【自主レポート】

住民とともに考える市町村合併
~市職自治研集会より~

三重県本部/松阪市職員組合

1. はじめに

 私たち松阪市職では、毎年市内の各種団体に参加を呼びかけ、市職独自の自治研集会を開催しています。この企画は、身近で時宜を得た行政課題をテーマとし、職員と市民が同じテーブルで1つの課題について論議を深め、そしてまたお互いが交流をする場づくりとするもので、私たち市職では、年間を通じての最も重要な活動の1つとして位置づけています。
 近年、住民参画や情報公開などにより、市民と行政の距離は徐々に縮まりつつあります。こうした時代の潮流にあっては、情報を市民と行政が共有化し、共に協働して行政を推進していくことが不可欠であります。もちろん、松阪市においても市民参画を求める動きは活発化しており、今まで既成の団体、あるいは有識者に依存していた様々な委員会も公募委員を積極的に募るなどし、住民参画を進めているところであります。
 さて今、地方自治体にとって大きな課題の1つは、全国で急速に進みつつある市町村合併であります。この問題もまた、国や県の指針にもあるように、地域住民との十分な論議が必要とされています。
 そこで、私たちは自治体労働組合の責務として、住民レベルでは今ひとつ関心に欠けるのではないか、と思われるこの「市町村合併」問題について、市民の皆さんと共に学習し、今後における住民レベルからの議論の喚起を期待すべく、2001年の自治研集会は、「市町村合併を考える」をメインテーマとし、6月16日から17日にかけて開催しました。

2. 市職自治研集会

 市職自治研集会は、過去38回の開催を数えています。この自治研集会は管理職を含めた職員が半数、その他は松阪市の各分野で活動している民間の団体から半数の割合で、約150人規模の集会となっています。参加者の半数が一般市民であることもあり、身近な行政課題を取り上げて自治研集会を開催しています。主には環境・福祉・まちづくりなどであり、これまでで最も多かったのが環境問題です。とりわけごみ問題については数回取り上げており、松阪市が全国に先駆けて行ったビンの分別収集などはこの自治研集会で提起され、行政が導入するといった成果も過去にはあげております。
 参加団体は、主に市内の労働団体、自治会、商工会議所、その他地域で積極的な活動を展開する団体、またテーマに関連した活動を行っている団体などです。参加された方々とそのテーマに沿って論議を行いますが、それと同時に私たちの活動を知っていただく場としての意義もあります。過去38年間のこういった積み重ねが市職員組合の活動に対する市民の理解を得ているわけです。
 また、組合員あるいは管理職にとっても自分の担当する仕事以外の内容が理解できる場、そして普段接している市民と同じレベルで行政課題ついて考える場ともなっています。

3. 「市町村合併を考える」というテーマ

 地方分権一括法により、地方公共団体は自主的・主体的に自らの行政を行う分権型社会の創造に第一歩を踏み出しました。これと同時に「市町村合併の特例に関する法律」が改正されました。この法律では、自主的な市町村合併の推進を明記しながらも、2005年3月までの期限内合併を強く求めています。また、三重県においても国の指針に基づき、合計25通りの市町村合併パターンを示した「市町村合併の推進についての要綱」が作成されるなど、国、県の段階では合併推進に向けた動きが出ております。しかしながら、当時松阪市では、市町村合併に対する関心は市民にはほとんどなく、職員ですら危機感を持って意識している状況ではありませんでした。
 合併特例法にあるように市町村合併は、自治体及びその住民の主体的課題であるという捉え方が必要です。主体的課題として論議するに当たっては、基本的な認識、合併に伴うメリット・デメリットなどの問題についてまず確認することが必要です。国・県の合併推進論の裏側には財政基盤強化や効率化など、コスト論重視の発想にとらわれている感が否めません。一時的な時代の流れに左右されるのではなく、自分たちの「まち」がどうあるべきか、歴史や風土、地理的条件などを考慮した中で、住民が主導的にこの市町村合併を論議できる場としてこの自治研集会が活用されるよう、本年の自治研集会は「市町村合併を考える」というテーマを設定いたしました。
 まず第一日目は、基調講演において合併の一般的な考え方を提示し、地域の身近な有識者によるパネルディスカッションによりそれぞれの考え方を述べてもらうこととしました。続く第二日目には、グループ討論形式により参加者の意見を聞き、今後の合併のあり方を探る、といった構成としました。

4. 基調講演

 基調講演は、「入門 市町村合併」と題して三重大学大学院教授の宮本忠氏に依頼しました。事前の講師との打ち合わせでは、この集会の参加者に対し、市町村合併の現状と今後のあり方の基本的なところをこの基調講演で周知することを目的としました。そこで、進め方として、①今、何故国が市町村合併を推し進めようとしているのか、②市町村の意味の再認識、③合併は市町村の自己決定によるなどを基本とし、講演をいただくこととなりました。
 主な講演の内容については以下のとおりです。

(1) 導入(今回の合併の国の意図は何か)
  ① 地方分権推進法の基本理念
  ② 合併特例法の趣旨
  ③ 市町村合併の推進の指針

(2) 市町村の意味の再認識
  ① 市町村の特色(合併に関連すること)
  ② 市町村は基礎的地方公共団体
  ③ 身近で生活に密着した地方公共団体
  ④ 直接公選制

(3) 憲法と地方自治
  ① 憲法に保障された地方自治
  ② 地方自治の本旨=住民自治
  ③ 地方自治の究極の担い手=住民
  ④ 地方公共団体の機能

(4) 地方公共団体とは~昭和38年最高裁判決より

5. パネルディスカッション

 基調講演を受け、合併に関して様々な立場、意見を持つ有識者の考え方を参加者に知っていただくため、パネルディスカッションを行うこととしました。ただし、市町村合併の賛否を決めていく段階での集会ではありませんので、専門の評論家などではすぐさま賛否議論がぶつかり合うことを懸念し、今回は、各行政の関係者から3人をパネラーとして選出することとしました。
 まず、国と同様市町村合併を推進する立場で、三重県地域振興部の田岡光生審議監に依頼しました。次に松阪市の立場で野呂昭彦松阪市長に依頼しました。また、合併の対象と予想される近隣町村の立場から、飯南郡選出の森本哲生県会議員に依頼しました。コーディネーターは、基調講演をいただいた宮本忠先生に依頼しました。
 まず、田岡氏においては、国・県の市町村合併の進め方について提起いただきました。国が合併を推進するために、合併に際してのハードルを下げたこと、住民のための合併であること、県はそれぞれの市町村の合併推進の補助的役割であることなどの発言がありました。一方野呂市長からは、国の施策にたいして不純な動機である、昭和の大合併時とは状況が違う、合併が進めば県のあり方も論議の対象となるなどの発言がありました。森本県議会議員からは、合併論議は合併される恐れのある町村の方が危機意識が高い、適切なサービスが行き届くかを郡部は不安に思っている、欧米のコミュニティー的な手法をとらないと郡部は切り捨てられる恐れがある、合併しないと交付税の大幅な削減があり町村では合併せざるを得ない状況である、などの発言が出ました。
 会場からも途中発言を求めましたところ、市民が合併を論議する場がなく、国・県が強力に進めようとしているが、まだまだ浸透していないなどの意見が出されました。

6. グループ討論

 グループ討論は、集会の第二日目に行いました。前日の基調講演、パネルディスカッションを受け、4班に分かれた分散会を行いました。少人数で参加者全員が発言する機会を設けることが目的でした。また論点は、①この自治研集会を通じて合併問題をどのように捉えたか、②地域住民による合併論議を活発化するにはどのような方法がよいか、③もし松阪市が近隣市町村と合併するのであればどのような形が良いかなどとし、意見交換という形をとりました。
 基調講演後やパネルディスカッションでの質疑応答などでは参加者の発言も限られたものでしたが、20人前後のグループ分けを行ったこともあり、それぞれの立場で発言がありました。
 このグループ討論で最も多く出た意見は、合併のメリットとデメリットに関する事でした。合併のメリットは大きいとする意見も出る一方で、デメリット部分がまだわからないと言った慎重論も出るなど、合併とはメリットがあって初めてできる事、との意見が多く出されました。また、合併後がどうなるか注視すべき、との意見もありました。合併後10年間は国の財政措置があるものの、その後の財政運営をどう行って市民サービスを維持していくのかを見据えた合併でなければ、との意見も出されました。
 市町村合併への関心を高めるための方法については、やはり多くの情報を正しく提供することが重要、とする意見が多くありました。今回の自治研集会へ参加して合併についての情報が得られた、とする意見や、市民がもっと考える機会を行政が責任を持って作るべき、といった意見も出されました。
 1時間程度を予定していましたが、討論は終わることなく予定時刻を大幅に超えて終了しました。一方通行の話だけで終わるのではなく、合併には各人それぞれに思いがあり、双方向に議論ができる機会があれば相当多くの市民の意見は集約できると感じた次第であります。

7. 集会のまとめと今後の課題

 二日間にわたり本自治研集会を開催しましたが、行政にとっての市町村合併はやはり合理化というものが最大のメリットです。しかしながら、地域住民にとってはサービスの向上が第一です。合併によるサービスの低下があるとするなら、住民は合併を歓迎することはありません。三重県の市町村合併要綱にもある地域住民との十分な論議とは、サービスをいかに維持できるかということを論議していかなければならないと思います。また市町村合併は、最終目標ではなく新たなスタートなのですから、合併後の10年後20年後の姿を想像しながら合併を論議していかなければならないと思いました。
 本集会は、市民に市町村合併に関する基礎的な情報を提供することが出来たのではないかと思っております。実際に松阪市議会でも、2001年7月9日に市町村合併の特別委員会が設けられ、その後において合併への論議が進んでおります。
 私たち市職員組合は、今後もこの様な活動を通じ、多くの市民への情報提供、意見の把握、政策・施策への反映、といった努力をしていきたいと考えております。