【自主レポート】

松江市の保育行政に関する報告

島根県本部/松江市職員労働組合

1. はじめに

 これまで松江市職労では、保育行政の充実に向けて検討を重ね、公立保育所については保育内容の向上や子育て支援の充実に向け、積極的に取り組んできました。
 保育行政や保育所を取り巻く情勢に変化が見受けられ、多様化する市民ニーズへの早急な対応を迫られていたことから、1997年には「松江市の保育行政に関する報告書」を策定しました。その中で提起したものの内、延長保育・乳児保育、子育て支援事業、病児保育、児童福祉行政への参画については段階的に実施されてきましたが、一時保育、休日保育、夜間保育については未実施であり、継続課題となっています。

2. 保育所を取り巻く現状

(1) 社会情勢
   現在、子どもを取り巻く環境は、核家族化や都市化の進行、女性の社会進出などで大きく変化してきており、とりわけ少子化の進行は全国的に大きな社会問題となっています。こうした中で、安心して子どもを産み育てる環境をつくるため、様々な子育て支援施策が取り組まれています。
   松江市では、1996年度に松江市児童育成計画(まつえエンゼルプラン)を策定し、2005年度までの10年間の本市における総合的な子育て支援施策の基本計画として各種子育て支援事業に取り組んできています。

(2) 就学前児童の保育状況
   松江市における就学前児童の状況は、表1のとおり、全体数として9,240人で、年々少子化傾向が見られます。保育所については、認可保育所の実数・割合が増え、増加傾向にあった認可外保育所は減少傾向にあります。幼稚園については公立の実数・割合は減っているものの、私立幼稚園が増設されたため、全体としては安定した数字となっています。
  ① 保育所の現状
    認可保育所は、現在28所あります。1999年度に公立の1所が民間委譲されたことにより、現在公立4所、私立24所となっています。また、認可外保育所は14所あります。施設数同様、定員も私立が公立を大きく上回っています。
    定員の拡大と入所人数の弾力化(定員の最大125%受け入れ)により、入所児童数は増えていますが、今年度も6月末時点で待機児童が50人近く存在し、待機児ゼロに向けての施策は今後も行われていく必要があります。
    定員の充足状況は表2のとおりです。乳児保育・延長保育の実施に伴い、公立でも4月当初から各所概ね100%以上の充足率となっており、公私間に大きな差は見られません。
  ② 幼稚園の現状
    市立の幼稚園は、各小学校区に21園(内2園は休園)あり、このほかに国立1園、私立4園があります。私立の3園と市立幼稚園は60%前後の低い入園率となっており、特に周辺部小規模園では定員を大きく下回っている状況です。

3. 公立保育所の将来像

(1) 公立保育所の課題
   市民ニーズが多様化する中、今後の公立保育所のあり方、果たすべき役割を改めて考え直す時期にきています。公私別の充足率を見るとどちらも市民から一定の評価を得ていると考えられ、一部を除き、保護者の選択肢としては「公立」「私立」という区別はそれほど重要となっていないと考えられます。一方で市民の保育行政に対するニーズは多様化してきており、中には私立では財源確保の困難なものも含まれます。松江市の財政状況、行財政改革の流れを考えると、十分な財源を使い、事業を拡大していくというのは困難であり、今後は、松江市の保育行政の充実・発展のため、「公立でしかできないこと、公立だからできること」を十分検証し、実践していくことが必要です。

(2) 公立保育所に求められるもの
  ① 子育て支援センターの充実
    1999年7月より、子育て支援センター「あいあい」が開設され、松江市の子育て支援の拠点施設となっています。「あいあい」では、様々な子育て支援事業を行っており、見学やサークルの利用者も含めると、月に2,000人前後の利用者があります。多くの人々が子育てに対し負担や不安を感じている今、少子化対策という観点からもそれを少しでも取り除き、子育ての楽しさを伝えることが必要とされています。今後も市民が気軽に利用できるようなサービスの充実、利用促進を考えていくことが必要と考えます。
    また、2005年にオープン予定の松江市保健医療福祉ゾーンにおいても地域子育て支援事業が計画されています。今後は、公立保育士の豊かな経験をいかしながら、保育所に来ている子どものみでなく、在宅の子どもに対して、地域を巻き込んでの子育て支援、地域の子育て支援ネットワークづくりを行っていくことが求められています。
  ② 公立保育所における子育て支援機能の拡大
    現在、白潟保育所では電話相談事業を行っていますが、こういった相談事業には公立保育士の豊かな経験と知識がいかされるべきであり、全所で行っていく必要があると考えます。また、行政として地域全体の子どもを支援していくという観点からも、積極的に保育所を開放し、施設や遊びを地域の子どもにも提供していくべきと考えます。一部の公立保育所では現在も地域交流を積極的に行っていますが、今後は公立保育所が中心となりながら、私立保育所や幼稚園等も含めて、子育て支援センターを拠点とした地域支援のネットワークを充実させていくことが求められます。
  ③ 障害児保育の充実
    現在は市内の全所で受け入れ可能ですが、公立は長年の経験を活かしながら、私立のモデルとして、さらに充実した障害児保育に努めていくことが求められています。また、公立のメリットとして、市保健師や専門指導員、子育て課など市関連部門との連携を活かしながら、指導・支援を充実させていくことが期待されています。
    福祉センター内のおもちゃの図書館においてはミニ療育事業が行われており、これまで公立保育士が中心に療育に携わってきましたが、今後は、知識や経験をもった専門指導員などをさらに充実させていくことが求められます。また、近隣の末次保育所(公立)と年間を通じて交流が行われていますが、療育事業は健常児との交流の中で期待される育ちも大きいことから、今後も末次保育所の所庭や保育室を活用して開放的な保育を行うことが療育事業の充実につながると考えます。
  ④ 一時保育の実施
    
この事業は、非常に市民ニーズの高い事業であり、私立保育所13所で実施されています。就労形態が多様化する中、保育所に入れず、待機している子どもも多く存在します。一方、育児負担解消のための保護者のリフレッシュ、子育て支援という観点からも実施していく必要があります。今後ますますニーズが高くなっていくことも予想されることから、現在全く実施していない公立保育所においても、実施に向けた積極的な検討が求められます。
    また、ニーズが多様化してきているため、1日単位と決めつけず、保護者の希望により半日あるいは1時間単位の利用ができるようにするなど、柔軟な対応が求められています。
    一方、保育所で行う一時保育とは別に、会員組織で育児サービスを行うファミリーサポートセンターの機能を充実させ、利用しやすい制度にしていくことも行政サービスの1つと考えます。会員の研修による資質向上を行いながら、保護者の選択肢の1つとして、家庭保育という形での一時預かり事業が浸透していくことが望ましいと考えます。
  ⑤ 休日保育、夜間保育の実施
    現在、休日保育は私立の2所で実施されており、在籍児以外の利用も受け付けています。利用者は2人~8人で、1日の平均利用者数はそれぞれ、3.6人、4.7人となっています。受け入れ人数にはまだ余裕があり、実際に申し込みをして断られるといった状況がないことから、一定のニーズには応えているといえます。休日も勤務日である方々にとっては必要なものであり、採算がとれなくても実施していかなければならない事業であることから、今後は、公立での実施も検討していくことが求められます。
    また夜間保育に関しては現在、認可保育所では行われていないため、認可外保育所に預けるという選択肢しかありません。全国的に認可外での事故がたびたび報道される中、認可外が健全な事業運営を維持できるよう指導・援助していくとともに、設備や人員の整った認可で実施していくことが望まれます。実施にあたっては、職員の勤務体制の変更による平日保育への影響や長時間保育が子どもに与える影響も大きいと考えられることから、十分な検討が必要です。
    休日・夜間保育は、少数の市民ニーズであることから、必ずしも保育所という形でのサービスではなく、ファミリーサポートセンターのような形での家庭保育を支援していくことも必要と考えます。今後は、様々な場で幅広く市民にPRしていくことや利用料を含めた利用方法の検討が求められています。
  ⑥ 幼保一元化の検討
   
 昨年10月に就学前教育保育検討委員会がたちあげられ、多様な観点から就学前教育保育についての検討が行われてきました。今年3月には答申書がまとめられ市長に提出されています。答申の中では、「南北1園ずつ公設公営のモデル園を設置することが望ましい」とされています。
    近年、幼稚園、保育所を取り巻く状況も変化してきており、互いに連携を取り合いながらよりよい保育をめざしていくことが求められています。今後は、幼保一体化施設の設置のみではなく、隣接・近隣幼保間での交流や統一的な教育保育内容の作成、幼稚園教諭・保育所保育士の合同研修の実施についても早急に検討し、できる部分から実施していくことが望ましいと考えます。
  ⑦ 子育て行政への参画
    
平成11年度より、公立保育士が児童家庭課(現・子育て課)に2名配属となり、児童福祉に関する行政事務に携わっています。保育士が窓口業務に携わることで、保育所の申し込み等で来られた市民の方々に保育現場での経験を活かした適切な指導・助言ができ、市民サービスの向上につながっています。また、子育て課に保育士がいることで、保育現場と行政事務部門との連携がとりやすくなり、子育て行政に保育士の考えが反映されやすくなっています。一方、事務部門に携わることにより、幅広い視点で子育て行政を考えることができ、保育士としての資質向上につながるのみでなく、職場に還元され、保育の充実に役立つものと考えられます。このように今後は、市民サービスの向上、子育て行政の充実のため、行政部門への参画ということを含め、幅広い視野を持って業務に携わっていく必要を感じます。

4. 松江市保健福祉総合センターに求めるもの

(1) すこやかプロジェクトからの提言
   市立病院の移転新築に伴い、その周辺地域を保健医療福祉ゾーンとして整備する計画がすすんでいます。松江市労働組合連合会(松江市労連)では、1997年6月に「21世紀すこやかプロジェクト」を発足し、総合的な保健・医療・福祉サービスが受けられる体制作りをめざし、政策提言をまとめてきました。1998年2月には「すこやかの丘づくり」と題して市長に3つの原則をもとに、12項目による政策提言を行いました。その中の1つとして、「病(後)児保育の実施と、地域での子育て支援の拠点機能の展開」を求めています。

(2) 松江市保健福祉総合センター整備事業実施計画について
   現段階の計画では、少子化対策の推進として、①総合発達センター事業、②地域子育て支援事業、③病後児保育事業があがっています。保健、医療、福祉が連携を取り合い、総合的なサービスを提供できる施設という利点を活用し、子育て支援の拠点施設とすべきと考えます。新センターでは子育てに関する様々な事業が予定されていますが、どれも単独で行うより、保育所内で、または保育所と併設で実施することで大きな効果が期待できるため、センター内には公立保育所の設置がぜひとも必要です。

(3) 松江市保健福祉総合センターに求めるもの
  ① 総合療育センター事業との関連
    障害児保育は、健常児との交流の中で期待される育ちが大きいことから、保育所プロジェクトではこれまで、おもちゃの図書館は単独ではなく、保育所と併設することが望ましいと主張してきました。今回、おもちゃの図書館が新センターに移転することから、ぜひ公立保育所も同センター内に設置し、連携を取り合いながら療育事業を充実させていくことが必要と考えます。また、センター内には療育事業に関わる様々な分野の専門スタッフが常駐していることから、これまでよりもさらに医療・保健・福祉の連携を密にした充実した療育事業が期待できます。
  ② 地域子育て支援事業との関連
    
子育て支援センターの職員が地域の乳幼児教室等にでかけていく出前保育は現在も行われていますが、現在の人員では十分でないため、今後は子育て支援センターや新センターを拠点としながら、地域の子育てサポーターを育成・活用し、子育て支援のネットワーク作りをしていくことが求められます。
    また、センター内には、おもちゃの広場、園庭も設置される予定であるため、在宅の親子も多数来所することが予想されますが、保育所がセンター内に併設されていることにより、保育所に通う同年齢の子どもの様子を見学したり、一緒に過ごしたり、保育士の助言を受けたりということが容易に可能となります。親と子どもに遊びの空間を提供するのみでなく、保育所を併設し開放することにより、幅広い子育て支援をしていくことが期待されます。
  ③ 病後児保育事業との関連
    現在の病後児保育には、設備や医療との連携部分で不十分なところがあるため、保健福祉総合センター内に移転した際には、医療との連携を十分行いながら、預けられる子どもにとってなるべく負担が少なく、保護者が安心して預けられる事業へと充実させていく必要があります。
    また、病後児保育への要望の中で、入所している保育所内で実施してほしいという声が多く聞かれており、保育所内、または保育所と併設して病後児保育を行うことは、子どもにとっても保護者にとっても大変安心できることといえます。急病の場合にも、病院と併設した保育所であれば、迎えに行った際、すぐに病院で診察を受けることが可能となり、病院と保育所の併設、そこでの病後児保育の実施は理想的な保育環境と考えます。
    一方、病後児保育の存在を知らないという市民もまだ多く、今後移転にあわせ、市民PRを積極的に行うと共に、手続きを簡単にするなど、利用しやすい制度に変えていく必要があります。
  ④ 一時保育の検討
    
保育所待機児が定期的に予約をして利用しているといったケースが多くなってきており、緊急に一時保育を必要とする場合に空きがなく、利用できないといった状況になっています。また、新センターでは病院との併設ということから、病院利用者(患者・看護者等)からのニーズが高いことも予想されるため、実施に向け、積極的に検討していく必要があります。利用方法としては時間単位、半日単位での柔軟な対応が求められます。
  ⑤ 夜間保育の検討
    現在、認可外保育所1所でしか実施していませんが、潜在的なニーズも含め、ニーズの把握が十分にできていない状況にあります。実施にあたっては、子どもへの影響等、慎重に考えていく必要がありますが、病院と併設した場所で行うことは、緊急時の対応が取りやすいという利点があり、夜間保育を行う場所としては比較的望ましい環境であると考えます。

5. まとめ

 1999年以降、公立保育士の業務は保育所における保育業務にとどまらず、子育て課における行政事務、子育て支援センターのスタッフ等、松江市全体の子どもとその保護者への支援に業務内容を広げています。
 保護者ニーズが多様化し、今後も様々なサービスの提供が求められてくると予想されますが、保護者が安心して子育てができる環境を整えることが健全な子どもの成長のために何より必要といえます。そのためには公立保育所、私立保育所、幼稚園等がそれぞれに役割分担をしながら、松江市の子どもの育ちをみんなで保障していかなければなりません。
 また、乳幼児期は人格形成の基礎になる大切な時期であり、この時期にどのような保育を受けるかがその後の育ちに大きく影響してきます。保護者のニーズばかりが大きく取り上げられる昨今ですが、むやみに保護者のニーズに流されてしまうのではなく、子どもの立場に立って考え、この時期の子育ての大切さを伝えていくことも公立保育士の役割の1つといえます。
 一方、保護者アンケートからは、「子どもが病気のときはそばにいてあげたいが、仕事が休みにくい」、「子どもの病気で休むことが多くなり、仕事が続けられずやめた」という声も少なからず聞かれます。保育事業を整える一方で、企業に対して育児時間や看護休暇制度の充実や利用促進などを積極的に働きかけ、結婚・出産後も女性が変わらず働き続けることができるよう職場環境を整えていくことも子育て支援の大きな柱であると考えます。
 今後は働く女性のニーズに応えながら、あわせて児童の健全な育成も図れるよう、特別保育事業の充実も含め、様々な支援を行っていくことが求められています。