【自主レポート】

公的保育保障 障害児保育のさらなる充実にむけて
~子どもたちの実態の中から~

広島県本部/福山市職員労働組合 守本真理子

1. はじめに

 私たち公務員労働者を取り巻く情勢は、「賃金が高い・人が多い・仕事をしない」といった住民の根強い意識や、こうした理由を背景に信賞必罰を基本とした、『公務員制度改革』、さらには財政難を理由とした賃金合理化攻撃『聖域なき構造改革』の名のもとで、『民でできることは民でやる』とした民間委託攻撃などが全国にかけられ、議会・マスコミを含めた、行政改革の大合唱の中で、依然として厳しい情勢が続いています。
 こうした中、公立保育所も例外でなく、児童福祉法の改正や規制緩和の流れの中で、コスト論・市場原理による『公設民営』『統廃合』など容赦なく確実に合理化の波は押し寄せ、今まさに全国の公立保育所はこうした攻撃の矢面に立たされています。
 こういう状況を克服し、私たちが公立保育所で働き続けるためには、公立保育所が地域・保護者から『必要な施設』として存在しなければ働き続けられないことを肝に銘じ、その地域の保育所に何が求められているのかを見つけ出す取り組み(実態調査)の中から私たちの仕事のあり方を問い直し、子ども・保護者のニーズに確実に応える公務労働(保育)を実践し積上げてきました。

2. これまでの保育所部会運動を振り返って

 福山市の保育所の歴史を振り返ってみると、70年代まで保育施策は公立保育所が担っていましたが、70年代に入り児童数が増加し、公立保育所の施設数が不足した状況となり、その補完として民間保育所の設立が積極的に促され、公立保育所67所(現在は61所)、法人立保育所34所(計101所)設置されてきました。また、70年代後半からは、地方財政悪化や行政改革に公立保育所が矢面に立たされることになりました。
 こうした攻撃に対して、私たちは自らの労働条件を優先し続け、従前どおりの公立保育所を守ろうとしてきましたが結果として、従前の保育内容(16時までの保育、3歳以上児保育など)を守ろうとすることとなり、子ども・保護者のニーズを探っていくことを怠ることとなりました。
 80年代前半になると、保護者・子どもの『公立』離れが明らかとなり、過疎地保育所の休所、公立保育所入所児童数の減少から保育士・調理員の過員を生じ、配置転換などが行われました。こうした経験をとおして私たちは、子ども・保護者の求める保育内容を提供しなければ公立保育所はなくなってしまうことに気づかされました。そして、私たちにとって「働きやすい保育所」から、子ども・保護者のニーズに応えようと延長保育・入所年齢引き下げ実施の取り組みを始めていきました。
 しかし、「なぜ、私たちが犠牲になるのか」「保護者の都合だけが認められるのか」「子どもたちがかわいそう」などの多くの質疑・議論が部会員の中で行われてきましたが、市当局との交渉などを経て実施した施策のなかで、保育士の過員は解消し、保育士の新規採用が行われることとなり、子ども・保護者のニーズを実現させることで、「公立保育所を守る」ことができ、結果として「職場(生活)を守る」ことができることに気づきました。
 こうした流れの中で90年代にはいると、私たちは子ども・保護者との日々の関わりのなかで、必要な施策を見つけ出すことができるようになり、「エンゼルプラン(緊急保育対策5ヶ年事業)」など厚生省(現厚生労働省)の少子化対策などを背景として、一時保育事業(91年)、年齢引き下げ・ことばの相談室の開設(93年)、アレルギー代替食の完全実施(95年)、18時までの延長保育・地域子育て支援センター事業(96年)、19時までの指定11所での延長保育・地域子育て支援活動(単市5ブロック)(97年)、全所での19時までの延長保育(98年)、休日保育の実施(99年)、全所での一時保育の実施・子育て応援センターの新設(2000年)などを市当局に要求し、「公立保育所」で実施させることになりました。また、18年間取り組んできた障害児保育体制の充実を市当局に求めていき、2001年度障害児保育の充実にむけた方向性を提示させることができました。
 こうした取り組みにより、近年少子化の中でも公立保育所の入所児童が増加し、ここ3年間の年度途中の入所についても年間600人以上の子どもたちが入所してきました。
 しかし、行政改革攻撃のなかで、議会・マスコミの類似都市と単に数だけを比較して、福山市は「保育施設・職員が多い」という攻撃がありますが、私たちは日々の保育サービスが子ども・保護者の求めているものとしていくことで攻撃の克服に努めています。

3. 実態調査(自己点検)の取り組みから

 行政改革の厳しい状況の中、私たちが公立保育所で働き続けるためには、公立保育所が市民に必要とされる保育所として存在しなければ働きつづけられません。
 保護者が求めていることは、『うちの子どもをよく見てくれているかどうか?』ということだと思います。このことを一人ひとりが深く受け止め、保護者・子どもの実態を知る取り組みと、あわせて自らの仕事を振り返り、自己点検をする中で、今後私たちが取り組むべき方向を確認することが実態調査の取り組みの一歩でした。
 その結果、子どもについて知らないことが多くあり「やってるつもり」「知ってるつもり」で保育を行っていた自分たちに気づくことになり、あらためて、様々な角度から保護者や子どもたちの実態を知ることの大切さを感じました。さらに、公立保育所に求める保護者の要望をしっかりと受け止めるとともに必要とされる保育を実施することは、「私たちの職場を守る」取り組みであるということもわかりました。日常、保護者と話すことで「子どもがどういう状況に置かれているか」「保護者の悩みは何か」「保育所に求めているものは何か」など明らかになった実態をもとに、公立保育所として求められていることを行っていくことが、公立保育所の存在意義につながっていると確信しています。そういう考えのもとここ数年間、低年齢児保育・時間延長1時間保育・子育て支援センター事業・子育て支援活動・一時保育・休日保育など実施してきました。

4. 実態調査(自己点検)の取り組みから障害児保育のさらなる充実にむけて

(1) 福山市の障害児保育の経過
  ① 72年6月「福山市難聴児を守る親の会」から市長に保育所での「難聴児保育」開始の陳情があり、蔵王保育所において全国に先がけて「健常児と難聴児の共同保育」を実施しました。
23人の難聴児に担当保育士8人で施設設備もある程度整えて開始し、幼・小・中 との連携を図りながら取り組んできました。
  ② 80年代の初めに、障害を持つ子どもが保育所へ入所してくる数は年々多くなり、障害児保育の市民的要望は高まっていました。こうしたなかで、私たちは市当局に障害児加配の配置を求め、83年度から指定保育所方式(5所)で開始しましたが指定保育所方式は、地域の保育所での受け入れ要望が保護者に強く、地域の子どもが地域外の指定保育所へ通う矛盾のなかで85年度からすべての保育所で受け入れを実施していきました。
    95年度より重度の障害を持つ子どもの保育権を保障していくという基本にたちかえり、必要に応じた保育をしていくことができました。
    その後、重度の障害を持つ児童のかかわりも課題とされてきているため、97年度より、福山市内の知的障害児通園施設(草笛学園)において障害児加配保育士が1人3日間の実習を行い、療育のなかでの具体的なかかわりや、一人ひとりのきめ細やかな指導方法を学びました。
  ③ 93年7月より、保育所に入所している児童の中でもことばに課題のある児童が多いという実態をふまえ、紅葉保育所において「ことばの相談室」を開設しました。現在では地域性も考慮し4所8人の保育士が協力しながら事業を進め、未入所児も含めて就学前児童の利用が年々増え全市的な展開が図られています。
  ④ すべての子どもの保育保障をめざして、障害のある子どもを地域の保育所で受け入れ、ともに育ちあう統合保育の確立に向け取り組んできました。この間保育所部会は、保育研究部を中心とし障害児保育主担者研究会・障害児加配研究会に取り組み保育内容の充実に努めてきました。そして、私たちは仕事の中身を点検することや子どもの実態を見つめて子どもや保護者のニーズに応えていくことが、公的保育保障だと考えるようになりました。

(2) 障害児保育のさらなる充実にむけて
   これまで18年間取り組んできた障害児保育は、現在は全所で受け入れており地域で子どもが共に育ちあうという良さを大切にしてきました。しかし、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、精神発達遅滞、運動発達遅滞などの課題を持つ子どもが多く(現在公立保育所では、障害・課題のある児童を400人程受け入れ)入所し、障害の種別が多様化し、保育士の障害児保育に対する悩みや課題も多くなってきました。そこでブロック別学習会での意見交流や各所での実態調査に取り組んできました。
   その中で、障害の多様化のなかでの専門性の不十分さ・「この子に、この対応でよいのだろうか……見極めが難しい」「保育と療育の接点は?」「一人ひとりを丁寧に見ていけない」などの悩みや、障害を持っている子に対する発達支援の不十分さ・障害児加配保育士の継続した専門的理論と実習の不足・専門機関との連携の難しさなどが明らかになってきました。このことは結果として、職員だけを配置して障害児保育を実施しようとしている市当局と、職員さえいればできるとする私たちの弱点でもありました。こうした実態を集約し、市当局へ障害児保育体制の充実を求めていきました。
   そして、市当局から2001年度にむけて「研修の充実を基本とした取り組みを行う」という回答を受け、障害児保育の充実にむけた方向性を提示させることができました。

2001年度障害児保育の充実にむけた考え方

1. 障害児加配について
 ○ 指名方式による加配保育士の配置
  ・正規保育士の加配13人を指名
  ~これまでは一定の選考基準がなく、障害児担当は各保育所の判断としていたが、正規保育士13人を指名することにより、障害児保育の充実に向け専門性を高めることとする。
  ~指名する人数は、保育所運営面を考慮し、2000年度における正規保育士の加配と同数(13人)とする。ただし、難聴児保育、ことばの相談室は除く。
  ~指名する13人以外は従前どおり。
  ~指名の考え方は、2000年度の実態及び2001年度の加配状況を勘案するなかで実態に則したものとする。

2. 研修のあり方
 ○ 対象職員等
  ・所長、障害児主担者、障害児加配等とする。
  ・13人については、専門性を深めるための派遣研修の対象とする。
  ・13人以外の正規障害児加配職員で希望がある場合は、各保育所の運営上可能な場合は対象とする。
  ・全体を対象として、障害児保育の充実のための研修を実施する。
 ○ 研修内容
  ・専門性を深めるための加配研修は各保育所の入所児童の障害種別に応じたものとする。
   (例)○○保育所~ダウン症   ○○保育所~自閉症
  ・その他特別に専門性を要する研修が必要な場合は、子どもの事例に応じた研修を受講。

3. 相談体制
 ○ 各保育所からの相談については、障害種別に応じ13人との連携により対応する。

(3) 2001年度の取り組み
   2001年度は、障害児保育のさらなる充実に向けて研究の中身を工夫していきました。障害児加配保育士研究会では、保育所部会役員と市当局(主管課)と事前に研究会の持ち方や記録様式の見直しや、提案資料の検討など詳細な打ち合わせを行いました。研究会では障害種別でグループの中に、言語聴覚士・作業療法士・保健師・ことばの相談室の保育士そして、専門性を高めていくために指名され研修を受けている専任加配保育士などに入ってもらいました。
   その中で、焦点を絞って話し合いができたことや専門的な話やアドバイスを聞くことで子どもの理解やかかわり方などいろいろな角度から見ていくことの大切さを感じたという声を多く聞きました。
   障害児保育主担者研究会では、テーマに基づいたグループ分けや、少人数での話し合いをとおして、いろいろな事例や保護者の思いなど自分の実践と重ね合わせながら聞くことができました。
   また、専任加配保育士が派遣研修(療育施設実習)で学んだ理論と実習のうえに構築した自分の実践を報告しました。
   このことは専任加配保育士や障害児保育主担者のどちらにとっても、より深まった勉強になったと思います。専任加配保育士が派遣研修で学んだこと(障害児一人ひとりを理解することや援助のあり方など)を聞いて「障害児保育を充実していくようがんばろう」という思いにたち、研修会の回数を増やして欲しいという声がでてきました。反面、障害児保育主担者として学んだことを所内へ広げていくことが果たせなかったという反省も多くありました。障害児保育主担者の役割の重要性を改めて認識することができました。
   また、私たちは障害児保育の悩みや不安などお互いに話し合い専任加配保育士と連携を深め合ったりケース研究会議などして力量をつけていくことがいるように思います。
   障害児保育はどこの保育所でもやっている、やっていくんだという気持ちに全体がなっていかないといけないのだけれど、障害児とのかかわり方の違いで全員にその気持ちが落ちていなかったということもわかりました。
   今後は、常に各々の職場の中で障害児保育について役割を担ってもらうため研修会や学習会などのあり方を検討していくなど、障害児保育の充実を部会全体での取り組みとなるよう進めていきたいと考えています。

2001年度の研究・研修会
研究・研修会名
回  数
内  容
参加体制
障害児保育
主担者研究会
年間2回 ・講演
・ビデオ研修+グループ討議
・専任加配保育士の報告
各所1名の障害児主担者と保健師・指導保育士・部会役員
障害児加配
保育士研究会
年間4回 ・講演
・グループ討議
年間3回は療育機関職員が助言者として参加
障害児加配保育士・保健師・指導保育士・部会役員
※1回目のみ加配在籍の所長も参加
障害児保育
全体研修会
年間1回 ・講演 保育所職員
障害児保育研修会
(障害種別)
年間2回 ・講演 保育所職員

2001年度の派遣研修
研 修 名
期  間
場  所
内  容
専任加配保育士派遣研修
4泊5日
・岡山市内社会福祉施設
 旭川荘
・保育所障害児保育担当者研修会(東京…5人)
講義・実習
障害種別の研修
障害児加配保育士施設実習
(臨時保育士)
3日間
・福山市内障害児通園施設
 草笛学園
 あしび園
療育実習

5. 今後の取り組みにむけて

 何度となくかけられる公立保育所攻撃に対して私たちの職場や生活を守っていくためには、『保護者や地域から必要とされる保育所』とならなければなりません。そこで必要なことを探るためにこれまで子ども・保護者の実態調査(自己点検)に取り組んできました。
 障害児保育では、子どもや保護者の思いに応えていこうとすると、今までのやり方では対応しきれない事がわかり、専門的な知識やかかわり方の必要性が見えてきました。 2001年度は、今までの障害児保育の一定の成果を確認し、課題を整理し正規職員13人の指名による専任加配保育士の配置や、障害児保育主担者研究会・障害児加配保育士研究会の研修内容の見直しを行い、専任加配保育士が派遣研修で学んだことを広めたり療育機関の先生から適切なアドバイスを受けるなどしながら障害児保育のさらなる充実にむけて一歩を踏み出しました。
 その中で、研修を受ければ障害児保育の充実ができるのではなく、一人ひとりの保育保障をしていくのだという視点に立たなくては障害児保育のさらなる充実は望まれないということに気づき職員の意識の格差があることもわかりました。今後は専任加配保育士と全所をどう結びつけていくかといったことや、各所にいる主担者が役割として学んだことを所内で生かし障害児保育の充実にむけて取り組もうとする意識を高めたり実践を積み重ねたりしながら障害児保育主担者会の充実を図っていきたいと思います。
 また、全所で子どもたちに丁寧にかかわっていける力をつけるために課題を整理し、一人ひとりの保育力アップにつながるような実践をしていきたいと思います。
 すべての子どもたちの公的保育保障の実現にむけて、公立保育所の果たす役割や労働条件とどう調和させていくかなど討議している『公立保育所を守る会』や、子どもの食の保障に取り組んでいる『保育所調理員部会』の仲間と一緒に、ネットワークが作りやすい公立保育所の強みを生かして、今後も引き続き実態調査(自己点検)の取り組みを進めていき子どもや保護者が必要とする保育、保護者のニーズに応じた保育をしっかり見極め課題に迫る実践をしていきたいと思います。

 ※『公立保育所を守る会』…「市職労保育所部会」「公立保育所所長会」「福山市保育連盟(公立保育所関係者)」の三団体により結成される。