【代表レポート】

ドメスティック・バイオレンス施策の
充実に向けた労組の取り組み
~暴力のない社会をめざして~

東京都本部/自治研DV作業委員会

1. はじめに

 配偶者間など親密な関係にあるパートナーとの暴力に関する問題は、早くから女性の間では女性課題とされていたが、一般的には個人的な問題であるとされ、自治労の取り組みも遅れてきていた。特に、被害者がまだイエ意識の強い地域から都市部に逃げてくることが多いために「都市部だけの問題」と誤解されたり、実際に行政の中で問題にあたってきた婦人相談員の多くが非常勤職員であったこともあり、労働組合の職場課題として取り組みにくかった側面もあげられる。
 私たち東京都本部自治研DV(ドメスティック・バイオレンス)作業委員会は、現場に携わる公務労働者としてこの『配偶者からの暴力の防止および被害者の保護に関する法律』いわゆるDV防止法施行と前後してさまざまな取り組みを行い、労働組合の中で問題を男女共通の課題として共有化する努力を続けてきた。そして法の施行から3年後と明記された見直しの時期のため、どのように政策制度要求としてつなげていくべきなのかを討議してきた。

2. 1999年まで ~女性への暴力は職場で取り組む課題~

 1997年より、都本部においてはセクシュアルハラスメント問題を労働安全衛生課題としていち早く取り上げ、女性部も「女性へのあらゆる暴力を許さない」立場での活動を続けていた。その延長線上として1999年にはセクハラ相談や苦情処理の立場となる労組役員を対象とした女性部連続セミナー「セクシュアルハラスメント相談員養成講座(全8回)」を2回開催し、同時にこれらの講師がカウンセラーとして永年関わってきた「家庭での女性への暴力」被害の深刻さを聞くこととなった。公務労働者として被害者支援や関連する業務にあたる立場であるとともに、被害者と加害者を同じ職場の仲間に持つ相談が寄せられたことから、職場での取り組みの重要性を再認識した。

3. 2000年 ~一部の女性だけの問題ではなく~

 婦人相談員やケースワーカー、弁護士、民間のホームレス女性支援グループ代表など、さまざまな立場でDVに関わってきた方々を講師に迎え、「ドメスティック・バイオレンスとは何か(全4回)」をテーマにした女性部連続学習会を区部・市部で行い、DVが女性全体の問題であることやその深刻さを学習した。自治体の仲間である婦人相談員・ケースワーカーが法の壁や男性主導意識の強い職場での無理解を乗り越えながら、行政の中で孤独な戦いを重ねてきたこと、他の自治体の仲間とのネットワークづくりや個人的時間を割いての支援などに努力してきたこと、行政ができないことを民間団体の多くの女性たちが担ってきた実情が報告され、共有化された。
 この学習会は女性部設立以来最高の参加者数を記録し、参加者の多くは女性部役員ではなく現場で婦人保護行政に関わる女性たちであったために、その関心の高さをより実感することとなった。保育職場や学校職場、窓口職場の仲間からもDV対応についての質問が出され、女性部だけの課題ではなく、自治体の重要課題として幅広い取り組みにしていくべきものと確認した。

4. 2001年 ~都本部自治研課題として現場の声をまとめていく~

 前年学習会の経過を受けて、女性部では2001年活動の大きな柱にDV問題を据え、4月のDV防止法の成立に向けた各種行動(国会要請、厚生省(当時)への意見書提出)を皮切りに、DV法へのパブリックコメント提出を各単組・支部に要請するなどの取り組みを行った。6月には都本部自治研集会「2001年東京発・自立と共生の都市を創る」の中で特別分科会「暴力のない社会をめざして~DV政策を考える~」が正式に設置され、女性部だけの取り組みから東京都本部の取り組みとして位置づけられた。
 7月には民間シェルター関係者を講師に招き、行政が積み残してきたものをNPOやNGOが支えてきた経過を学ぶ自治研学習会を実施した。都本部保育集会での保育士に対するDVアンケート、婦人相談員や行政窓口担当からの聞き取り調査による問題点の洗い出し、都内で行われた女性団体の講演会や会議等への参加など、DV問題に関わる多くの女性たちと官民を超えた意見交換も広くすすめてきた。これらは文字どおり手探りで、女性福祉行政や男女平等参画行政に携わる他の自治体の仲間たちとの間に労働組合を通じた横のネットワークがなく、多くの職種や部門に関わる女性政策課題に対応する横断的なしくみが作られていなかったことも鮮明になった。
 この分科会での動きに並行しながら、都本部は東京都に向けた取り組みとして、要求書提出と直接交渉や意見交換を行ったが、DV主管部局が福祉部門の福祉局と男女共同参画部門の生活文化局2つにまたがっているために責任や分担が明確にならないなどの困難も多くあった。
 以上の経過をふまえて10月、都本部自治研集会として積み上げてきた内容の発表を行い、各自治体向け要求書ひな型の提起を行った(資料1-都本部自治研報告 経過と問題点概略版資料2-要求書の例)。広域保護に向けた全国レベルの情報ネットワーク化と関係機関の円滑な連携体制づくり・被害者自立支援プログラム・民間シェルター支援策など現行DV法に盛り込まれなかった課題を精査し、全国一律の制度となるように関連法規改正に向けての整理を行うこと、行政側の意見集約と制度政策要求を作り上げることが重要であるとの認識に集会参加者は一致した。そして、施行から3年後とされた2004年のDV法改正に向けて自治研活動を継続し、現場の声を直接行政に生かしていくしくみとして残して欲しいとの声が出された。

5. 2002年 ~DV防止法実施でどう変化しているか~

 すでに2001年10月施行の大規模な公的キャンペーンから婦人相談の現場では相談や一時保護の件数増が始まっていたが、4月の本格実施で具体的な問題があがってきたことなども受け、都本部自治研推進委員会は全国自治研にDV課題をもって参加することを決定した。婦人保護担当だけではなく福祉・保育・教育・行政部門の幅広い職種の作業員からなる、男性も含めて男女がともにDV施策を考える場として、自治研DV作業委員会を拡大結成することとなった。
 大きな取り組みとして、各自治体のDV担当部門に向けた本格実施後の実態調査アンケートを行った。設問には、未法制だが必要な制度として昨年の都本部自治研であげたものを設定し、各自治体の裁量でどの程度実施されているかも調査した。(資料3-アンケート集約結果概略版
 この間には東京メーデーにおける民間シェルターの資料配布や支援カンパ行動、自治体議員連合の女性議員研修会で都本部DV施策への取り組み報告と意見交換なども行った。また、住民基本台帳ネットワーク化や個人カード配布などによって生じるDV被害者の不利益の問題についても検討を行った。

6. 2002年アンケートから見える今後の課題 ~改正に向けた骨子として~

 アンケートの数値からは、相談担当以外への研修不足・危機管理体制や統一的マニュアルの欠如・経済的支援不足、シェルターの絶対的不足や夜間休日受付体制欠如など、行政組織内での対応の遅れがまず読み取れた。また、民間シェルターや自助サポートグループへの支援施策が不十分であったが、各自治体は男女平等参画政策の立場からも行政の手の届かない部分を支えてきた民間NPOやNGO支援を積極的に行っていくべき必要性があろう。
 特徴的なものとして、法律ができたことにより「DVは犯罪であること」や相談の場があることなどが社会的に認知され、被害者や関係者が明確な意識をもって相談にくるようになったことと、警察が対応するようになったこと、それらによる件数増が多くあげられた。そして、逆に「DV被害だけに行政の目が行き、DV以外の要保護女性やDVと複合する問題を抱える女性が置き去りにされがちだ」との報告や、「地域を越えて逃げてくるにも関わらず広域保護の位置づけがないため、単独自治体での条例化や運用には限界がある。全国一律の制度や情報提供が必要」「オーバーステイ外国籍女性への対応ができない」など、法に不備があるための問題もあげられた。
 また、精神的虐待が対象外となったことをはじめとして、DV家庭の子どもへの対応・加害者への制裁・被害者の自立支援策(住居斡旋・職業訓練・就労斡旋・精神的ケア・保護や支援対象期間延長・保証人制度他)・婦人相談員の専門性向上・配偶者暴力相談支援センター機能の強化などが制度から抜け落ちていることを指摘する声があった。DV対策に必要とされる内容が、複数の行政機関や法律に横断的に関わる内容であるためで、身体的暴力への緊急一時保護とDV問題の社会的周知を第一義とした現行法から、包括的な人権を守る法として改正されていく必要性が感じられる。

7. 最後に~横断的取り組みの重要性~

 この間の取り組みを通じて、女性だけの問題から男女共通の課題として労働組合の認識が劇的に変化していった様子に、法律で定め、制度として明確にすることの重要性と労働組合の枠にとらわれない幅広いネットワークが不可欠であることを認識した。また、こうした具体的な課題を掘り下げていく自治研活動が、労働組合にいかに重要なものであるかを体感することとなった。
 今後も都本部では幅広い情報交換と連携の場所作りに留意しながら、あらゆる立場の関係者が連携してDV問題にあたること、そして何よりも人権感覚を基本とし、被害者支援の立場からよりよい法律として改正できるよう2004年に向けて引き続き努力していきたい。


(資料1  都本部自治研DV問題特別分科会報告 経過と問題点概略版)
Ⅰ 作業委員会による部門別問題点の把握と要望の取りまとめ
 ① 相談部門(婦人相談員・生活保護ケースワーカー)

   「緊急体制・広域化・自治体の統一化した取り扱い・財政・費用・施設・行政組織体制」の観点から聞き取り調査。
  ・外国籍女性に対する緊急支援、自立支援のあり方(言葉,文化に対する配慮)
  ・加害男性から、被害者・相談窓口・関係職員を守るためのの安全対策。
  ・被害者自身と子どもに対する施策の充実。
  ・被害者の相談・シェルター・自立支援施策の充実と財政措置。
  ・生活保護法適用の全国的共通した取り扱いと各自治体でのDV被害に対する共通理解
  ・行政職員への研修の充実と資質の向上 等
 ② 保育部門(7・15都本部保育集会参加者へのアンケート調査結果から)
 
アンケート内容・アンケート結果について(別紙参照)
ⅰ 保育関係機関でのDVに関するパンフレットの配布、保育士自身も含む情報提供。
ⅱ DV被害者への対応と支援方法の職員研修の実施と自治体内の連携体制の強化。
 ③ 行政・窓口部門(住民記録・外国人登録窓口・国民健康保険・児童手当・乳児医療・ひとり親家庭支援等業務)
 基本的な行政サービス部門での直接支援に関わる運用・取り扱いの共通化が必要。国民健康保険の住基未登録者の国保加入・保険料免除や猶予、住民票非開示制度の各自治体間の共通化外国人登録窓口での各福祉援助の情報提供(各国言語による案内)
Ⅱ 7・31公開学習会(主催 DV特別分科会)の開催
  「民間シェルターから見た、行政のDV対策の問題点」 講師 三鬼和子さん(HELP)
  講師の提起──「当事者を中心に考える視点・当事者のエンパワーメントを引き出す自立支援・適切な情報提供についての行政サービスの必要性がある」。参加した相談員から、初めて民間シェルターと忌憚無く意見交換ができたことを評価するとの発言があった。
Ⅲ 東京都との交渉
  DV防止法の施行に向けての行政としての問題点をまとめ、都本部として東京都に対して要求書を提出し、交渉を持った。
Ⅳ 各自治体での取り組みにむけて──要求書作り
  要求書のポイントとして、第1に行政の主管部署にあたっては、男女共同参画部門と実際に被害者支援にあたってきた福祉部門についてより一層の連携を求めること。被害者の保護から自立支援まで一貫した立場で円滑な協力体制を組むことを求めていくこと。第2に、相談業務にあったってきた婦人相談員の地位向上、より高度化していく業務内容の円滑な遂行のために専門職化を図り、相談体制と機能拡充を図ること。第3に、法律の施行とそれに伴う取り扱い件数の増加を踏まえ、例えば女性福祉相談員(仮称)等の形で各自治体では独自のDV担当として位置付けや増員を図ることである。
  要求書の例は都道府県と市区町村ではそれぞれの役割や行政上のシステムが異なるため、どこ向きと限定しない形で考えられる要求項目を列挙。自分の自治体ではどの点が弱いのか、現場の声を良く調査した上で項目をピックアップし、各自治体固有の要求書の作成が必要である。


(資料2-要求書の例)

「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」施行に伴う要求書

 DV法の施行にともない男女共同参画や福祉業務の分野で、多くの新たな業務の発生が見こまれ、DV被害者の立場に立った自立支援に向けて、自治体業務の拡充が求められています。
 今後の行政における取り組みに不可欠なものとして、以下について要求します。
1 配偶者暴力相談支援センターは、緊急一時保護から就労・住宅確保など生活再建に向けての一貫した自立支援機能を持つものとすること。また、関連団体からの情報収集や情報提供機能も強化すること。
2 配偶者暴力相談支援センターにおいて被害者の安全確保のために加害者の相談を行わないこと。
3 DV法に関わる相談員の専門性を確立し、受付担当者の常駐と緊急即時対応を可能とするために各相談窓口の相談員複数配置化や増員等拡充を図ること。同時に専門性を養成する研修を実施していくこと。
4 被害者の広域保護や都内共通の具体的な支援に際し、都は責任ある調整機能や情報提供のための役割を果たすこと。
5 外国籍住民への配慮として多言語のパンフレットなどを準備し、通訳の配置、生活習慣に配慮した対応を充実させること。また、在留資格に限定されない、外国籍被害者の人権を重視した対応を行うこと。
6 新法の積極的な普及・広報活動と相談窓口の紹介を行うこと。
7 区・市に来所した場合でも、配偶者暴力相談支援センターに来所した場合でも、どこが最初の窓口となっても速やかに一時保護がおこなえるよう都・区・市間の業務分担を明確にし、相互の調整機能や情報提供機能を確立すること。
8 保護命令の書類作成等の施行に伴う新たな業務が福祉事務所や女性センターに過剰な負担をかけることのないよう業務分担を明確にすること。
9 都・区・市における男女共同参画担当部署と福祉事務所の業務分担を明確にすること。
10 DV法に関わる業務は新規業務と位置付け、増員等体制の拡充をはかること。
11 民間シェルターへの委託にあたってはシェルターの業務内容や運営を重視して選定し適切な委託料を設定するなど配慮を行うこと。
12 一時保護枠の拡大と自立までの期間に保護期間を延長(現行運用で2週間)すること。
13 住民票、国民健康保険、国民年金、子どもの就学・転学の取り扱いについては被害者の安全確保を第一と考え、住所の移動がなくても例外的適用ができるよう全都統一的な対応をしていくこと。被害者からの申請により本人以外への住民票の交付制限や閲覧制限を行うこと。
14 3年後DV法の見なおしに向けて、住民基本台帳や国保・年金をはじめとする関連法令・条例の見なおしと問題点の洗い出しを進め、その改正を国に求めていくこと。


(資料3)

DV防止法施行に伴う実態調査 概略版(回答28自治体)

No.
質   問   内   容
ある
ない
検討中
A  自治体での相談体制について
4
DV相談窓口
23
3
1
5
新法成立後の相談内容の変化
14
7
  
6
DV相談担当者への専門研修
7
17
 
7
相談担当以外の職員へのDV研修
 
 
 
7の1
  幼稚園・小・中学校
2
23
1
7の2
  保育園
3
21
2
7の3
  行政窓口系職員
2
21
3
7の4
  生活保護担当
8
18
1
B  自治体の体制や制度について
8
緊急時の無保険診療への助成や治療費支払猶予制度
6
21
 
9
生活費のための緊急一時保護事業予算
13
12
2
10
生保適用が受けられない場合の自治体単独の一時貸付制度
5
22
 
11
被害者などの申し出による住民基本台帳の閲覧や写し請求の制限
13
12
 
12
住民登録していない被害者の国民健康保険加入
18
9
 
13
国民健康保険料の免除や納付猶予
9
18
 
14
被害者や相談員が移動する際の危機管理体制
1
25
 
C  一時保護について
15
管内の緊急保護施設(シェルター)
12
14
1
  公設(2 )・民間(4)・母子施設等(8)・他(1)
 
 
 
16
一時保護を要する相談者への夜間・休日受付
5
23
 
17
緊急相談に対応するマニュアル(例:児童虐待防止マニュアルなど)
5
20
2
D  関係機関との連携について
18
地域での関係機関との連携・ネットワーク・定期的な会議
10
15
2
19
上記18のような会議への、相談員が役割を担う立場での参加
11
14
 
20
警察との連携(会議・情報提供・安全確保の補助)
18
9
1
21
民間シェルターやDV関連市民団体などとの意見交換の場
6
21
 
22
民間やNPOなどが行う有料カウンセリングへの費用支援
 
28
 
23
一時保護などの委託費用とは別の、民間シェルターへの財政支援
27
1
 
E  被害者の自立支援策について
24
被害者に対する自立や就労支援のための施策
 
27
 
25
被害者のメンタルケアをおこなう専門のカウンセラー
7
21
 
26
民間アパート入居や就職にあたっての保証人制度
1
25
 
27
離婚手続きや裁判費用など法務費用の支援や貸付制度
1
25
 
28
被害者への就労斡旋や自治体臨時職員への優先採用など
 
27
 
29
被害者へのサポートグループやグループへの支援制度
 
27
 
30
移動や裁判所への同行
19
4
 
31
一時保護から自立まで一貫した担当者
16
10
 
32
被害者をサポートする施策を拡充していく予定
2
18
6
F  加害者への対応について
33
加害者からの相談窓口
2
25
 
34
加害者への再教育プログラムなど
 
27
 
G  保護命令の対象外となる被害者の子どもや外国籍被害者への対応
35
学籍簿・住民登録の異動なしに、被害者の子どもの転入学の受け入れ
24
2
 
36
被害者の子どもの保護のための対応策(例:加害者との遭遇回避)
8
16
 
37
被害者の子どもへの支援ボランティアや専門ケアスタッフの配置など
2
22
1
38
多言語での相談や啓発活動
2
23
 
39
外国籍被害者のための通訳者の配置
2
23
 
40
オーバーステイの被害者に対する自治体での支援
7
16
 
H  DV啓発活動について
41
区・市民対象のDV防止啓発活動
23
2
1