【自主レポート】
天草上島4町合併を控えての取り組み
熊本県本部/大矢野町職員組合
|
はじめに
近年、全国各地で「市町村合併」についての関心が高くなり、さまざまな議論が行われてきています。とくに、熊本県は、合併論議が進んでいます。
2000年3月に熊本県は「熊本県市町村合併推進要綱」を策定し、現在94自治体(11市62町21村)を約21自治体にまとめる提言をしました。
天草地域では、1999年11月、天草市町長会の発案で担当課長による「天草地域合併研究会」を設置し、2000年3月「天草地域市長合併研究報告書」を作成、現在の2市13町(人口154,103人、面積875.59k㎡)を1つにする「天草1市論」を報告しました。
2000年10月31日以降「天草1市論」に対応して、大矢野町、松島町、姫戸町の町長・議長・総務課長らによる任意合併勉強会が開始されました。また、2000年12月の大矢野町定例議会の一般質問において、大矢野町長は「近隣町での合併」を答弁しました。
これらを受け、2001年4月天草地域に2つの任意協議会「天草上島4町合併推進協議会」と「天草2市9町合併推進協議会」が設立され、2002年4月には2つの法定協議会に移行しました。
天草上島4町は、2004年3月31日合併に向け、協議調整が現在も行われているところです。
1. これまでの市町村合併の動き
(1) 明治の大合併
近代的地方自治制度である「市制町村制」の施行に伴い、行政上の目的(教育、徴税、土木、救済、戸籍の事務処理)にあった規模と、自治体としての町村の単位(江戸時代から引き継がれた自然集落)との隔たりをなくすために、町村合併標準提示(明21.6.13内務大臣令第352号)に基づき、約300~500戸を標準規模として全国的に行われた合併。
天草地域では89村が60町村に再編されました。
(2) 昭和の大合併
戦後、新制中学の設置管理、市町村消防や自治体警察の創設の事務、社会福祉、保健衛生関係の新しい事務が市町村の事務とされ、行政事務の能率的処理のためには規模の合理化が必要とされました。昭和28年の町村合併促進法(第3条「町村はおおむね8,000人以上の住民を有するものを標準」)及びこれに続く昭和31年の新市町村建設促進法により、「町村数を約3分の1に減少することを目途」とする町村合併促進基本計画(昭28.10.30閣議決定)の達成を図ったもの。約8,000人という数字は、新制中学校1校を効率的に設置管理していくために必要と考えられた人口で、昭和28年から昭和36年までに、市町村数はほぼ3分の1に。
天草地域では、57町村が2市13町へ合併し現在に至っています。
(3) なぜ今、市町村合併か
昭和の大合併以降、我が国の経済は高度経済成長期を迎え、近年はIT革命などの影響もあって急速に社会の変化が進んできています。そこで、社会の変化に対応するための1つの方法、手段が「市町村合併」です。
1995年から地方分権が推進されており、分権が進めば構造的な財政赤字は解消されるはずだったが、解消のきざしはなくむしろ悪化傾向になっています。
1999年夏頃から旧自治省は、地方分権改革(地方分権一括法2000年4月施行)によって国と自治体は対等になったので強制的な合併はできず、「自主合併」を基本としてきたが、国は背後に回り、都道府県を主役とした合併指導が始まりました。①桁外れの財政措置。②小規模自治体への待遇変化。③地方交付税制度の見直しなど合併後の住民負担やサービス水準の格差調整、財政状況の不透明さ。④新たな行財政需要と一定期間経過後の地方交付税減少に傾注し、今後の論議を深めることが必要です。
2. 天草での広域行政
天草地域では、7つの一部事務組合と広域市町村圏で広域行政を推進してきました。
介護保険制度の実施に伴い1999年7月に天草広域連合を「広域市町村圏協議会+介護保険」で発足し、2001年7月に3つの一部事務組合(本渡市外三ヶ町斎場管理組合、天草消防組合、天草中央衛生施設一部事務組合)を編入統合しました。残りの一部事務組合も条件整備を行い今後、編入統合が予定されています。
広域行政の推進の方法、手段は、合併ありきではなく、広域連合の充実も含めての論議が必要です。
3. 天草上島4町の状況
項 目
|
大矢野町
|
松島町
|
姫戸町
|
龍ヶ岳町
|
4町計
|
山鹿市
|
宇土市
|
人口2000国調
0~14歳
15~64歳
65歳以上
高齢者比率
|
17,354
2,684
9,909
4,761
27.43
|
9,026
1,553
5,280
2,192
24.29
|
3,686
558
2,102
1,026
27.84
|
5,248
793
2,806
1,649
31.42
|
35,314
5,588
20,097
9,628
27.26
|
32,944
5,037
19,983
7,924
24.05
|
37,255
6,222
23,554
7,478
20.07
|
人口2030推計
人口増減率
0~14歳
15~64歳
65歳以上
高齢者比率
|
12,779
△26.36
1,303
6,287
5,189
40.61
|
5,718
△36.65
735
2,810
2,173
38.00
|
2,125
△42.35
237
995
893
42.02
|
2,670
△49.12
212
1,080
1,378
51.61
|
23,292
△34.04
2,487
11,172
9,633
41.36
|
|
|
面積 k㎡
|
37.93
|
51.20
|
19.34
|
17.48
|
125.95
|
87.02
|
74.17
|
議員条例定数
|
20
|
18
|
14
|
14
|
66
|
24
|
22
|
職員数
普通会計
公営企業等会計
人口千人あたり
|
167
151
16
9.15
|
140
122
18
14.55
|
63
59
4
16.83
|
340
90
250
59.75
|
710
422
288
19.02
|
534
329
205
16.00
|
352
323
29
9.33
|
普通会計職員
人口千人あたり
|
8.28
|
12.66
|
15.75
|
15.74
|
11.30
|
9.86
|
8.56
|
歳入合計 百万円
地方税
(構成比%)
地方交付税
(構成比)
地方債
(構成比)
|
8,326
1,102
13.2
3,499
42.0
755
9.1
|
6,437
733
11.4
2,345
36.4
800
12.4
|
3,282
232
7.1
1,326
40.4
415
12.6
|
5,749
304
5.3
2,267
39.4
636
11.1
|
23,794
2,371
10.0
9,437
39.7
2,606
11.0
|
13,723
2,917
21.3
5,574
40.6
714
5.2
|
17,503
3,255
18.6
5,323
30.4
2,858
16.3
|
歳出合計
人件費
(構成比)
公債費
(構成比)
投資的経費
(構成比)
|
7,996
1,440
18.0
1,110
13.9
1,679
21.0
|
6,247
1,015
16.2
1,425
22.8
1,691
27.1
|
3,068
582
19.0
314
10.2
1,067
34.8
|
5,371
734
13.7
603
11.2
2,145
39.9
|
22,682
3,771
16.6
3,452
15.2
6,582
29.0
|
13,427
2,771
20.6
2,122
15.8
1,890
14.1
|
16,873
3,107
18.4
1,700
10.1
4,971
29.5
|
標準財政規模
|
4,690
|
3,065
|
1,490
|
2,434
|
11,679
|
7,966
|
8,179
|
財政力指数
|
0.257
|
0.266
|
0.169
|
0.136
|
|
0.371
|
0.412
|
経常収支比率
うち人件費
うち公債費
|
86.7
26.8
22.7
|
81.9
27.7
22.0
|
90.8
35.3
20.5
|
88.4
26.3
24.5
|
|
86.1
29.0
20.7
|
86.9
30.0
18.8
|
実質収支比率
|
7.0
|
5.7
|
5.7
|
1.4
|
|
2.3
|
6.4
|
公債費比率
|
17.1
|
17.5
|
15.3
|
17.3
|
|
19.1
|
17.3
|
地方債現在高
|
7,986
|
7,027
|
2,947
|
5,135
|
23,095
|
17,679
|
18,741
|
積立金現在高
|
1,449
|
644
|
1,488
|
590
|
4,171
|
2,069
|
2,006
|
(資料:熊本県市町村要覧平成13年3月)
4. 天草上島4町は合併すればこんな「市」になります
天草上島4町合併協議会は、「市」昇格の特例(人口3万人以上)がある2004(平成16)年3月31日合併を目指して調整協議を行っています。
「市」になれば、福祉事務所の設置が義務付けられ、福祉分野における住民サービスが充実し、また、企業誘致や大型プロジェクトの実施など幅広い行政施策が可能となり、地域のイメージアップにつながると予想しています。
2001年10月に4町全世帯(11,662)を対象に「新しいまちづくりについてのアンケート」を実施しました。回収率は27.2%(3,174件)。
アンケート結果(抜粋)は、次のとおりでした。
問1 合併することによる効果として、どのようなことを思われますか。(○は3つ以内)
① 行政運営経費の削減 26.1%
② 住民負担の軽減 17.3%
③ 住民の利便性の向上 6.0%
④ 行政サービスの向上・高度化 5.8%
⑤ 地域のイメージアップ 6.6%
⑥ 効果的な基盤整備の推進 4.9%
⑦ 行財政運営の効率化と行財政基盤の強化 9.5%
⑧ 広域的な施策推進による産業振興 6.5%
⑨ 広域的なまちづくりの推進 8.1%
⑩ 地域の活性化 7.2%
⑪ 歴史文化の保全 1.1%
⑫ その他 0.9%
問2 合併を進める上で不安に思うこと、また課題として思われること。(○は3つ以内)
① 住民への行政サービスが低下する
(役場が遠くなり、木目細かいサービスができない) 29.0%
② 住民の意見が施策に反映されなくなる 15.9%
③ 中心部と周辺部の地域間格差が生じる(周辺部がさびれる) 23.0%
④ 住民サービス・負担に格差が生じる(公共料金が高くなる) 17.0%
⑤ 地域の連帯感が薄れる(伝統文化がなくなる) 11.0%
⑥ 各種団体関係 3.1%
⑦ その他 1.1%
問8 10の中心施策で最も優先的に進めるべき施策はどれだとお考えですか。(○は3つ以内)
① 一人暮らしのお年寄り生活安心構想 22.9%
② 高校生地元通学倍増構想 8.9%
③ Uターン者受け入れ構想 12.2%
④ 観光客満足度倍増構想 6.0%
⑤ 産業開発創造構想 9.0%
⑥ 地場の特性を活かした新たな企業誘致構想 15.7%
⑦ 地区単位の確かな環境保全構想 5.6%
⑧ 域内30分圏構想 7.2%
⑨ 広域連絡道路建設促進構想 8.1%
⑩ 海洋保全・研究構想 3.3%
⑪ その他 1.1%
5. 天草上島4町職員組合等の取り組み(途中経過)
天草市町合併及び天草上島4町合併に対応した天草地区支部、4町連絡会議、大矢野町職員組合の今までの取り組みは、次のとおりです。
2000.9.4~11.20 単組合併学習会(大矢野町職)4回
1回「市町村合併を巡る諸論点」 講師 熊本県立大学 荒木教授
2回「中球磨の合併問題」 講師 家入球磨地区支部長
3回「天草市町合併の現状」 講師 熊本県天草地域振興局 山口課長補佐
4回「天草市町合併について町長との意見交換」 何川大矢野町長
2000.10.25~2001.4.1 町づくり夢談義(大矢野町職)6回
行政区15地区(全74地区)を巡回し、住民と職員組合との意見交換を実施
2001.1.30 4町連絡会議を発足(大矢野町職、松島町職、姫戸町職、龍ヶ岳町職)
会議は毎月最後の火曜日に開催。委員は単組三役を含め20数名。
現在まで18回開催。
2001.3月 市町合併の職員意向調査(4単組で実施)
大矢野町職の調査結果(抜粋)
① 天草では今、市町合併について話しが進んでいますがあなたは関心がありますか。
ア 関心がある 85%
イ 関心がない 7%
記入なし 8%
② あなたは、天草市町合併は必要だと思いますか。
ア すぐにでも必要 9%
イ 10年以内には必要 28%
ウ いずれは必要 47%
エ 必要ない 10%
オ わからない 6%
③ 市町合併は必要と答えられた、その理由は。(複数回答可)
ア 現在のままでは財政力が弱い 47%
イ 少子・高齢化が進み、多様化する住民ニーズに対応できない 38%
ウ 天草がひとつになって発展していく 6%
エ 行政サービスを行う上での無駄を減らす 45%
オ 人件費(職員、議員、町長)の節減になる 47%
カ その他 4%
④ 市町合併は必要ないと答えられた、その理由は。(複数回答可)
ア 広域行政(広域連合)で対応できる 45%
イ 中心市町だけがよくなり周辺部は取り残される 36%
ウ 議員の数が減り、住民の声が行政に伝わりにくくなる 27%
エ 合併すると、広すぎて不便になり、住民サービスが低下する 100%
オ 人事異動で通勤時間が長くなったり、転勤が必要となる 27%
カ その他 9%
⑤ 市町合併で、職員組合にどんな取り組みを望みますか。
ア 学習回の開催 29%
イ 進捗状況の報告 50%
ウ 自治体間の賃金格差是正 20%
エ 専門委員会の設置 22%
オ その他 4%
カ 無記入 19%
2001.4月~5月 年齢別賃金実態調査(4町連絡会議)
5歳毎に実態賃金(前歴、職種、職名など)を調査比較
2001.5.29 組合規約の比較(4町連絡会議)
2001.6.26 熊本県市町村要覧による4町比較(4町連絡会議)
2001.6.27 天草市町合併に関する要望書提出(天草地区支部統一)2001.7.6回答
5項目を要望、回答内容は全市町同じようなものであった。
① 住民に対する説明会については、メリット・デメリットを客観的視点で情報提供を行うこと。
② 自治体に現状と将来について住民アンケートを実施すること。
③ 合併の是非について住民投票を行うこと。
④ 任意協議会の状況などについて、組合への情報提供や協議に応じること。
⑤ 職員の身分保障や賃金などの労働条件に関しては事前に協議すること。その交渉窓口を確定すること。
2001.7.24 天草上島4町合併推進協議会事務局との意見交換
2001.8.28~2002.1.8 給料、諸手当、休暇制度等の検討(4町連絡会議)6回
2001.10.26~2002.3月 単組財政学習会(大矢野町職)4回
熊本県立大学小泉助教授を講師に依頼し4回に分けて開催。
1回「国、地方の財政状況と仕組み」
2回「交付税のしくみと改革の行方」
3回「住民負担の現状と問題点・地方税、国保、介護保険」
4回「地方財政と市町村合併」
2002.2.5 天草上島4町合併推進協議会と4町長へ「合併に対する要求書」提出
(4町連絡会議)2002.2.19回答
賃金・労働条件等に関する34項目を要求したが、項目毎の町独自での回答はできない旨の回答。職員の勤務条件に関する事項については、合併協議会の専門部会等で組合の意見を充分聞く機会を設けることを合併協議会事務局に確認。
2002.2.26~ 4町新組合設立の確認、規約(案)等の検討(4町連絡会議)
6. 今後の取り組み
2004年3月31日の4町合併まで、あと1年半。しかし、2003年6月議会までには合併の議決が必要となります。今年度内に論議を集約していく必要があります。
① 4町新組合の財政と組織の確立(4町連絡会議)
② 条例、規約の検証(4町連絡会議)
③ 既存組合の財産処分(各単組)
④ 財政シュミレーションの作成(大矢野町職)
⑤ 町づくり夢談義の再開(大矢野町職)
7. 途中経過のまとめ
(1) 町、議会、合併(推進)協議会、住民などの動向を把握する。
① 合併協議会の作業部会報告
② 総務課長との事務折衝
③ 町長等との意見交換
④ 交渉
⑤ 住民との対話
(2) 組合員と情報を共有する。
① 全員集会
② 学習会
③ 代議員会
④ 年代別集会
⑤ 課内会議
(3) 関係単組と情報を共有する。
① 地区支部合併対策会議
② 関係単組連絡会議
③ 統一要求書の提出
(4) 顔合わせ、心合わせ、力合わせ。
① 賃金実態、労働条件の検証
② 条例、規則等の検証
③ 組合規約の検証
(5) 町(市、村)合併推進検討委員会への労働者代表の選任。
①任意協議会発足前に要請
②法定協議会発足時での選任は困難
(6) 合併は必要か、必要でないか。
*最後は自分で決める(組合員一人ひとりが真面目に考え論議する)
|