【代表レポート】
食の安全保障をめざして
北海道本部/札幌市役所労働組合
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1. 学校給食の状況
現在全国で実施されている学校給食は、明治22年現在の山形県鶴岡市の小学校で、飢餓児童救済のための食事提供が根源になっていると言われています。
その後、戦後の混乱期の日米関係にも一役を担い、長い年月が経過し学校給食は教育としての重要性が認められ、1954年(昭和29年)学校給食法が制定されました。
このことにより全国の児童生徒が学校給食を受けるに至り、学校教育に於ける重要な教育活動となって半世紀が経過しようとしています。
その後、学校給食の内容も歴史を重ねると共に、質や量の充実が図られ食生活の改善はもとより、児童生徒の体位の向上に貢献してきたところです。
現在は、「飽食の時代」と言われるように、多種多様な食材が氾濫する食事環境の中で、児童生徒の健康面に変化が生じていることは社会的責任として避けることはできません。
家庭や外食産業での偏った食事内容から来る栄養のアンバランスによる微量栄養素が不足し、肥満児童が増加したり、生活習慣病で悩んだり、アレルギーやアトピーの症状で困っている児童が増加傾向にあることは十分認識しなければなりません。
<資料>
H13年度アレルギー調査(S市) |
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発症率
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児童数
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小学校
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3.4%
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98,000人
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中学校
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4.9%
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53,000人
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原因物質 |
① たまご ② 牛乳 ③ キュウイフルーツ
④ えび ⑤ りんご |
※アトピーとは、アレルギー症状でできる皮膚障害のこと
そばアレルギーについて
発生 昭和63年12月
このような現状の中で学校教育としての学校給食の役割は一層重要であるといえます。
「教育とは教職員と保護者、地域住民が協力し合うこと、その環境づくりを行政が責任を持って担う」このことによって社会貢献できる人間育成が達せられるものと考えます。
昨今は自治体の財政状況が厳しいという理由で学校給食に対する合理化が全国で進められています。
未来を担う児童生徒の命を維持する教育としての学校給食を財政難を理由に合理化されることに大きな疑問を感じるところです。
そこで学校給食が果たす使命として「教育の給食」をどのように実現させるかが課題になっているのが現状です。
課題の1つに、教育法の中で、学校給食の提供が奨励法であり「教育の一環」でしかなく、義務法でないことから現状の様に自治体の財政状況に左右され、首長の考えで学校給食が安易に合理化されているように見受けられます。
学校給食を安心して提供できるよう地域住民と共に検討していく必要があります。
又、次の課題として「食事環境の整備」が重要と考えます。これからの学校給食は児童生徒にとって和やかに楽しく食事をする場面の整備をすることによって、望ましい食習慣の形成を構築し、調理員・栄養職員はもとより教職員と児童生徒の交流の場として、良好な人間関係を育成するためにふさわしい環境整備が必要となります。
又、地場産物や郷土食の導入などを通し食文化の継承や、郷土を大切にする心の育成が図られることとなります。学校給食の準備などの共同作業を通して、協力・協調性・などを培い相手を思いやることを学ぶことができます。
このように学校給食のなかで他の教科との関連を図った多様な教育効果を期待することができます。
こうした学校給食の可能性を拡大充実させ「ゆとりある楽しい学校給食」となるよう環境を整備し、児童生徒が生涯をとおして安全で健康な生活をおくるための食生活の基本を習得させることが今後の課題となっています。
こうした学校給食の環境整備を実現する為には、学校と家庭の連携がより密接になっていかなければなりません。
アレルギーなど児童生徒の健康状態を把握しながら、特別メニューを感じさせない調理技術も必要になっています。
学校給食に関わる職員の理解と学習は当然ですが、何よりも大切なことは学校と家庭との連携です。つまり学校給食で栄養、バランスの組み立てを考え、献立を作成する専門職員(栄養士)の能力と知力を活用することによってアレルギーやアトピー等で悩んでいる児童生徒の家庭の問題解消へとなることから学校と家庭との連携が重要な課題となっています。
楽しい食事は学校給食のみではなく家庭と一体となって食事を考えることが障害を持った児童生徒ばかりではなく健常な児童生徒にも重要な課題になっています。生涯にわたって自分自身の健康管理をできる能力を育てることがこれからの学校給食の大きな役割になっていると言えます。
今日までの画一化した食事を喫食することから、児童生徒が自分自身の健康を自身で考えられる能力を学校給食を通して身につけることのできる「食教育」が重要となっています。
飽食の時代と言われて久しい現在ですが、そのことに象徴されるように多くの残食が発生しています。
栄養のバランスを考えて提供されている学校給食のはずが、日常的に残食が多く発生しています。
考えられる原因としては、今までのように無理に喫食させる必要はないという指導がなされ、喫食時間の確保が困難となり、又、児童生徒の嗜好の変化等が考えられ、学校給食の目的意義と矛盾するところであります。
今後、学校給食の果たすべき使命を考えると児童生徒が自分自身の健康管理を生涯にわたって習得できるよう、バイキング・セレクト・リザーブ方式など学校給食に可能な限り取り入れ、喫食時間を十分確保する必要があると考えます。
2. まちづくりと学校給食
学校の施設と職員は、地域のニーズに応じた利用価値の高い機能が求められています。
女性の社会進出に伴い、全国に20,000人余りいるとされている学童保育待機児童は、共働き家庭にとって安心して児童が過ごせるところとして学校の空き教室を学童の活動の場として利用することにより、食事のサービスも身近なところで安全な提供ができることになります。
このようにして安心して親が働くことのできる環境づくりもこれからの学校の役割として重要な視点となることでしょう。
児童生徒の減少に伴い、各地で学校の統廃合が進められています。
都心部の老朽化した校舎で児童生徒数が減少しているところを建て替え複合施設併用校舎として地域住民に開かれた学校施設として利用されています。
広島県広島市の袋町小学校では2000年4月、原爆等の資料館と併用し、広島らしい複合施設併用学校として誕生しています。
神戸市では、高齢者への食事サービスとして10年前から調理員が週1回調理し「あじさい給食」として親しまれ定着しています。又、札幌市では都心部の児童減少に伴い小学校の統合を進め、保育園併用の小学校を建設中です。
このように学校は、地域住民のためのまちづくりとしても複合施設併用の教育施設としての役割等が重要であり、地域住民にとってコミュニティーの核として、多機能を有する学校の機能を活用できるシステム作りが急がれています。
阪神淡路大震災では、災害時の拠点として、その成果は十分実証されたところです。
生活環境が衣・食・住で成り立っているとするならば、学校に不足しているのは「衣」のみであり「食」と「住」は整備されていると言えます。
このように地域住民が、学校を地域の活動の場として利用できるように開放し、食事のサービスを提供できるよう調理員をはじめ、教職員が一体となって取り組む必要があります。
既に、調理員が三期期間中(児童生徒の春夏冬休み)の取り組みとして、給食フェスティバルなどを開催し学校の活用として食事のサービスを実践し、地域住民から緊急時の食事サービスや、その他学校機能活用時の食事サービスについて理解されている地域が増えています。

又、学校給食の食材の確保も重要な課題となります。
安全な食材は、より身近な所から手に入れる事が最も安全な方法であり地域の活性化にもつながることはもちろんですが、児童生徒にとって、生産者の顔が見える生きた教材として教育効果を高めることにもつながります。
更に学校給食での、食べ残し等による肥料化の取り組みも進められていますが、こうした取り組みにより生産から消費まで学校給食がまちづくりを担うことになります。
3. BSE問題と学校給食
学校給食は、安全で安心できる食事サービスを、教育の一環として、又教育活動として重要な役割を果たすものです。
成長期の児童生徒が安全な食材でバランスの良い食習慣を身につけることにより生涯にわたって健康管理できる能力を育てることができるのです。
そのような学校給食の食材は給食に携わる者が責任を持って選択し調理しなければ児童生徒、保護者との信頼関係は成り立ちません。
ところが、近年学校給食を取り巻く食材は、多種多様であり輸入食材の氾濫、食品添加物、遺伝子組み替え食品、飼育過程の不明な食肉や卵など限りがありません。
給食を提供される児童は食材の選択はできません。調理する立場から、安全性を優先し、社会的にも安全性と必要性が認められた食品を使用しなければなりません。
1996年に発症した病原性大腸菌O-157は大きな社会問題へと発展し、学校給食を脅かしました。
学校給食では、原因の追及は当然としながら、防止策として安全な食材の確保に全力を注ぐことを決意し、文部科学省・厚生労働省と情報交換しながら対策を立ててきました。
又、近年最も多く発症しているサルモネラ菌による食中毒は原因の追及が非常に困難とされています。
鶏肉・鶏卵の調理は加熱調理を基本に最善を尽くしていますが、飼育過程にも問題があることから注意が必要と思われます。
2001年9月には、BSE(牛海綿状脳症)に感染した牛が発見され大きな社会問題となり政策的な対応が問われ解決に至っていません。
発症以降学校給食では、安全性が確保できない牛肉の使用を中止し、牛肉製品のエキスのはいっている食品(ビーフシチューの素・デミグラスソース等)の使用を取りやめ代替食品を使用する等の対策を行ってきました。
このような時も、家庭との連携が重要でBSEに対する知識の提供と学校給食での安全対策を提示し児童生徒と保護者への理解を求め大きな混乱は全くありませんでしたが、BSE問題は食文化そのものが問われているのであり、学校給食ではそのことを重要な課題として考え、食教育の充実に向けた方向性が求められています。
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