【自主レポート】

多文化共生ローカルアクション&
コンサート IN はちおうじ

東京都本部/ 八王子市職員組合・多文化共生ローカルアクション&コンサート IN はちおうじ実行委員会 遠藤 智子

1. はじめに

 ことの起こりは、東京都の大規模な防災訓練が八王子で行われるということでした。阪神淡路の状況を見ても、今の日本では社会的少数者への対策は決して十分とは言えない。どういう体制があれば一人ひとりの生命が守れるのか、どんな地域があれば良いのか、今こそ私たちの街で考えるべきだと。
 こうした問題意識で実行委員会を立上げ、1日だけの「多文化」な「防災」を「実験」してみました。行政には見えていない、地域の、ごくごく身近な、役に立つ防災体制を展望して。終わった時に参加者が共有化できたものが確かにありました。
 その参加者の中から今度は「コンサートがしたい!」という声があがりました。ストリートミュージシャンに街角で声をかけ、平和や共生をテーマに歌を持ち寄ってもらいました。この2つの年間を通した八王子での「実験」を皆さんにご報告します。

2. 「防災実験」実行委員会結成から当日まで

 実行委員会準備会ができたのが7月17日。八王子自治研センターに間借りをさせていただき、活動を開始しました。呼びかけ人を決めたり、八王子市や労働組合の後援を取り付けたり、消防署にコンタクトを取ったり、神戸からのゲストを決めたりどたばたのうち計5回の会議を経て全体のコンセプトと当日の内容が決まりました。
  ① 社会的マイノリティに対応する防災政策を求める提言を発表すること
  ② 展示については
   ア 八王子市内の湧水マップ
   イ はちおうじで地震が起きたらと言う想定で、軟弱地盤マップと中央高速の盛土地域検証マップ
   ウ 災害時女性に必要なサポート体制と言うことで神戸、ロサンジェルスの経験を元に暴力防止を展望したパネル作成
   エ 障害者に必要な防災体制ということでバリアフリーチェック報告とビデオ上映
   オ 前日の東京都が行った防災訓練ビッグレスキュー2001を市民の目から見ての報告写真パネル
  ③ 体験コーナーとして
   ア ペットボトルでろ過して飲み水を作ってみる
   イ 仮設トイレに入ってみる
   ウ 雑誌でお湯を沸かしてみる
   エ 自分で作れる非常食(お米をビニール袋に入れて茹でる)を食べてみる
  ④ 消防署にご協力いただいて多言語の消火訓練、緊急電話のかけ方訓練
  ⑤ 4回の多言語防災放送(6ヵ国語)
  ⑥ 三宅島と神戸の被災者の方によるパネルディスカッション
  ⑦ 多国籍屋台(韓国・フィリピン・タイ・マレーシア・スリランカ・日本)
 以上の内容で8月25日に「記者会見」も行いました。結果、読売、毎日が取り上げてくれました。(当日報道を見て参加してくれたなんと葛飾区の市民も居たとか)

3. 当日実況レポート

 当日は呼びかけ人の一人である小川和隆さんのギター演奏から始まりました。(ステージは一升瓶のケースの上にコンパネという苦心の賜物)中国の民謡「い族舞曲」に乗せて第1回の防災放送を。呼びかけ人の一言の後2曲目はラテンアメリカの「鐘の音」。穏やかな、心に染みるオープニングとなりました。次の登場は、昨年新宿で「多文化探検隊」を仕掛けた辛淑玉さん。石原東京都知事の「三国人発言」に端を発したマイノリティの危機感を語ってくれました。当事者からの言葉の重さが伝わってきます。
 そこから一転して消防署の皆さんの登場。消火器の使用方法の説明を多言語で行った後、参加者3人一組ずつ消火を実演。「火事だー! 火を消せー!」と大きな声を出すのがポイントとか。緊急電話のかけかたでは2人が実演。こうした電話で、「日本語の全く分からない人がかけてきたら?」という質問には「なるべく英語でお願いします」とのこと。通訳の常駐というのはなかなか難しそうです。消防署から多言語の防災パンフレットを寄付していただきました。きめこまかな内容にびっくり。生命に関わる部署では、よく考えられているなぁと思いました。
 ここで、お昼休み。通りすがりの方や、新聞を見て覗いて下さった方、実行委員も皆で多国籍屋台へ。うどん・チジミ・カレー・ビーフン・デビルライス・サモサ、などなど本格派の味を堪能。ふと見ると通訳の方が屋台で活躍していたり。休日勤務の市の職場で、友達の分までお昼をまとめ買いしにきた人の姿も。(タイのビールの売れ行きもよかったことでしょう)落ち着いたところでシンポジウムへ。三々五々芝生の上に坐っている参加者がなんともリラックスした雰囲気を醸し出します。(東京の遠方からの参加者からは「八王子らし過ぎ」との声も)シンポジストは神戸でFMわいわいという多言語民間FM放送局を震災のさなかにたちあげてきた全美玉さん辛淑玉さん。
 お2人は友人同士とのこと。災害のなかでの傷つきと気付き、思いがどこにも伝わらない悔しさが、淡々と語られました。(詳細は別紙に起こさせていただいています)参加者にも大変印象深かったようです。
 シンポジウムの後は体験コーナー。トイレの材料は、ダンボール、コンパネ、ビニールシートと手に入りそうな素材で作成。車椅子が入れるようにすること、外からいかに見られないようにするかがポイント。
 飲み水作りはインターネット検索他で調査した力作パネルも含め「案外きれいになるものね」という反響をいただきました。例え泥水しか無くても温かいご飯が食べられるということでやってみましたが、「茹でたお米も案外いける」ということでありました。

  

 そして最後は再びステージで今日の実験の「しめ」。4回目の防災放送に先立ち5人の通訳の方の自己紹介を。お一人を除いて地元はちおうじの方でした。結婚して住んでいる方も、留学中の方も。様々な言葉の美しさを再認識させていただきました。
  そして、参加者の方からの発言をいただきました。朝からずーと参加して下さった、八王子視覚障害者福祉協会の小林さん、八王子聴覚障害者福祉協会の小林さん、バリアフリー問題に取り組む丸山さん、八王子市職員組合執行委員長の藤岡さん、中国の留学生からも。障害者の方からは障害者の存在に配慮する必要性を語っていただけました。特に通常の防災放送の聞こえ難さ、そして「生きていると知らせるためのホイッスルを配布してほしい」(世田谷区では配布済み)という発言を。藤岡さんからは3,800人の市の職員の70%が市内在住であること、地域に根差した体制を作っていきたい、来年もこのイベントを続けたいという力強いご意見を。最後の発言である中国からの留学生の方からは「関東大震災の時の様な虐殺行為が二度と起こらないようにしてほしい」というご意見をいただきました。参加者からは熱い拍手が沸きました。こうした皆さんの声が聞かせていただけたことは本当に貴重な体験であったといえると思います。
 最後に代表の松本さんから提言の発表があり、「来年もここで会いましょう」というまとめで閉会となりました。
 参加者は延べ約300人。ある在日朝鮮人の方が感想をこう話してくれました。「今日は皆が私たちのことをかんがえてくれていると感じられて、気持ちが暖かかった。小さくてもこういう集まりが毎年あると良いですね」と。この言葉が一番うれしい「評価」だったと思います。

   

4. 今度はコンサート

 防災実験の実行委員会の中から「ストリートミュージシャンを集めてコンサートをしたい」という案が出されました。9月が終わったばかりではありましたが「1年に2回イベントをやって地域に根付こう」という声もあり、準備に入りましたが準備期間は何やかやで結局2ヵ月。実行委員会が動き出したのは実は1月のことでした。
 コンサートのタイトルは、心をつなごうこのまちで「Chain of Heart」としました。まず、自分もバンドを結成している実行委員の一人が、インターネットや外套での直接の声かけを通して「平和/共生」をテーマとした自作の歌を募ったところ6グループの応募がありました。「せっかくだから全員参加していただこう」ということで当日の構成を企画。前回同様呼びかけ人のギタリスト小川さんとゴスペルシンガー山路さんのほかにエスニックパフォーマンスということで出演者を探したところなにやら知り合いがオレもオレもということだったのか8グループも集まってしまいました。〔少しは多文化度も上がってきたのかもしれません〕何とか形が決まって広報もやり終えて当日を迎えることが出来ました。

5. 多文化わいわいとなれました

 天気も上々、新しく作った横断幕もなかなか。しかも今回は3月のこととて草刈もなくスムーズな滑り出しと思えましたが音響は難関でした。普段の「集会」には要求されない「音質」が問われるわけで、多文化の文化的な面に気づかされたのは収穫でした。前回に引き続き市内在住の皆さんからエスニック屋台や出店が4グループ出店。2回目ということもあって和気藹々としたムード。「知り合えた」という感覚が満ちていたように思います。
 ストリートミュージシャンの皆さんの演奏は聞くほうも演奏するほうも、初体験で初舞台。演奏側からは「初めてこういう舞台でやれてうれしかったけど、どきどきした」〔普段は壇の上で演奏していない〕。聴衆側は「想像していたよりもはるかにレベルが高くメッセージ性も高い」と双方大満足でした.。
 エスニックパフォーマンスは実は屋台のスタッフのほとんどが参加。タイカレーを売っていたあの人が踊り、揚げバナナを売っていたあの人が歌ってくれたわけです。地元にこんな人たちがいたのか、と通りすがりの観客の感慨深いものがあったよう。フィリピン人の皆さんのモダンダンスが一番人気だったでしょうか。また、出演者の中で一際輝いていたのは馬頭琴の演奏。彼は実はプロの演奏家で、実行委員のメンバーも参加していた中国内モンゴルの子ども達の就学支援に向けたチャリティーイベントで来日していた方でした。
 全参加者は300人ほど。ストリートミュージシャンの皆さんを集める手立てが不十分だったのは反省材料ですが、また、暖かい場所に出来たことは本当に成功でした。

6. 「いつも」が大事。今年も「実験」準備中

 実行委員会で防災の在り方を考えていくうちに見えてきたのは「日常から多文化な、バリアフリーな地域を作ることが必要なんだ」ということでした。
外国籍住民の読めないリーフレットや、高齢者に食べられない給食や、車椅子の入らないトイレや、避難所での性暴力はマイノリティーの存在を忘れているからこそなのではないかと。常日頃から多文化でバリアフリーであれば、マイノリティーにとって「あたたかい」場所であるなら、災害の混乱時の中でも誰かが少数者に気付く。そして配慮することができる。私たちの「実験」は少しだけその日常を作る役に立ったと感じています。続けてコンサートにも取り組めたことで、「多文化」を日常に少し近づけられたと思います。
 この報告を書いている今は、9月の防災実験の実行委員会を立ち上げるところです。実行委員会のなかで、市職は「屋台骨を支える」役割を果たせたと思っています。人と場所と一定の資金は、実際、運動の継続に欠かせないものです。私たち自身の仕事の改革につなげる意味付けを持ちながら、市民の皆さんとの協働を続け、「年中行事」として八王子の街で多文化が根付くよう取り組んでいきたいと思っています。

多文化共生防災実験 ローカルアクション・IN・はちおうじ

防災体制についての提言 (案)

多文化共生防災実験当日のメニュー(一部抜粋)

多文化共生コンサート IN はちおうじ実行委員会からの呼びかけ

多文化共生コンサート・IN・はちおうじ