【代表レポート】

地域の自然エネルギーの開発・促進  市民参加の環境エネルギーづくり
しんしゅう
  しんこきゅう
「みなみ 信州 ・森呼吸

~森とくらしの新エネルギー~

長野県本部/飯田市職員労働組合

1. 「新エネルギー導入促進基礎調査」

 飯田市は、平成8年度を初年度とする第4次基本構想で、めざす都市像として「人も自然も美しく、輝くまちいいだ―環境文化都市―」を掲げ、日々の生活から産業まで、すべての営みが自然と調和するまちづくりに先駆的に取り組む、地球市民としての行動をスタートさせた。さらに、基本構想と相互に補完し合い良好な環境づくりを総合的に進めていくための基盤となる計画として「21’いいだ環境プラン」を同年、策定した。
 「新エネルギー導入促進基礎調査」(「地域新エネルギービジョン策定等調査」(平成8年3月))は、飯田市が通商産業省資源エネルギー庁からの委託を受けて、国の「地球温暖化防止計画」、「新エネルギー導入大綱」を踏まえ、地域の特性を活かした新エネルギーの導入と省エネルギーの推進を積極的に進めていく方策と、環境に調和したまちづくりの方向性を明らかにすることを目的として実施されたものである。
 地域における地道な環境保全活動が地球環境問題に対する解決の早道という認識のもと、エネルギー面から見た飯田市のまちづくりの基本理念を「エネルギーと共生するまちづくり―エコエネルギータウンいいだ―」と掲げた。そして、地球温暖化などの地球規模の環境問題とエネルギー資源の有限性などに対応するため、環境への負荷が小さく、資源制約の少ない新エネルギーの導入と省エネルギーの推進を地域レベルで積極的に進めていくこととした。
 「新エネルギービジョン」では、次の3つを、より効果的な「重点プロジェクト」として位置づけた。①ごみの燃料活用の推進、②太陽光発電の推進、③ESCO(エネルギー・セービング・カンパニー)による省エネルギーの推進。
 その「新エネルギービジョン」の中で、「自然エネルギー利用発電」として、次のように説明されている。「飯田市の場合、風速が弱いため風力の利用は適さないが、太陽と水のエネルギー賦存量は膨大で、特に、太陽光発電は、平均日射量が約4.6kWh/㎡・日あり有望である。また、天竜川やその支流が市域を流れており、かつ高低差の大きな地点もあることから、中小水力発電等の可能性もある。」

(1) 飯田市の温暖化防止目標

   平成22年(2010年)までに、飯田市が排出する温室効果ガスの総排出量を、平成2年(1990年)に対し10%削減する。
   平成2年(1990年)の発生量 735,000トン
   平成22年(2010年)の目標値 661,500トン

2. 庁内公募による「新エネルギー担当」配置

 飯田市は、平成13年4月から飯田市組織規則で環境保全課内に「新エネルギー担当」を置き、環境保全課の分掌事務に「太陽光発電等新エネルギー及び省エネルギーの推進に関すること」を追加した。「環境文化都市」をめざす飯田市は、地球環境に負荷をかけないエネルギーとして、太陽光発電の市民への普及にこれまでも取り組んできた。今後は新しいエネルギーに対する研究が幅広く進められる状況を考慮し、行政として、こうした流れに適切な対応をしていくことが求められ、積極的な情報収集と必要な施策を実施するため、環境保全課内に庁内公募による「新エネルギー担当」(係長相当職)専任職員1人を配置した。
 飯田市役所は、これまでも「全庁業務革新」に平成6年度から取り組み、8年4月に「新行政改革大綱」を策定、7月に機構改革を実施して2部4課を削減。10年度からは新たな定員適正化や財政改革にも取り組み始めた。
 しかし、今後の分権の進展等の状況を展望したとき、組織機構を簡素・効率化したり、職員数の削減を図るだけでなく、職員の資質を向上し、また、知恵や意欲・やる気をより尊重して職員を配置し職場を活性化することが必要と判断した。そこで、「行政改革大綱」に掲げた「職員の能力開発」「適材適所の職員配置」を推進する方策の一環としての新たな人事制度を模索した結果、職員配置に当って従来の自己申告制度に加え、新規業務や部局横断的業務等同制度では対応しがたい業務について庁内公募制度を実施することとした。
 これは、部局長が申請した業務の中から公募業務を選定して従事職員を募集、直接応募のあった職員の中から、能力・知識・経験・提案事項等を有し、適性があると認める職員を選考することによって適材適所配置を一層推進し活性化を図ろうとするものである。それまでの実績として、ISO推進担当、介護保険課の職員配置があった。

3. 太陽光発電システム普及率全国一

 「新エネルギービジョン」の重点プロジェクトの1つとして、環境とエネルギーに配慮した都市構造を形成する観点から、「太陽光発電の推進」を掲げている。さらに「21’いいだ環境プラン」においても、重点的に循環型まちづくりの展開を図るリーディング事業として「太陽光発電施設の普及」を位置づけている。
 太陽光発電システムの導入を地域レベルで進めるため、飯田市はシステムを設置する市民を対象にした無利子の融資制度を設けた。これは、国の補助制度に上乗せする形で、200万円まで融資し、利子を市が負担する制度。
 毎年度予算で導入目標を定め、平成12年度末には全世帯の1%、22年度末には、全世帯の30%の普及を目指している。全国一を誇っている普及率は、12年度の目標は、普及率実績1.24%とクリアしたが、30%という大きな目標は、国の補助制度の変更に対応し、新たなシステムづくりが求められることになる。
 平成9年度からの累積により、市内に設置された住宅用太陽光発電システムの発電容量は、1,733.4kWに達し、これは1年間に排出されるCOの413.3トンに匹敵すると推計される。このCO 削減量は361ヘクタールの森林が1年間に吸収するのと同じ規模という。

(1) 太陽光発電システム導入目標と実績
年 度
 導 入
 導 入
 累 計
 普 及
 
 目 標
 実 績
 実 績
 率
 H 9
 59件
 59件
 0.17%
 H10
 50件
 153件
 212件
 0.59%
 H11
 100件
 120件
 332件
 0.94%
 H12
 100件
 100件
 432件
 1.24%
 H13
 100件
 73件
 505件
 1.43%
 H14
 100件
 (1.72%)
 ↓
 ↓
 ↓
 H22
(10,597件)
 30.00%
飯田市の人口及び世帯数(H14.4.1)
 
  人 口:106,381人
  世帯数: 35,325世帯

   98年10月に、市内の三菱電機の飯田工場内に、太陽光発電システムの新工場が稼働し、太陽電池モジュール、パワーコンディショナー、接続設置やモニター装置など、同社の太陽光発電関連製品をすべてここで一貫生産されている。
   三菱電機が太陽光発電システムの工場として飯田市を選んだ要因はいくつかあげられる。「飯田工場の敷地に余裕があったことと同時に、飯田市がエコタウン構想を立案するなど太陽光発電に理解があること。さらに、市が積極的に工場受け入れの姿勢を示し、日照時間が長くて太陽光発電に適した土地であり、市民の関心も高い。それらを総合的に判断し決定した。」と三菱電気関係者は、話す。
   太陽光発電システム設置者へのアンケート調査では、大半の人が電気をこまめに消すようになった、省エネに関心を持つようになった、環境に対しての意識が芽生えた等の声が多かった。

(2) 融資あっせんと利子補給について
   国の補助を受ける市民を対象とし、システム設置費用総額から国の補助交付予定額を差し引いた額に対し、融資あっせんを行う。また、その返済に関わる支払利子について、全額利子補給する。
  ・融資限度額 200万円
  ・融資の利子 3.1%(毎年見直し)
  ・返済期間 10年以内
  ・返済方法 元金均等月賦償還
  ・連帯保証人 2人
  ・担保 不要
  ・利子補給は、年2回。融資利用者が支払った元利償還金の内利子分について、市が補給金を交付。
  ・交付方法は、利子補給金の交付について取り扱い金融機関は融資利用者から申請、請求及び受領に関する一切の行為の委任を受け、融資利用者に変わって一括してその事務処理を行う。

4. 「おひさま進歩」─太陽光シンポジウム─

 飯田市が毎年行っている「生活と環境まつり」に合わせて太陽光発電システムを広く一般の方にPRし、化石燃料に依存しない再生可能エネルギーとしての太陽光発電推進事業をもう一度考え、これからの地域のあり方について考えるきっかけとして昨年10月開催した。市における平成12年度末の太陽光発電設置(補助)者432人全員に通知し、シンポジウムの実行委員を募集し、応募した5人の実行委員が企画・運営・実施までを行った。
 太陽光発電設置者を代表して2人からの意見発表。「省エネ・倹約に興味があった。太陽エネルギーを使えば資源を無駄に使わずに済む。コストを考えると自分の代だけでは損だが、子どもや孫に残してやれる。いい地球が残せるならいいこと。」(男性)「損得だけでなく、地球上に住まわさせてもらうためには、地球環境を考えることが大変必要。地球環境を考える1つの切り口として太陽光発電を設置した。」(女性)続いて、環境省の「地球温暖化問題検討委員会」委員長などを務める北野康名古屋大学名誉教授から「知ってほしい地球の美しい自然像」と題した記念講演を受けた。「自然や環境にやさしく…などと言うが、生物生存にとって自然や環境はどんなにやさしいことか」と、自然科学的知見をもって解説・説明した。
 実行委員は、少数ではあったが、環境問題に対して深い造詣をもち、準備、当日の運営に積極的に関わり、その後も、環境における学習会、環境活動等を通して環境を考えるグループの核として、現在もゆっくりではあるが、活動をしている。

(1) 導入実績の職業別内訳
件数
割合
   
会 社 員
174件
34.5%
  
農  業
125件
24.7%
 
自 営 業
93件
18.4%
 
公 務 員
54件
10.7%
 
無  職
43件
8.5%
 
団体職員
8件
1.6%
 
医  師
5件
1.0%
 
僧  侶
3件
0.6%
 
    ─────────────────
  計  
505件
100.0%
 

(2) 導入実績の新築・既築別内訳
新 築 
既 築  
新築割合
既築割合
 
    H 9
4件 
55件  
6.8%
93.2%
 
  H10
14件 
139件  
9.1%
90.9%
 
H11
21件 
99件  
17.5%
82.5%
 
H12
27件 
73件  
27.0%
73.0%
 
H13
15件 
58件  
20.5%
79.5%
 
  ─────────────────────
81件 
424件 
16.0%
84.0%
 

5. 木質バイオエネルギー利用推進

 林野率が71%を占める飯田市において有効利用されず廃棄されている木質系は、相当量が見込まれ、これらの一部は、堆肥肥料等に使用されてはいるが、大部分は焼却処分や林地残材として放置されているのが現状である。その一方で、今年12月から焼却炉の構造基準の改正強化により、焼却処分が困難になるとともに、資源有効の観点からバイオエネルギーの利用がますます期待されている。
 木質バイオエネルギーは、再生可能なエネルギーであり、飯田市においても「地球温暖化防止計画」の一環としてその利用が飯田市環境計画「21’いいだ環境プラン」に位置づけられている。このエネルギー利用については、チップ化・ガス化・ペレット化による発電や熱利用等が考えられ、初期導入としては、利用性・輸送性・貯蓄性が高く需要先の確保の比較的容易なペレット化によるボイラー及びストーブの熱利用が優れている。更に詳しく調査、研究をし、ペレットプラント稼働の可能性を模索している。
 森林資源の有効活用は、循環型社会を目指すための多方面にわたる問題の解決につながるが、民間による事業円滑に推進するためには、森林林業に係る経費の増加や化石燃料との価格競合の面などから、事業化初期段階での公的支援が欠かせない。特に、事業の成否を握っているのは、チップやペレット製品の需要先の安定確保にある。
 季節的な変動も考慮すると、暖房用だけでなく給湯用の需要先の確保がポイントであり、公共施設等の需要先が確保されることが、事業の安定化に欠かせない。市の施設にある暖房給湯施設の調査結果では、ストーブについては、設置数の約40%が設置10年以上経過していることから、これらを計画的にペレット使用のものに交代していくことも併せて推進していく必要がある。ボイラーについても、更新時に同様な対応を推進していくことが必要である。また住宅地等が集中的に立地する場合には、温水管による熱供給も可能である。その意味で、天竜峡エコバレー地区に計画されているエコハウジングビレッジへのエネルギー供給は、国内でもまだ例のないエコロジカルなバイオエネルギーによる地域冷暖房利用であり、「環境文化都市」としての特色ある地域づくりとなりうるものである。
 温泉・病院・福祉施設等年間を通して大量の温水を必要とする施設には、ボイラーの燃料としての需要が見込まれるし、さらに、地域の園芸施設や木材乾燥施設も熱需要の核となりうる。
 森林バイオマスのエネルギー利用には、直接燃焼のほか、ガス化、エタノール化等があるが、当面活用できるのは、直接燃焼とガス化燃焼である。飯田下伊那は、比較的急峻な山林地帯であることから、大量調達では集荷コストがかさむ傾向にある。このため、大規模化によるメリットを追求する商業発電の技術や考え方をそのまま持ち込むことは困難で、適切な規模を検討する必要がある。
 また、北欧のように、比較的緩やかな丘陵地の森林が大部分を占め、また、年間を通して大きな熱需要があり、石炭火力からの転換という歴史的な経緯など、地域事情が異なる技術をそのまま導入してもうまくいかない。従って、地域の実情にあった、小規模分散型(下伊那で1施設程度)の技術、設備の導入が必要であり、その場合は、発電効率が低下することを考えると、熱利用を重視し、コ-プロダクション(炭等の平行生産)も視野に入れ、季節的な需要の変動にも対応できる設備の設置も検討する予定である。

6. バイオマスエネルギー公開研究会、ペレットプラント建設準備会

 ペレット製造プラントの建設により化石燃料に頼らない再生可能エネルギーを利用して「環境文化都市」を目指す一方で、市民レベルとして、自分たちは、何から手をつければよいのか、そして、子供たちに何を残してあげられるのかをテーマとして「バイオエネルギー公開研究会」を立ち上げた。研究会は、バイオエネルギーにおける市の取り組み、あり方を公開する場でもあるが、この会を通じて、バイオエネルギーを1つの切り口として、地球温暖化においてどの様な考え方・行動が大切であるか等を学習し、広い視野で環境問題に関心を持つことが大切だと考えている。
 今年7月下旬に第1回の「バイオエネルギー公開研究会」が開催され、30人余の参加があったが、今後も参加人数にとらわれることなく、認識を深める会としての存続を位置づけている。会の企画・運営・実施までを実行委員会で決定し、広く一般市民の方に講演会等の開催を呼びかけている。熱い思いの実行委員の職業は、僧侶・スチュワーデス・建築士・建設業・農業等千差万別である。実行委員会としてのまとまりが環境を考え行動する団体として育つために、様々な場を行政として提供したいと考えている。
 ペレット製造プラント建設を前提に「ペレットプラント建設準備会」を林務課が今年の5月、11団体のメンバーにより立ち上げた。会員は、製材業者・造園業者・森林組合・大工組合・建設組合等の製材・枝条・建築端材等の焼却処分が困難になる団体代表者である。オブザーバーとして県林務課の職員も参加し、一緒になって事業の方向性を検討中である。
 この準備会の中で、プラント建設・運営においては公設民営を考えている。建設費用は、国1/2、県1/10、市1/10を考えており、残り3/10を民間からの出資による予定である。
 もちろん、現在は、需要先がないので、大口需要を公共施設で考えることが前提になる。具体的には、現在「木質ペレット製造施設におけるFS調査(事業化可能性調査)」を実施しているので、この準備会と密接な関係を持ち、建設に向けて一歩一歩押し進めていくこととなる。