【自主レポート】

金沢福祉用具情報プラザについて
~見て・ふれて・体験する~

石川県本部/金沢市役所職員組合

1. はじめに

 「見て・ふれて・体験する」これが金沢福祉用具情報プラザ(以下プラザ)のキャッチフレーズです。
 金沢における適切な福祉用具の試用や住宅改修等をとおして、障害のある人及び高齢者等の社会・日常生活の自立促進への取り組みについて考えてみる。
 現在、金沢市における福祉用具の展示場は、在宅介護支援センター(お年寄り介護相談センター)23ヵ所や石川県の施設である石川県リハビリテーションセンター(30㎡、175点)、石川県総合介護支援センター(176㎡、450点)などで行われている。
 一方、金沢市における展示は、スペースの問題からまとまった数・種類の福祉用具を十分に確保できていなかった。
 利用者への福祉用具・住宅改修の相談、情報提供等は、介護保険施行後介護支援専門員に委ねられているが、情報が十分でないため、適切な福祉用具や住宅改修がなされていないのが現状である。

2. 金沢福祉用具プラザとは

(1) 設置の目的
   「身体機能に合った適切な福祉用具の選定や住宅改修の支援、各種福祉情報の提供を通じ、障害のある方や高齢者等の社会・日常生活の自立を促進するとともに介護者の介護負担の軽減を図り、ノーマライゼーションの確立をめざす」がプラザの目的である。私の言葉では、「福祉用具等を必要としているエンドユーザー(障害のある人や高齢者等)が、正しい福祉用具等を選択でき、かつ正しく使用しながら、生き生きと社会・日常生活を送れる(QOLの向上)こと」ではないかと思っている。

(2) 設置の経緯
   プラザは、平成10年9月にノーマライゼーションプラン金沢で設置が初めて明記され、同年12月に車いす利用者や学識経験者、作業療法士及び建築士等の専門職からなる検討会を設置した。
   この検討会は、事務局から提案された1・2階の建築に関わるハード面とプラザの運営に関するソフト面について何度も協議が重ねられ、これらの事を反映させた整備計画書と基本および実施設計が平成11年3月に完成した。
   その後、ソフト面は、整備計画書に基づき、事務局において様々な検討がなされ、平成13年度に事務局は正式に福祉機器情報センター(仮称)開設準備担当として2名配置された。
   平成13年7月にプラザの運営を円滑に図る目的で、障害のある人およびその家族の代表4名、福祉団体1名、市民代表2名、学識経験者2名、専門職団体の代表7名など総計20名からなる運営委員会を設置し、幅広く意見を聞き、オープン後の運営面に反映させることとした。また、展示する福祉用具は、展示福祉用具選定部会を設置し、部会委員を運営委員の中から障害のある人と専門職団体から構成し、プラザの展示に値するか否かを検討していった。
   展示福祉用具選定部会で検討された福祉用具は、各製造業者に用具の無償賃借を依頼した。この時、プラザの設置目的や施設概要を記した文書も一緒に添付した。協力してくれた製造業者は127社あり、平成14年4月1日付けで無償貸借契約書を締結した。契約書の中身は、14条からなり契約期間や展示の変更、用具の破損等が書かれている。
   工事は、平成12年8月に着手し、平成14年3月に完成。
   オープンは、平成14年4月に職員を配置し、5月末までに福祉用具等の搬入、ディスプレイ等が終了した同年6月となった。

(3) 金沢福祉用具情報プラザの概要
   平成14年6月に金沢駅前再開発ビルの低層階1・2階にオープンした施設で、金沢駅東口から徒歩約4分で来館である。
  ① 1階は、交流ゾーン
   ア 誰もが気軽に集え、意見交換が行える交流コーナー
   イ 最新の福祉用具の展示会や障害のある人の作品展、福祉用具や住宅改修の啓発・普及に関わる企業の展示会が行える催事コーナー
   ウ インターネットや図書で情報を収集できる図書・情報コーナー
   エ 既存のバリアフリー住宅でなく尺貫法で作られた日本家屋をいかにバリアフリー化していくのか検証でき、車いすでスロープの勾配や廊下幅を体験できる住宅改修モデル
   オ 車いすの簡単な修理や車いす上で座っている姿勢の調整が行える等の車いすクリニック
  ② 2階は、展示ゾーン
   ア 約800点の福祉用具の展示場となっている。この展示場は、移動機器、トイレ用品、入浴用品、食事・調理用品、衣類・靴、ベッド周辺機器、コミュニケーション用品、日用品の8コーナーに分けられている
   イ 相談室
   ウ 身の回りの簡単な用具を加工・改良できる自助具工房
   エ 約40名が入れ、研修会・セミナーを開催できる会議室・研修室
   オ 浴室やトイレスペースをシミュレーションしながら最適な提案を行える機能評価実習室
    プラザの中で、1階催事コーナー、2階会議室・研修室、機能評価実習室、自助具工房は、事前に申請があった場合、無償での場所の貸出をしている。
  ③ 事業内容
   ア 最新の福祉用具や住宅改修の展示をする展示事業
   イ 福祉用具や住宅改修、介護に関すること、制度に関すること等の相談を行う相談事業
   ウ ホームページや広報誌等を通じての最新情報の提供を行う情報事業
   エ 資格を取得する研修会、資格を有する方や市民の方への研修会・セミナーの開催する学習事業
   オ イベント等を開催して市民の交流を図る市民交流事業
    その他、身体障害者生活支援センターがプラザ内にあり、ピア・カウンセリング等を実施している。
  ④ 運営体制
    管理運営を社会福祉法人金沢市社会福祉協議会に委託している。職員体制は、館長1名、作業療法士2名、社会福祉士1名、建築士1名、事務2名の計7名である。
  ⑤ 開館時間
    市民が利用しやすいように配慮し、午前10時から午後7時までである。休館日は、火曜日と年末年始である。

3. 金沢福祉用具情報プラザの取り組み

事業内容について
(1) 福祉用具の展示事業は、来館された方がゆったりと落ち着いて福祉用具等を選定できるように、ディスプレイの専門業者に委託し、陳列方法や照明等に配慮した。また、福祉用具一つ一つに①商品名、②製造業者名ないし輸入業者名、③定価、④商品特徴、⑤商品構造を記した説明カードを取り付けており、気軽に福祉用具にふれ、体験することができるようになっている。
(2) 相談事業は、来館・電話双方で実施している。本プラザの特徴は、専門職による利用者の身体機能の評価、シミュレーションを実施し、福祉用具の適合を行い、利用者により適した福祉用具を選定し、館内で試用してもらっている。試用された福祉用具は、住環境での適合性を図るため、できる限りご家庭での試用もすすめている。ただし、ご家庭での試用期間は、介護保険で福祉用具の貸与を行っているため、最大で1週間としている。試用後、介護保険貸与・購入を希望された方は、介護支援専門員と連携をとりながら導入している。
   住宅改修の相談は、実際にご家庭を確認しなければプランニングできないため、介護保険利用の方では、介護支援専門員や施工業者と同行し、ご家庭で身体機能の評価を行い、最適なプランを提案している。また、来館された方には、機能評価実習室を使い浴槽のエプロンや便器の高さ、手すりの位置等の提案を行っている。
(3) 情報事業は、ホームページを開設した。作成時は、誰もが見やすく、最新の情報を得られるようにフレームレスで色使いに配慮し作成している。また、視覚に障害のある人に分かり易いように、写真の裏にメッセージを必ず入れた。
(4) 学習事業は、ホームヘルパー2級養成講座のうち、「住宅・福祉用具に関する知識」をプラザで実施している。昨年度までは、テキストに掲載されているごく一部の用具しか見ることができなく、住宅改修は、全くテキスト上のことでしかなかったが、プラザで実施することによって、ほぼ全ての用具を「見て・ふれて・体験できる」ため受講生から大変好評であった。また、介護支援専門員研修会もプラザで実施した。昨年度であれば、スライド等を用いた講義形式であったが、住宅改修の基本的なポイントが理解できたとの声が聞かれた。
   これらのことで、ご家庭に戻った時に迷うことなく用具を使いこなすことができることや間違った手すりの取り付け等がなくなり、金沢における一つの福祉分野においての底上げがなされたと思われる。
   その他、小学生の総合学習や中学生の職場体験として幅広く活用され、学習の場として広がりも見せている。
(5) 市民交流事業は、展示してある説明パネルを見て答えを見つけだすクイズラリー形式にて実施している。子供からお年寄りまで来館された皆が真剣に答えを探し出す様子が多く見られる。
   10月1日は、より多くの人々に福祉用具を知っていただく機会として「福祉用具の日」が制定されました。そこで、プラザでは、車いすや電動三・四輪車の試乗や研修会など様々なイベントを計画中です。同様に、第14回全国生涯学習フェスティバルの会場にもなっており、高齢者の疑似体験等を計画しています。

4. 利用状況

(1) 来館者数

来館者数
平均来館者数
6月
2,216人
85.2人
7月
1,578人
60.7人
8月
1,301人
48.2人
累計
5,095人
64.7人

(2) 視察団体

行政関係
まちなみ定住促進会議委員、地域型在宅支援センター、福祉保健センター機能訓練参加者、石川県リハビリテーションセンター 他
学校関係
北陸学院短期大学、金城大学石川県医療技術専門学校、リハビリテーション専門学校、金沢福祉専門学校泉ヶ丘高校、北陸大谷高校高尾台中学校、鳴和中学校、浅野川中学校、明成小学校 他
地域団体
湯涌地区社協、七塚町社協、米泉地区社協、弥生地区社協額地区まちぐるみ福祉推進員森山地区民生委員、浅の川民生委員 他
福祉関係
石川県聴覚障害者協会、石川県視覚障害者団体、石川県作業療法士会、ノーマライゼーション環境小委員会 他
介護保険
JA能登わかば訪問看護ステーション、TOTO福祉営業所、ニチイ学館、INAX金沢営業所 他
その他
市政バス

(3) 相談件数

 
福祉用具
住宅改修
介護保険
家族介護
福祉制度
そ の 他
合  計
6月
58
18
15
1
5
0
97
7月
81
22
5
2
2
4
116
8月
52
19
1
1
4
0
77
 
191
59
21
4
11
4
290

(4) ホームページ
   アクセス件数:1,332(平成14年8月31日現在)

(5) 催  事

期   間
内   容
6月1日~30日 福祉車両2台、移動関連福祉用具
7月3日~11日、14日~20日 最新車いすとベビーカー
7月12日 最新のポータブルトイレと入浴関連福祉用具
7月21日~27日 理学療法士・作業療法士啓発・普及パネル
8月1日~19日 最新衛生陶器
8月21日~ 福祉車両

5. 現在までの成果

① 来館者数とホームページアクセスを合計すると、約6,400人の方がプラザに来館されたこととなり、福祉用具の啓発・普及ができていると思われる。また、金沢駅前再開発ビルの中にあり、賑わいの創出にもつながっている。
② 来館された方の「きれいな施設で福祉用具が展示していると思わなかった。まるでデパートに来たような感じがする」と言った言葉に代表されるように、福祉用具や住宅改修の暗いイメージを払拭できた。
③ 約800点の福祉用具が展示され、テキストやカタログでしか見ることができなかった用具が実際に「見て・ふれて・体験」できる。
④ 福祉用具や住宅改修に精通した専門職の配置により的確なアドバイスを受けることができる。
⑤ 小・中学生の総合学習等の場となり、学童期から気軽に体験しながら福祉を学ぶことができる。
⑥ 福祉用具・住宅改修の相談に留まらず、ご家族の介護方法のアドバイスや介護保険制度の説明をする等、プラザにおいて総合的な支援が可能となっている。
⑦ 金沢駅徒歩4分の位置にあり、公共交通機関を利用して、障害のある方が集える拠点となりつつある。

6. 今後の課題

(1) 福祉用具の販売について
   現在、プラザにおいては、福祉用具の展示のみで全ての福祉用具の販売を行っていない。今のところ用具を購入したいと言われた方には、介護保険の購入品目であれば販売業者一覧を渡し、紹介するまでに留めている。これは、もしプラザで販売を行えば既存の販売業者の経営を圧迫しかねないということから販売をしていない。しかし、利用者側にたてば、綺麗に陳列されたデパートのような内装で、あたかも販売をしているかの印象を受けるようで、何故販売をしてくれないのかとの声がある。逆に、販売をしていないので、公平な視点から福祉用具の試用を含めた支援をしてもらえるので嬉しいと言った声があがっている。

(2) 福祉用具の入れ替えについて
   福祉用具製造業界は、介護保険が施行され、例えばベッド、車いす等は貸与品目になった。このことで貸与品目を製造しているメーカーは売り上げが減少していると聞いている。
   このような状況下、立ち上げの時は無償で用具を貸借し協力してくれた製造業者は多くあったが、今後、同じように無償貸借してくれる製造業者がいるかどうか不透明である。もしかして、購入を希望する製造業者も出てくるのではないかと思われる。しかし、福祉用具も電化製品と同じく、毎年新製品が出ている。そして、利用者のニーズも新製品を望んでいる。また、この問題は、全国の介護実習・普及センターでも同じ状態であり、福祉用具の博物館にならないような工夫をしていかなければならない。

(3) 周知について
   本当に適切な福祉用具の試用や住宅改修等が必要な方は、当プラザへ来館できていないかもしれない。そのため、各種団体の集まり等へ積極的に参加し、当プラザの説明を行い、障害のある方や高齢者の社会・日常生活を支援していかなければならない。また、福祉分野だけではなく、交通の分野など当事者の視点に立った大きな観点で連携をしていかなければならないとも思われる。