【自主レポート】

社会福祉法人東京都社会福祉事業団における
知的障害者雇用の取り組み

東京都本部/自治労都庁職員労働組合・民生局支部・日の出福祉園分会 篠田 俊一

1. はじめに

 知的障害のある人たちの就労を巡る環境は、さまざまな施策や関係者の努力にもかかわらず、さらに厳しさを増しています。養護学校卒業時に就労する人たちは3割にも満たず、多くの知的障害者が福祉施設利用者となっています。その施設から就労する人はわずか0.79%に過ぎません。また、就職できても何らかの理由で離職した人は再び就職に向かうことは以下の理由で少ないと言われています。
 ・職場での人間関係などに不安がある。
 ・事業主や職場の同僚が、仕事のことを丁寧に教えてくれたり、いつでも相談にのってくれたりするか不安がある。
 ・自分の体力や力量を越えた仕事を与えられると、とても耐えられない。
 ・仕事に全精力を使い果たし、自分自身の生活が維持できなかったり、息抜きをする場が持てない不安がある。
 ・作業所等で働いていた場合には、戻る先がなくて不安である。
 しかし、知的障害をもつ人々の「働きたい、働きつづけたい」という要求にもかかわらず、必要とする支援サービスがなかったり、福祉、労働、教育等の分野の施策の連携がいまだ十分でない等、様々な問題が複合的に重なり、そうした要求に十分応えられていません。とりわけ、目に見える身体的機能障害はないが、コミュニケーションを図るのが苦手だったり、仕事や周囲の人の変化に柔軟に対応できなかったり、対人関係などによるストレスを受けやすいなどを理由に、知的障害者の一般就労は難しいとされてきました。ところが、近年の知的障害者の就労支援に関する先駆的な実践の中から、適切な支援サービスを提供され上記の不安を解消することによって、一般就労の可能性が広がってきています。
 1997年の障害者雇用促進法の改正により、知的障害者の雇用が義務化され社会全般で、雇用の取り組みが行われています。そして、市区町村のレベルでは1997年の法改正により、障害者の雇用を支援する「障害者雇用支援センター」が社会福祉法人を活用した「あっせん型」の設立も可能となりました。2001年には施設設置型13ヵ所、あっせん型21ヵ所が設置されました。
 また、2000年度からは、生活支援センターと組み合わせた、雇用支援と生活支援を一体的に行う「障害者就業・生活総合支援」が試行され、地域ネットワークを活用した雇用支援が成果を上げています。
 さらに、「障害者緊急雇用安定プロジェクト」によるトライアル雇用は2000年3月までに6,407人が職場実習を行い、4,000人余りの方が本採用に移行し成果を上げました。事業団での雇用は「障害者緊急雇用安定プロジェクト」によるトライアル雇用で4名の雇用をしました。2001年度からはトライアル雇用を行う「障害者雇用機会創出事業」が実施されました。この事業を利用し2名の雇用をしました。
 また、2000年度から「職場適応援助者(ジョブコーチ)による就労後の人的支援パイロット事業」が実施されており、障害者雇用の安定に効果をあげています。
 障害者雇用情勢の実雇用率改善のテンポは鈍化している中、事業団障害者施設における知的障害者雇用の取り組みは、新たな就労の場の創造です。多くの知的障害を持つ人の、将来を展望した暮らしの一端を担う事業だと感じています。

2. 自治労都庁職民生局支部における取り組み

 民生局支部は、事業団における障害者雇用を促進するために執行部に担当部署を設け、事業団側との連携を取り、予算要求や学習会の実施など積極的な取り組みを行ってきました。

(1) 東京都社会福祉事業団の設立
   東京都社会福祉事業団は、都立直営施設(障害児者入所施設、児童養護施設)21施設の受託法人として1997年4月に設立された。この時事業団は、障害者雇用等を推進することに関して、社会的役割及び責務として、次のことを表明しました。
  ① 施設の建物管理等間接業務を可能な限り地域の障害者施設に業務委託する。
  ② 建物管理委託業者に障害者雇用をうながす。
  ③ 障害者雇用の促進を図る。
   このことを受けて、事業団の障害者雇用は、特に知的障害者を中心に、雇用の促進を図るための検討委員会を立ち上げ、検討を行ってきました。

(2) 検討委員会準備会に参加
   1999年度に入り、障害者雇用について改めて福祉局及び事業団に対して、障害者の雇用計画策定及び雇用の促進を求める声が高まったことにより、福祉局、事業団は前向きの考え方を示し、準備会を設置し、以下の次の取り組みを行ってきました。
  ① 基本的考え方
    東京における知的障害者の雇用は、社会的に広がりが見られずにきた。この背景には、法的に未成熟であったことと同時に、「知的障害」=「働くことができない」というネガティブな捉え方が社会的認識としてあったことがいえる。こうしたことから、事業団は、知的障害者が社会を構成する一員であることを前提に、「サービス対象者」としてのみではなく、「共に働く」メンバーとして、率先して職場の中に受け入れていくことにする。
  ② 取り組みのポイント
   ア 事業団においても、1995年11月に策定された「都における身体障害者雇用に関する基本方針」を前提とし、雇用の対象を「身体障害者」に限定せず、「障害者の雇用の促進等に関する法律」の趣旨に沿ったものとする。
   イ 障害者の雇用が拡大し、職務遂行が円滑に行くよう、仕事の仕方の改善、職場環境の整備等を推進する。そのための学習会、現場視察等を行う。
  ③ 検討の柱と具体的取り組み
   ア 検討準備会での検討の柱
    ・雇用者数等雇用計画
    ・採用条件
    ・選考方法
    ・職場の選定
    ・各種助成制度の活用
    ・検討委員会の設置と具体化等
   イ 具体的取り組み
    ・学習会の開催(2回)
    ・箕面市、連合大阪等障害者雇用実践の現場視察
    ・検討準備会…検討委員会での雇用計画など上記検討事項の討論と準備会のまとめ
    ・検討準備会として雇用予定施設の訪問…現地管理者、労働組合と意見交換(6施設実施)

(3) 知的障害者雇用検討委員会を設置し、検討会報告をまとめる
  ① 1999年7月17日東京都社会福祉事業団 「知的障害者雇用について」を理事長に報告
  ② 東京都社会福祉事業団 「知的障害者雇用取扱要綱」策定……別紙参照
   今年度、事業団の各事業所で2名を目標に雇用を進めています。2002年4月の時点で町田福祉園2名、日の出福祉園2名、小平福祉園1名、東村山福祉園1名の6名が雇用され、それぞれ各職場で働いています。概ね順調に日々の業務を行っています。
   個々の現状は、資料を添付しましたので、参照下さい。2001年度より「障害者雇用担当者連絡会」を4回開催し情報交換、現状報告会を行い支援体制について検討を重ねてきました。

3. 雇用の状況

 「12年度」重度知的障害者入所施設3ヵ所で(4名)、「13年度」複数配置と新規に1ヵ所2名雇用

(1) 町田福祉園
雇用者数
2名(男女各1名)
年  齢
20歳代
通勤形態(生活の場)
通勤寮(島嶼部から通勤寮へ入所)から電車、バス
仕事の内容
活動援助係、地域サービス係に所属
利用者の日中活動の準備・片づけ等補助業務
サポート体制
「職場実習にあたっての留意事項」参照

(2) 日の出福祉園
雇用者数 2名(男女各1名)
年  齢 20歳代
通勤形態(生活の場) 自宅から自転車
仕事の内容 活動援助係に所属、利用者の日中活動の補助業務
園内自活寮清掃業務

(3) 小平福祉園
雇用者数 1名(男性)
年  齢 20歳代
通勤形態(生活の場) 自宅から自転車
仕事の内容 木工、陶芸等利用者の日中活動の補助業務
生活棟内の利用者の洗濯物たたみ、
コピー他事務補助等

(4) 東村山福祉園
雇用者数 1名(男性)
年  齢 20歳代
通勤形態(生活の場) 自宅
仕事の内容 日中活動の補助業務、準備作業
園芸、リサイクル、木工補助業務
ディサービスの給食配膳手伝い

 資料については、2002年3月の「障害者雇用担当者連絡会」のものです。
 年度が変わり、各事業所では異動がありました。東村山福祉園や町田福祉園ではサポーターも替わりましたが、「係全体で支えて行く体制」が既に構築されており、大きな混乱は無く、現在に至っています。「14年度」福祉局が2名分の予算を獲得。新たな2名の具体的雇用計画は未定です。

4. 施設と地域の繋がり

 日の出福祉園、小平福祉園では周辺地域より採用しました。現在、入所施設では、「入所施設からどのようにして地域に移行していくか」とか「地域支援」「地域福祉ネットワークの構築」などのテーマがあります。地域より障害当事者が共に働く仲間として施設の中に入ることは、地域の中の施設として、施設の情報が地域に広がります。東京都直営時代は知的障害者に、「適職職場がない」「地公法第15条」が理由で採用はありませんでした。
 しかし、事業団になってから知的障害を持つ人を雇用することにより地域での就労の場を広げ、枠組みを拡げていく契機となっています。
 ・地域での雇用は施設を変え、地域にも大きく関係してきます。
  日の出町 → 日の出町手をつなぐ親の会 → 推薦
 たとえば、日の出福祉園は開設より21年がたっていますがこれまで地域において、当園に対する理解が十分でなく、閉鎖的なイメージもありました。この、知的障害者の雇用を機会に「日の出町手をつなぐ親の会」とのつながりができ、率直な意見交換のできる関係ができつつあります。

5. 今後の課題

(1) 園職員・事業団職員の理解
   働く仲間に、時として適切なサポートを必要とする人がいることの理解を広げるよう情報提供していきたいと思っています。

(2) 利用者との関わりの広がり
   援助技術の習得へむけてサポートをしていく。具体的には介護研修やヘルパー資格の取得を働きかけています。
   また、基本的業務プログラム→習得→利用者援助の技術(歩行介助・車椅子の押し方・作業援助等)は時間をかけて、十分理解するまで、何度か反復して行いました。日の出福祉園では、利用者の直接援助については、特定の方に対し実践し、作業等での利用者との関係を見定め、援助の関わりを広げてきました。現状では、手芸グループの利用者やデイサービス利用者との、良好な関係が続いています。(日の出福祉園、東村山福祉園、町田福祉園では、活動援助係のスタッフとして利用者に直接関わる場面も業務プログラムに組み込まれています。)

(3) 地域での活動
   地域での関係を広げていくため、地域活動(趣味のサークル・青年学級・ボランティア等)への参加を勧めています。

(4) 親との関係
   日の出福祉園で仕事をしている方は母親との繋がりが強く依存的であり、また母親も抱え込む傾向にあります。母親に親の会への参加や情報提供を行うことで、将来的な準備を共に考えて行きたいと思っています。
   逆に東村山福祉園の方は家族関係が希薄なため、相互援助体制の不備により欠勤したことがありましたが、関係機関(実施機関・社会福祉協議会・職業センター・在籍していた作業所)と連携し問題の調整を図りました。

(5) 業務の強化
   確実に業務を理解し習得しています。本人のスキルアップに併せた業務プログラムを提供しています。仕事のやりがいや自信に繋げていきたいと考えています。

(6) 勤務時間
   本人の業務の習得度に伴い業務量が増し、時間内に終わらないときがあり本人と職員双方から勤務時間の拡大を望む声がでてきました。

6. 日の出福祉園でのサポートについて

 ・最初は一緒に仕事をしよう。
  言葉の指示があいまいであると、とまどいや誤解の元になります。
 ・1日のプログラムは得意な仕事を中心に考えて組み立てよう。
  人によって個性があるのは当然です。本人の納得・同意によって得意な仕事を導入していくことが大切です。
 ・手芸が得意! 携帯電話のストラップを利用者と作っています。
  1人でできるようになったら本人に任せることで、自信と責任感が出てくる。手芸や陶芸での作業を通し特定の利用者との関係ができてきました。
 ・1人で食事は寂しいね。みんなでお弁当を食べてからテニスをしようよ!
  本人が休憩時間をどうすごすのか? とても重要な問題です。一諸に食事をしてテニスやバトミントンをすることで係員全体とうち解けナチュラルなサポートができてきました。もしかしたら一番大事なことかもしれません。
 ・年に数回ある係の宴会にも楽しく参加しています。
  自然な形で参加しています。保議者に事前に連絡したかを確認したほうがよいかもしれません。
 ・利用者に直接関わる場面も毎日あります。
  特定の利用者の送迎や手芸・陶芸・紙漉・音楽等の活動のアシスタントをしています。直接利用者の援助にあたるにおいて、事前に車椅子の操作、利用者とのかかわり方の学習は時間をかけて行いました。車椅子に乗ってもらい、サポーターが押し何度も園内を歩きました。
 ・今でも毎朝3分間の打ち合わせは欠かせません。
  1日の仕事の組み立てを確認します。特に特別なプログラムや避難訓練等があるときは時間をとってミーティング行います。サポーターが休みでも大丈夫ですが、係の誰かが確実に打ち合わせを持つことは、忘れてはいけません。
 ・事業団全体で、知的障害者の就労を考え支えるシステムづくりが必要。
  障害を理解しながら、仕事面と生活面を一体化したサポートシステムができればいいなと強く思います。

7. 最後に

 現在は、事業団の各職場でチームの一員として欠かせない仕事を行っています。また、ナチュラルなサポート体制もしっかりとできてきました。人事異動により「サポーター」の変更も事業所によってはありましたが、係での職員一人ひとりが様々な関わりをもち「職場で共に働く仲間」の関係が確立してきています。そのため、サポーターの変更も以前からいる職員に替わっても支障なく仕事をしています。細かな問題もありますが現状ではどの事業所の方も仕事に対して意欲的でスタッフの一員としてがんばっています。しかし、受け入れる当初は以下のような不安が想定されていました。また、今後、受け入れを想定している事業所も同様の不安があるかと思います。
 ・障害者の職場実習の受け入れや雇用の経験のない事業所では、事前に本人に関する十分な情報が得られないと、障害の特性に関する認識や本人の性格・力量の把握ができず、どんな仕事につかせられるか判断できない。
 ・本人が仕事を覚えるまでの間、サポーターは職員を張りつけなくてはならず、事業所内の業務の流れが乱れるのではないかという不安がある。
 ・職場以外での本人の生活面の問題にまで責任を負えない。
 以上のような不安要因を取り除き、問題解決していくために、「障害者雇用担当者連絡会」の役割は大きく、細かな問題点も共有化し業務プログラムの作成や情報交換に努め安心して障害者を雇用することができる条件整備を進めてきました。
 また、サポーターは「就労面の支援」と、就労に伴う障害者本人の不安への相談・助言や家族関係の調整のほか、日常生活を維持し、生活を支援するなどの「生活面の支援」とを一体的にコーディネイトする柔軟なシステムを構築する必要を強く感じました。安心して働き続けるためには、職場の支援だけでは十分ではありません。家族・実施機関・通勤寮・社会福祉協議会・職業センター・在籍していた作業所・学校・地域等々の様々な関係機関との調整が重要です。職場やサポーターが問題を抱え込まずに「障害者雇用担当者連絡会」や関係機関と協力することによって間題解決できます。
 今、米国は「ジョブコーチ」と呼ばれる障害者支援、障害者福祉の専門家を就職先に派遣する制度が10年以上前から導入され、既に15万人以上の障害者の就労を支えています。厚生労働省も、2002年度からの本格的導入をめざす方向のようです。「ジョブコーチ」制度の導入も期待できる事業の1つですが、事業団の「サポーターシステム」という仕組みも、確立されれば充分な効果があるものと思います。
 このサポーターシステムは、共に働き、職場全体で、ナチュラルなサポートの仕組み作り、「就労面の支援」と、障害者本人また家族への相談・助言や家族・実施機関・通勤寮・社会福祉協議会・職業センター・作業所・学校・地域等々の様々な関係機関と調整し、生活を支援するなどの「生活面の支援」とを一体的にコーディネイトする役割を担うものです。
 今後、この知的障害者雇用の取り組みが、事業団全施設で雇用の促進が図られるとともに、更に多くの障害者施設で取り組まれることを期待し、私の報告といたします。