【自主レポート】

直営の価値ある給食をめざして パート2

広島県本部/三次市職員労働組合 下野 真弓

1. はじめに

 私たちはこれからどうなるのだろうか。どれだけがんばったら「直営」は守られるのか、不安とあせり。ますます厳しくなる職場実態や、しんどいことばかり議論する全員集会に、みんなの疲れもピークに達しようとしていました。ちょうどそんな時「健康福祉まつりのミニ給食フェアで、家にある野菜を持ちよって販売して、伊豆諸島災害に義捐金を送ろう」というアイデアが仲間から出ました。「よしやろう!」久しぶりに笑顔が戻り、「やっぱり仲間はいいな~」苦しいたたかいの中でも喜びを感じることができました。
 そして迎えた、2000年10月3日、第35回定期総会において私たちは、前年度に引き続きコスト論中心の民間委託に反対し、直営の価値ある給食づくりをめざして運動方針を決定し、2000現業統一闘争を最大のヤマ場ととらえ、学校給食の直営を守るため、今までの議論をもとに、1歩も引かない覚悟で団結してたたかうことを確認しました。
 「職名変更はのまない」「たとえ臨職化になっても」みんなの苦しい思いを持って交渉に臨み「2005年3月まで移行措置として直営する」という確認を取りました。それは、退職者の正規不補充を前提とする厳しいものでした。しかし、全国的にも民間委託が進む中、一時的にも阻止することができたのは、「直営の価値ある給食をめざして」現場実践を積み上げてきた仲間の団結と、多くの人たちの協力のおかげだと思っています。民間委託提案が出てから2年、先の見えないたたかいの中、これ以上続けるのは限界かなと思っていた頃のことでした。本当にやればできることを実感しました。

2. 5つの「方針」

 時代とともに変わる食材、食器等を考慮し、より安全でおいしい給食、直営の価値ある給食を提供するため、仲間同士で議論をたたかわせ、模索し続け、5つの「方針」を決め実践してきました。仕事をする上で今では私たちにとって大切な指針となっています。

「方 針」
① 洗剤は、石鹸を使用する。
② 食材、調味料は安全性の観点から、遺伝子組替え食品、食品添加物を多く使用した食品、ポストハーベストされた野菜、果物等できる限り使用しない。(産地など分かるもの、地元のもの、原材料の分かるもの)
③ アレルギー食については、保護者からの要望があればできる範囲で対応する。
④ ポリカーボネイト食器については、国では危険ではないと言っているが、三次市現評としては、疑わしいものは使用しないという方針を出し、強化磁器を使う方向で議論を進める。
⑤ 各職場での独自の取り組み(給食だより、試食会、給食フェア)など積極的に取り組む。

 ・(石鹸の使用)
 ・(食材、調味料)
 ・(強化磁器食器)
 ・(アレルギー食)
 ・(食教育の推進について) 各職場ごとの取り組み
 ・保育所での新たな取り組み 土曜日給食
 「方針」はあくまでも努力目標です。着実に進むものもあれば、調理員だけでは無理なものもあります。職場実態は違いますが、全員で決めた「方針」に向け少しずつでも進めていくために、保育士、栄養士との連携を深め、学習と議論を重ね、よりよい給食づくりをめざしていかなければならないと思っています。

3. 夏休み調理講習

 3期休業は子どもたちの休みであって調理員にとっては勤務日です。しかし議会の一部の議員が、「学校給食調理員は3期休業中は何をしているのか」と市当局に言ってきたり、給食の民間委託推進論者からは「学校給食の調理員は3期休業もあり1年間のうち給食を作るのは約190日で、1年の半分しか仕事をしていない」というような誤った情報を流されました。いつも合理化の攻撃材料にされる夏休みについて、調理員は「休業」ではないという市民へ向けたアピールと、直営の給食について関心を持ってもらうことなどを中心に、教育委員会と現評で検討委員会を発足させ取り組むことにしました。

検討したもの
① 児童館の給食    ④ 小学生対象の調理講習
② 老人給食      ⑤ 調理レシピの作成
③ 保育所給食の応援  ⑥ 給食フェア

を取り組もうと決め、それぞれの問題点を話し合う中、議論の柱として5点に重点を置きました。

・子どもにかかわるもの    ・継続できるもの
・調理にかかわるもの     ・ステップアップできるもの
・市民にアピールできるもの

<小学生対象の調理講習を>
 メリットは教育の一環ということでPR度が高い、多くの子どもと関われる点。デメリットは衛生面の心配とインパクトが低いのではという問題も出ましたが、調理講習会を取り組む方向で議論を進めていきました。内容を充実させるため栄養士や広教組と協議し、教育委員会にも要請し、学校行事として取り組むことになりました。
 各調理場ごとに献立を立て、ねらい・テーマを決めていきました。参加人数を把握し準備物を揃え、当日の班編成をしたりと体制を徐々に整えて当日実施することができました。学校菜園で取れた野菜を使ったり、天然だしの取り方を教えたりしました。子どもたちも食の大切さを実習を通じて学ぶことができたと思います。1999年からスタートし、昨年は各調理場ごとに職場実態が違う中、広教組とも協力しながら「学校行事」として、調理講習会を全調理場ですることができました。昨年同様、配送校への拡大も可能な範囲で実施することができました。基本的に子どもに関わる取り組みとともに、調理講習会をステップアップさせることができました。また、食教育に関する様々な活動を通して市民にアピールすることも来年度の課題です。
 しかし、日程的なことや、今年の猛暑の加減や行事が立て込んだこともあり、子どもたちに熱中症が出るようなこともありました。講習会も定着しつつありますが、学校や子どもの実態に合わせで柔軟な取り組みをする必要もあり、あらたな取り組みを検討する必要があります。

4. ミニ給食フェア

 地域・保護者に私たちの取り組みを知ってもらい、より広めていくために、実行委員会をつくり「ミニ給食フェア」を取り組んでいます。『人権フェスタ』でのフェアは1998年スタートで、昨年12月で4回目になります。健康福祉まつりでは今まで2回行っています。
 昨年の『人権フェスタ』では、12月4日から12月10日までの期間に保育所からは「給食参観」「クッキングの様子」「食習慣のチェック」「おやつの取り方」、学校からは「学校給食の役割」「給食室の様子」「夏休みの調理講習」を写真をまじえてパネル展示しました。
 また、地元の野菜や無添加調味料、学校で子どもに人気の給食メニュー、保育所のおやつなどの展示もしました。
 12月10日は野菜を使ったおやつとおかずをテーマに「ほうれん草入り白玉団子のぜんざい」「筑前煮」を作って試食をしてもらい、「夏休み調理講習」「給食室の様子」をビデオで紹介しました。
 実物展示をしたことや試食はとても好評でした。1人でも多くの市民に私たちの日々の取り組みを知ってもらえたことは、大きな成果となりました。今後は、年間計画を立てて時間をかけ、話し合いをし、より充実したものにしていきたいと思っています。

5. 地域での給食を守る取り組み

 この間、各組織に共闘のお願いをして定期的に情報交換を行ってきました。特に市議会の市民クラブは議会対策会議などで私たちとの協議を重ね対策をねり、毎回議会の一般質問に給食を守る立場で給食問題を取り上げてくださり、この間の私たちの運動や成果の大きな力になりました。また、議員ならではの情報提供は運動を進める上で、とても参考になっています。
 広教組においては、昨年に引き続き「夏休み調理講習」を一緒に取り組むことができました。また、三次支区とは定期的に情報交換を行い、保護者への働きかけなどを中心に協力をお願いしました。特に、十日市中のデリバリー化についての十日市小・十日市中の皆さんの本当に一生懸命の取り組みに世論も大きく盛り上がりました。この熱い思いを大切にして、食教育や小学校給食の充実に向けて継続して共闘を深めます。
 市P連においては安易な民間委託に反対する「学校給食の充実を求める請願署名」を2000年7月~8月にかけて13,650人の署名を集め,シンポジウムも開催され多くの賛同を得たにもかかわらず、デリバリーが強行されようとすることに対して、各校で市教委と話をしたり、皆の声をまとめて質問状を送るなど活発な取り組みをされました。
 市P連自体と完全な共闘を組むのはなかなか難しいのですが、この間給食問題については、本当に多くの取り組みをされてきました。そしてその中で多くの保護者とのつながりができました。そのつながりを大切にし、少しずつでも輪を広げなければなりません。
 各組織とも「子ども」を中心に据えた「食」の大切さ、教育の一環としての給食の意義を理解されているからこそ、いろいろな取り組みを進められていると思います。それに応えるためにも、今まで以上に各組織に信頼される給食づくりを取り組まなくてはいけないと思います。
 今後とも、引き続き共闘関係を深めていく必要があります。

<三次市の保育所、学校給食をまもり育てる会>
 給食の民間委託化やデリバリー化に反対する署名活動やシンポジウムなど多くの取り組みがなされても、教委当局は、十日市中のデリバリー化を強行する姿勢を崩しませんでした。市民運動としては、市P連を中心とした何らかの会の発足が望ましいと思い、各方面に多くの働きかけをしましたが、期間も短く実現には至りませんでした。
 できるだけ労組色は出さない組織づくりが必要でしたが、ぎりぎりの判断で広教組と協議を重ね、準備会を作り保護者、広教組、市職労と現評で「三次市の保育所・学校給食をまもり育てる会」を2000年11月7日に立ち上げました。
 11月7日に会を発足して最初の動きとして、十日市中の給食廃止及びデリバリー化に反対するため、「まもり育てる会」が主催し、11月27日に農協ホールにおいて「学校給食の廃止と民間委託問題を問う市民集会」を行いました。基調講演には給食ネットワークの小松茂さんを招いて、教育の場としてそぐわない「民間委託」「デリバリーランチ」の問題点に対して長年給食問題に関わってきた経験や法律的課題、教育的課題などするどい切り口でわかりやすく話されました。準備期間も少なく、宣伝も充分でない中、300人を超える人たちが集まり、あらためて「給食」への関心の高さを実感する集会でした。集会後、決議文を市教委にとどけました。
 「まもり育てる会」では、子どもたちのために「給食」をどう残していくか、月に2~3回の事務局会議やニュースの発行など積極的に取り組んできました。保護者中心の会に広げていくつもりでしたが、十日市中のデリバリーについての対策会議になってしまい、保護者が自然に離れていってしまう結果になりました。この間の取り組みとしては仕方がないところかもしれませんが、情勢も変わり、労組色の濃い「まもり育てる会」は特に受け入れられない状況もあり、たとえ後退することがあっても、保護者中心の「まもり育てる会」への方向へ向け進めつつあります。基本組織としてもこの給食問題を大きな課題と位置付けて現評とともにこの会に深く関わってくれました。
 今後もこの会が継続していけるよう取り組みを進めていきたいと思います。

6. これまで取り組みを進めた中で学んだこと

 三次市当局は、これまで、コスト一辺倒の議論で民間委託化を進めてきました。一方で、私たちは、労使交渉で当局と対峙するだけでなく、今回報告した「直営の価値ある給食をめざして」取り組みを進めることで、保護者も含め、市民的に「給食は直営がいい」という議論を巻き起こすことができません。この間、何回夜遅くまで議論したかわかりません。労使交渉も数しれず行いました。夏休み調理講習を行うために、教職員との協議を重ねたり、夜遅くまで給食フェアのパネルづくりをしたり、保護者の前で話をしたり、資料づくりをしたり、本当に多くの時間を費やしてきました。
 正直なところ、民間委託を阻止しようと取り組みを始めましたが、阻止することが使命でなく、子どもたちにどんな給食を提供するか、給食を通じて何を子どもや保護者に伝えるかが本当に大切なことだということを学びました。そして与えられた仕事だけするのではなく、自らが新しく開拓していくということを学びました。
 しんどいなかで取り組みを進め、私たちは今『直営』で子どもを中心に据えて、さまざまな取り組みを進めていくことが、コスト論を踏まえても『正しい』あり方だと断言できます。まだまだ不十分かもしれませんが、委託ではできないことはたくさんありすぎます。
 食べることは「生きること」です。子どもたちの笑顔を守るためにもこれからも頑張っていきます。

2001年調理講習等夏休みの取り組み