【自主レポート】

精神保健福祉業務の権限委譲について

三重県本部/朝日町職員組合 大橋健司

1. はじめに

 平成14年4月から精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部改正により、市町村に業務が移行され2ヵ月が過ぎようとしています。市町村への権限委譲により精神障害者を取り巻く環境は大幅に変わり、特に「入院治療中心」の体制から「地域におけるケアを中心」とする体制への移行は大きな影響を及ぼしているようです。現在の福祉の流れは「地域ケア」を重点において流れていますが、精神障害者はこの「地域ケア」をどのように感じるのか、また行政としてどう考えていくべきなのかまとめてみたいと思います。

2. 権限委譲による市町村業務

 4月からの権限委譲により市町村での業務となったのは、精神福祉サービス、精神障害者保健福祉手帳及び通院医療費公費負担制度等の窓口業務、各種相談業務です。当町においても次の事業を開始しました。
    ・精神障害者居宅介護等事業(ホームヘルプサービス)
   ・精神短期入所事業(ショートステイ)
   ・精神障害者小規模授産事業補助金
   ・タクシー料金助成
 現在のところはホームヘルプサービスのみ利用されている方がみえます。市町村に業務が移行され各種サービスの問い合わせもありますが、まだまだ件数も少なく今後様々な方が、事業を利用され社会参加の足がかりになるといいと思います。
 権限委譲から2ヵ月が過ぎ、窓口業務に関しては現在のところ問題なく進んでいますが、気になることが1点出てきました。それは「住民にとって市町村で窓口業務を行っていいのか?」ということです。最近「地域ケア」と言われるのをよく耳にしますが、住民の方から見た「地域ケア」と行政側から見た「地域ケア」にはかなり大きな溝があるように思います。当町においての事例ですが、「精神障害者手帳を取得し、社会参加に向けてサービスを利用したい。」という方がみえました。当人は前向きに手帳取得を考えてみえましたが、保護者の反対により断念されました。保護者が反対した理由は、「役場には親戚もおり、知り合いもいるから。」と言う理由でした。守秘義務があり情報が外へ出るという事はないのですが、保護者の理解を得ることが出来ない結果となりました。当町の特色が大きな壁となってしまった事例です。当町は6,900人弱という小さな町です。小さな町だからこその「スケールメリット」はありますが、小さな町だからという「スケールデメリット」もあります。保護者の方は「小さな町だからすぐに近所にうわさが流れる。」というのを懸念してみえました。もしこれが今まで通り県の業務として行われていたら、今回のケースのような事はなく、社会参加に向けてスタートできたように感じました。「地域ケア」と言われていますが、それぞれの市町村の特色を生かし、住民の立場からの「地域ケア」をめざさなければいけません。日本全国には当町のような市町村はたくさんあると思います。精神障害者における「地域ケア」は良かったのか疑問を感じます。
 この事は、手帳や公費負担にも同じような事が言えます。今までなら県に提出し、町民の方には解らなかった事が、役場に提出するようになり「解ってしまう。」という思いが発生してしまうからです。もしも自分がその立場になり考えた時、どのように思うでしょうか?

3. 精神障害者に対する理解

 「精神障害者」と聞くとどう思われるでしょうか? 大多数の方がいいイメージを持たないように思います。実際、悲惨な結末を迎えてしまった事件が起きる度にテレビ等で「昔、精神に関する病気だった。」「数年前まで治療していた。」等よく耳にします。報道等の力で偏見や差別を生んでいるように感じます。このような事をなくし、精神障害者に対する理解をしなければ、「地域ケア」が進まないように思います。また、精神に関する病気は高血圧についで2番目に多いと言う事です。これは「いつ自分が精神に関する病気にかかってもおかしくない。」という数値の表れだと思います。「引きこもり」は精神障害者予備軍と言われており、日本全国で約100人に対して1人が精神に何らかの病気があると言われております。病院から退院しても家族とのトラブルで再入院という形をとる場合もあり、このような事から地域や各個人の意識を少し変えるように、またお互いに理解するようにしなければ「地域ケア」は成り立っていかないように思います。「地域ケア」には当事者や家族の参加と行動、地域住民の理解と協力が不可欠に感じられます。

4. 担当課での対応

 権限委譲により精神保健福祉の相談窓口が市町村になり、権限委譲前から電話での相談はありましたが、以前より増加した感じを受けます。電話を通して話をするが、その方との面接ができないのが現状で今後の課題です。ほとんどのケースを保健師が相談を受けているが不在の場合、担当が相談を受けるケースもある。この場合、知識はあるが、相談に関するノウハウを知らない者が知識だけで話を聞いていいのか? 相談に乗っていいのか? 疑問があります。当町の保健師は精神以外に他の業務もあり、精神だけという事ができません。これは他市町村も同様かと思います。また今まで行っていた保健所の相談も引き続き残ると聞いているが、「どこで線を引くのか?」「相談に線引きができるのか?」権限委譲に対する疑問が残っておりますが、住民サービスを考え、身近な町の保健士が相談を受ける事が望ましいと思いますが、このことは保健士に過大な要求をしているような感じがします。

5. おわりに

 これからの社会福祉は個人の尊厳を重視し、地域住民の誰もが安心して家庭や地域の中で障害の有無や年齢に係わらずその人らしい生活が送れるよう、地域全体で支えあう社会福祉に変わっていくことが求められています。
 今日言われている「ノーマライゼーション」=「障害のある人も家族や地域で通常の生活ができるようにする社会づくり」の普及のために、様々な問題や悩みを抱えながら業務をおこなっておりますが、住民の視点に立ち必要な施策や事業は何かということ考えながら、家族・当事者の話を聞き、住民の方にも行政の考えや思いを聞いてもらい、お互いの理解から始めなければ何も進まないような感じがします。
 かなり難しいかもしれませんが、それが実現した時「地域ケア」や「ノーマライゼーション」の実現につながるように思います。