【自主レポート】
へき地医療支援対策の構築と道立札幌北野病院の
有効活用の取り組み |
北海道本部/全北海道庁労働組合・医療評議会
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1. はじめに
全道庁は、道立札幌北野病院の有効活用をめざし、病院の性格を「高度・専門医療」から、「へき地医療支援病院」へと性格転換を図ることをめざし、運動を進めてきた。その結果、北海道のへき地医療支援事業は、厳しい財政の中であっても、大幅な拡充がされたものの、道立札幌北野病院の有効活用については、果たせない結果となった。
基本的には、「敗北」のたたかいではあったが、一方で、これまでにない多様な「応援団」を得て、へき地医療支援策の拡充がされたことも事実である。以下、取り組みの経過と、成果・課題について報告をする。
2. 道立札幌北野病院とは
道立病院は、これまで広域医療、精神・結核などの特殊医療、腎臓・心臓などの高度専門医療等に併せ、へき地医療などの不採算部門を担っている。このため、道立病院全体に対する道の一般会計からの繰入れ措置は、88億円にのぼっており、道議会において、自民党を中心に度々厳しい追及が行われていた。
道立札幌北野病院は、1948年、結核病院として日本医療団から譲り受け、30床の結核診療所として開設された。その後、結核病床は300床まで増大したが、結核医療が変化する中で、結核病床の一般病床への一部転用、その後一般病院への性格転換を図り、1994年からは結核病床を廃止し、高度・専門医療を担う一般病院として運用されてきた。
この間、札幌北野病院は、高度・専門医療に力を入れ、慢性肝炎及びガンを中心とする慢性難治性疾患治療を取り組み、実績がつくられてきていた。病床利用率は平成10年度においては87パーセントと高く、その約4割が慢性肝炎などの難治性肝炎の患者となっていた。更に、ガンの治療に関しては、1999年7月には道内では大学病院を含め、数病院しか実施されていない急性骨髄性白血病患者の同種末梢血幹細胞移植治療を成功させるなど、免疫療法などの先駆的医療も実践し、特に細胞移植治療は、これまで難治とされてきた悪性リンパ腫や白血病の治療成績を格段に向上させていた。
3. 厳しい廃止圧力とあり方議論
(1) 道立札幌北野病院のあり方をめぐる攻防
これまで札幌北野病院については、1988年に道が策定した「道立病院の再編整備と経営健全化の方策」において、公的医療機関への移譲計画が策定されたものの、1998年に策定された「北海道病院事業経営計画」において「これまで担ってきている高度・専門医療の機能を含め、札幌医科大学の持つ教育・研究・医療機能との関係の中で検討を進めていきます」との方針に押し戻してきた。その後、札幌医大においてこの方針に基づいて検討が進められ、1999年8月に保健福祉部に対し、北野病院の活用策として、札幌医大としても協力できるものとして、「がん治療センター」「神経・筋疾患総合センター」「地域保健医療センター」という内容が報告された(いわゆる「医大三案」)。
しかし道財政が急速に悪化し、二期目の当選を果たした堀知事は、1999年4月の着任の記者会見で、「財政非常事態宣言」を行った。これにより、札幌医科大学附属病院の70億円にものぼる累積赤字の解消が大きな課題となった。当初、狙いとしていた、札幌医科大学附属病院の「分院」として、医大三案をもとに道立札幌北野病院を活用することについては、厳しい情勢となりつつあった。更に、1999年8月19日に行われた道議会企業会計決算特別委員会、9月に行われた第3回定例道議会において、自民党の道議会議員は、「札幌北野病院について、早急に廃止の方向を打ち出すべき」と再三に渡り厳しく追及した。その結果、道側は「指摘の趣旨も踏まえ、総合的に検討を行い、年度内には結論を得たい」との答弁に追い込まれ、情勢は急速に悪化した。
(2) 全道庁第一次提言を提出
このような中、保健福祉部当局は、1999年度内に結論を得るべく、医大の検討結果についての保健福祉部として検討を進めるため、部内に検討協議会を設置し検討を進めていた。また、全道庁としては、2000年1月13日に北野病院の一方的な廃止論に反対し、道民の健康と医療を守る立場から、北野病院の今後のあり方について、道当局に提言を行った。提言では、札幌医科大学で検討された、①がん治療センター、②神経筋疾患総合センター、③地域保健医療センターの活用策のほかに、「地域(へき地)医療支援センター」としての活用も提言した。
また、札幌市清田区の連合町内会は、北海道知事及び北海道議会に対し、「地域医療に大きな役割を果たしている。地域住民に信頼されている病院を一方的に廃止することはやめていただきたい」との存続要請行動がされた。
(3) 北海道保健福祉部としての結論
このような中、2000年3月2日の北海道議会において、自民党の代表質問が行われた。質疑で、北野病院のあり方について、道当局は一方的に、「医大の三つの活用策については、いずれも北野病院の活用策とすることは難しい状況にある。年度内に、基本的な方向についての結論を得たい」「札幌地域の医療提供体制が充分整備されている中で、道立病院として引き続き高度・専門医療を担うことの必要性は乏しい状況にある」と答弁した。
これに対して全道庁は、直ちに保健福祉部長交渉を実施し、当局の姿勢を追及した。当局は、「札幌北野病院のあり方に関する検討は、廃止を前提としたものではなく、本道の保健・医療・福祉行政上の様々な観点から総合的に行いたい」とした上で、「基本的な結論については、本年3月末までに得ることとしており、事前に部としての考え方を全道庁や地域住民の方々に説明したい」と理解を求めてきた。
道当局は、予定より遅れて4月24日全道庁に対して、札幌北野病院のあり方検討に関わる基本的方向について、正式に協議してきた。「札幌北野病院を高度・専門医療を担う道立病院としての役割は終えたとの判断に立って、平成12年度に今後の具体的な取り組み方策を検討したい。その際、患者さんに不安を与えないよう配慮するとともに、地域住民の医療の確保について関係機関と協議して参りたい。今後のスケジュールについては遅くとも年内には考え方を取りまとめたい」「今後のあり方に際しては地域住民の医療の確保について、関係機関等と協議して進めることとしており、全道庁の指摘も踏まえ検討して参りたい」との認識を再確認した。
4. へき地医療支援策を北野病院の有効活用策の1つに
(1) へき地医療支援に対する各方面からの問題提起
道立札幌北野病院のあり方が問われる中、へき地医療のあり方をめぐり、社会的な関心が高まる状況が生じていた。
まず、雑誌「週間金曜日」の297号(1999年12月24日)において、「北の大地で医療と心は磨けない」と題して、北海道の医師確保対策事業の運営方法を批判した記事が掲載された。
次に、2000年1月6日、北海道新聞朝刊のトップ記事において、全国自治体病院協議会が実施した医師の充足率や医師給与の調査結果が報道され、北海道のへき地における医師の票欠や極めて高い給与実態が明らかにされた。
更に、厚生省は、第9次へき地保健医療計画の策定に向けて、へき地保健医療対策検討会が設置され、2000年6月に報告書がまとめられた。その内容は、これまで行ってきた二次医療圏単位でのへき地医療体制の限界を指摘し、より広域的な都道府県単位のへき地医療対策を求めている。具体的には、へき地医療支援機構を都道府県単位で創設、へき地医療拠点病院群の構築などを対策としてあげている。特に、病院群を構成する医療機関の開設については、大学附属病院とともに、都道府県立病院の役割について十分検討すべきとしていた<資料1>。
このように、北海道内外から、へき地の医師不足に対する抜本的な対策を求める声があがるなか、全道庁としては、この声を札幌北野病院に有効活用させるべく、第一次提言にあった、「へき地(地域)医療支援センター」の実現に向けて運動を進めることとした。
(2) 北海道のへき地医療の現状
へき地における医師・医療スタッフの不足は、北海道における医療の大きな課題のひとつとされてきた。第3次北海道長期総合計画(1998~2002年)の中でも「医療機関の分布に偏りがみられるなど、依然として地域の医療には格差を生じています。どこで暮らしていても必要な医療が受けられるよう、プライマリ・ケア(注1)を重視した医療提供体制の整備を進めていく」と取り組みの必要性を指摘していた。
(注1) 患者が最初に接する医療の段階。それが身近に容易に得られ、適切に診断処置され、かつ以後の療養の方向について正確な指導が与えられることを重視する概念で、そのため訓練された一般医・家庭医がその任に当たる。
このような中、全国自治体病院協議会の調査結果の内容は、①全国的には、医師充足率は約80%となっているものの、北海道では、67.6%に止まっている。②更に、都市部を除いた過疎指定地域においては、57.8%となっている。③常勤医師一人当たりの年間給与について、全国平均では、約1千7百万円だが、北海道平均では2千百万円を超えており、中には6千万円を支給している病院も存在する(別表1)。また、アンケート調査報告では、「地域医療問題は今後さらに深刻化しかねない」と警告している<資料2>。
このことから、各市町村は医師不足に対処するため、相当のエネルギーを医師確保に費やさざるを得なく、医師の給与も高水準になるという悪循環に陥っている状況にある。また、医師票欠により診療報酬のペナルティも課せられることとなるが、高給与の医師確保よりペナルティを選択する自治体も存在する。
北海道の医療は都市部を除き、広大な地域の一方で人口密度が低く、医業が成り立つにくい地域が多い。市町村を中心に設立された公立病院や診療所が地域医療の中心を担っている状況にある。この医師不足の原因について、「過疎地域における医療確保の課題と対策」(1996年8月、北海道町村会地域医療問題研究会)などによると、①小人数の医師配置による労働過重、重い負担と責任、②医療研修の機会が少ないことによる医療技術の不安、③都市部に戻れるかどうかの不安、④地域における生活の不安、⑤医科大学の医局中心の人事、⑥市町村理事者側の医療に対する無理解などが挙げられている。
一方、住民は、都市部大病院に対する「信仰」が強まる傾向にあるとともに、近年の市町村地方財政危機による、公立病院経営の悪化は、医療施設やスタッフの充実に二の足を踏ませている。
これまで、①1985年には北海道は「北海道地域医療振興財団」(注2)の設立、②札幌医科大学における、地域医療総合医学講座(注3)の設置。北海道大学医学部では総合診療部の設置などがされてきていたが、より体系的な施策が求められていた。
(注2)北海道の各地域の医療機関における医師の充足と医療機能の強化を促進することにより、地域医療の充実を図り、道民の福祉の向上に資することを目的としている。スタッフは5名。医師招へい事業、プライマリ・ケア医養成派遣事業、代替医師確保事業などを行っている。
(注3)地域医療総合医学講座は1999年に創設された。当講座は北海道における地域医療に貢献をすることをミッションとしている。講座には主として2つの目標がある。1つは、しっかりとした、体系的な卒前・卒後教育を通じてプライマリ・ケア医を養成することであり、もう1つは地域医療・総合診療・一般内科・臨床疫学・全人的医療についての研究を行っていくことである。
(3) 全道庁医療評議会としての考え方
全道庁としては、「高度・専門医療を役割とした道立病院として役割は終えた」ものの、今後のあり方については、先に提出した道立北野病院の有効策として提言していた、「へき地(地域)医療支援センター(プライマリ・ケア医研修施設)」構想をもとに運動を進めることとした。
その具体的な内容は、第9次へき地保健医療計画や、先進的に、県立中央病院が医師の派遣事業を行っている島根県の例を参考にしながら、北海道がはたすべき行政責任を明確にした上で、個々の関係団体や市町村の取り組みを総合的に行う機構をつくり、①北海道地域医療財団が実施している事業、札幌医科大学の地域医療総合講座や北海道大学、旭川医科大学の派遣事業など、分立をしている北海道におけるへき地医療支援を総合的に調整・連携をとれる機構を設立し、同時に地域医療を担う医師の研修やプライマリ・ケア医養成研修施設を持つ施設を設立する。②実施事業は、(ア)地域医療を担うプライマリ・ケア医養成、(イ)地域医療を担う医師の長期派遣、(ウ)代替医師の派遣、(エ)地域で活躍している医師の研修事業、の実現をめざし札幌北野病院の有効活用をめざすこととした。
5. へき地医療支援策の具体化をめぐる攻防
(1) 「道立札幌北野病院」としての廃止方針
このような中、2000年11月27日、保健福祉部当局は全道庁に対し、札幌北野病院のあり方について、部案を提示してきた。その内容は「平成13年度をもって廃止する」とし、「札幌北野病院の医療機能の継承については、平成13年度上期までに方針決定を行う」としている。更に、地域医療の確保として、「本道におけるへき地医療の支援体制、特に今後の医師確保対策について、本道の実情に応じた新たな仕組みを検討し、できるだけ早期に成案をとりまとめ、着実に実行に移す」としていた。全道庁はこの提示を受け、北野病院を廃止するとしているものの、「地域医療の確保」という項目が挿入され、へき地への医師確保などについて「新たな仕組みを検討し、できるだけ早期に成案を取りまとめ、着実に実行に移す」とさせた。また、保健福祉部長交渉において、「臨床研修の場としては、大学附属病院や公的医療機関の活用のほか、独自施設の確保など、北野病院の医療機能も視野に入れながら、様々な角度から検討している。平成13年度は、へき地医療関係者や三医育大学など有識者からなる外部検討委員会からも意見をいただき総合的に検討する」「医師の臨床研修などの場として、現にあるもの(道立札幌北野病院)を有効活用することを基本に検討する」と、部長としての決意を表明した。その後、「へき地医療支援対策調査費(200万円)」が、2001年度当初予算に計上され、保健福祉部内においても、検討委員会やワーキンググループを設置し、検討が進められていた。全道庁は、保健福祉部の検討作業について監視を続けるとともに、地域医療支援システム確立の運動を進めることとした。
また連合北海道は、全道庁の提案を受け、2000年12月11日の地協代表者会議において、2001北海道春季生活闘争の柱として、「北海道地域医療の充実を求める取り組みについて」を提起し、署名活動や市町村決議運動を進めることを決定した。
(2) 北海道議会における問題意識の共有化
全道庁と連合北海道は、道議会各派に対する対策を進めていたが、2001年3月8日、道議会第1回定例会において、民主党・伊藤政信道議会議員は、へき地医療に対する道の考えを質し、「へき地や離島などの地域においては、依然として医師が不足している状況にあることから、このような地域における医師確保対策に、より一層取り組んでいく必要がある」との答弁を引き出した。
また、3月28日の議会最終日には、北海道議会として国に対し、「へき地医療支援機構の創設及びへき地医療拠点病院群の構築に向けた支援策の充実を要望する」という内容の意見書が採択された。更に、第2回定例会では、自民党の議員が質問にたち、へき地医療支援機構の役割や、道の取り組み姿勢を質し、「へき地に勤務する医師は、研修がきわめて重要だ。既存の医療機関を活用して、全道をカバーする臨床研修のための医療機関を整備し、研修体制を確保すべき」と主張した。
更に9月25日、第3回定例会において、再度、代表質問でへき地医療支援体制について質疑が行われ、民主党は「道として、へき地に勤務する医師専用の臨床研修病院を新たに整備し、プライマリ・ケア医をはじめ、へき地医療の中心を担う医師の養成・研修体制の整備に取り組むべき」と指摘した。しかし知事は、「検討委員会における検討結果を踏まえ、研修体制の整備など、へき地に医師が勤務しやすい環境づくりを進め、地域医療の充実に努める」との答弁に止まったものの、へき地医療政策確立の必要性は、超党派のひろがりを見せた。
(3) 「へき地医療支援対策検討委員会」に対する取り組み
北海道保健福祉部は、へき地医療支援対策検討委員会設置を決定した。委員会の構成については、札幌医科大学、北海道大学医学部、旭川医科大学や医師会、連合北海道、町村会、道経連など15名をもって構成し、具体的な日程については、検討委員会は5回程度実施し、9月中旬にも提言を取りまとめたい、としていた。6月6日、保健福祉部当局は、第1回のへき地医療支援対策検討委員会を開催し、以降、10月25日まで6回の委員会を開催した。
全道庁は、へき地医療支援対策検討委員会の設置については、これまでの運動の大きな成果と受け止めつつ、へき地医療支援がより実効あるものとし、また、北野病院の有効活用策につながるものにすべく対策を強めてきた。特に7月24日、全道庁は保健福祉部当局に対し、「北海道へき地医療支援の充実に向けた提言」<資料3>を提出するとともに、関係委員に対しても賛同を求めた。
議論内容は、へき地医療の現状や、対策の必要性、厚生労働省の第9次へき地保健医療対策に基づく取り組みの必要性について、認識が一致した。また、北海道としての取り組みの必要性、現在ある、地域医療振興財団の機能が十分でないことについても、議論がされていた。しかし、臨床研修病院のあり方については、「センター病院の役割として、研修の受け皿となることには、問題ない。各病院の協力は得られる」「センター病院として協力の意思があっても、実施できる体制があるのか。道が責任をもって研修できる場の確保が必要」などの発言があり、臨床研修病院のあり方が大きな議論となっていた。もし、センター病院の活用がメインとなれば、道立札幌北野病院の活用に結びつかないこととなり、予断を許さない状況となっていた。
一方、連合北海道が進めていた署名は20万筆を集約し、市町村決議についても、札幌市議会においては、政府及び北海道に対して「分立している地域医療支援の総合調整や地域医療を担う医師の養成・研修機能を充実・強化するため、新たなへき地医療拠点病院およびへき地医療支援機構を創設するよう強く要望する」という内容の意見書が採択されたのをはじめ、他の市町村においても同様の意見書が採択され、212市町村のうち、109市町村で決議が採択された。
この結果を受けて、2001年9月7日、連合北海道は「地域医療の充実を求める道民集会」を約300名の参加のもとポールスター札幌で開催した。集会では、北海道町村会から、「町村長の札幌出張の半分は、医師確保のためと言っても過言ではない。是非とも安定した医師確保を確立させたい」と表明。また、講演では、へき地医療支援対策委員会委員である、北海道家庭医療学センター所長の葛西龍樹氏から、「専門医とは別に家庭医を養成することが重要。へき地医療支援機構確立に向けては、家庭医の養成派遣が求められている」と、専門医養成に偏りがちな医師養成制度に疑問を投げかけ、しっかりしたへき地支援システムの構築を訴えた。
更に連合北海道はこの集会を踏まえ、9月10日、山口副知事に会い、知事宛の要請書を提出した。要請書に対して副知事は、「へき地における医師確保と定着は大事な問題。医師研修の問題、派遣サイクルの課題がある。検討委員会の趣旨を踏まえ、提言された部分も含めて道として検討したい」と述べた。
6. へき地医療支援策は充実するも、北野病院は活用しない
(1) へき地医療支援策は、北海道保健福祉部の最重要課題。しかし……
10月11日、北海道保健福祉部当局は「札幌北野病院の医療機能について」、更に15日には、「今後のへき地医療支援対策の考え方」について明らかにしてきた。内容は、へき地医療支援対策については、北海道地域医療振興財団の体制充実や過疎地勤務医の臨床研修体系の充実、地方センター病院における臨床研修の実施、地域・地方センター病院の地域医療支援機能の強化、を取り組むとしていたものの、札幌北野病院の医療機能については、臨床研修病院として活用することや、現在の規模、機能から道央圏における地方センター病院として指定することはいずれも困難としていた。
このため、全道庁は10月18日に保健福祉部交渉を行い、へき地医療支援機構については、地域医療振興財団を活用するに止まっていることや、労使交渉の経過を無視し、札幌北野病院を活用しないと至った経過について強く再検討を求め、保健福祉部交渉を中断した。
このような中、11月、検討委員会は最終的な報告書を取りまとめたが、その内容は、連合北海道選出委員、町村会選出委員、医療関係者など、道が責任をもって研修できる場の確保が必要との意見があるにも関わらず、研修病院整備については、センター病院を活用することが強調される内容となっていた<資料4>。
11月6日、保健福祉部当局は、全道庁に対し、「へき地勤務医のための臨床研修病院の確保比較検討1」「へき地勤務医のための臨床研修病院の確保比較検討2」「へき地医療支援機構の概要」を明らかにしてきた。これを受けて、11月7日、全道庁は10月18日に中断した交渉を再開する位置付けで、保健福祉部交渉を実施した。部当局は、「検討委員会においても、臨床研修施設として、地方センター病院の活用が提言されることとなり、保健福祉部としても、北野病院を臨床研修施設として活用することには、病床数の課題などから活用はたいへん難しいとの判断に至った」と前回同様の考え方を示した。
11月19日、保健福祉部交渉を実施した。交渉では、①札幌北野病院のあり方について札幌北野病院を臨床研修病院として活用することや、現在の規模、機能から道央圏における地方センター病院として指定することはいずれも困難であることや、②札幌北野病院の医療機能の継承について、③へき地医療支援策について、④へき地医療支援機構と三医育大学との連携、⑤プライマリ・ケア医養成のための臨床研修施設を今後新たに拠点整備、⑥組合員の処遇について明らかにした<資料5>。
全道庁は、基本的な考え方を明らかにし<資料5>、「全道庁がへき地医療支援策の充実とその1つの方法として臨床研修施設又はへき地医療支援機構として札幌北野病院を有効活用するよう強く求めてきたことからすると、札幌北野病院を現状の運営方法(道立道営)で有効活用することを否定したものであり、これまでの交渉経過を無視し、医療関係者の要望や連合北海道の委員会における発言、更に全道庁の提言を踏まえない不当なものと言わざるをえないものであった。全道庁は、北海道保健福祉部に対し、断固抗議を申し入れた。
(2) 北海道のへき地医療支援策の大幅増額と、道立札幌北野病院の厚生連への委譲が決定
2月21日、保健福祉部当局は全道庁に対し、第1回定例道議会に提案する「平成14年度地域医療対策支援事業」予算の概要を明らかにしてきた<資料6>。内容は、保健福祉部当局が最終回答で示した内容をほぼ踏襲し、「へき地医療支援機構」を設置し、地域医療振興財団に医師2名、事務職員2名を配置する。新規業務、拡充業務については8項目を掲げ、予算についてはこれまでの地域医療対策を大幅に上回る6億5千万円規模となっていた。
3月19日には、保健福祉部当局は、札幌北野病院の医療機能の継承として、北海道厚生連への委譲について示してきた。その内容は、「北野病院の施設を使用して、へき地勤務医の養成・確保に取り組む計画が示された」「安定的な病院経営が期待できることや、過疎地域の病院経営に実績があり、へき地医療に理解があるとともに、札幌厚生病院との併用により十分な医師の臨床研修機能を持っていること」としていた。
ただ、道央圏におけるセンター病院の指定について質したところ、「札幌圏の地域センター病院の指定については、もう少し時間をいただきたい。引き続き、努力していく。また実効あるへき地医療支援策の実現に向け、検証をし努力していきたい」と回答した。
7. 運動総括の総括。大きな犠牲の上にたつ、へき地医療政策
へき地医療支援策の充実と札幌北野病院をその臨床研修病院として有効活用すべく、運動を進めてきたが、課題・問題点と成果について分析したい。
(1) 課題・問題点
① 道立札幌北野病院の有効活用の運動
へき地医師の臨床研修の場としては、拠点方式ではなく、地方センター病院を活用していくことが決定され、全道庁がへき地医療支援策の充実とその一つの方法として臨床研修施設又はへき地医療支援機構として札幌北野病院を有効活用するよう強く求めてきたことからすると、札幌北野病院を現状の運営方法(道立道営)で有効活用することを否定した結果となった。まずは、この点については、「敗北」と総括せざるをえない。その原因は、(ア)危機的な北海道財政の中、道議会における厳しい廃止要求の中、それに対抗できる準備が不足していたこと。(イ)道立札幌北野病院の存続要望が、周辺地域住民に限られ、全市的な存続要望運動とはなり得なかったことがあげられる。
また、運動の面からみても、札幌北野病院の廃止が着々と進む中、へき地医療政策の実現を訴え、その一手段として札幌北野病院の有効活用を求めることとなったため、「廃止反対闘争」と比較して他の道立病院の一般組合員には見えづらいものとなった。更に運動の広がりが一定程度あったとは言え、最も医師確保に苦しんでいる地域の市町村がより主体的に取り組む体制の構築が、1年程度では厳しかったこともあげられる。周到な準備と分かりやすい運動が必要である。
② へき地医療支援対策検討委員会
へき地医療支援対策検討委員会の委員に対する要請も行ってきたが、医師の研修について、町村会や連合北海道などが積極的に発言することが難しく、医療関係者が議論をリードする状況が続き、札幌北野病院の活用や道が主体的に研修施設を設立することを想定した委員は、過半数に届いていない実態があった。逆に委員長が名寄市立病院院長であり地方センター病院として積極的に地域支援を行っている実績もあることから、札幌北野病院の活用が不可欠であるという議論まで進まなかったことも事実である。更に、北海道庁内部において、保健福祉部と札幌医大のへき地医療の役割分担が明確にできないまま、議論が進んだ状況にある。
(2) 成果ととらえるべき課題
① へき地医療支援策の必要性を内外に訴える。
厚生労働省の第9次へき地保健医療福祉計画の策定などの「好条件」があったにせよ、(ア)連合北海道が取り組んできた署名は20万筆を数える一方、市町村議会決議について、109市町村で可決された。(イ)北海道新聞にも社説<資料7>として掲載されたように、道民の間に大きな問題との認識が広めることができた。(ウ)その結果、北海道保健福祉部の最重要課題と位置付け、5月にはへき地医療支援対策検討委員会を設置させた。(エ)また委員会における議論は、へき地医療の問題認識を一致させ、有効性ある対策を求める声が多く出され、へき地勤務医師の臨床研修の場やプライマリ・ケア医養成の重要性が確認され、11月12日に道に対し報告書が提出された。(オ)それを受けて示された保健福祉部としてのへき地医療支援策は、平成14年度予算に向けて大幅に実現。北海道財政が危機的な状況であるにもかかわらず、またへき地医療支援機構の設置、臨床研修の充実など具体的な事業化に向けて取り組むことが示された。全道庁提言で指摘した点についても、具体化されている<資料8>。
更に道央圏におけるセンター病院の指定、道としてのプライマリ・ケア医養成に向けた新たな臨床研修病院の必要性の検討、札幌北野病院の医療機能継承について、確定させた。
これらは、全道庁の政策提言の実現を求めた運動ではあったが、札幌北野病院を委譲するという重みの中、ある意味当局は、「管理運営事項」を労使交渉の課題とせざるを得なかったと言える。それが、北野病院を有効活用しないとしたものの、へき地医療支援事業の大幅な予算増と現れたことについて、押さえていく必要がある。
以上のような成果と課題ではあるが、今後、道立病院のあり方については、更に踏み込んだ見なおしが更に進む情勢にある。今回の運動から、①地域住民との共闘、②市町村を含めた幅広い支持、③地域内外の理解を得る病院のあり方議論の構築、などが更に強く求められている。
なお、組合員の処遇については、必ずしも全ての職員の意向が完全に尊重されたわけではないが、非常勤職員も含め、非自発的退職者を1人も出さず、札幌医科大学附属病院や小児総合保健センターなどの医療機関、療育センターなどの福祉施設などに配属され、2002年2月1日と4月1日の2回に分けて、新たなスタートをきった。長く勤め続けた職場が無くなるというたたかいの中、チラシ配布や街頭署名行動、職場オルグなどで明るく運動を進めた、元札幌北野病院組合員に深く感謝しなければならない。
(字数の制限上、資料については省略しましたので、必要な方は自治労全道庁本部までお問合せ願います。札幌市北区北6条西7丁目自治労会館 TEL011-756-8121 Fax011-700-2471)
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