【自治研究レポート(個人)】
1. 自覚症状があるか?
国県市町問わず、日本中の自治体が「行政改革!行政改革!」と声を上げ、競うようにいろいろな試みがされています。まさに21世紀は言葉だけでない行政改革が求められています。いや、求められていると言うよりも情報公開や行政評価とともに生き残りのための当然の作業であると言えます。まず日進市の行革のお話の前に、行政改革という言葉について考えてみました。
行政改革……なぜ行政改革が求められているか。それは行政を改革する必要があるからです。
簡単に言えば改革しなければならないくらいに行政がどこか病になっているということでしょう。
そうすると、この病気は何かということになるわけですが、まずその前に、その病の自覚症状があるか否か、つまり、職員なり市民がその自治体が健全であるかどうかをどの程度認識しているかが問題となってきます。ここでは、市民の認識、行政の認識、議会の認識というように、個別に考えていかなければいけません。簡単に言えば、たくさん認識している自治体は行政改革が進むし、そうでない危機感のない職員が多い自治体は改革が進まないということになります。
2. センサーの感度
「行政はこの激しい変動・変革の時代についていけてはいない」(実際ついていけていないと思いますが……。)ということを前提にすると、そこには当然種々様々な具体的な問題とその解決のための改革が必要なわけです。その問題とは何かということを市民・議員・職員が体感しているか否かがとても大切な課題です。つまりそういったセンサーが働いているか、そのセンサーの感度が高いかどうかが問題なわけです。行政改革を本当に実効性があるものにするためには、ここが、大きなポイントになります。つまり、職員の資質そのものが成果に反映するということになります。たまに「行革をしっかりしている自治体は、それだけ問題が多いんじゃないかぁ。」なんていうことを言う人がいますが、実はそういうことでなく、行革をしっかりやっている自治体はセンサーの感度が良いということになります。
3. 意識改革のツールとしての行革
また一方、行革は市民・議員・職員の問題意識を高めるツールとしてたいへん意味を持ちます。
行革の大きな項目である行政評価・政策評価についても、事業のアウトカムの数値化が求められているわけですが、結局は自治体経営の科学的分析の効果というよりも、そういった意識改革のツールです。
自分の仕事の価値が本当にあったのか、自分の仕事を正当化するのは行政マンは得意ですが、そうではなくて、これまでの自分の考え方に正面から疑問を持てる力がこれからの職員には求められます。
行政改革を個々の職員が考えるということは、自らの仕事の見直しであり、意識の見直しであることは言うまでもありません。行政改革への職員参加はそういった意味で職員の意識改革のための研修でもあるわけです。
4. わかっちゃいるけど、やめられないっ。
さて、行革を進めなければいけない理由は、いまさら説明の必要はないわけですが、行革が進まない理由はいったい何でしょう。もちろん問題意識が低いとか、社会経済が理解できていないとか、もっと言えば、時代感覚を持っていないというようなことになります。しかし、それだけでもありません。
「わかっちゃいるけど、止められない♪」という部分もしっかりあると思います。
行革が進まない理由。やりたくない理由について考えてみましょう。まずは既得権益です。
これは、市民団体、議会議員、職員すべてに言えます。次には、日常に変化を望まないという意識です。仕事が変わるのがイヤだ。仕事が増えるのがイヤだ。仕事が減るのが困る。もっと言えば、これまで築いてきた慣習やシステムが壊れるのが苦痛で仕方がない。自分のやってきたことや、歴史自体を否定することになる。安定した日常がとても大切に思っている人にとっては、イヤに決まってますね。
いくら大きなメリットがあっても、小さなデメリットがあるとやりたくない。というのはよくあることです。
5. 抵抗勢力??
そして、もうひとつの大きな改革阻害要因は何か。
それは、組織そのものです。組織の体質というべきでしょうか。仮に改革意識が高い職員がいても、上司が問題意識がなければ、職場での議論どころか、意見さえ通っていきません。いくら説得したところで、「まーそー言うなー」という言葉で終わってしまいます。当然そういう有能な若い職員は逆に評価されなければいけないのに、「出た杭」扱いになってしまうのが現実です。部下は上司は選べません。結果、処世術を学習する賢い職はいつの間にかダメな職員になっていってしまいます。
組織というフィルターが行革的発想を阻害しているのは明らかです。行革の発想段階ではそれをスルーするシステムが必要です。もちろん実施段階では組織としてきちっと進めていく必要があります。
6. 市民発想研修
職員も市民です。税金もしっかり取られています。
しかし、職員が市民の立場で行政のあり方を考えるという研修はなかなかされていないのが現実ですから、行革提案を職員が考える過程で市民的発想を身につけていくことができれば行革の効果は大きなものになっていきます。組織的発想から、市民的発想へ。これは、これまでのニーズ想像行政から、市民創造まちづくりへの起点でもあります。
それにもう1つ、自分の改革は自分ではしずらいという点もあります。いくら改革を意識しても、自分では切れないしがらみや感情もそこには大きく存在します。つまり自分のいる間はこのままにさせて欲しいという感覚です。誰か第三者にズバッと切ってもらわないとなかなかできないものです。この先には、市民行革という形が見えてきます。
7. 日進市発の行革
さて、こうした自治体の状況は本市も似たようなモノです。ここで日進市の実践例をご紹介します。
日進市では、平成13年度から、職員提案シートという手法を導入しました。(詳しくは別途のとおり)
これは職員がその所属や組織に関係なく、また、匿名でもよいという形で、行革提案ができるシートです。上司には内緒でもいいですし、自分が以前に所属していた課の問題点を自分が異動した後なら言えるということもあります。人に言ったら笑われると思うような提案も匿名なら出せることもあります。もちろん匿名でなくてもよいわけですが……。
8. 170の提案
平成13年5月にこのシートでの募集をはじめて、約1ヵ月で170枚以上の提案が職員から寄せられました。こっそりと机の上に置いてあったシート、メールで送られてきたシート、交換箱に人知れず入れられていたシート、ひとりで何枚も届けてきた若い職員。こうして、日進市の行革項目の原型が集まってきたのです。
行政には職制があり、組織で仕事することはもちろん基本なわけですが、これがいかに行政そのもののダイナミズムを失わせているかがよくわかります。前向きで、素晴らしい時代感覚をもった職員はたくさんいます。それを生かす組織がないことが、行政の進化を阻んでいるのです。逆に言えば先進的で時代感覚を持った職員の提案がきちっと議論される自治体はどんどん先を行くことになります。
9. オープンな行革とLAN
職員から提出されたシートは、各項目ごとに一覧表にして、庁舎内LAN(イントラネット)で全職員に公開しました。提案された項目には、当然それぞれの担当課があります。提案を実現することができるかどうかは、担当課の理解が求められるからです。
当然ここで波紋が広がります。だれが書いたか分からないが、自分の課や業務に対しての行革提案がたくさん出されていることがわかるわけですから。
次には、その提案に対しての、担当課の公式見解を庁舎内LAN利用して書き込みをするよう各課に依頼しました。ずいぶん大胆な職員提案も多いのですが、職員に公開されていることですから、当然各課の見解は記入はされます。この見解もそのままLAN上で公開しました。つまり、この各課見解の書き込みで、行革提案に対して前向きかどうかは、すべての職員にも、市長・助役にもわかるわけです。
その後、類似したものを整理し、課内で審査を行い、市長・助役査定を経て、その結果も公開しました。常に全職員への公開をしながら進めていったわけです。審査結果は採用が約80件、参考その他で約60件、不採用約30件となりました。
平成14年度は、この80件の実現を目的にして、各課への説明を行い、半年ごとにその項目の進捗状況を報告いただくことになります。秋の行政改革推進委員会では、各行革項目の担当課長から進捗状況を報告していただくことになります。
10. 行政改革自体の改革
行政改革を進めていくためには、行政改革自体の手法を行政改革していく必要があります。
お役所主導の行政改革には所詮限界があります。
日進市の平成13年度の行革は、職員の潜在的なパワーを引き出すことを主眼にした手法を試みました。次の改革は、市民の視点の導入です。平成14年度は、5人の行政改革推進委員を市民公募をしています。これにはすでに、民間企業のトップ経験者、市民活動をしている市民などのみなさんの多くの応募をいただいています。行革自体が進化することが大切です。
11. 時代の風を掴む自治体へ
行革を進めた職員がたいへん評価されれば、そこにはインセンティブが働きます。行政改革の推進には、評価のシステムも必要でしょう。
時代は大きく変動しているということはほとんどの職員はわかっているはずです。
時代が変化すれば、行政と言うシステムや個人の日常も大きく変化せざるを得ません。変化しなければ取り残されてしまいます。取り残されるだけならいいですが、たまにブタバコ行きという気の毒な人すら出てきます。
時代に抵抗するのは大変なことです。逆に時代の波にしっかり乗って、それより先にいくつもりでいればラクですね。向かい風は疲れますが、追い風にしたとたんにとてもパワーアップできることになります。時代という風は使い方1つで変わります。
要するにヨットでいえば帆の張り方1つで転覆するか、猛スピードで進んでいけるかの違いです。
時代に静水はありません。流れています。ということは、もし、自治体に静水があるとすれば、それはよどみ濁ったモノであると言えます。
静水を壊し、波紋を創るためには、石を投げなければなりません。石は大きいほど意味があります。
(たまに大きい石を投げすぎて、跳ね返りの水でたいへんなこともありますが……笑)
日進市行政改革のための職員提案シート
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