【代表レポート】

「異質」を受け入れることで社会は成熟する

外国人労働者奈良保証人バンク・奈良県斑鳩町議会議員 山本 直子

1. はじめに

 皆さん、こんにちわ。私は、奈良県にある人口3万人程の町─斑鳩町(いかるがちょう)で議会議員を務めている山本直子と申します。
 私は、今から10年前になりますが、外国人労働者とその家族の皆さんへの生活援助をする目的で、「外国人労働者奈良保証人バンク」(以下、バンクと称す)という市民グループを立ち上げた一人です。バンクの代表は弁護士内橋裕和で、私は事務局長です。ここでは、多文化共生を目指して活動してきた市民グループ─バンクから、「地域に暮らしている外国人は住民である」との認識を持ってこられた自治体労働者の皆さんへのメッセージとして、受け止めていただければ幸いです。

(1) バンク結成の目的
   さて、私たちバンクは1992年6月21日に結成されました。その時の私たちの思いは、「私たちには外国人労働者問題の解決者であるとか、正しいことを行うとかいうおごりはありません。ただ、働く人の権利や安全は世界中どこでも同じであるべきだと思っていますし、どこの国籍の方であれ、出会った人とは豊かにおつきあいしたいと考えています。決して人助けではなく、異文化との出会いですし、自分たち日本の文化・労働・生活の検証である、と信じています。」というものでした。この思いは、10年たった今でも、基本的に変わりはありません。

(2) バンクの活動内容
   結成してから今日まで、毎月第2日曜日を相談日にしています。場所は、奈良県北葛城郡河合町の西大和カトリックセンターという教会です。私たちの相談・援助活動の多くがラテンアメリカからの日系人とその家族の皆さん(お国柄、熱心なカトリックの信者さんが多い)であることから、カトリック教会にはこれまで多くの支援をいただいてきました。この相談日には、奈良県はもちろん遠く滋賀県・兵庫県・三重県・愛知県などからも相談者が訪れ、相談の他、ミサ・お国自慢の料理・ちいさなダンスパーティーなどもあり、彼らのコミュニティの交換の場となっています。
   その相談の内容ですが、
   ・在留資格や在留期間の取得や延長の手続きに付き添って欲しい。
   ・ビザや住宅への入居や車などの分割ローンの保証人になって欲しい。
   ・保育園や幼稚園や学校の手続きについて教えて欲しい。
   ・子どもが生まれたので役所での手続きはどうするのか。
   ・税金や保険について。
   ・婚姻手続きや離婚手続きに必要な書類は何か。
   ・会社を突然解雇されたのだがどうすればよいか。
   ・勤務中にケガをしたが会社は何もしてくれない。
   ・ごみの出し方が解らない。
   ・近所とのトラブル。
   ・交通事故にあったのだけれど。
   ・裁判所から呼び出しが来たんだけれどどうすればいいのか。
   ・警察に身柄を拘束されたのだがどうしたらいいか。   
   ・子どもが学校へ行きたくないと言っているがどうしたらいいのか。
   ・夫からの暴力があり、怖くてたまらないけれど行くところがない。
   ・お金がない。
  など、およそ人が暮らしていくことについて起こりうるあらゆる相談が持ち込まれます。
   私たちは、通訳さんを通して、その相談を聴き・受け止め、保証人になり、手続きの内容と必要な書類をアドバイスし、必要であればその手続きに付き添ってきました。外国人の皆さんに活用できる市町村の制度があればそれを紹介したり、会社と交渉して労災手続きをさせたり、トラブルの仲裁に入ってきました。また、専門機関を紹介したり、警察や裁判所に一緒に付き添ったりという活動をしてきました。

(3) 感じてきたこと
   これらの相談を受け、実際に彼らと一緒に動き出す中で、私は随分色々な経験をしました。例えば、言葉の問題です。いつでもボランティアで通訳さんが使えるわけではないので、役場などの手続き時には彼らはとても苦労をしています。特に、病院などで専門的な用語での説明が必要な時、しかも突然の病気の場合などは瞬時に援助が必要なのに、そんな態勢にはありません。市町村の情報についても彼らの理解できる言語では受け取ることができないので、実際には恩恵を受けることはできないのです。
   また、日本の役場や法律の中では、そもそも外国人のことについて想定されていないことがあり、時には不利益を被る場合があります。
   保証人を置くことによって成り立つ社会に疑問を持ったり、日本人にはできないようなことを外国人には平気でする社会にも憤りを感じてきました。
   これらの経験から、外国人は住民である、という認識からはほど遠い、という感想を私自身は持っています。あからさまな外国人への差別は少なくなってきていると感じていますが、彼らが人として尊重されているかと問われれば、否と答えざるをえません。最近では、外国人女性が夫(日本人男性)から暴力を受けているケースについての相談が多く、しかもそのことの解決に公的機関が対処しきれていないことがあり、気持ちが沈みます。
   外国人労働者たちは、その多くが子どもたちを伴って日本に在留していますが、子どもたちの教育についてはとても深刻な事態になっています。話すことばとして(生活言語)日本語はどんどん上達しても、考えることば(思考言語)として日本語を理解することとは全く違うのです。子どもたちの多くは、自らのアイデンティティを表現する言語で話ができても、そのことばを綴ったり読んだりすることができないという事態になっているのです。日本の学校になじめない、日本語での勉強がわからない、だから学校へ行きたくない、という子どもたちや、さまざまな事情から学校へ行けていない子どもたち、そんな子どもたちにどんな生き方や未来があるのでしょうか。特例枠での高校入試を試みようとしても、就職しようとしても、外国人の子どもたちにとっては厳しいのが実態なのです。日本語だけではなく、母語保障をどうしていくのか、を考える時期にきていると思います。

2. 奈良県の定住外国人の実態について

 平成12年度末の全国の外国人登録者数は、168万6,444人で、平成11年度末と比べ13万331人(8.4パーセント)増加し、日本の総人口(1億2,691万9,288人)の1.33パーセントを占めています。
 奈良県では、平成12年度末の外国人登録者数は1万803人で、奈良県人口(144万人)の0.75パーセントを占めています。奈良県内に在住する市町村別外国人登録者数と奈良県内に在住する国籍別外国人登録者数については、資料1、2のとおりですが、いくつか特徴的な点を挙げておきたいと思います。
 1つは、上位6ヵ国を占める国ですが、韓国・朝鮮、中国、ブラジル、フィリピン、アメリカ、ペルーとなっていますが、この順序は全国と同じです。
 2つは、奈良県では韓国・朝鮮国籍は外国人登録者数の54パーセントですが、全国の構成比では37.7パーセントです。
 3つは、フィリピン国籍のほとんどが女性でしかも20歳から39歳までの年齢層が高い割合を占めています。
 4つは、ブラジル・ペルー国籍の人々は日系人とその家族たちです。

3. フィリピン人女性リサさんへの援助のケースから

 ・ 事件の概要、バンクの基本的立場(緊急アピールから-資料3
 ・ 自治体労働者の皆さんに認識して欲しいこと

(1) 在留資格の問題
   リサさんのケースでは、入国管理局で在留期間の更新手続きや在留資格変更手続きを自身の手で行うことができなかったケースです。ご存じのように、日本では、外国人の単純労働については原則禁止されています。例外として、日系人とその家族・日本人の配偶者資格を持った人々にだけ単純労働が認められているにすぎないのです。私は血統主義に貫かれたこの政策と、外国人配偶者に単独で在留資格を認めないやり方には反対です。
   手続きに行った市町村の窓口で、日本人と離婚したら在留資格がなくなり日本にいられなくなる、日本人との結婚で日本国籍が取れる・永住が取れる、という思い込みに基づいた認識がされていることがありますが、それは誤りです。

(2) ドメスティック バイオレンスについての理解
   リサさんのケースは、夫による長期間の虐待・遺棄なのですが、これはドメスティックバイオレンス(親密な間柄における暴力)であり、犯罪です。その結果、心を病んだリサさんは、警察署によってオーバーステイで逮捕されましたが、保護が必要として釈放されたことは、適切な処置をとっていただいたと思います。
   厚生労働省の人口動態統計によると、日本人男性と外国人女性の結婚は1999年は2万4,272組で、1985年では7,738組となっています。女性の国籍では中国7,810人、フィリピン6,414人(いずれも99年)で半数を越えています。
   日本人夫の配偶者である外国人女性は、たとえ夫から暴力を受けていても、離婚によって在留資格を失うことを恐れて、じっと耐えているケースがとても多いのです。明らかに、外国人女性たちは民族差別と女性差別を二重に受けていることを理解すべきです。私が援助したケースでは、女性の出身国のことばを話すな・出身国の料理をつくるな・同じ国の友達としゃべるな、と言われたり、「貧しい」国から連れて来てやったのはだれのおかげか、こんな不自由のない暮らしができるのは誰のおかげか、と女性の出身国をさげすみ、女性の持っていることばや文化などのアイデンティティを否定する夫がありました。

(3) 外国人の医療問題
   病気の人には医療を、というのはきわめて自然のことであり、そのためにあらゆる手立てを講ずることは人として当然の行為です。
   リサさんのケースは、彼女がオーバーステイであることから、生活保護を使っての医療費が捻出できず、「行旅病人及び行旅死亡人取扱法」を適用していただいたのですが、とても苦労しました。

(4) 「告発・通報」の問題
   リサさんのケースでは、奈良県住宅課が「不法残留外国人が県営住宅に不法に入居している」として、逮捕・保護前に法務省入国管理局に「告発・通報」していました。住宅課はリサさんの生活状況や心身の状態について把握できる立場にありながら、人道的立場からの救済を怠ったと私は思っています。
   市町村の外国人登録課は法違反を理由に警察への告発・入管への通報をするケースがありますが、日本人との婚姻や在留資格を持つ外国人との婚姻など人道的理由から、告発・通報を回避し ている市町村は多くあります。

(5) 市民ネットワークとの連携について
   役所は住民の役に立つ所という意味があります。外国人が住民であるとの認識については異論のないところですが、住民である外国人の役に立っているかどうかについては、考える必要があるような気がします。外国人登録や在留資格に厳格なあまり、命に危険があるときにまで至らないと、病院にも行けない国とは一体何なのでしょうか。リサさんが一体どんな罪を犯したのでしょうか。国際結婚をし、夫の要請から日本で暮らすことになり、12年の結婚生活の後一方的に離婚され、心と体を病み遺棄されたことがどんなにつらいことだったのか、残念ながら彼女は語ることができません。リサさんは被害者であって、犯罪者ではないはずです。ビザがなく、不法に日本に残留しているから、退去強制、というのでは、あまりに不合理ではありませんか。離婚する時にはルールがあります。夫の責任や困窮者・病人を放置した社会の責任はなぜ問われないのでしょうか。
   リサさんのケースでは、公的機関と私たち市民グループがお互いの専門領域を大事にしながら、解決への努力を試みることができました。リサさんは医療費の心配をすることなく、入院して治療を受けることができています。リサさんの今後のことについては、まだまだ課題が残っていますが、このネットワーク(奈良県の良心)は大切にしたいと思っています。

4. 終わりに

 「異質」を受け入れることで、日本の社会は検証され、成熟します。外国人とのお付き合いは、私たちの意識を変えるのです。

【資料4 (毎日新聞切り抜き)】