【代表レポート】

岩手・青森県境での産廃不法投棄の現状と今後の対応

岩手県本部/岩手県職員労働組合

1. はじめに


図1 現場位置図

 首都圏から遠く500キロメートル以上離れた岩手・青森の両県に跨るのどかな丘陵地。牧歌的な風景が広がる北東北の片田舎の一角27ヘクタールが、本県では例をみない大規模産業廃棄物不法投棄事件(岩手・青森県境産廃不法投棄事件)の舞台である。(図1参照)
 この事件については、刑事事件として一部が立件され、被告2法人に対して罰金刑としては、おそらく過去最高額の2,000万円が処され、一部が確定している。
 現在まで岩手・青森両県の調査により、岩手県側に15万立方メートル、青森側に67万立方メートル、併せて82万立方メートル(いずれも推定値)の廃棄物が確認されている。
 原状回復にはなお多くの課題も残されているが、現時点で判明した事件の概要と、これを教訓とした本県の自治体としての対応について発表する。

2. これまでの事件の概要

(1) 現場の状況
   本事件の現場は、国立公園十和田湖から程近い、岩手県二戸市と青森県三戸郡田子町に跨る原野27ヘクタール(岩手県側16ヘクタール、青森県側11ヘクタール)である。
   青森県側には、小規模の管理型産廃最終処分場、中間処理施設(堆肥化)があり、岩手県側は事件関係者個人所有の原野で許可施設はない。(写真1参照)


写真1 不法投棄現場の全景

(2) 事件の発端
   事件の原因者である産廃処理業者・三栄化学工業㈱(三栄化学)は、1998年頃から現場で関連会社の三栄興業㈱(三栄興業)にバーク(樹皮)、産廃である燃え殻、汚泥などを混合したもの(中間処理)を売り、三栄興業はその堆肥販売を業としていた(堆肥の販売実績は確認されていない)。
   1998年12月、岩手県農政部に三栄興業から肥料取締法に基づく特殊肥料製造の届出があり立入調査したところ、堆肥原料である産廃が野積みされ、悪臭や汚水流出など環境汚染があるとして通報があり、1999年1月、二戸(にのへ)保健所が廃棄物処理法に基づく現地調査、報告徴収を開始し継続的に監視していった。
   当初、三栄興業側は、当該堆肥は、三栄化学の中間処理物を有償で購入したもので、廃棄物ではなく有価物であり廃棄物処理法上問題ないと主張していた。


写真2 固形化廃棄物の投棄状況

(3) 刑事事件の摘発(固形化廃棄物不法投棄事件)
   1999年夏、本県は岩手県警察本部(県警)に情報提供した結果、夜間、埼玉県の産廃処理業者・縣南衛生(株)(縣南衛生)から排出された木・紙くず、廃プラスチック等の圧縮固形化廃棄物(RDF様廃棄物)を不法投棄する行為を繰り返していた事実を突き止め、同年11月、廃棄物処理法違反として強制捜査に入った。
   2000年5月、両県警合同捜査本部は、RDF様廃棄物約8,000トンを不法投棄していたとして、法人である三栄化学・縣南衛生とそれぞれの代表者2名を起訴した。
   2001年5月、盛岡地方裁判所は、三栄化学・縣南衛生(法人)に対して罰金2,000万円、縣南衛生の代表者を懲役2年6月(執行猶予4年)、罰金1,000万円に処する判決を下した。廃棄物処理法違反による罰金刑ではこれまでの最高額であると言われている。
   なお、事件の首謀者である三栄化学の代表者は起訴後、保釈中に自殺し公訴棄却となったが、これにより事件の全容解明が極めて困難となったことは否めない。
  

(4) 揮発性有機化合物、ダイオキシンを含む廃棄物の大量不法投棄事件への展開
   この後の調査により、場内から廃油入りドラム缶が発見され、事件は当初の固形化廃棄物の不法投棄から、多様な化学物質を含む廃棄物による大量不法投棄事件へと、その性格が変っていくこととなる。
   2000年5月に現場から採取した廃棄物を分析したところ、ジクロロメタンやテトラクロロエチレンなどの揮発性有機化合物、鉛、カドミウムなどが検出され、現場内のたまり水及び土壌の検査でも、ダイオキシンが最高で環境基準の82倍となる値が検出されたが、地下に埋められている廃棄物の全容は不明であった。
   そこで、現場内の揮発性有機化合物の分布実態を調査するため、2000年秋に、環境庁の指針に基づく表層ガス調査を行ったところ、ガスの高濃度な地点7領域が特定され、トルエン、キシレン、テトラクロロエチレン等により、かなりの濃度で広範囲に汚染されていることがわかった。(図2参照)
   その後、ボーリング調査、地下水流向流速調査、トレンチ掘削調査により不法投棄の全容解明を行い、2002年2月に岩手県側の不法投棄が15万立方メートル(推定)になると結論した。(図3参照)
   この主な廃棄物は、縣南衛生が処理委託を受けた首都圏の産業廃棄物であるとみられ、多種多様な産業廃棄物による複合的な環境事犯であることがわかった。


図2 土壌ガス高濃度領域図(左)


写真3 廃油入りドラム缶の引上げ作業(上)


図3 岩手県側不法投棄の全容
赤色:有害な廃棄物の確認範囲
   (特別管理産業廃棄物)
  緑色:その他産業廃棄物の確認範囲

2. 岩手県の対応

 これまでの事件の概要説明の中でも若干触れているが、岩手県の自治体としての事件対応について、いくつかのポイントを報告する。

(1) 警察当局、青森県との連携
   今回の事件の解明がスムーズに進んでいることは、やはり警察当局との早期の情報交換と密接な連携によるところが大きい。
   また、岩手・青森両県が県の枠を超えて連携しながら対応していることが挙げられる。
   これは、現場がちょうど両県の県境地域であり、一体の土地として不法投棄され汚染された状況であり、両県は連携して全容解明調査を行い、データを共有しながら、措置命令や行政処分等の対応策を講じてきている。

(2) 関係者個人をも含めた措置命令
   第2に、廃棄物処理法に基づく措置命令の制度を積極的に活用し、役員個人にも法的義務を課し、指導の法的根拠としている。
   岩手県では、現場を所管する二戸保健所長が、2000年6月、廃油入りドラム缶の発見以降、関係の4法人及びその役員個人6名に対し、連帯して、新たな事実が判明するたびに措置命令を出し、進行状況をチェックしている。
   特に、法人役員個人への措置命令は極めて異例のことだと考えられるが、刑事事件においても、不法投棄の実行犯として2法人とその代表者2名が起訴されており、県では不法投棄の意思決定や実行に実質的決定権を有する者に措置命令をかけた。この措置命令により、法人・個人の連帯債務として原状回復義務の責任を負うこととなる。

(3) 事業者に対する原因解明調査の指導
   第3に、岩手県では、原因者責任の原則に基づき、廃棄物の調査、撤去等を全額原因者の負担で行うよう指導している。
   すなわち、これまで現場から発見された廃油入りドラム缶の処理、土壌ガス調査、ボーリング調査、トレンチ掘削調査などを行っているが、これらは、県の指導のもとに、すべて三栄化学が専門業者に委託して行ってきている。

(4) 事業者に対する民事保全法による財産保全措置
   第4に、事業者責任の考え方をさらに徹底させる観点から、原因者である三栄化学の財産の一部(約2億6千万円)を民事保全法に基づき仮差押えしたことである。
   他県などでの大規模不法投棄事件では、実態調査や原状回復に長時間を要し、債権額が確定時点では、原因者の財産が散逸し、ほとんど費用の回収がなされていない。
   本件仮差押えは、できるだけ事業者による原状回復義務の履行の担保を、目に見える形で示し、県民の不安をできるだけ回避する必要があるとの判断からなされた。
   当初、行政上の義務履行のために、民事的な財産保全の手法が適用できるかについては議論もあったが、学者・弁護士の指導により、2001年2月に盛岡地方裁判所に財産仮差押の申立をしたところ、決定がなされたものである。
   現行法上、事業者責任の原則が規定され、罰則等は強化されているが、その履行担保は、必ずしも十分とはいえない状況である。民事的手法の活用により、迅速かつ実効力のある実質的な履行確保を図ることは、今後、この種の事件において有効と考えられる。

(5) 排出者責任の追及
   第5に、行政による排出者責任追及が、直接の当事者である三栄化学、縣南衛生にとどまらず、当該産廃を排出した事業者まで及びつつあることである。
   場内調査により判明した廃棄物や原因者等から提出された管理票を整理し、排出者として責任を十分に果していたか、廃棄物処理法に基づく報告徴収の形で確認しているものである。

(6) 両県合同検討委員会の立ち上げ
   最後に、これまで各県がそれぞれ廃棄物処理法の措置命令等により原因者等に調査・撤去等を命じてきたが、不法投棄は岩手・青森両県に跨り一体の事業場となっていることから、「現場は1つ」の認識に立ち、「住民の健康被害防止と安心感の醸成」を第一に考え、両県のこれまでの調査結果をすり合わせ、汚染の除去と汚染拡散防止対策について、技術的・社会的課題を整理し、最終テーマである「現場の環境再生」に向けて取り組んでいくこととしている。

3. 新しい取り組みと今後の展望

(1) 北東北三県による広域産廃対策の推進
   青森、秋田、岩手の北東北三県は、2001年9月の知事サミットにおいて、他の都道府県からの産廃の搬入事前協議の義務化、搬入課徴金の徴収、産廃税制の導入に向けて3県連携して取り組むことが合意された。

(2) 循環型地域社会の形成に向けた制度的整備に関する検討
   不適正処理の未然防止対策を進めるとともに、「いわて資源循環型廃棄物処理構想」を実現するため、制度的面からのアプローチを研究する目的で、「循環型地域社会の形成に向けた制度的整備に関する研究会」(座長 岩手県立大学 南博方教授)を設置し、有価物を装った不法投棄等への規制強化、不法投棄反則金など経済的手法を活用した対策等について報告書が提出された(2001年8月)。この報告書を受けて、条例整備に向け具体的検討を行っている。

4. おわりに

  今回の事件について各種調査を進めるに従い、さながら現場は「産廃のデパート」のようなものであることが分かった。こんな「産廃のデパート」が都会から遠く離れた北東北の山村で、20世紀末に発見されたことは、20世紀の大量消費、大量廃棄社会の病巣が全国的な広がりをみせていたことの証しであり、その意味において象徴的な不法投棄事件であった。
  また、われわれは、事件を通じて、現行制度や原状回復についての課題など多くのことを学び、今後の廃棄物行政の推進に役立てようと取り組みを始めたところであるが、地方自治体の力だけでは限界があることも事実である。
  願わくは、全国の皆様が、この事件を、遠い北東北の片田舎で起きた特別の事件とはとらえず、いつでも、どこでも起こりうるごく普通の事件であると考え、今後の廃棄物対策の参考にしていただければ幸いである。
  廃棄物の不法投棄、環境問題に関する住民の関心は非常に高い。自治体が不法投棄の未然防止を図るためには、監視指導の強化や事業者・県民への意識啓発が欠かせない。
  本県でも廃棄物の適正処理に係る監視指導を強化するため、1999年度から産業廃棄物適正処理指導員(産廃Gメン)を配置し現在11名が業務に当たっているが、県内のすべての事業者に対する指導や住民の意識啓発が十分とはいえない。また、産廃Gメンの身分は非常勤である。
  廃棄物処理を始めとして環境対策の業務量が増大しているにもかかわらず、基本的に法的な処理(文書指導、行政処分)に対応する環境衛生指導員等正職員の数は不足している。
  県職労として環境問題に対する取り組みは不十分であり、今後、このような人員不足に対し適正な人員配置を要求していきたい。特に環境衛生指導員等正職員に係る経費は、財政規模が小さい自治体には、国から地方交付税等により適正額が配分されるよう運動を進めていきたい。また、事業者や県民に対し環境問題に対する意識啓発を図り、一人ひとりが環境を認識した行動がとれるよう運動を展開することも必要と考える。