【自主レポート】
東京都社会福祉事業団・知的障害児者施設における
「園内生活寮」の取り組みと今後について |
東京都本部/自治労都庁職員労働組合・民生局支部・日の出福祉園分会 山崎 淳
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1. はじめに
民生局支部はこの間、施設の暮らしがこれまでの施設収容一辺倒で「あきらめの場」「終の棲家」となるのではなく、「人権の回復」と「様々な取り組みへのチャレンジの場」となるよう生活と労働の見直し作業として現場からの「施設改革の実践」を積み重ね、それらを背景に当局に対し様々な改革課題を突きつけてきました。しかしながら、「施設収容一辺倒」の考えの当局の施策は大きく変わらずに私たちとのやり取りも大きく動くことなく推移してきました。
しかし近年になり、ノーマライゼーション理念の定着と様々な運動の後押しの中で当局の考え方も変わり、都側はひっ迫する行財政の見直しと都立施設運営の見直しの中で、都立施設のあり方追求と施設収容から地域福祉への比重の置き換えに向けて取り組む状況になっています。加えて都側は、「21世紀の障害者自立支援システムの構築」が必要として、長期的な展望の中で再構築していく方向を示しています。
そのような状況の中、「社会福祉法人東京都社会福祉事業団設置」と「都立施設群の事業団への運営委託」が提案され、私たちは「柔軟な運営」や「施設改革課題の具体化」を求めて、苦渋の選択をしてきました。そして現在、都立施設の民間委譲が示され、都立施設運営はその役割と方向について新たな岐路に立たされているといえます。当然、私たちは事業団化に伴う約束であった「柔軟な運営と施設改革の具体化」を求めつつ、委譲提案に対して対決していくものです。
そしてこの間、各福祉園においても施設改革論議とその実践が進められる状況にあり、施設運営のさまざまな事項について改革が図られ、職員配置基準の見直しや厳しい予算状況の中で実践がすすめられています。その中でもこれまで閉ざされてきた施設利用者の地域生活への移行を具体的に導くべく各園では、職員宿舎等を利用して園内生活寮が立ち上げられ運営されている状況にあります。
現在、それらの園内生活寮は、「地域生活移行への取り組み」への内外の期待と実践の積み上げの一方で、厳しい運営実態の中で苦悶している状況にあります。それら「施設の中の生活寮=園内生活寮」について紹介し、その役割と重度知的障害者の地域生活移行の展望について報告します。
2. 園内生活寮の生活 事例
現在、知的障害関連の都立施設 町田福祉園、小平福祉園、町田福祉園、八王子福祉園、七生福祉園、日の出福祉園等で園内生活寮の取り組みがされています。八王子福祉園においては、中長期的改革プランを作成し様々なレベルでの抜本的な取り組みが展開され、園外生活寮も立ち上げ取り組まれている状況にあります。字数の制約もあることから、うち2園の状況について報告します。
施設名
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日の出福祉園
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生活寮名称
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園内生活寮「ぱお」
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定員
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利用者 5名 職員 ローテー 5名
施設業務員(障害者雇用による) 1名
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設置目的
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個別援助計画に基づき、小集団での暮らしの場を提供し、将来地域生活への移行に向けた生活体験等の支援を行う。
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職員勤務形態
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AA'勤 (16:15~9:15)1名 夜勤
AA''勤(17:15~10:15)1名 夜勤(週末)
B勤 (7:30~16:15)1名
C勤 (8:30~17:15)行事日、会議日等
D''勤 (12:00~20:45)1名
F勤 (9:00~16:00)1名 施設業務員
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職員以外の支援者の導入形態
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園内で週末帰棟体制、通院、外食、夜間の安全面、同性介護での応援体制などはあるが、園外からの支援は特に受けていない。 |
利用者の生活
(誰がどのような形で支援・参加しているか)
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食事:朝昼夕、園の給食より配食を受けて寮にて食事をしているが、週末の朝食と月1回寮で買い物、調理をする。夕食のワゴンは利用者ととりにいく。
洗濯:寮内洗濯。出来る利用者については、洗濯物干しと片付けを行う。
清掃:施設業務員が行う。出来る利用者については、掃除機を使用し自室を掃除。
入浴:寮内の風呂を使用。毎日入浴。
起床:利用者の自然覚醒を待ち、起床介助。遅いときは体調が悪くなければ朝食に間に合うよう声がけ。
就寝:準備をして就床は利用者の意思に任せている。
見守り:利用者は自室にて自由に過ごす。職員は1名のことが多いので、女性側に待機し音声モニターで状況を把握している。
夜間:女性男性2世帯あり、夜勤は1名のため片方は音声モニターで状況を把握している。緊急事態や同性介護のために生活援助係より応援体制あり。
余暇:土日は帰棟するため、平日の余暇時間は自室にて各利用者の好みに合わせて過ごしている。テレビ、音楽、ビーズなど。
活動:出来る限り活動援助センターに午前・午後通所するように組んでいるが、どうしてもプログラムが合わないときは、寮の職員が対応する。
地域資源の利用:今のところ土日の帰棟もあり積極的な利用はない。
医療:園内の医務を利用。必要に応じて棟職員の応援で園外通院をする。
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日課
(利用者の動きと支援者の動き)
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4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
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起 朝 活 昼 活
床 食 援 食 援
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17 18 19 20 21 22 23 0 1 2 3
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とワ 夕 入 就
りゴ 食 浴 床
ン
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主な週プログラム
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月曜~金曜 園内活動援助センタープログラムに参加
火曜 地域の作業所との交流あり
土日 出身棟に帰棟する。
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利用者の選定方法
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園内の利用者調整会議において、ケアプラン(個別援助計画)をもとに話し合う。現在試行期間中であるが、10月からの本格実施に向けては、9月に会議を開催する予定である。
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各ケアプランの傾向及び方向
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将来の生活モデルに、地域生活を掲げている利用者さんが優先だが、試行期間中であるため、地域移行以外の利用者さんも現在は利用している。10月からの本格実施からの利用対象者、利用目的については現在検討中である。
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出身ワーカー・保護者との関係のとり方
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現在、ワーカーとの直接的な話し合いは寮との間では行われていない。
保護者については、利用前に了解を得ているが、調整会議の結果を受け入れてもらえないケースもあった。入寮後の面会は週末帰棟していることもあり、生活寮に来ていただいた保護者は数ケースのみである。
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運営課題及び運動課題
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他からの勤務上の応援はないため、現状では週末帰棟体制をとらざるを得ない状況である。10月からの本格実施に向けて現在職員の確保を前提に体制を検討中である。
現状では職員1名が病欠などで欠けると、回らない状況になってしまう。権利行使もままならず。サービス残業も多い。
地域生活移行準備型の利用者が入寮予定だが、現状においては、移行プログラムの立案及び将来の展望については、まったく白紙の状態である。
長期利用者の地域移行については、地域の受け入れ体制や保護者の理解など、十分な条件整備が出来ておらず非常に難しい状況である。今後地域のネットワークなどとの関わりを密にしていく必要がある。
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施設名
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八王子福祉園
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生活寮名称
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園内生活寮「のい」
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定員
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利用者 8名 職員 6名(男3・女3)
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設置目的
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・地域生活移行に向けた事前経験
・生活の場の選択肢の拡大
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職員勤務形態
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早番 7:15~16:00 1名
(生活寮職員は土・日・休日のみ 平日は活動援助係職員7:15~9:15)
遅番 12:15~21:00 1名
夜勤 16:15~9:15 1名
日勤 8:30~17:15(土・日・休日のみ) 1名
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職員以外の支援者の導入形態
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NPO (夕食調理に毎日2時間)
委託業者 (寮内清掃 平日のみ)
ボランティア(作業所への送迎)
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利用者の生活(誰がどのような形で支援・参加しているか)
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食事:調理→寮職員(朝食、土・日・休日の昼食)・NPO(夕食)・外注弁当(平日昼食)
摂食→平日昼食のみ、地域活動センター(活動援助)で対応
他は寮内で寮職員が対応
洗濯:寮職員が寮内の洗濯機で。必要に応じてクリーニング店も利用。
清掃:平日は委託業者 土・日・休日は寮職員
入浴:寮職員(遅番・夜勤) 同性介助のため遅番・夜勤は常に異性職員の組み合わせ
起床:寮職員(夜勤明け・早番)
就寝:寮職員(遅番・夜勤)
見守り:寮職員
夜間:寮職員 生活棟当番棟からの電話連絡
余暇:寮職員
活動:平日は地域活動センター利用
地域資源の利用 作業所(ボランティア)、パン作り教室(棟職員)
医療:医務科、地域の医療機関
通院の対応、配薬→生活棟職員・寮職員
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日課
(利用者の動きと支援者の動き)
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4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16
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起 朝 昼 帰
床 食 食 寮
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センタープログラム参加
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17 18 19 20 21 22 23 0 1 2 3
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夕食・入浴・就寝
・個人差あり
・利用者の状況、要望による
・夕食・入浴の時間は、生活の流れや季節によって臨機応変に対応
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主な週プログラム
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月曜~金曜 園内活動援助センターにて活動
土曜~日曜 午前 余暇活動および寮内でのんびり
午後 余暇活動、ドライブ・買物など
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利用者の選定方法
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個別援助計画に基づき、援助調整会議で決定。
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各ケアプランの傾向及び方向
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地域生活指向、地域資源活用、園内生活前提に大別されている。
生活寮利用は、1泊利用等の体験型の希望も多い。
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出身ワーカー・保護者との関係のとり方
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利用決定後に園内生活寮のケアプランを作成し、家族、実施機関の承諾を得ている。
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運営課題及び運動課題
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建物設備の不備(車椅子利用者の利用困難)
園外への出口がない。(基盤整備は急務)
職員の意識改革
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3. 「施設の中の生活寮」その意味と今後
(1)「大規模集団から小集団の生活」に向けて
重度知的障害関係の福祉園は今年度よりショートスティを含めて1ヵ棟17名の方が定数となっています。加えて、トワイライトサービスやデイサービス等も始まったこともあり、17名プラスアルファの利用者数となる場合もあります。かろうじて園内生活寮の立ち上げにより、常時17名プラスアルファになっているところはない様子ですが、生活棟でのキャパシティを超えかねない状況にあることはいなめません。加えて、高齢・病弱・行動障害・自閉傾向・若くて元気な方などさまざまな方が混在する中では、個別の利用者支援の困難性を増加させています。そのような意味から、プライバシーを確保しづらく、大勢の中で、結果として多数の人との協調を迫られかねない「生活棟」の規模の縮小はこの間の私たちの課題です。また、従来の画一的な生活棟の支援の場から支援ニーズに着目した暮らしの場の整備を急ぎ、多様な居住環境の提供を急ぐ必要があります。
(2) 「地域生活移行の具体化」につなぐことこそ大事
この間各福祉園とも「ケアマネージメント手法の導入」と「施設を終の棲家にしない」という利用者支援の考え方の切り替えが進む中で施設に出口を求める動きとして、職員宿舎を利用した「園内生活寮」の取り組みへとすすみました。この動きは、これまで支部・分会が、施設のあり方として10数年来求めてきたことのひとつの結果として評価できるものです。しかし、「施設収容中心の福祉」から「地域福祉中心」の施策転換の過渡期にあるとはいえ、具体的な「施設利用者への移行プログラムや移行に関わる積極的な政策」が図られない中では、施設職員や保護者、担当ワーカーが、積極的に動くべくモチベーションをもちにくく、このことが、「施設利用者の地域生活移行」の先端にいる生活寮職員を苦悩させるものとなっているといえます。園外生活寮の立ち上げと積極的な後押しを求めていく必要があります。
(3) 「その園の施設改革論議がどのように職員間に浸透しているか、また、しっかりとした中長期的ビジョンが出来上がっているか、その上での園内生活寮か」が今後のカギ
各園内生活寮の配置職員は、宿舎利用についての制約やこの間の厳しい予算縮小の中で、またこれまでの1:1.25プラス時短要員がいた頃に比べ、愕然と少なくなった現在の職員配置の中で捻出されています。そういうなかで、「人が少なくなっているのに何でもっていかれるの」や「ケアプランなどの書き物が増えた、新たなサービスにより負担が増えた」といった具合に職場の感情が、施設改革の理念から離れたものになりかねません。これまで積み上げてきた園内生活寮の取り組みが、寮職員のがんばりとは裏腹に「関心のないもの」、果ては「お荷物」的なものになってしまいかねません。ある園からは、「具体的ビジョン」をもたないまま取り組み始めたためか、園内生活寮の「夜勤業直化」も洩れ聞こえています。
今後、いかに大規模施設の脱施設化を図っていくかが重要となっていくわけですが、各棟の集団規模の縮小と再編、地域生活の移行のシステムを組み合わせ職員全体で取り組む具体的ビジョンの中でこそ、園内生活寮の取り組みが活き、カギとなっていくものと思われます。改めて各園の施設改革の分析と評価をしていく必要があります。
(4) いかに「当たり前の生活」に近づけるか
事例にあげた園の他にも、各寮ともいろいろなことにチャレンジし始めています。たとえば、単独入浴や洗濯の取り組み、職員以外の介助支援の導入、身近なところでの食事作り、生活の軸となりうる活動の保障、個室によるプライバシーの保障、ゆったりとした個人まかせの「日課」、同性介助の保障などです。その一方で、職員配置を工夫しぎりぎりのところでまわしたり、サービス超勤前提の「企画」行事であったり、他係からの応援を得ながら行なっている状況にあります。
特に重度知的の園内生活寮では、職員1人で、朝食や夕食作り、食事・入浴就寝・起床支援と隣の寮の把握、活動の送迎と活動、掃除・洗濯と生活棟業務に比較してもかなりのバリエーションの業務(これが当たり前の生活の支援になるわけですが)をこなしており、結果としてケアプランに関することや他係との調整やさまざまな間接業務が、時間外で取り組まざるを得ない状況におかれています。また、1人勤務が殆どなので、他の寮職員とのコミュニケーションができにくく、それぞれに工夫はしているものの利用者支援上の困難性や精神衛生上の問題も浮き彫りになってきています。
(5) より「重い障害を持った利用者」をどのように受け入れていくか
「強度行動障害」や「自閉的傾向の強い方」「日常的な医療支援の必要な方」などより受け入れに困難性の高い方についても、施設という敷地にあっていざというとき他からの支援が受けやすいという意味からも、トライしていく必要があります。
しかし、実現にあたってはさまざまな課題の克服が必要です。それは、大きな「興奮」に耐えられる広いあるいは危険のない環境であったり、必要によっては利用者定数をぐっと下げ、1人ないしは2人に5人6人の職員が必要であったりするかもしれません。また、生活棟職員だけでなく医療スタッフの圧倒的な支援も必要な場合もあるかもしれません。そのために、現行の生活寮の取り組みから大きく外れることも予想できます。すべての利用者の地域生活移行への可能性を信じ実践を積み重ねることが、いま求められています。
(6) そしていかに施設を地域に「純化」させていくか
これまでの「園内生活寮」のノウハウをもって園外に多くの生活寮を展開していくことが重要です。現在多くの施設は三多摩地域に偏在しています。旧都立施設は「全都対応」を前提にした入所調整を行っており、その結果多くの23区居住者が三多摩の施設に入所している状況にあります。例えば、23区内に「分室」を設ける等により出身地域に近い場所で・あるいは住みたい場所で地域生活が展開できるシステムを求めていく必要があります。
さらに、支援費制度への移行との関係でも、旧都立施設と民間法人施設との地域生活移行を軸にした連携が重要となってきます。
また、東京都は多くの都外施設を設置しており、多くの東京都民がやむをえず遠い他県で生活を強いられている状況にあります。このことが著しい人権侵害を犯しているといえ、その帰還の方策を早急に検討する必要があります。施設収容施策での仕方のないこと、他施設の問題と割り切ることなく私たちの施設改革の取り組みと連動させていく必要があると考えます。
今後も、現状の都立施設のあり方を追求しつつ、いかに地域生活移行をすすめ、施設を縮小・解体していく中で地域に「純化」させていくのかが今後大変重要といえます。そのことが、「脱施設」社会の創出につながっていくものと思われます。
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