【代表レポート】
外国人市民との地域共生と世界都市をめざして
~世界都市化ビジョンと外国人集住都市会議~
静岡県本部/浜松市水道労働組合・書記長 松下 渉
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1. はじめに
東西冷戦構造の終焉と自由経済主義社会の拡大、中国の市場開放政策の進行など国際社会・経済構造の変革と輸送交通手段の発達、情報通信技術の飛躍的な進歩は、「ひと・もの・情報」が、国境を越えて自由に往来するというグローバリゼーションをもたらしました。
このグローバル化により「都市」は、国境や国籍にとらわれない人々の活動と交流の拠点としての機能が求められるようになりました。一方、グローバル化に伴う外国人の集住は、外国人住民の生活面での諸課題をクローズアップさせることとなっています。このため、外国人住民との地域共生を考えていくことは、これからの日本の将来、都市のあり方を考えていくうえできわめて重要な要素となっています。
また、分権型社会が進展する時代のなか、グローバル化がもたらす諸課題の解決のためには、国内外の都市間の連携や協力が必要となっており、この連携・協力が、都市の新たな力を創り出す可能性を秘めています。
2. 浜松市の概要
静岡県の西部に位置する浜松は、西に浜名湖、東に天竜川、南に遠州灘と三方を水域に囲まれ、北には赤石山脈など雄大な自然景観があり、さらに市内には佐鳴湖や中田島砂丘など中心市街地から気軽に訪れることのできる距離に豊かな自然環境が存在しています。
また、江戸時代より東海道の29番目の宿場町として栄えた浜松は、東京と大阪のほぼ中間に位置する地理的な条件を備え、これに加え温暖な気候、豊富な水資源にも恵まれ、古くから織物、楽器、輸送用機器など「ものづくりのまち」としての基盤を築き、これらの分野で世界的に活動する企業が数多く誕生しました。また、近年では光技術や電子技術
関連などの新しい産業集積も見られるようになりました。
<面 積> |
256.74k㎡ |
<人 口> |
594,791人(平成14年6月1日現在) |
<市制施行> |
1911年(1996年中核市移行) |
<一般会計予算> |
1,827億円(平成14年度当初予算) |
<下水道普及率> |
74.9% |
<水道普及率> |
95.2%(いずれも平成13年度末) |
<産 業> |
卸 売 業:2兆1,501億円(平成11年) 小売業:8,000億円(平成11年)
製造品出荷額:2兆164億円(平成12年)
工業製品生産:ピアノ(全国シェア100%)、管楽器(全国シェア78%)、 電子キーボード(全国シェア67%)、オートバイ(全国シェア61%)
農産物生産:セロリ(全国1位)、菊(全国3位)、温室メロン(全国6位)、 みかん(全国14位)
漁 獲 高:うなぎ(養殖)390t、あゆ(養殖)287t、あさり・えび・かに253t |
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3. 外国人市民の現況
90年の出入国管理及び難民認定法の改正施行により、ここ10年間で南米日系人を中心とする外国人市民が約50万人増加し、外国人市民は各地域で定住化の様相を示しています。
国籍別では、韓国・朝鮮籍が最も多く、全体の4割を占めています。次いで中国、ブラジルとなっていますが、韓国・朝鮮籍は漸減傾向にあり、中国、ブラジルは増加傾向にあります。なかでもブラジルはここ10年間で4倍増となっています。
<外国人登録者数>(各年度末)
1990年:1,075,317人(内ブラジル 56,429人)
2000年:1,556,113人( 〃 224,299人) |
4. 浜松市における外国人市民の現況と特徴
浜松市の外国人登録者数は、74ヵ国19,235人を数え、人口の3.27%を占めています。国籍別ではブラジルの11,716人が最も多く、次いで韓国・朝鮮籍の1,597人、フィリピン1,501人、ペルー1,263人、中国1,165人となっています(2001年3月末)。
他の都市と比較すると、ブラジル・ペルー等のいわゆるニューカマーといわれる外国人市民が圧倒的に多く、全体の7割近くを占めているのが特徴で、特にブラジル人の登録者数は全国の都市のなかで最も多いものです。
中国、インドネシア、マレーシアなどアジア各国からは、技術研修生や留学生が多数滞在しており、べトナム人が多数居住していることも特徴としてあげられます。
また、74ヵ国にのぼるさまざまな国籍の人々が集まってきていることも特徴のひとつとなっています。
外国人登録者の在留資格は、「定住者」が44.16%と最も多く、「日本人の配偶者等」が28.76%とこれに次いでおり、これらのなかにブラジル、ペルーなどの日系人やベトナム人が多く含まれていることも特徴です。また、ここ数年、「永住者」の増加も顕著であり、外国人市民の定住化傾向が見られます。
<外国人登録者数>(各年度末)
1990年: 4,748人(内ブラジル 1,457人)
2000年:19,235人( 〃 11,716人)
<在留資格別>(2001年4月)
定住者:8,553人 日本人の配偶者等:5,569人
<永住者の推移>(各年12月、2001年は3月)
1995年:281人
1996年:266人
1997年:312人
1998年:377人
1999年:455人
2001年:888人
<浜松市での滞在期間>(2000年3月)
1年未満: 4.0%
2 〃 :13.2%
3 〃 :17.8%
4 〃 :11.8%
5 〃 :10.0%
6 〃 : 8.2%
7 〃 : 6.8%
7年以上:28.1% |
浜松市に多くの外国人が在住し、また定住型となっている背景には、浜松市の企業が、輸送機器産業や楽器産業、繊維産業などの分野における優れた技術力に支えられ、積極的な海外展開を進めていることと、活発な企業活動を背景に、有効求人倍率が全国的に見ても高い水準にあり、自動車関係の製造業をはじめ食品加工、サービス業など様々な雇用の場が確保されていることがあります。
<浜松市内の企業の海外拠点>(2001年9月)
進出国:アメリカ、中国、タイ、インドネシア、台湾、イギリス、ドイツ、マレーシア、ベトナム、オーストラリア、シンガポール、カナダ、イタリア、フランス、香港、韓国、フィリピン、オランダ、インド他(進出企業数順)
企業数:182 拠点数:260
<有効求人倍率>
全国 浜松市
1990年 1.40 2.25
1995年 0.63 1.01
2001年 0.64 1.12
<外国人の就労業種と率>(2000年3月)
自動車関係製造業 51.9%
食品関係 12.1%
電気関係製造業 8.8%
無就労 8.0% |
浜松市に住む外国人の意識は、現在の生活について「やや満足」が55.7%で最も多く「満足」も35.1%と、90%以上が肯定的な回答を寄せています。また日本人とのつきあい方についても「広げていきたい」47.0%、「広げていきたいが方法がわからない」23.7%となっており、地域と関わっていく意志があることが示されています。
一方、浜松市民の「外国人市民との共生意識調査」によると、外国人市民との共生を目指すまちづくりに必要なこととして「日本の文化や生活習慣、ルールやマナーの尊重」とする回答が46.4%と最も多く、共生は日常生活における外国市民の対応が大事であるとする考えが明らかとなっています。
<現在の生活の満足度>(2000年3月調査)
やや満足 55.7%
満 足 35.1%
不 満 6.4%
<今後のつきあい方>(2000年3月調査)
広げていきたい 47.0%
広げていきたいがどうしてよいかわからない 23.7%
わからない 11.8%
広げたいとは思わない 8.7%
<市民意識調査>(2000年6月調査)
日本の文化や生活習慣ルールやマナーの尊重 46.4%
相談窓口の充実 35.0%
施設の充実やイベントの開催 30.5%
自治会・地域行事への参加 28.1%
日本語教育や異文化教育の充実 26.0% |
5. 共生社会と世界都市をめざす取り組み
(1) 世界都市化ビジョン~技術と文化の世界都市・浜松へ~
グローバリゼーションによりもたらされる諸課題への対応と、地方分権のなか魅力ある世界都市をめざすため、浜松市は「世界都市化ビジョン」を策定しました。策定作業は、有識者懇談会と4つのワーキンググループによって進められ、2000年4月にはじまり2001年6月に完了しました。
ところで「世界都市」の定義には、第4次全国総合開発計画(1987年制定)において示された、東京、ニューヨーク、ロンドンなどの世界的な大都市あるいは、大阪、名古屋などの中枢都市の果たす広範な諸機能の総体を指すものと、1992年に当時の国土庁がまとめた《地方都市の世界戦略》の中で示された、「演劇活動、イベント活動など特定の一分野、一部門などが世界的レベルに秀でている『世界都市』」の2つの概念がありますが、ビジョンでは、浜松市のめざす「世界都市」は、これら両方の定義を踏まえ、「市民や企業の活動が世界レベルに達し」、「世界で何らかの機能を担い」、「技術や文化など幅広い活動を世界に発信し続けることのできる」都市と規定しています。
ビジョンは、【共生】、【交流・協力】、【連携】、【発信】を基本的な施策の柱とし、世界都市化に向けて取り組むべき事業をとりまとめています。事業計画期間を2001年度から2005年度の5ヵ年と定め、施策体系のなかで特に緊急かつ重要な課題を抽出して取り組むこととしています。
以下、「世界都市化ビジョン」の中身について要約して記述します。
<共 生> 共に生き 共に築く街
① 日本人市民と外国人市民との共生社会づくり
・地域ルールの確立と交流ネットワークづくり:地域共生会議の開催など
・外国人市民の市政参加の促進:外国人市民会議の充実など
・外国人市民が安心して暮らせるまちづくりの推進:医療保険対策など
・共生社会づくりに向けての推進体制の充実:市の窓口での外国語対応など
② 国際的視野を持つ市民の育成
・国際的な視野に立ったまちづくりの推進:人権意識の啓発など
・世界都市を担う青少年教育の充実:国際問題をテーマにした教育など
・国際的視野を持つ市民を育む生涯教育の推進:外国語教室、国際理解講座など
<交流・協力> 市民主役で国際交流・協力を進める街
① 市民主役の国際交流・協力の推進
・世界の人々との多様な市民交流・協力:国際交流団体設立の支援など
・(財)浜松国際交流協会の充実強化:土日、夜間の開所など
・国際交流・協力における市民ボランティアの活用:ボランティアバンク設立
② 新しい交流の創出
・新たな都市交流の検討:新たな国際姉妹都市提携など
・ITシステムを活用した新しい交流ネットワークの研究
③ 浜松の特性を生かした人、もの、技術による国際交流・協力
<連 携> 地域、国内、そして世界と手を結ぶ街
① 都市間連携(シティネット)の構築
・国内外の諸都市との都市間連携:外国人集住都市会議の開催など
② 市民やNPO・NGO、企業等との協働
・協働を進める情報ネットワークの構築:国際交流・協力に関するホームページ
・地域経済団体や企業等との連携:就労問題の協議など
・浜松市国際交流センターの機能充実:アドバイス、コーディネイト機能強化
<発 信> 世界に開かれた魅力ある街
① 浜松市国際シンポジウムの開催
② 浜松を世界に発信する諸事業の展開
・世界にアピールするコンベンション・イベント都市:国体、園芸博など
・世界にアピールする音楽都市:国際ピアノコンクールなど
・世界にアピールする技術都市:技術分野の「浜松賞」の創設など
・世界にアピールする共生都市:外国人市民による文化活動支援
(2) 外国人集住都市会議
外国人集住都市会議は、ニューカマーと呼ばれる南米日系人を中心とする外国人が多数居住する都市をもって構成し、施策や活動の情報交換を行うなかで、地域で顕在化しつつある様々な問題の解決に積極的に取り組むことを目的に設立されました。
また、外国人市民に関わる諸課題が広範かつ多岐にわたるとともに、就労、教育、医療、社会保障など、法律や制度に起因するものが多いことから、国・県及び関係機関への提言や連携した取り組みを行うこととしています。
会議は、2001年5月7日に設立され、現在14市(発足時13市)で構成されています。これまで4回会議が開催され、2001年10月19日の第4回会議では、「浜松国際シンポジウム」の一環として公開首長会議が行われ、「浜松宣言」及び「提言」がとりまとめられました。
宣言及び提言の要旨は以下の通りです。
<「地域共生」についての浜松宣言>
宣言は、「グローバリゼーションや少子高齢化の進展により、多くの都市において、地域共生が重要な課題になる」とする認識を示したうえで、定住化が進む外国人市民は、「地域経済を支える大きな力」であり、「新しい地域文化やまちづくりの重要なパートナー」であると位置づけています。このため、地域住民の総意と協力により「安全で快適な地域社会を築く地域共生のためのルールやシステムの確立」が必要であると訴えています。そして、13都市が連携して、「互いの文化や価値観に対する理解と尊重を深め」るなかで、「権利の尊重と義務の遂行を基本とした真の共生社会の形成」を進めていくとしています。
<外国人住民に係わる「教育」についての提言>
① 公立小中学校における日本語等の指導体制の充実について
ア きめ細かな教育ができる指導体制の充実のため、指導要綱マニュアルの作成、加配教員の増加や通訳配置に係わる経費の助成
イ 日本語や教科の習熟レベルに合わせた柔軟な学年編入
ウ 将来につながる進路保障の確立
エ コミュニケーションサポーターとして、母国語で対応できる専門カウンセラーの行政への配置
② 就学支援の充実につて
ア 不就学、不登校、学校の授業についていけない子供たちのための「学校」の設立運営補助
イ 外国人学校との連携強化、学校法人化の特例
ウ 不就学の子供たちの日本語習得支援や、生活習慣や社会ルールについての対応指導の充実
③ その他
ア 地域で子供たちを受け入れていく関連施策の充実
イ 教育環境整備のため、国・県・企業からの財政支援や人的支援の強化
<外国人住民に係わる「社会保障」についての提言>
① 医療保険制度の見直しについて
ア 健康保険と年金・介護保険のセット加入の緩和、帰国時に納付額の返還をする制度年金保険の通算協定を多くの国と締結
イ 国民健康保険と社会保険の制度一元化など、外国人向けの医療保険制度の創設
② 外国人の労働環境整備について
ア 外国人を雇用する事業者など社会保険適用事業者への監督官庁の指導体制強化
イ 事業所が外国人を雇用する業務請負業者と契約する場合、社会保険加入を条件とするなど、企業責任の明確化
ウ 外国人を直接雇用する事業者の許可制
③ その他
ア 医療機関と行政、NPO・NGO、ボランティアグループの連携により、医療通訳や医療・薬事情報の提供の充実
<外国人住民に係わる「外国人登録等諸手続」についての提言>
① 外国人登録制度の見直しについて
ア 登録項目の見直し、代理申請の緩和・拡大、申請書の多言語化
イ 外国人登録システムの電算化、入国管理局と自治体間のネットワーク化、各種行政情報システムとの連携
ウ 転出時の届出制、入国管理局からの出国者等の連絡の迅速化
エ 福祉・教育・税金などの行政の事務事業や、地域共生のための事業に対する情報開示の拡大
② その他
ア 外国人登録法以外の法令についても、定住化が進む外国人住民の実情に併せて、適宜、整備検討
6. おわりに
浜松市における国際都市と地域共生・都市間連携をめざす取り組みは、まだその緒についたばかりです。今後、浜松市は、「ビジョン」に示された施策の着実な実行と「提言」の実現、そしてその過程で行われる都市間の連携・協力により、都市(市民)の持つ潜在能力を引き出し、国際化と地域共生の実現はもとより、都市の経営能力、市民生活の向上に結びつけようとしています。
しかし、国際都市・共生社会実現のためには課題も横たわっています。
1つには、市民レベルにおいてです。外国人市民との共生のためには、日常生活のなかでこれまでと違った言葉や生活習慣を受け入れたり、説明し納得するということが必要となりますが、これはこれまでの生活の前提である「日本的常識」が揺らぐということでもあります。しかし、その一方で市民は、共生への条件として5割近い人が、「日本の文化や生活習慣、ルールやマナーの尊重」を求めています。「宣言」でいう「互いの文化や価値観に対する理解と尊重を深め」た「真の共生社会」実現のためには、市民の持つ感情的な「違和感」をどのように払拭していくのか、大きな課題といえます。
2つめには、都市として、自治体として必要なシステムを整備するとともに、そのコストを誰が負担するのかを考えなければなりません。さまざまな広報を日本語だけでなく、外国語でも用意しなければなりません。行政サービスのシステムの違いを説明し、必要なシステムの整備も進めなければなりません。外国人市民が少なかったときは、それほど大きな負担ではありませんし、「例外」として処理できましたが、それも許されない状況となりつつあります。「出稼ぎ期」は社会的メリットが社会的コストを4倍上回るが「定住期」で逆転し、コストがメリットの2倍となり、「統合期」には4.7倍になるといわれています。国の政策、「受益と負担」、外国人を雇用する「企業の負担」のあり方も考えなければなりません。
グローバル化の進展、少子高齢社会の到来による労働力不足と企業の多国籍化等から、今後、外国人市民はますます増えることが予想されます。外国人を、これまでの「労働力」としてではなく、「生活者」としてとらえた社会システムの変更は、後戻りできません。このため、同じ事情を抱えた国内の都市間連携だけでなく、歴史的に外国人との共生の実績と教訓を積んできた欧米諸国をはじめ世界の各都市との連携を強めていくことが重要となっています。
国の施策がいまだ現状の「後追い」の域を脱していないなか、地域において、前向きで積極的な対策を考えて行く必要があります。
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