【自主レポート】
新税(産業廃棄物税)と地方分権下
における税務行政について
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三重県本部/三重県職員労働組合・税務協議会
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1. はじめに
平成12年4月、いわゆる地方分権一括法が施行され、機関委任事務が廃止されるなど、国と地方の関係が上下・主従の関係から対等・協力の関係へと変化する第一歩を踏み出した。こうした地方分権の流れのなか、地方税の分野においても、法定外普通税の許可制度が廃止され、国の同意を要する協議に改められるとともに、受益と負担の関係の明確化、課税自主権拡大の観点から新たに法定外目的税が新設された。
そうしたなか、三重県では平成14年4月1日から産業廃棄物税条例が施行された。以下で三重県での産業廃棄物税条例の創設経緯を報告し、税収確保の観点から地方分権下における税務行政の課題を提起したい。
2. 産業廃棄物税創設までの経緯
(1) 県税若手グループ研究会での検討
平成11年5月に30歳以下の県税職員と税務課職員で構成される「県税若手研究グループ」が発足し、「環境と地方税」をテーマに討議することとなったことが原点となっている。他県の環境関係税の調査や三重県の環境面での課題や問題点の把握、地方における環境税を研究している大学の話を聞くなどの検討、研究の結果、平成12年3月、「産業廃棄物埋立税(仮称)」試案が発表された。
(2) 庁内での検討と4つの試案
「産業廃棄物埋立税(仮称)」の試案は、税務、環境等の各部門で構成する産業廃棄物税庁内検討会議へと引継がれ、三重県の行う政策として本格的に検討が行われた。
この結果、この税の趣旨・目的を「資源開発循環社会の構築を目指し、環境先進県づくりを推進するため、産業廃棄物にかかる税を創設し、その財源をもって産業廃棄物の発生抑制、リサイクルの推進及び適正処理に係る環境対策に関する費用に充てる。この制度の効果として産業廃棄物の発生抑制、リサイクル等への誘引が期待できる。」として平成12年8月4つの試案(別紙)が公表された。
(3) 県民、議会、関係者との対話
この税の創設にあたっては、
① 税制のみならず、環境政策、産業政策の面からも政策的にしっかりしたものにすること
② 県民、その他代表である県議会、関係者の方々と政策的に議論し、十分なコンセンサスを得ながら進めること
の2つの方針のもと進められた。
誰が納税者となるのかにかかわらず、新たな税の創設は新たな負担を課すことであり、慎重を期す必要があり、特に県民、県議会、関係者との対話には、参画の機会を広げ、時間も十分となるよう配慮された。
試案の公表後、県内4ヵ所で県民懇談会の開催とともに、多量排出事業者団体、廃棄物処理業界、個別企業等を県職員が訪問し意見交換が行われた。
意見交換で得られた論点を踏まえ、平成13年の2月議会へ提案するため、「排出から埋立までの産業廃棄物の流れの中で、排出業者の中間処理施設・最終処分場への搬入行為に着目して課税し(リサイクル施設への搬入は非課税とし、一定量の搬入量で裾きりする)、排出業者が申告納付する。」というA案を中心とした税の仕組みを練り上げた。
しかし、まだ関係者との議論が足りないとの指摘から、さらに議論を3月に行った。県の置かれた立場と企業が置かれた立場は異なり、意見を一致させることは困難であったが、環境に配慮した資源循環型社会の構築にあることを確認し、その立場に立った県の環境政策などについて、一定の理解を得ることに至った。
そして、平成13年6月29日に三重県議会定例会本会議で産業廃棄物条例案が可決され、総務大臣の同意を得て、平成14年4月1日から施行された。
3. 新税(法定外目的税)について
平成12年度以後、三重県の産業廃棄物税の他に河口湖町・勝山村・足和田村の「遊漁税」、岐阜県多治見市の「一般廃棄物埋立税」、東京都の「宿泊税」等の法定外目的税が新設され、いくつかの地方公共団体で現在検討がなされている。しかし、新設された法定外目的税は、納税者が地元住民以外のものがほとんどであったり、特定のものであったりとか狙いうちの感がある。
三重県の産業廃棄物税の税収見込額を例に見れば、その税収は年間3億円程度であり、税収全体の0.15%程度である。全国の地方自治体で検討されているさまざまな法定外税についても同様で、多くの税収は期待できない。
法定外税については、特定の政策課題の実現には有効であり、特定の政策を税制面から推進する効果も考えられる。自治体が地域の実情を踏まえた法定外目的税を検討することは、地方分権推進の観点からは重要である。
また、地域の財政需要を賄う税については、住民に制度設計のプロセスを公開し、政策への参画を保証することにより、地方自治がよりよく機能する面を考えれば、地方の独自財源である法定外税を検討することの意義は大きいと言える。
三重県の税務行政にとっては、産業廃棄物税に大きな税収は期待できないものの、税を制定するにあたり、納税者となりうる者に受益と負担の関係について一定の説明責任を果たせたこと、三重県でも新税の創設ができたこと等、一歩を踏み出したと言える。
今回、平成14年4月1日の産業廃棄物税の施行にあたり、職員が4名(内2名廃棄物対策)が配置され、平成15年度からの課税に対する準備が進められている。
4. 地方分権下における税務行政の課題について
既に述べたように法定外税の意義は認めつつ、現在の地方における税務行政については、より切実な課題があることと思われる。
平成元年に消費税が導入され地方の料理飲食等消費税、娯楽施設利用税が廃止され、その代わりに消費譲与税が創設された。そして、平成9年4月、地方分権を推進するため地方財源を拡充すべきであるとして地方消費税が創設され、地方譲与税が廃止された。
しかし、地方消費税は地方税でありながら、実質的な徴収権は国にあり消費に関連した規準により清算されることから中央集権的税収構造は変わっていない。地方分権推進を言いながら地方税制は、税制改革のたびに中央集権的となっている。
その結果、税制改革のたびに地方税職員が大幅に削減され、それと並行して財政危機を理由に毎年一定の人員削減が続けられており、三重県ではその傾向が顕著となっている。また、課税部門より徴収部門、課税部門では間税部門より直税部門に重点をおいた職員配置行ってきた結果、近年間税課税部門に多く問題を抱える状況に至っている。
近年、各都道府県において滞納整理や軽油引取税の脱税への対処等、税収確保の各種の取り組みが行われているが、地方財源の基盤は、第1に現行の基幹税目の確保、次に税源委譲であり、新税(法定外税)はその補完でいいのではないかと考える。
現在、さらなる地方分権を推進のため、財源確保の方策として法人事業税の外形標準課税化、税源委譲が不可欠であるとして、①所得税から住民税へ、②地方消費税のウエイトの引き上げが議論されているが、法人事業税の外形標準課税化はともかく、税源委譲は税収を国から地方へ移すことのみの議論が先行している感がある。
地方分権を推進するうえでは地方財源の確保は重要な課題である。税収面から見れば税源委譲や新税創設もその1つの方策であると考えられるが、全国で脱税額が年間千数百億ともいわれている軽油引取税をはじめとする既存税目の税収確保が私たち税務職員に求められているのではないか。その意味で税務職員の資質向上は今以上に求められるべきであり、専門的知識を有する職員の確保も必要であると考える。そして、地方分権下の新しい税制に対応できうる税務行政の執行体制つくりが必要である。
産業廃棄物に係る税の検討(試案)、産業廃棄物税のイメージ
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