【自主レポート】
総合生涯学習センター開設を契機とした、
生涯学習推進体制の構築の取り組み |
大阪府本部/大阪市職員労働組合・教育支部
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1. 「生涯学習大阪計画」のいっそうの具体化をめざして
全市的なマスタープランである「大阪市総合計画21」の各論編として、「市民がいつでもどこでも、必要に応じて楽しく学び続けることのできる人間尊重の生涯学習都市・大阪」の実現を基本目標とする「生涯学習大阪計画」(以下「大阪計画」)が92年に策定されてから、10年が経過することとなります。
05年を目標年次とするこの「大阪計画」に沿って、この間、多くの施策が展開されてきました。特に、それまで大阪市では、公民館がない中で対象別社会教育施設を拠点として生涯学習施策を展開してこざるをえなかったのに対し、この「大阪計画」では、「地域」「ターミナル」「広域」の3つの学習圏を設定し、各学習圏ごとのシステムを構築し、3システムを統合する形で生涯学習支援システムを実現させることをめざしたものとなっています。この間、「ターミナル」については全6館で構想された市民学習センターが4館まで整備され、「地域」についても03年度予定で全小学校区において生涯学習ルーム整備が進むなど、着実な成果をあげています。また、区における生涯学習の推進など、教育委員会以外の一般行政の分野でも学習・文化・スポーツ活動に関する施策が拡充されてきています。
しかしその一方で、「大阪計画」が基本目標達成のため掲げた6つの基本方向について、まだ多くの課題が残されていることが浮き彫りとなります。例えば、「統合化(インテグレーション)」に関わっては、家庭、学校、社会教育などの生涯にわたる学習機会が、なかなか体系化されていないという課題、「働きつつ学ぶ(リカレント)」については、リカレント教育機関の設置が十分体系付けられていない、というような課題です。
支部としては、単なる「広域」支援システムの中核施設としてだけではなく、こうした課題解決をはかり、「大阪計画」に沿った全市的な生涯学習施策を総合的かつ効果的に進め、市民の多様な学習ニーズに対応するための中核施設として、「総合生涯学習センター」(以下「総合センター」)の建設が必要不可欠という認識に至りました。
2. 支部としての問題意識A:「総合センター」機能及びその心臓部「生涯学習情報提供システム」の構築
(1) 「大阪計画」で方向づけた学習圏ごとの環境整備についても引き続き進めつつ、家庭教育、青少年教育、成人教育等の時系列に沿って、生涯にわたる自主的な学習活動の総合的な支援体制を整備することが重要です。
「総合センター」では、対象別社会教育施設をはじめとする全市的な情報を一括して把握し、体系的な視点から、各施設・機関の事業実施内容・日程等についての調整をし、さらにはネットワークを活かして新たな施策をコーディネートする機能を果たすべきと考えます。
この調整・コーディネート機能の基盤となり、「総合センター」のいわば心臓部となるものが「生涯学習情報提供システム」(以下「情報システム」)です。学習事業、施設、団体・サークル、講師・指導者、教材・資料、情報源情報、学習プログラムの7分野について、大阪市の生涯学習情報を網羅するデータベースを立ち上げ、ホームページ等の手段で市民に情報提供を行うとともに、全市レベルで関係職員・指導者を企画立案等の面から支援するという機能を十分果たさねばなりません。
(2) 「情報システム」は「総合センター」開設と機を一にして稼動すべきものであり、これが稼動すると、データベースに随時更新される正確かつ質量ともに豊かな情報をもとに、個別ニーズにあわせて総合的学習相談機能を立ち上げることが可能となります。区役所、社会教育施設等、市内の多くの施設・機関について、「情報システム」の業務用端末を設置することで改めて学習相談機関として位置づけなおし、キメ細かい相談体制を構築する必要があります。
(3) 生涯学習に関する国内外の情報収集・調査研究機能としては、対象別社会教育施設等に分散しがちな資料を「総合センター」に一括して整理・収蔵し、さらに新規図書を購入することにより拡充整備したうえで、調査研究活動に携わる関係職員・指導者を支援するためのライブラリーを設ける必要があります。
(4) 障害者や在日外国人をはじめとする、経済的・時間的・身体的等、さまざまな理由のため学習機会への参加が困難な人たちへのアウトリーチの取り組みはようやく緒についたところです。(3)であげた調査研究機能を活かし、民間や各種団体との連携をはかりつつ、新たなモデル事業の企画開発をする必要があります。
(5) すでに本庁等で行われている、「生涯学習インストラクターバンク事業」(ボランティア講師登録・派遣制度)や生涯学習推進員(小学校区単位で事業の企画・運営等の活動をするボランティア)といった生涯学習に関する指導者・ボランティア対象の養成・研修事業について、「総合センター」がその拠点施設となり、合同研修の実施や、情報交換コーナー設置や交流会の開催等により、指導者やボランティア、職員相互のネットワークを広め深める必要があります。
(6) 市民参画という観点からは、PTAや子ども会など既存の社会教育関係団体との連携や、受講者グループへの支援等に加えて、今後は、NPOをはじめとする市民団体との協働を進める必要があります。「総合センター」においては、「場」(小ミーティング室やワークステーションなど)の整備はもとより、「予算」(協働事業のための補助金や委託料)や「制度」(NPOへの施設運営委託など)についても整え、市民持ち込みの企画に行政が参画するといった形を含めて、さまざまな形での事業の協働実施の方向性を探る必要があります。
3. 支部としての問題意識B:大阪市の生涯学習行政の構造改革
支部は、いまあげた「総合センター」そのものの必要性に加えて、これまで中核施設不在のまま構築してきた大阪市の生涯学習行政の実施構造を、「総合センター」開設を機会に改革すべきだと認識しています。
(1) まず、「総合センター」を中核施設として、2.であげたような「総合センター」の調査研究機能・コーディネート機能・モデル事業開発機能を活かして、全市的な事業実施体制を再編・体系化する必要があります。
(2) 本課は、事業実施を担うべきではなく、全市的な施策の企画・立案・推進に収斂するべきです。特に、「大阪計画」の目標年次である05年以降の生涯学習施策推進を方向づける「次期大阪計画」や「生涯学習基本条例」が必要であり、それらの策定業務を担うべき本課機能を充実すべきです。
(3) 市民学習センターについては、もともと、「住区や行政区における生涯学習関係の施設・機関・団体等の活動に対する支援」の役割を果たすということで「大阪計画」に構想されたものです。全市レベルで関係職員・指導者支援にあたるとする「総合センター」が現実化した後は、施設機能を特化する必要があります。また、他の施設・機関についても、同様に、「総合センター」との機能分担をはかり、施設機能を特化していく必要があります。
(4) 学習事業の進め方については、いまだ職員の企画運営による行政主導型となってしまうことが多々ありますが、今後は市民(個人)、市民学習グループ、NPOにより自主的に学習事業の企画運営が進められるよう、行政としてはモデル事業の企画開発と、そうした研究成果や豊富なデータベースを活用した関係職員・市民指導者支援をすることにシフトを変更していく必要があります。
特に、「行政が自ら実施する必要がある事業」という市民への説明責任を果たせるかといった視点からも、行政として果たすべき役割を、成人基礎教育(識字、IT基礎講習など)、生涯学習活動のきっかけづくり(入門講座的なもの)、学習環境整備(場の提供や情報提供、広報支援、条件整備など)、民間が着手していない分野でのモデル事業企画開発(人権啓発等)等に精査・限定し、現行施策を見直すべきだと考えます。
(5) 生涯学習施策にかかる予算についても、事業の進め方に即して、《市民の自主的活動を支援するもの》となるよう、大きく組みかえていく必要があります。
(6) 施策の進め方や施設・事業・予算の新たな方向性を打ち出すにあたっては、専門職員の担ってきた業務・職域についても、時代の流れ・市民ニーズの多様化に対応するよう、より専門性を高める観点から要員積算根拠なども含めてその有り様を見つめなおし、これまでの支部の自治研活動も踏まえて、新たな専門性確立・職域確立をはからねばならないと考えます。
教育支部組合員には多くの専門職員がいますが、特に「総合センター」を中核とする生涯学習推進体制確立の鍵を握る職種・社会教育主事を例に考えてみます。社会教育主事については、現状では「当日の会場準備も受付も司会進行も、事業のことなら何でも自分でする」オールラウンドプレーヤーのように認識されがちですが、本来は、法律の定義でもある「社会教育を行う者に専門的技術的な助言と指導」をすることに徹し、市民学習振興に資するプランナー・コーディネーターとしての役割を果たす職種であるべきです。本課や「総合センター」はもちろんのこと、本来は主事を配置すべきであるのに配置されてこなかった施設・機関も含めて、施策の企画・立案や、調査研究・企画開発、市民の学習環境整備等を担う職場にこそ社会教育主事を配置するようにしていかなければなりません。
(7) 「総合センター」は文字どおり大阪市の生涯学習行政を「総合」的に進める施設であり、教育委員会の他の施設機能とも有機的に結びついたものでなければなりません。司書・学芸員など他の職種のもつノウハウを活かしつつ、ライブラリー機能や調査研究機能等、施設横断的な要素を持たせた施設とする必要があります。
4. 「総合センター」建設を判断するに至る経過
88年度から構想が始められた「総合センター」については、97年度、基本計画が策定される段階に至っていました。しかし、基本計画の段階では、廃校となった小学校跡地を活用した延床面積9,700㎡という大規模なものとなっていたため、厳しい市の財政状況の中で、翌年から2000年までの3年間、「既存施設の活用を含めた施設のあり方」の再検討が求められていました。
そういった状況の中、2000年9月に、局から、全市的な市民ニーズに対応する生涯学習施策の中核施設が求められていることから、大阪駅前の複合ビル「駅前第2ビル」に生じた庁舎移転跡の3,000~4,000㎡程度の空きフロアを利用して、総合生涯学習センターが整備できるかどうか検討を始めたいという提案がありました。
この駅前第2ビルは築後相当年数を経過した事務所用ビルであるため、施設規模が当初予定の1/3程度になるということに加えて、柱が約6.4mごとに配置されており、天井高も247㎝しかなく、水周りの整備が難しいなど、生涯学習施設として改修するにはハード面で困難な条件を抱えていました。
これに対し支部は、基本計画とはハード面の条件が大きく変わり、「生涯学習に関するあらゆる事業を行いあらゆる機能をもつ施設」とはならないものの、「市民の生涯学習を支援するセンター」として、本課や他施設では担うことのできない総合的な学習支援機能が特に早急に必要であるという考え方に立ち、この提案を持ち帰り検討することとしました。そのうえで、関係課・施設職員はもちろんのこと、広く支部内で議論・討議し、先に2.、3.で示した認識に基づき、作業部会や労使協議会を重ねたうえで、この局提案について労使確認しました。
その際、「総合センター」については、次の5つの施設機能を担うことにより、多くの課題解決につなげるとの確認をしました。
① 情報提供と学習相談:市民がいつでも気軽に生涯学習事業・施設・グループ等の情報を手に入れられるよう、インターネットや公開端末、情報ギャラリー等を整備してサポートする。
② 企画開発とネットワーク:調査研究機能をもとに、関連施設やNPO等と幅広いネットワークをつくり、さまざまなプログラム・教材の研究・開発を行う。
③ 人材養成・研修:ボランティアを養成し、研修・実践交流の実現をはかる。
④ 市民との協働・交流・活動支援:ミーティングの場や印刷作業スペースの提供により、グループの自主活動や、グループ間交流・発表を支援する。
⑤ シティカレッジ事業:大学・専門学校・民間教育機関等とネットワークを結び、現代社会の多様な課題に対して「学び」を通して取り組める機会を提供する。
なお、当初予定されていた大ホール・大ギャラリーについては全市的にホール機能が充実されてきている中で必ずしも「総合センター」に整備をする必要がないこと、さらにホール利用のニーズよりも学習活動の空間が求められていることなどの点にも考慮したうえで、今回、設けない旨の判断をしました。
5. 「総合センター」の管理運営と開設準備状況
「総合センター」は2002年秋をめどに開設予定、と市当局の中で定められる中、基本設計・実施設計に向けての、支部としては、限られた条件下でどのように市民サービスを充実させ、やりがいのある職場にするかという観点から、関係職場の職員とともに主体的に協議に臨んできました。
「総合センター」の管理運営については、大阪市教育委員会の外郭団体である(財)大阪市教育振興公社に委託することとなりました。同公社は、「地域」における生涯学習ルーム事業及び「ターミナル」における市民学習センターの管理運営を既に受託しており、「広域」の「総合センター」とあわせ全市的な生涯学習支援システムとしての一体的な管理運営が行われます。支部は、社会教育行政と公社との役割整理と、生涯学習施策を進めるうえでの公社の位置づけ・役割・機能・体制整備等の課題整理とをはかるため、労使協議の場である「教育振興公社問題研究会」で求めてきました。
これを受けて、現段階では、
・公社は本市の生涯学習施策をともに推進する対等なパートナーとなる。
・これまでの単なる委託・受託の関係から脱却し、局が求める事業委託メリットに応える役割を果たすべき。
・市民の学習ニーズや費用対効果などを考慮し、市民等との協働のもと事業を自主的に展開する役割を果たす。
というような局の考え方が示されています。
また、4月には開設準備室を発足させ、本市からの派遣職員(社会教育主事、技術職員等)の配置や、「専門的知識を生かし、市民の生涯学習活動に関わる事業のコーディネートを行う職員」としての契約職員の公募による体制整備をはからせてきています。現在は、2課2事業所から移行してきた多数の事業の再編と、新規事業の立ち上げ等、開設準備業務が佳境に差しかかってきているところであり、支部としても「総合センター」具体化の進捗にあわせて、支部の求めてきた機能の実現に向けて協議を進めているところです。
6. おわりに
本レポートでまとめた、「総合生涯学習センター」を中核とした生涯学習推進体制の整備については、02年11月のセンター開設を契機として、ようやくその端緒につくところです。「総合センター」機能が、そして大阪市の生涯学習がいかに大きく豊かに開花するかは、これからの取り組みにかかっています。
わたしたちは、いまだ市民の生涯学習支援体制を創造していく過程に差し掛かったところだと認識しています。今後も市民サービス拡充の観点から職場自治研活動を継続し、そこで培ったものを職場で日常的・具体的に活かせるようにしていきたいと考えています。
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