【自主レポート】
名張市における介護保険制度の現状と今後の課題
三重県本部/名張市職員労働組合・大西 哲・宮崎 正秀
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はじめに
名張市は、三重県の西部、伊賀盆地の南西部に位置し、古くは壬申の乱ゆかりの地であるほか、今から約600年前、能楽大成者・観阿弥がはじめて座をおこしたところ(観阿弥創座の地)としても伝えられています。近世に入り街道整備が行われ伊勢参りの宿場町として栄え、また近代においては、伊賀・大和の境界における地域経済の中心地としての役割を果たしてきました。その後、鉄道が開通し、産業、観光面で飛躍的な発展を遂げました。昭和40年代以降は、大阪へ約60キロメートルという地理的背景から、「桔梗が丘」をはじめとする大規模な住宅地が開発され、工業団地の造成や青蓮寺ダムの完成などとともに、急速に都市化が進み、人口増に対応した都市基盤づくりが行われました。
1. 介護保険を取り巻く状況
介護保険制度がスタートしたのが、2000年4月。21世紀幕開け直前の年でした。折りしもこの年、同時に地方分権推進一括法(改正地方自治法)が施行され、中央集権的な地方自治が改革され、自治体の自己決定権の拡充など、個性あるまちづくりや独自の政策展開の可能性が開かれました。介護保険はそれぞれの自治体の力量が試される新たな制度でもあるのです。名張市では介護保険制度の開始に先駆け老人保健福祉計画の策定を行い、高齢化社会への取り組みを積極的に実施してきました。それらの実績をもとに、名張市では他の地域で見られるような広域連合による介護保険ではなく、市民ニーズをより的確に把握した、名張市の実態に合った、市単独による介護保険として実施させたのです。
日本は急速な高齢化とともに、介護の問題が老後の最大の不安要因となっています。こうした背景のなかで、介護を社会全体で支え、利用者の希望を尊重した総合的なサービスが安心して受けられる仕組みとして、介護保険制度が始まりました。
介護保険制度の介護サービスにかかる費用の内訳は、9割分を公費と40歳以上のかたが被保険者となって負担する保険料で賄い、残り1割分をサービスを利用するかたが自己負担するという仕組みになっています。なお公費と保険料は折半で9割分を賄い、それぞれの内訳としては、公費については国が25パーセント、県・市が各12.5パーセントずつ、また保険料については65歳以上のかた(第1号被保険者)の保険料が17パーセント、40歳から64歳までのかた(第2号被保険者)の保険料が33パーセントとなるような財源構造になっています。
2. 高齢者生活実態調査などの結果から
2000年10月現在、全国の65歳以上の高齢者人口は1,119万人を超えて総人口の17.4パーセントを占め、高齢者の比率は年々増えています。名張市においては、若干高齢者比率は15.3パーセント(2001年12月現在)と低い数値になっているものの、その割合は徐々に高くなってきています。そのうち、要介護認定を受けている人は1,849人で、高齢者人口に占めるその割合は、14.2パーセントとなっています。これは、全国の平均値12.0パーセントを2.2ポイントも上回っていることになります。
さて、名張市では2001年12月から2002年1月にかけて「老人保健福祉計画」と「介護保険事業計画」の見直しのための「高齢者生活実態調査」「在宅者の要介護認定者実態調査」「施設入所者の要介護認定者実態調査」をそれぞれ行いました。「高齢者生活実態調査」では要介護認定者を除く65歳以上のかた11,192人(回答率95.7パーセント)を、「在宅者の要介護認定者実態調査」では在宅要介護認定者1,849人(同77.5パーセント)を、「施設入所者の要介護認定者実態調査」では施設入所者383人(同97.7パーセント)を対象者として、2003年度からの計画見直しに反映させる基礎資料を得るために実施したものです。
実態調査の結果のうち、主な内容は次のとおりです。
実態調査では、回答した8割以上のかたが持ち家に住み、4割以上のかたが、「子ども等の高齢者以外と同居している」と答えています。また「介護が必要になったとき、どのようにしたいか」の問いに対しては、「家族などの介護を中心に自宅で生活したい」(33.2パーセント)や「介護保険サービスや保健福祉サービスを活用しながら自宅で生活したい」(31.2パーセント)との回答が、合わせて6割を超えています。このことから、持ち家率の高さもひとつの要因とできるなか、家族との生活をともにした老後の営みを望んでいることが言えると考えられます。
次に、要介護認定者のかたで、現在、特別養護老人ホームへの入所を待機しているかた216人に施設への入所時期について尋ねた質問に対しては、58.8パーセントの人が「当面は入所しなくてもよいが必要なときに入所したい」と回答し、次いで26.9パーセントが「今すぐ入所したい」と答えています。入所を希望する理由はさまざまなようですが、「すぐに入所できないので早めに申し込みをしている」「自宅で生活したいが、先々の生活が心配だから」など、将来的な利用を見込んでの希望が多いように見受けられます。
介護サービスの利用状況についての質問では、施設入所者を除く要介護認定者のうち、在宅サービスを利用しているかたは61.5パーセント、25.0パーセントは「利用していない」という結果となりました。介護サービスで最も利用されているのは「通所介護」で、次いで「訪問介護(平日昼間)」「短期入所生活介護」「訪問看護」と続いています。また今後利用したいサービスとしては、「住宅改修」や「訪問入浴介護」、「短期入所療養介護」といった内容のものがあげられています。逆に「利用したくない」かたの理由としては、「特にまだ利用するほどではないから」と「家族が介護してくれるから」が最も多く、次いで「要介護認定を受けただけだから」「病院への入院により利用する機会がなかったから」「サービスの利用に抵抗を感じるから」などとなっています。
在宅で介護サービスを受けているかたと同居する家族への調査では、回答した38.7パーセントのかたが、介護しているのは「子ども、またはその配偶者」と答え、「配偶者」と答えたのは16.9パーセントとなっています。また「訪問介護員(ホームヘルパー)、家政婦など」による介護サービスは2.1パーセントという数値にとどまっています。また介護しているかたの30.8パーセントが60歳以上となっており、介護しているかたの高齢化が気になるところです。
3. 実態調査結果から見えてきた今後の介護サービス
高齢者生活実態調査では、虚弱になったとき68.2パーセント、介護が必要になったとき64.4パーセントのかたが、自宅での継続した生活を希望しており、自宅での生活を継続するための「保健福祉サービス」や「介護保険サービス」の検討が今後必要と言えます。また、生活動作・健康状態について尋ねる項目から、ほとんどのかたは日常の生活動作を「普通にできる」と回答していますが、「買い物」「調理」「掃除洗濯」などの家事や「公共交通機関の利用」では「普通にできる」と回答したかたの割合が少し低くなっており、日常生活を支援するための「保健福祉サービス」の検討が必要と考えられます。
次に、ふだん健康に気をつけているかたが9割を占め、「生活習慣病予防」や「望ましい食生活」、「痴呆予防」に深い関心を持っていることから、これらを踏まえた「保健福祉サービス」の検討が求められるとともに、気軽に利用できる健康相談の窓口を充実させ、予防に力点を入れた事業展開が求められます。
介護保険制度施行とともに実施した「家族介護者交流事業」「家族介護教室」「軽度生活援助事業」「生活管理指導短期宿泊事業」などは、その事業内容の重要性にも関わらず、認知度が低く、あまり利用されていないのが残念に思います。他の「保健福祉サービス」とともに周知を図っていく必要があると思います。
「健康教室・健康相談」「健康診断・がん検診」「痴呆が疑われるときの相談」の利用意向が50パーセント近くで高くなっています。また現在未実施の保健福祉サービスでは、「徘徊高齢者家族支援サービス」の利用意向が36.8パーセントと高くなっています。ニーズを取り入れた新たなサービスの提供が今後の見直しのなかで実現できるよう検討していってほしいものです。
介護保険サービスの将来の利用意向では、「訪問系のサービス」と「福祉用具貸与・購入費の支給」「住宅改修」の割合が高くなっており、自宅での生活を望む意向を反映しています。さらに「在宅介護支援センター」「外出支援サービス」の利用意向も40パーセントを超え高くなっており、これらの支援体制の充実を踏まえた「保健福祉サービス」の検討が必要と思われます。
高齢者が毎日の生活で生きがいを感じることは、生活に張り合いを持つことになり極めて重要であると考えられます。調査結果から、生きがいを感じることは「趣味の活動」「働くこと」がそれぞれ30パーセントを超えており、ついで「学習や教養を高める活動」「老人クラブ活動」が15パーセント前後となっています。今後これらの活動などに対して情報を提供できるような体制・仕組みを築いていき、高齢者が毎日を生きがいを持って暮らしていけるような社会の実現をめざしていかなければならないと思います。また同様なことから地域活動への参加意向について尋ねた項目に対し、「参加したい」が30パーセントを超えており、その理由は「生活に充実感を持ちたいから」が60パーセント超となっています。このことから、保健福祉サービスや介護保険サービスだけでなく、元気な高齢者のかたの社会参加や健康増進についての施策も考えていく必要があると思います。
介護保険制度に関して行政に望むことについては、「介護保険制度の情報提供」「介護保険制度の手続きの簡素化」「低所得者への支援」の割合が高くなっています。他の要望とともに検討する必要があります。
今回の調査結果から残念に思ったことの一つに、60パーセントを超えるかたが介護保険制度の内容を理解していない、と答えられていることです。制度がスタートしてまだ2年しか経過していないから仕方がないと、とらえるのではなく、介護保険が理解されていないことは利用者の市民生活の低下、市民サービスの低下を招いているとの考えに立ち、地域での説明会の開催や広報活動の充実に積極的に努めていく必要があると思います。
4. 終わりに
名張市では一時の住宅地開発が終わり、バブルの崩壊とともに人口の増加もひと段落しました。そんななか鈍化している人口増加と比較して、65歳以上の高齢者数が増え、急速に高齢化が進んでいます。住宅地を抱えた都市の特徴である偏った年齢層の固まりは、顕著にその傾向が強くあらわれます。
そのような名張市を取り巻いている人口構造はこれからの介護保険のサービスを提供していくうえで大きな要因となって襲いかかってくるのではないでしょうか。
介護保険制度は地方分権の試金石という性格を強く持っているといえます。介護保険法と同時に施行された地方分権推進一括法(改正地方自治法)は、「自治事務としての介護保険」を与え、市町村への権限委譲が行われました。介護保険はまた、第1号被保険者(65歳以上のかた)の保険料徴収に市町村が責任を持てば、その6倍の財源が第2号被保険者(40歳以上65歳未満のかた)の保険料と公費で賄われるという画期的な財源保障システムにもなっています。このことは、つまり財源の委譲も実質的に行われたと考えてもよいと言えます。残された課題は、分権の主体形成であり、今後、本格的に市町村の意欲と能力が問われてくると思われます。
各市町村の介護保険運営の姿勢は、その自治体の分権と自治への意気込みを示すバロメーターとなりうるものと考えてもよいのではないでしょうか。名張市が名張市として、市民ニーズを充分に反映させ、市民に満足してもらえる介護保険の内容となるよう更なるパワーアップに期待したいと思います。
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