【自主レポート】

岩出山町職の自治研活動の取り組み

宮城県本部/岩出山町職員組合

1. はじめに

(1) 町の概要
   岩出山町は宮城県北西部に位置し、西側に奥羽山脈、東側に穀倉地帯である大崎平野が広がり、町の中心部を北上川につながる江合川が貫流している。交通条件は、太平洋沿岸の宮城県石巻市と日本海沿岸の山形県酒田市を結ぶ国道47号と東北新幹線古川と山形新幹線新庄と接続するJR陸羽東線が通り、市街地から東北自動車道古川インターまで15分、東北新幹線古川駅まで20分の比較的に交通アクセスに恵まれている位置にある。
   人口は2000年国調で14,169人、高齢化比率29.2%(2002年)、財政力指数0.31(2001交付税算定時)で過疎地域に指定され、産業は稲作を中心とした第一次産業が中心である。

(2) 町職組織
   町職は1970年に設立し、1976年に自治労に加盟、組織内町議1名を有しており、2002年6月現在の組合員数は230名。主な職場は、本庁舎・病院・保育所・学校・上下水道・地区館(地区の住民の自主的な地域振興活動を支援)。

2. 自治研の取り組み経過

(1) 非核平和の取り組み
   自治研の取り組みとしては、岩出山町が1983年10月に「核兵器廃絶平和都市」を宣言したということもあり、職員組合として非核平和の大型看板を役場庁舎正面に設置し非核平和の推進と労働組合をアピールしたのが初めての取り組みであり、主に平和運動の推進に力をいれてきており、一般地域住民を対象にした非核平和の映画上映(3回の上映)など一定の成果をあげた。
   戦後50年には旧地区労(町職主体)と町の共催で、平和のつどい実行委員会を構成し恒久平和を誓った取り組みとして非核平和映画上映や原爆パネル展を組合側担当として主体的に担った。
   しかしそれ以降、月刊「自治研」の購読をはじめに宮城県本部でこの間取り組まれてきた財政分析学校および県自治研集会への参加や全国自治研集会への組合員の派遣が主な活動であり、今一歩の踏み込みができずに消極的な取り組みが続いていた。

(2) 地方自治研究センターの設置
   これまで月刊「自治研」購読者35名がそれぞれに活用しながら、地方自治は住民の手からを合言葉に反映させてきたが、個々人としては一定の成果があるといえるものの、組織としては十分な効果とはいい難い状況にあった。
   自治体労働組合として労働条件の確立という最大の目標があるものの、今日の成熟した社会の中では制度政策すなわち地方自治の研究分野が不可欠であるとして、この月刊「自治研」購読者の会をつくっては、という提案がだされたことが転機となった。基本組織の自治研部とは別に、月刊「自治研」購読者35名で本来の地方自治のあり方や町の活性化などについて取り組むことを目的に、現職組合員・組合員OBの管理職・組織内議員等を構成員として事務局長に基本組織の自治研部長を配置し「岩出山町地方自治研究センター」を設置した。

3. 具体的な取り組み

(1) 住民の身近な課題から
   組合では、「地方分権をはじめに、市町村の役割が年々重要になっている状況を踏まえ、自治体労働者としての情勢認識ならびに制度政策を学習すると同時に政策形成能力の向上をめざす」ことを趣旨とした第2段階の具体的取り組みを提起し、これまで2回の学習会およびセミナーを開催した。
   第2段階の初回の取り組みとして、身近なテーマとして多くの話題を呼んでいる介護保険制度について開始前後の2回にわたり、基礎自治体としての役割や制度の矛盾点について学習を行った。主催は自治研センターと職員組合が合同で開催し、第一回は「介護保険制度学習会」、第二回目として自治研セミナーとしてそれぞれ介護保険をテーマに開催した。

(2) 介護保険制度スタートにあたっての課題
   第1回では、介護保険制度スタート1年前の時期に、介護保険とはどんな制度なのか。そして、私たちの生活にどのような影響があるのか。この視点から全国・岩出山町の介護保険の状況について、学習した。まずは介護保険制度を幅広い視点から学習するということで、日本国内外の社会保障に精通しており、かつ財政制度にも詳しい北星学園大学の横山教授を講師に招き、介護保険制度と市町村の役割と題して講演をうけた。また介護保険制度施行で町が抱える問題について、介護保険を担当している組合員から報告する形式で開催した。
   講演では、制度施行にあたり、自治体実務の段階としての問題点および改善点について国と地方自治体との決定的なキャッチボール不足、否めない大都市型の性格、低所得者の利用抑制の可能性、自治体財政負担の課題、直営・社協・民間参入をめぐる福祉労働者(ホームヘルパー)の賃金・労働条件の問題等の課題について、国および自治体をめぐる状況から介護保険制度の問題点について指摘がなされた。
   現場の状況では、訪問調査員と居宅介護支援事業者確保や居宅サービス事業者の確保、介護保険制度導入準備にあたる体制充実をはじめとする、多忙極まりない当面する課題について報告がなされた。
   まとめでは、①制度本体の矛盾点や時間不足、②地方分権の第一歩という位置付けの割には国会をはじめとする関係機関での十分な時間をかけた検討が不足したことは否定できない、③自治体の十分な意見反映がなされていない、④介護保険報酬と利用者負担での運営など財政的裏付けに不安、⑤サービス利用者の後退の可能性、などの多くの懸念や指摘事項の集約がなされた。

(3) 介護保険スタート後に見えてきた課題
   第2回はセミナーとして、介護保険制度施行後の状況と市町村合併をテーマとして開催し、第1回と同様、横山教授から「介護保険の10カ月・見えてきた課題地方自治体の行財政の今後」と題して制度施行後の全国の状況や市町村を取り巻く合併の状況について講演をうけ、さらに報告としてケアプランに携わっているケアマネージャーからの報告、実際に制度を利用している住民からの報告をうけて、実態について討論するという形式で行った。
   講演では、①低所得者層中心にサービス利用が減少、②保険料の自治体間格差の拡大、③介護保険サービス提供者の低賃金と劣悪な労働条件、④介護保険制度は都市中心型であり、過疎市町村と面積の大きい市町村の苦悩、などの全国の状況が紹介された。
   市町村合併では、①公債費の増加と地方交付税抑制による厳しい市町村財政の現状、②少子化と高齢化による人口減少社会を背景とした市町村合併論の台頭、③合併のメリットが強調されているが、自分たちの町の姿をどのようにピクチャーするのか、合併はその際の選択肢の一つとして真摯に議論することの必要性などが出された。
   報告の部では、町の介護保険の状況について、ケアマネージャーとサービス利用の立場からそれぞれ報告がされた。ケアマネージャーからは、制度の不備、マンパワー不足の指摘や民間事業者との連携問題などが出されており、これらの課題点が解決されないと充実した制度とはほど遠いことが報告された。サービス利用者からは、従来の制度とは違って利用者負担の増大や新制度の戸惑いなど、サービス利用が受けにくくなっている実態などがだされた。
   2回目のセミナーには、一般組合員はもとより町職退職者会、町社協職員、一般住民、民間業者、議員など各層からの参加となり、介護保険への関心の高さを示した。
   まとめとして、制度スタート前にそれぞれの分野で懸念されていたことや矛盾点として指摘されたことが、改めてその実態と問題点が明らかになったといえる。

(4) 組合設立30周年記念事業として平和運動推進
   町職はこれまで、自治研の柱として非核平和推進を掲げてきており、設立30周年記念事業として映画と平和コンサートを一般住民を対象として開催した。
   映画は沖縄戦の実相として「GAMA月桃の花」を上映し、戦争の悲惨さと平和の尊さを訴えた。同時に平和の心を歌い続ける海勢頭豊さんによる平和コンサートを開催し、参加者から多くの共感を得た。
   この平和推進事業は、設立記念事業の一環として前年度に実施した「沖縄平和の旅」で、沖縄県を訪問した際、沖縄県本部の皆さんとの交流したことがきっかけとなり、町および小中学校の後援のもとで企画した事業である。

4. まとめと今後の取り組み

(1) まとめ
   組合組織に専門部としての自治研部がおかれていたが、当初、何をどのようにしたらいいものか手さぐりの状態がしばらくの間続いた。ようやく月刊自治研購読を自治研の出発点として、職員組合にプラス1としてウイングを広げようと岩出山町地方自治研究センターを設立し、非核平和と高齢化社会の中で身近な課題として介護保険制度を取り上げてきた。
   参加も当初の組合員段階から介護保険セミナーや非核映画上映など少しずつではあるが住民参加段階への踏み込みが出てきたものと言える。

(2) 今後の取り組み
   地方財政危機や市町村合併など、地方自治を取り巻く情勢はきわめて厳しく、その中での自治研活動も困難性が伴うものと思われるが、だからこそ自治研が重要性を増してくるものとして取り組むことが必要である。
   現在、定期的に組合員が気軽に語り合える場としての「自治研サロン」の開催や、自治労組織内県議会議員の議会傍聴の取り組みも組合員を対象としてはじめた。
   私たち町職として次段階としての取り組みは住民参画の中での政策提言を行うことを目標に掲げている。基礎自治体としてその現場に精通した組合員が力をあわせ、住民と労働者の目線でのより良い町づくりを基本に据え、可能であれば、政策法務としての自治基本条例制定の取り組みも検討したい。