【自主レポート】

市町村合併・政令市と学校事務
-さいたま市の経過から

埼玉県本部/学校事務ネットワークさいたま

1. 2001年5月から

 市町村合併が各地で進められているが、市民自治を推進する組合としてどのような準備が必要か。教育現場で総務全般を担っている学校事務職員の組合として、さいたま市で進行している合併・政令市移行の事態を報告したい。全てが始めてのことでこれまでの蓄積が役立たない場面があり、先行した自治体の経験を参考にすることしかなかった。
 市町村への合併促進法は2005年までの時限立法。合併による教育行政への影響は様々に現れると考えられる。政府は2001年8月31日閣議決定で文部科学省関係の合併支援策5項目を打ち出した。①教職員定数の激変緩和措置、②遠距離通学への対応、③公立学校施設整備、④学校給食施設、⑤廃校の有効利用。教職員定数の激変緩和は、合併に伴い学校が統廃合され、学校数が減少し、教職員定数が影響される場合定数の上乗せを可能にした。その他、遠距離通学への対策としてスクールバスの購入補助を拡大する支援策も盛り込まれている。逆に、過疎地にあっては学校の統廃合を財政的に有利に運ぶために、合併への動機付けが生まれることもありえる。しかし、このような5項目はさいたま市では該当しない。

2. 埼玉県は14市に再編成の計画

 埼玉県では「地域創造プラン」で県内を14の都市圏、5つの複合都市圏として再編成する考えを明らかにしている。さいたま市の誕生に刺激を受けて川口市を中心とする県南各都市は70万人口による政令市構想を打ち上げている。また、志木市長は14のうち近隣2都市圏を併せて政令市構想を表明している。
 さいたま市はいち早く2001年5月1日に13番目の浦和、大宮、与野市が対等合併し、2003年4月の政令指定都市を目指している。2001年5月27日には大宮、浦和を二分する市長選が行われ、旧浦和の相川市長がさいたま市の市長となった。政令市に向けて上尾市、伊奈町とのさらなる合併が焦点の一つであったが、住民投票によって上尾市がさいたま市に加わらないことが決まった。自治労に結集する学校事務ネットワークさいたまは、市民の豊かな生活が世代を越えてさいたま市に実現する教育が行われるよう主体的にかかわっていく必要があると考えている。(注1
 2001年8月23日、さいたま市区画審議会は区割り案と区役所の位置案を示した。それによると9区に分割。自治会や町会など地域コミュニティを尊重したものと述べられている。公立小中学校の通学区は旧浦和、大宮地区で分断される箇所がでている。このため通学区域については区域外通学など地元の要請に基づき柔軟な対応が求められている。
 さいたま市への県からの事務委譲は法令等必須事務など568件。県費負担教職員の任用では小中学校等の教員採用は平成15年度が共同実施。16年度以降は問題作成、試験日の統一実施。人事異動は県市の協議による人事交流。給与は県の例規が適用され、運用においても差が出ないように決定する。この他、県費教職員の給与事務、研修、非常勤講師の採用など多岐に渉る事務について詰めが行われてきた。

3. 学校事務ネットワークの取り組み

 2001年6月27日から行われた最初のさいたま市議会に先立ち、学校事務ネットワークさいたまは6月6日要求書を提出し、6月22日には最初の市教委交渉を持った。旧地区の業務の相違を克服して、少しずつ学校事務職員が予算執行を担っていくことの意識が浸透してきている。ただし、旧大宮地区では学校財務端末さえ触ることができない学校事務職員も見受けられ、次年度の公務分掌期に向けた徹底した市教委からの指導が必要となった。2001年10月12日には次年度に向けての「学校予算に関する要望書」を提出した。このような取り組みによって児童生徒のニーズを直接聞いて予算化したり,PTAの集まりなどで公費予算の説明を行うなど情報提供の試みも部分的に行えるようになってきた。
 2002年7月26日、市教委交渉において様々な課題を巡って交渉が行われた。この中には児童生徒のプライバシーをどのように保障するかなど市民自治の基本的なことも要求している。(注2注3
 このような個別課題のみならず、学校事務ネットワークさいたまは地域教育政策を自治労の仲間と検討しながら、現場から市民主体の学校運営を目指していきたいと思っている。そのためには、自治労の組織活動を積極的に情報公開し透明性のある組合運営が不可欠である。その手段としてインターネットの積極的な利用が必須である。学校事務ネットワークさいたまは、組合員が学校1人という配置状況によるコミュニケーション不足を克服する必要からも、組織内の連絡を含めて積極的にインターネットを利用している。利用を始めるに当たってアンケート調査を行った結果、5割を超える組合員がインターネットにアクセスできることが判明した。しかし、現場での課題を家庭に帰ってまで情報を得たり、意見交換することに抵抗感が強い。そのため、職場で休憩休息する時間帯に情報交換できるシステムはどのように構築できるか検討中である。(学校事務ネットワークさいたまのホームページ。http://plaza26.mbn.or.jp/~SAI_GAKU_ROU/

4. オンラインシステム

 学校財務システムの内容もこれから、政令市に向かってさらに合理的なシステムを作りだしていく必要がある。教育サービスの現場に近い課所で業務の決定が図られることが望ましい。備品も含めた校長決裁による迅速な会計システムが2年目の2002年4月から始めることができた。商品知識や校舎などの修繕に関する知識の学習がさらに必要となっている。さいたま市では旧大宮市で行われていた富士通の学籍システムを全市に導入した。学籍担当者は教頭か教務主任と市教委から指導がなされたにもかかわらず、学籍の端末が旧浦和地区では合併協議会の予算の都合から事務室におかれたため、職員室への移設(プリンターの設置)が課題となっている。すでに学校配当予算内での移設、増設の方法で合意ができているにもかかわらず、十分な取り組みが行えなかった。
 政府は電子政府(霞ヶ関WAN)、地方自治体は2003年までに電子自治体を目指している。さいたま市では「じょうほう快適都市」と名付けて電子市役所を計画している。その中の緊急方針個別システムにはイントラネットの構築も含まれている。文書管理も近い将来電子ファイルで交換するように想定されている。このように文書管理も大幅に変わりオンライン化されていく可能性がある。134校に散らばっている学校事務のイントラネット構築は必要不可欠な要素だ。市教委の関連部署を含んだ情報の共有、執行速度の効率化がベースとなって各学校独自な学校経営と学校事務の発揮があると考えられる。
 学校事務の業務の大部分がオンライン処理になるのは時間の問題だ。だが、行政機関主導の情報化は市民の一元的な情報管理を生み出す危険性を伴っている。電子政府・電子自治体構想にも巨大なイントラネットとして「セキュリティ」という名の下に閉じられた管理の網の目が作られることでもある。しかし、オープンなインターネット環境に依拠する限り閉じられた電子空間は幻想に終わるだろう。最重要な情報はアナログで保持し利用することも検討されなければならないと思う。
 政令市になると県教委の出先機関である南部教育事務所との関係も変化する部分がでてくる。給与や福利厚生などの事務についても埼玉県とさいたま市で協議を行っている。すでに旅費執行については義務制の学校以外はオンライン処理で行っている。また、給与例月の実績報告について、学校からのオンライン処理を千葉県などでは始めている。

5. 総合行政の一貫としての教育行政を

 地方分権から教育行政の将来を考える場合、教育委員会制度が市民自治と必ずしも合致しなくなってきている。総合行政から教育行政をみる観点が必要である。地方自治体の各部署もこれまでのように個別に業務をこなすのではなくオンラインで結んで総合行政の一環として多機能な役割を求められていくと考えられる。学校が児童生徒の義務教育のみを担っていればそれで教育サービスとしての信頼を得た時代は終わった。失業率は5%を超え、金融機関の破綻と再編成が進んでいる。バブルの付けである不良債権は今なお処理されていない。学校を卒業しても就職機会は限られている。このような中で地域社会と無縁に学校が成り立つことを想像することは不可能だ。地域の防災やリサイクル拠点、そして地域給食サービスなど地域のニーズに応じた機能を推進することを学校に働く側から提案する必要があるのではないか。高齢者等のデイケアサービス施設や社会教育機能など柔軟な施設利用、そして子どもたちのとの交流が検討課題である。
 学校が多機能化するのと同様に、オンライン化された学校事務の存在も多機能化することが課題となっている。学校事務の共同実施も、オンライン化の問題としても発想を転換する必要がある。一ヵ所に人を集めて集中的に、そして分業処理することで効率化が図るのが唯一の方法ではない。地方自治体ごとの学校事務の共通基盤を向上させながら、なお、個別の地域の学校での実践を積み上げる、1つのツールとして情報ネットワークの活用は有効であると考えられる。

6. 県費教職員の政令市移管問題

 教職員の県費負担制度は、現行では大きなねじれが起きている。任命権は政令市にあるにも関わらず、給与の負担は道府県が負担している。2001年、文部科学省は地方分権改革推進会議のヒアリングで政令市に勤務している道府県費教職員は国庫負担を政令市に移すことを検討すると明らかにした。それを受けて、中間報告において推進会議は義務教育費国庫負担制度自体の廃止(経過措置としての交付金制度)とは別に政令市問題を俎上に上げた。これが実現すると政令市においては独自の教育政策が行える余地が増えるが、同時に給与負担や給与事務についての事務費の計上が必要となる。12政令市で県費教職員86,061名(内、事務職員3,834名)。給与負担は4,114億円。税財源の委譲など検討が必要となっている。土屋知事は全国知事会の会長を務めている。埼玉県の2003年度省庁要望に「都道府県と政令指定都市間の県費負担教職員制度の見直しについて」が新規で加わった。定数、学級編成の権限とともに給与負担も政令市に負担して欲しいとの要望である。 

7. 21世紀都市型の学校事務のあり方の模索

 さいたま市は首都圏のベッドタウンとして機能している。地域的な人間のネットワークは歴史が浅く、保護者の生活への多様なあり方、そして次世代への期待の多様なあり方に応えなくてはならない。さいたま市では学校評議会はつくられていない。また、学区の選択制も導入されていない。複合的な学校施設についても旧大宮時代につくられたのみである。さいたま新都心を中心に寄せ集めの巨大都市としてどのような行政需要が教育や学校にあるのか未知数の部分が多い。官主導のまちづくりではない手法で、将来を担う若者が自己実現をこの街でこそ可能だと思える基盤をつくることが求められていると思う。
 新しくつくられた街に豊かさが世代を越えて作られ続けるためには、学校にいながら、しかも総合的な地域のあり方を同時に感知できる学校事務職員が必要だ。そしてこれを可能とするには総合行政ネットワークシステムと地域の自治を担う都市型の人脈(アナログ、デジタルを問わないネットワーク)形成が大切であると思う。この交流の交差点として自治労に加入しているさいたま市の自治体職員とともに、学校事務ネットワークさいたまも機能していきたいと思う。

<注1>

2002/7/4

さいたま市政令市化に伴う環境の変化

2002(平成14年)/10
 地方分権改革推進会議答申(教職員給与70万人約3兆円を含む国庫補助負担金制度廃止等)
2003(平成15年)/4
 県費教職員の給与人事がさいたま市へ移譲される。
 具体的には
  ① 教員の採用は、平成15年は県と市とで共同実施(平成16年度以降は独自採用)。※事務職員採用については触れられていない。
  ② 人事は協議人事※現職の実際的運用
  ③ 研修については今後の協議(新任事務職員研修は市で実施)※教育研究所の組織的整備
  ④ 給与については県準拠。※昇級昇格基準など給与課題の整理
  ⑤ 給与人事電算は市で実施(共済組合、旅費請求は南教)※実務スケジュール確認
 学級編成に基準の設定権限をさいたま市へ移譲。事務栄養職員定数の国の縛りははずす。従って、定数改善計画からはずれる可能性がある(地方分権改革推進会議中間答申2002/6)※事務職員定数について事前確認
 政令市の道府県費教職員は政令市に国庫負担先を変更する。(地方分権改革推進会議中間答申2002/6)※税財源、給与持ち出し分、人事給与電算処理体制
2004(平成16年)/4 
 国準拠であった教員給与が、国立大学の独行化に伴い根拠がなくなる(文科省「公立学校教員の給与制度等に関する検討会議」)。文科省は国庫負担基準を国行に(人確法分の)一定の係数を掛けて算出する方向。
2006(平成18年)/4
 公務員制度改正に伴い教員給与の全面見直し。教職調整額、義務教育等教員特別手当、定時制通信制手当などが見直しの対象と考えられている。
2XXX年  義務教育費国庫負担制度廃止。交付金化へ切り替わる。(地方分権改革推進会議中間答申)
2XXX年  交付金から地方交付税措置へ移行。(地方分権改革推進会議中間答申)

<注2>

2002年6月28日

 さいたま市教育委員会
  教育長 臼杵 信裕 様

さいたま学校事務ネットワークさいたま
代表 中村 文夫

諸集金徴収に係る個人情報の保護についての要請

 給食費は公金としての取扱が必要であると考えます。現在は、学校長裁量により曖昧な取扱が行われています。当面、次の点に関して早急な改善を要請します。
 給食費等の諸集金を金融機関に委託する場合において、児童生徒の個人情報を保護する必要があります。さいたま市個人情報保護制度では、個人情報保護条例第7条(外部提供)、同10条(委託に伴う措置)が定められています。これらによると金融機関との間で口座振替契約を結ぶ場合には、「さいたま市個人情報取扱事務の委託に関する基準」に示された個人情報の適正な管理についての項目を入れる必要があると思われます。これは事例にある「個人情報取扱特記事項」を金融機関に守ってもらうように要請することです。下記の場合について具体的な保護に向けた取扱の検討及び指導をお願いします。

1. 金融機関との口座振替契約を結ぶ場合に上述の個人情報保護規定に契約内容が含まれていない場合がみうけられるが、徹底を図るように学校への指導を行うこと。
2. 同様に実施にあたっては、保護者への同意・承諾を得るように努めることを指導すること。
3. 個人情報の金融機関への情報提供がペーパーから電子情報(当面はフロッピーディスク)へと変化してきています。今後、オンライン処理が要請される状況に至った場合、個人情報保護条例第8条の「電子計算機の結合の制限」の項目が適用されることを周知すること。
4. 個人情報以外の学校情報については地域、保護者へ積極的な情報提供・公開を行うように指導すること。特に、学校財務情報の公開が行われていない場合が多いように見受けられます。積極的な情報提供を行うように学校への重点的な指導をすること。

<注3>

2002年6月6日

 さいたま市教育委員会
  教育長 臼杵 信裕 様

学校事務ネットワークさいたま
代表  中村 文夫

交 渉 要 求 書

 下記の要求事項について早急に交渉を設定し、改善をはかられることを要求します。

1. 「さいたま市学校財務事務取扱要項」の策定を早急に図り、学校事務職員を財務事務取扱者として明確に位置づけること。そのための作業委員会を設置し、学校事務ネットとの間で協議を始めること。
 また、当面の措置として、財務事務の担当者として学校事務職員とする指導を行うこと。
財務課、用度課は財務事務の学校窓口として学校事務職員を取り扱うこと。
2. 学校備品の管理システムの策定を図ること。実態に即した使い勝手の好いシステム策定のための作業委員会を設置し、学校事務ネットとの間で協議を開始すること。
3. 政令市に向けた県からの業務移譲について、特に給与事務関係の取扱について簡便で合理的な事務執行ができるシステムを構築すること。移譲に伴って業務内容の変更が考えられます。細部に渉る協議を行うこと。
4. 電子自治体化に伴う学校へのイントラネット設置については、使いやすく実効性のある導入を行うこと。電子文書の取扱など業務問題について協議を行うこと。
5. 第7次定数改善に関する事務職員の加配について積極的な対応を行うこと。具体的な加配のあり方について協議を行うこと。
6. 教職員の義務教育費国庫負担制度を政令市に移管する課題について調査を行うとともに、問題点について協議を行うこと。
7. 学校事務職員に対する教育研究所による実務研修の枠の設定、総務課職員研修センター研修への参加ができるように改善を行うこと。実施にあたっては研修内容について協議を行うこと。
8. 業務問題に改正がある場合については、事前協議を行うこと。