【自主レポート】
分権時代のローカルルールづくりとは?
「町民と共に創り上げる条例」への試み
-今立町環境基本条例制定過程から-
福井県本部/今立町職員組合 大蔵 稔雄
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1.はじめに ―環境基本条例とは―
(1) 環境基本法制定までの経過
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明治20年 足尾銅山の鉱毒事件 (日本の公害事件の始まり) |
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昭和24年 東京都工場公害防止条例 (地方が先行) |
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昭和28年 水俣病事件 |
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昭和36年 四日市ぜんそく |
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昭和42年 公害対策基本法 |
> →平成5年 環境基本法 |
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昭和47年 自然環境保全法 |
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平成2年 熊本県環境基本条例 |
(地方が先行) |
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平成3年 川崎市環境基本条例 |
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平成4年 地球サミット(リオネジャネイロ)・アジェンタ21 |
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平成5年 環境基本法 |
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① 環境の課題をその地域で解決する手段としてローカルルールを国よりも先行して定めた。
② 個別条例を制定し、その後に総合条例の必要性を知った。
(2) 環境基本法の趣旨
環境問題が、地球環境という空間的広がりと、将来の世代にわたる影響という時間的な広がりとを持つ問題になってきている。有限な環境を守り、次の世代へと引き継いでいくために、環境の保全の基本的理念とこれに基づく基本的施策の総合的な枠組みを示す新しい基本法を提案する。
(3) 環境基本条例は環境総合条例
町の環境政策の基本姿勢を明らかにし、環境保全に関する基本理念や施策の基本的方向を定めるもの。
(4) 環境基本条例の制定後
① 基本条例をもとに、具体的な計画である「環境基本計画」に着手するのが一般的な取り組み。
② 市町村に個別の環境課題があれば、その解決に向けた個別条例を制定する。(水源保全条例、空き缶ポイ捨て禁止条例等)
2. 問題提起
① 分権時代にあってローカルルールを誰がどのように決めるのか?
② ローカルルールづくりにあたっての市民参加はどうあるべきか?
3. 今立町における環境基本条例の必要性
(1) 町民グループによる環境保全の活動
・アースデイ実行委員会、有機農業研究会、丹南市民共同発電所の会、ケナフの会、婦人会、壮年会等
・平成12年には「環境フェア」を環境グループが自主開催。13年は行政と共催
(2) 新エネルギービジョン策定(平成10年・11年)
・ 町民公募の企画委員が原案作成。アンケートや実態調査も委員が実施
・ビジョンを実践するために、丹南市民共同発電所の会が町民の手で発足
平成13年5月に1基設置。
(3) 省エネの取り組み(平成10年から)
・エコオフィス事業
・省エネモニター設置事業(役場、町内希望者)
・省エネナビ普及事業(婦人会、町内希望者)
(4) 町施設「森林学習センター」での活動
・環境学習、炭焼き体験、森林エネルギー循環
(5) 主要河川「鞍谷川」の汚れに対する対応策の必要性
・昭和30年代からの急激な和紙製造量の増加による工場排水と生活排水による河川の汚れ
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(6) 町の施策の柱「未来にやさしいまちづくり」
・総合的で計画的な環境施策を進めるために環境基本条例という根拠が必要
4. 町民参加のローカルルールづくりの取り組み状況
(1) 環境基本条例懇話会を結成
・福井県立大学 岡敏弘教授(元琵琶湖研究所研究員、著書 環境政策論)
・町内各種団体からの推薦15人
・公募委員3人
・事務局として役場職員が参加
(2) 開催状況
平成12年
7月 公募委員の募集
9月 各団体へ委員の推薦依頼
11月 第1回懇話会
・委員委嘱式・会長・副会長選任・全国先進自治体条例のポイントの説明
・傍聴は受け入れる。氏名入りの議事録を公開する。
平成13年
1月 条例づくり事例研修会(懇話会対象)
『環境基本条例づくりに市民が積極的に参画した福井市の事例』
『環境基本条例や基本計画づくりに行政が市民参画を図った鯖江市の事例』
2月 第2回懇話会
・条例事項の検討を委員で素案から作ることに決定
・ワーキンググループ7人で結成
・わかりやすい条例づくり。今立の環境について、あるべき姿を明確にする。
3月 環境の町づくり研修会(町民に参加を呼びかけ 50人参加)
『北欧の環境政策や京都での住民主体の環境活動実践に学ぶ』
環境市民・杦本事務局長
『住民参加の環境基本条例づくりの全国事例に学ぶ』
岩手県立大学・高橋秀行助教授
3月 第1回ワーキンググループ
条例事項を7名の委員が素案作成を分担して持ちより、検討協議する。
4月 現地研修会(懇話会委員)
鞍谷川の現状、和紙排水処理施設、養豚場豚糞処理、野焼き現場
4月から10月 ワーキング6回、懇話会3回
10月 提言書提出
11月 町のホームページにより提言書の公開・意見募集
内部協議による条文の変更追加(主旨を尊重した上で、主に法制執務的な観点で変更。また、関係機関との連携と庁内体制の整備の2条を追加)
平成14年
3月 議会提案⇒議決(議会への事前説明2回 主な論点は前文)
4月 施行→環境基本計画策定への取り組み
6月 環境審議会および環境基本計画策定委員会の委員を広報で公募
5. 懇話会条例(案)の特徴と意義
① 環境保全の目的に環境権を規定
② 環境優先の理念を貫く
③ 予防の原則、情報の公開及び共有の原則を規定
④ 町民参加を重視
⑤ 経済的負担の賦課が可能
⑥ 環境教育と学習重視
⑦ 新エネルギーと省エネルギー、有機農業への取り組みを明記
6. ローカルルールづくりでポイントと思われること
(1) 町民参加の『深さ』
・①形式的参加→②諮問的参加→③部分的参加→④積極的参加
・懇話会で③か④で議論になり、積極的参加を選択
(2) 町民参加の『広さ』
・町民代表の懇話会にふさわしい組織づくりとは?
・今回は団体推薦と公募の組合せを選択。→推薦者は代表者に比べて積極的
・しかし、団体推薦者はその団体を代表するのか。
・積極的に意見を表明しない多くの市民の意見はどうする。
(3) 『座長』がコーディネート
・議論の過程と、条例の内容をコーディネート。
・条例づくりの過程が学習の場になる。参加する町民の力量をアップさせる。
(4) 『公募委員』が議論を活性化
・積極的な関わりが議論を活発にする。
・町民の誰もが参加できる可能性があるということが重要。
・公募委員が必ずしも町民の意見を代表しているわけではない。
(5) 懇話会への議会と行政の関わり
・議員が懇話会に参加した。議員の関わりはどうあるべきか。
・行政は当初発言を控えていたが途中から積極的に発言した。提言書を受ける前に行政としての意見を率直に出しておくべきだと考えた。
7. おわりに ―これからの課題―
① 多くの町民への広がりと、条例が町民のものになることが必要
② 環境基本計画への町民参加の方法
③ 町の環境政策への総合的な取り組み体制整備
④ 施策の柱としてローカルルールを定め、それを元に地域の課題を解決していく手法を他の課題に応用し、施策をルールにのっとったフェアでオープンなものにしていくこと。
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