政を読む
財政が健全かどうかを判断するとき、様々な財政指標が用いられています。ここではこれらの指標の意味、そして群馬県での推移及び特徴を説明したいと思います。
<用語説明>
・一般財源 …… 使途が特定されていなく、自由に使える財源。(対語:特定財源)
・経常一般財源 …… 毎年の経常的(必ず入ってくる)な収入のうち、使途が特定されていなく自由に使える財源。地方税・地方交付税等のこと。
・経常的支出 …… 人件費・公債費等のように、その支出が義務づけられ任意に削減ない義務的経費等のこと。
・投資的経費 …… 公共事業費等のように、施設等がストックとして将来に残るものに支出される経費のこと。 |
(1) 実質収支比率(実質収支=歳入-歳出-翌年に繰り越すべき財源/経常一般財源)
まず実質収支とは、ある年度の決算において収支が「実質的」に赤字だったか黒字だったかを見る指標です。「実質的」とは、年度中に出入りしたお金の中には繰り越し等で翌年度以降に回すべきお金も含まれていますので、その辺を加味したものという意味です。俗に言う黒字団体・赤字団体とは、この実質収支が黒字もしくは赤字である団体のことを指します。
この指標の重大な点は、-5%を超えると地方債の起債に制限がかかることです。起債に制限がかかることは民間企業で言えば銀行取引停止を意味します。地方公共団体が赤字団体になることをもの凄く恐れる理由はここにあります。
群馬県では00(H12)年度までの10年間0.3%~0.4%と安定推移していましたが、01(H13)年度はあれだけ歳入に欠損が生じたという騒ぎだったので、もしかしてマイナス? という心配をされる方も多いと思います。まだ、決算が終わっていないので正確なことは何も言えませんが、おそらくその心配はないでしょう。何故かは3.で触れたいと思います。
(2) 経常収支比率(経常一般財源額のうち経常的支出充当額/経常一般財源額×100)
この比率の意味を簡単に言うと、自由に使える収入のうち義務的経費等に回さなければならない分の比率ということです。「財政の硬直化」という言葉をよく耳にすると思いますが、この比率が高ければ高いほど柔軟な財政運営ができないことになります。
つまり、それは以下のような大きな問題を抱えることを意味します。
① 県民のニーズに柔軟に対応できなくなる。
② 経済変動の影響を緩和できる余裕が少なく、実質収支の赤字を生じやすくなる。
群馬県はここ数年90%をかろうじて下回る水準です(図5)。一般的には90%が危険ラインと言われていますので、もはやリーチのかかった状況と言えます。
(3) 公債費負担比率(公債費に充当された一般財源/一般財源総額)
起債制限比率(複雑なので省略)
どちらも公債費が財政をいかに圧迫しているかを示す指標です。両者の違いを簡単に説明しますと、「公債費負担比率」は分子の中に国が地方交付税によって地方債返済の肩代わりをしている部分の金額が含まれいているのに対し、「起債制限比率」にはそれを含まずあくまで自前の財源のみで返済している部分の金額が分子になります。
よって、「公債費負担比率」については20%を超えると危険ラインと言われるのに対して、起債制限比率は分子が小さい分15%を超えると危険ラインとされています。また「起債制限比率」については厳しいペナルティが課せられており、20%を超えると単独事業に対する起債が認められなくなり、30%を超えるとなんと補助事業に対しても認められなくなります。仮にそうなれば民間企業で言うところの銀行借り入れ停止つまり倒産したに等しい状態になります。
群馬県では00(H12)年度で公債費負担比率が18%、起債制限比率は12.6%といずれもまだ安全圏と言える値ではありますが、10年間を通して上昇傾向が続いていることから、近年のうちに危険ラインに乗る可能性は十分あると言えます(図6)。
3. 群馬県財政の疑問点を解く
1.、2.では財政の基本的知識と動向を説明させていただきました。さて、3.ではこれらを踏まえ、私たちの抱いている財政についての素朴な疑問を財政分析の観点から明らかにしていきます。財政当局の発する情報とは違った観点で見てみましょう。
(1) 突然の給与カット提案を分析する
昨年度2月、突然の給料カットが行われ、その理由の1つとして、地方税収入が予算を大きく下回ったこと等が挙げられていたことは記憶に新しいと思います。「そんな言い訳が成り立つのか?」という疑問を多くの方がお持ちだったでしょう。財政当局の見通しが単に甘かったのか? もしくは本当にやむを得ない位の非常事態なのか? 私たち職員には謎な部分です。
また、今後も群馬県の財政が「危うさ」を抱えている限り、このようなことが繰り返されないという保障はありません。その辺りを財政分析の観点から見てみましょう。
① 地方税の推移からの分析
まず、(図2)で地方税の動きを見ますと、94(H6)年度以降は穏やかな上昇傾向で安定推移しており、99(H11)年度の下落は前述の通り主に減税による影響です。そのような状況を踏まえれば、01(H13)年度の収入は不安定要素を考慮しても00(H12)年度と同水準であろうと予測しても自然なことと考えられます。01(H13)年度の地方税の収入予算は00(H12)年度を100億円上回る額となっていましたが、2,000億円規模の予算から考えれば若干上向きの予測であり、財政当局を擁護するわけではありませんが決して甘い見通しでは無かったと言えます。
ただ、どうしても疑問が消えないのは今回の事態はそれほどに重いものなのかと言うことです。当局の主張を整理しますと以下の2点で、またこの数字は2月議会の補正予算案に用いられている数字です。この2点について検証します。
ア 地方税収入が当初予算を45億円下回った。
イ 02(H14)年度の地方税予算(2,020億)は01(H13)年度(2,281億)より260億円下回る額と見込まれる。
まず、(ア)についてですが、過去10年間の補正予算案の資料(一部不明)を見ると、同じ2月の時点で予算を大きく下回る事態になったことは何度もありますし、どの年度を見ても今回の45億円を上回る重い事態であることが分かります。
・92(H4)年度 18億
・93(H5)年度 97億
・97(H9)年度 117億
・98(H10)年度 116億
次に、(イ)についてですが、97(H9)、98(H10)年度と連続して予算を大きく下回った翌年である99(H11)年度の予算は98(H10)年度よりも320億円下回る額でした。
以上より今回の事態が過去に類を見ないような非常事態とは言えないのではないかと考えます。しかし、組合員の多くはこのようなデータを知りませんから、税収が落ち込んだと言われれば「やむを得ない」と思ってしまいます。どうも当局のやり方は組合員の知識不足につけ込むようでフェアじゃない気がしてしまいます。今まではそれほどの事態でも当局の努力によって給与削減をしなかったのだと言われればそこまでかもしれませんが・・
② 財政力ゆえの危うさ
さて、今度は群馬県の財政構造が抱える2つの「危うさ」について分析します。
群馬県は全国的に財政力の高い県です。「財政力が高い」という意味は、地方交付税や国庫支出金といった国からの財政移転に頼らず、地方税をはじめとする自前の財源でやりくりできている度合いが高いということです。財政力を表す指標に財政力指数がありますが、群馬県は00(H12)年度で全国12位です。
これはこれとして大変望ましいことなのですが、落とし穴もあります。それは、地方税は先の説明の中でも述べたとおり経済変動に左右されやすいため、年度当初の見積もりを下回る可能性が高いわけです。それに対し、国からの財政移転の場合そのようなことは原則ありません。つまり、地方税のウエイトが高い自治体ほど、年度途中の経済変動によって実質収支が赤字化する危険性も高いという弱みも抱えてしまうことになります。
国が地方の財政を握っている限り、国に頼らずに済んでいる強い自治体ほど危うさも同時に抱えてしまうという逆説が起きてしまうわけです。
③ 財政運営の不自由さがもたらす危うさ
群馬県の経常収支比率はおおよそ9割と高いことは先述したとおりです。そして、このことが意味するのは、義務的経費が高いことにより県の努力で歳出を慎重に抑制できる余地が少ないということです。この財政運営の不自由さにより、歳入の減少に対し柔軟に対応できず、実質収支が赤字に陥りやすいという危うさを持っていると言えます。
以上、②及び③で歳入減少により実質収支の赤字に陥りやすい構造上の問題点を説明しました。繰り返しになりますが、なぜ人件費をカットしなければならないくらい赤字を恐れなければならないのでしょうか? それは赤字が一定限度を超えると起債制限団体となってしまうからです。そうすると事実上地方債の起債ができなくなりますから、企業なら銀行からの借り入れができなくなる=「倒産」と言える状態になることを意味します。それだけは絶対に避けたいとどの自治体も必死になっているのです。
(2) 財政を犠牲にしてまで行われた公共事業を分析する
図2と図4を見て下さい。普通建設事業費と地方債のカーブはおおむね一致する事が分かると思います。歳入の項で説明したとおり、地方債は公共事業等の目的以外に発行できないため、地方債の伸びは普通建設事業費の伸びによるものと考えて問題ありません。
群馬県はこの10年間、景気対策として著しい額の公共事業を行ってきました。ただそれは群馬県だけでなく全ての都道府県に言えることです。しかし、私たち県民の多くにとっては将来借金の返済に苦しむことが分かっていながら何故そこまでしたのか? 理解できないものがあります。確かにその理由の1つとして政治的な要因は多分にあったとは思いますが、財政分析においてはそのような観点を抜きにした分析を行ってみました。
① 国の景気対策に動員された地方公共団体
群馬県に限らず全国的なことですが、バブル景気時には県税の増収とともに公共事業に備える積立金も急増していきました。図7を見ていただくと、群馬県も92年当時は1,600億円を超える積立金残高でした。たとえ景気が後退しても積立金を取り崩すことによって公共事業を実施する充分な余力がどの都道府県にもあった訳です。
バブル崩壊後、国は景気対策として公共事業の実施を地方公共団体に呼びかけます。ご承知の通り国と地方の財政関係の特徴は、国は補助金をちらつかすことによって地方の財政支出を実質的にコントロールできることにあります。また前述の通りどの県も積立金の準備は万全であったこともあり、全国一斉に公共事業に打って出たと考えられます。
② 循環型不況と構造型不況の見誤り
平成不況直後の財政当局は、おそらく積立金を取り崩していくうちに何とか不況は乗り切れるという認識を持っていたと考えます。何故なら日本は未だかつて3年以上の不況を経験したことがなかったからです。1929年の昭和恐慌でさえ3年で回復に転じています。
しかし、それは日本が今まで循環型不況しか経験したことがないだけのことです。現在の不況は構造型不況と呼ばれ、産業構造の転換期に起きる不況であることに異議を唱える経済学者はいません。構造型不況は従来の基軸産業が行き詰まることによって起きる不況ですから、新たな戦略産業が出てこない限り解消することはありません。それは19世紀末ヨーロッパを震源に起きた長期不況(当時は軽工業から重工業への転換期)が証明しています。にもかかわらず、バブル崩壊後当時は単なる循環型不況と勘違いし、3年我慢すれば乗り切れると信じて積立金を取り崩し続け、従来の需要創出型の公共事業によって解決を図ろうとした訳です。
しかし、今振り返ればそれが大きな間違いでありました。一旦多額の公共投資を始めれば、途中で打ち切ることは困難ですし、またいくら公共投資しても構造型不況に陥っている日本経済には全く効き目がないから税収は上がりません。よって群馬県のみならず全国の地方自治体はこの10年であっという間に積立金を取り崩し、地方債に依存しながら事業を継続せざるを得なくなってしまったと考えます。
③ 財政構造からのインセンティブ
経常収支比率が高い自治体ほど義務的経費の比重の高さゆえ、実質収支が赤字に陥りやすいことは先に述べたとおりです。また、実質収支が赤字化することを自治体は非常に恐れることも先に説明しました。では、赤字化を避ける最も効果的な方法は何か? それは投資的経費の比重を高めることです。なぜなら投資的経費の比重が高ければ、たとえ地方税が年度途中で減収したとしても地方債を発行することによって赤字化を回避できます。逆に義務的経費の比重が高いと地方税が減収した場合に地方債が発行できないため、赤字化しやすいということになります。
よって、自治体が赤字化の危険性を回避するために最も簡単な方法が、実は公共事業を積極的に行うことなのです。自治体が風当たりの強い公共事業にどうしても惹かれてしまった理由の1つに、赤字化を回避したいが故のインセンティブが働いていることが挙げらるのです。
しかし、当然そのように目先の赤字化を回避しようとすることばかりにこだわっていれば、それが地方債の際限ない発行に繋がり、公債費負担の増大そして経常的支出の増大として跳ね返ってくることは容易に想像できます。それを分かっていながら結局目先の結果にこだわってしまったという点では、財政当局の責任は大きいのではないでしょうか。
(3) 「愛県債」を分析する
今年3月に第1回「愛県債」が発行されました。発行額は10億円です。00(H12)年度の地方債発行額が約930億円ですから、発行総額と比べると少額です。ただ今後は第2回、3回と発行額を増額していく見通しのようなので財政に与える影響も無視できなくなってきます。
知事答弁等では愛県債の効果として、県民が購入することを通じて県政への参加意識が高まること等を挙げていますが、財政分析ではそのような効果ではなく、あくまで財政に与える効果について分析します。
① 世代間及び地域間負担の分析
まず、愛県債がたとえ県を愛する借金だったとしても、借金であることに変わりはありません。よって愛県債がよほど将来世代にメリットのある使い道をしない限り、発行した県債そのものは結局返済時に将来世代の負担になります。その点では普通の地方債と何ら変わりはなく、世代間負担が生じることになります。
次に地域間の負担についてですが、金融機関が主な販売先だった今までとの大きな違いは、必ず県民が県債を買うということです。そうすると将来の返済時には将来世代が納めた税金から返済するわけですが、購入していた人が他地域に引っ越さない限り全て群馬県民ですから、同地域の中で返済が完結します。一方金融機関が購入した場合、将来の返済時に将来世代が納めた税金は全国津々浦々の人々に支払われます。つまり群馬県を1つの地域と見れば、愛県債の場合は返済時に私たちの納めた税金が同じ群馬県の県債購入者に移転するに過ぎませんが、通常の県債の場合はそうでなく全国各地の県債購入者、すなわち県外に資金が移転していくことになります。よって愛県債は将来の返済時に資金が逃げていくという意味での地域間負担が無い県債と言えます。
以上から考えると、愛県債の発行により発行額自体が増加してしまっては単に将来の負担を増やすだけですが、発行額自体を変えずに発行額全体の中で愛県債の占める割合が大きくなるのであることは望ましいと考えます。
② 公債費縮減効果の分析
現在、地方債の最大の課題はいかに公債費を縮減できるかです。愛県債が地方債の主流になっていくことは、公債費縮減にどのような効果を与えるでしょうか。
まず、愛県債は発行の際に使用目的を明確にするのが特徴です。ということは県民に理解を得られないような使用目的で県債発行はできないことになります。その意味で安易な県債発行を抑制する効果はあると考えます。
また、知事の言葉をお借りすれば、愛県債にはその購入を通して県政に参加をしていただくという意義があります。ならば県民にとって歓迎できる使用目的ならば、利回りはもっと低くできるのではないかと考えます。現在は国債利回りを若干上回る利率と説明されていますが、そこまで高い利回りの必要は無いでしょう。利回りが高ければそれだけ返済に充てる公債費も高くなるのですから、そのあたりの事情も県民に理解していただき、低い利回りでの協力を集めることに成功すればかなりの公債費圧縮に繋がると考えます。
(4) 人件費は財政を圧迫しているのか
近年、公務員給与への風当たりは非常に強いものがあります。群馬県のために日々努力しているにもかかわらず、それが評価されないどころか税金泥棒呼ばわりされるような始末では何だか報われない稼業という気がしてなりません。
それはさておき、私たちが不当に給与を貰いすぎていて、そのことで県の財政が圧迫されているのが事実だとすれば、県政に奉仕するものとして給与削減にも進んで応じるべきなのかもしれません。しかし、どうもイメージばかりが先行していて本当のところどうなのか今ひとつ分からないのが正直なところだと思います。そこで財政分析の観点から見てみることとします。
① 歳出額増加に与える影響
まずは歳出額の増加に与える影響から分析してみます。図4をご覧下さい。主要な歳出項目の伸び率を比較したものですが、この中で歳出額全体の伸び率を下回っているのは人件費だけです。また図3を見ると人件費は歳出総額の3割を占めていますから、その増減が歳出に与える影響はかなり大きいものがあります。つまりこの10年間、人件費はむしろ歳出額増加の歯止めに大きく寄与してきたことが分かります。
では、財政を最も圧迫したのは何かと言えば、間違いなく公共事業費とそれに伴う公債費であります。図4を見てもそのカーブの伸びが圧倒的なのと同時に歳出に占める割合も合わせて4割前後ですから、それが無駄であったかどうかは別として財政悪化は公共事業によってもたらされたものと断言できます。
② 他県との比較
近年何かとラスパイレス指数の高さが問題視されています。給与削減提案の理由として必ず挙げられるのでご存じの方も多いと思います。しかし、驚くべきことに組合員に対しては指数の高さを盾に給与削減を強要しておきながら、県民に対してはHPを通じてラスパイレス指数が高いからといって必ずしも群馬県職員の給与が高いわけではないという二枚舌を使っているのです。HPをご覧になっていない方も多いと思いますのでその主張を以下にまとめます。
ア ラスパイレス指数は国の給料水準と比較する指標だが、その他の諸手当等は含まず純粋な給料だけの比較でしかない。(よって給与全体を比較すれば全く違う結果が出るということです。)
イ 給与水準を比較する指標は他にもいろいろあり、それらを総合的に判断すると、むしろ全国的には低い順位になる。具体的には以下の通り(順位は全国順位)。
・県職員1人あたりの給与額 36位
・県職員1人あたりの人件費 29位
(人件費とは給与にボーナスや時間外手当、退職金等を加えたもの)
・県民1人あたりの人件費 37位
・財政状況を考慮した人件費割合 38位
・定員モデルと比較した県職員の数 32位
(定員モデルとは県の人口、面積等の事情を考慮したうえで算出した必要人数。定員管理に用いられている。)
以上から、群馬県の人件費は財政を圧迫していないだけでなく、全国的にも低水準であることを人事当局も認めています。私たち組合員もイメージに安易に流されることなく、組合側の提供する情報に目を向けたうえで人件費について考えていただけたら幸いです。
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