【代表レポート】
滋賀の自然エネルギー政策の取り組みと今後の課題
滋賀県本部/滋賀地方自治研究センター・理事 奥村 清和
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1. 滋賀県内における地域新エネルギービジョンの策定状況
滋賀県では、平成6年12月に閣議決定された「新エネルギー導入大綱」を踏まえ、県の新・湖国ストーリー2010に基づき、地域特性をいかした新エネルギーの導入と省エネルギー対策を、県民、事業者、県及び関係機関が一体となって推進することにより、県内の石油依存度の低減や二酸化炭素の排出を抑制し、省資源・省エネルギー社会の実現のために、平成22年度を目標年次としています。
また、県内の市町村では、平成11年度から平成12年度の2ヵ年で野洲町、平成12年度に米原町と新旭町、平成13年度に八日市市と愛東町、平成14年度は草津市と竜王町が、地域新エネルギービジョンの策定が行われました。
それぞれに特徴を紹介すると、野洲町の「スマイル エナジー ビジョン」と題して策定された地域新エネルギービジョンは、非常にわかりやすく読みやすくなっている。このビジョンは、「第一の約束 再生可能なエネルギーの研究」「第二の約束 高効率エネルギーの利用推進」「第三の約束 省エネルギーの促進」「第四の約束 新エネルギー利用促進のためのシステムづくり」の4つの約束があり、地域に賦存する自然エネルギーなどの再生可能なエネルギーを積極的に活用し、地球環境に極力負荷を与えないような地域を形成していくこと。新しい技術や機器を活用し、エネルギーを効率的に利用することにより、環境負荷を軽減していくこと。エネルギー浪費型の生活を見直し、地域の自然風土を大切にした持続的な地域社会の発展をめざしていくこと。様々な努力や取り組みを支え、発展させていくための運動の促進や社会システムの改善を働きかけていくこととしている。
新旭町のビジョンは、エネルギー未来像として、「実感・体感・快汗! 遊んで学ぼう 自然エネルギーのまち」を掲げ、エネルギーの効率化、太陽光発電、太陽熱温水器、風力発電、小水力発電、バイオマスにおける具体的目標を設定されており、それが達成できれば二酸化炭素の排出量が1999年度と比較して、2005年度に5%削減され、2010年度には15%削減されることになる。また、『エネルギーというのは、遠くから自然に来るものだという感じがある。どの世代でも有限だということがわからなくなってしまい、エネルギーのありがたさが実感できなくなってしまった。そこで風車村を自然エネルギー公園として、遊びながらエネルギーを学び、体験できる施設をつくる。さらにそこを拠点にして、まちじゅういろいろな自然エネルギーを生み出す施設をみんなの手でつくりたい。』と言っている。
八日市市のビジョンでは、広く賦存している太陽光や太陽熱、風力、バイオマスなどの新エネルギー導入理念を「みんなの力でつくる新エネルギー社会・八日市」と定め、①太陽光、太陽熱を利用する「太陽の恵みプロジェクト」、②風力を利用する「風の見える街プロジェクト」、③木質バイオマスを利用する「森の力プロジェクト」、④農産資源バイオマスを利用する「菜の花プロジェクト」、⑤二酸化炭素排出抑制のため「クリーンエネルギー自動車導入」、の5つの主要なプロジェクトを揚げ、市民と事業者と市のパートナーシップにより地域の活性化や街づくりに生かしながら導入を進め、エネルギー面から循環型社会の構築を図っていくと明記されている。
愛東町のビジョンでは、6割近くが山林で占めていることから、木材を利用した「森林エネルギー」が有力な新エネルギーと予測されています。また、町の基幹産業でもある農業をエネルギー消費と新エネルギー供給可能性の両面から分析されています。
しくみ作りとして次のプロジェクトが揚げられています。
① イエロー菜の花エコプロジェクト
② 環境調和型農業推進プロジェクト
③ 遍路みちプロジェクト
④ 森のエコプロジェクト
⑤ 環境教育プロジェクト
⑥ 集落新エネルギー導入プロジェクト
また、八日市市と愛東町は隣接市町で同時に新エネルギービジョンの策定が行われ、これからそのビジョンの推進が行われる中で、「周辺市町村との連携のあり方」「行政・住民のパートナーシップのあり方」を考えるために「ラブエイトの会」と称して会合も行われている。
滋賀県では、今まで6つの県及び市町で、地域新エネルギービジョンが策定されており、それらの計画全てにバイオマスエネルギーが挙げられています。
2. 滋賀県内での自然エネルギーに関する取り組み
(1) 森林発電プロジェクト
滋賀県湖東地域振興局では、平成12年度から、新しい時代に求められる循環型社会への転換を図っていくため「森林発電プロジェクト」を企画し実践している。このプロジェクトは森林や里山の保全とそこから生産される森林資源の有効活用を融合させ、資源循環のミニモデルを市民の参画によって実現し、木質バイオマスの利活用について提案と実践が行われている。県内外から200人以上もの参加者を得て、木質ガス化施設、炭窯などを作ってきた。
このプロジェクトは3つの方針『 ① 市民が一緒に協働作業で木質バイオマスを活用した資源循環のミニモデルを手づくりで作り上げる、②木質バイオマスを素材として資源の循環と有効活用について実践活動をする中から、化石資源への依存、廃棄物処理の問題などについて考える、③化石資源の代わりに、一方的に森林から木質バイオマスを奪うのは本末転倒であり、「自然と人との賢明なつきあい方」について考える』により活動されている。
(2) 市民共同発電所
太陽光発電を化石燃料による発電システムに変わるものとして普及させるため「市民の、市民による、市民のための、共同発電所」として、滋賀県には、次のようなプロジェクトが進められています。
① 市民共同発電所「てんとうむし1号」くん
4.35kwの全国初めての市民共同発電所
② あどがわ・市民共同発電所「大地-21」プロジェクト
約50平方メートルに5.22kW
③ 湖北・市民共同発電所「さといも」プロジェクト
20平方メートルに2.72kW
このプロジェクトは、これまでのような化石燃料を大量に燃やしたり、放射性廃棄物を生み出す原発のような巨大発電所ではなく、自分たち自らで環境に負荷のかからないクリーンな発電所をつくり、社会に環境負荷のかからないきれいなエネルギーを供給しようというものです。
具体的には、プロジェクトに参加される方がお金を出し合い、屋根を提供する方と共同で、太陽光発電設備を設置し、そこから電力会社の送電線を通して、太陽光を電気エネルギーに変えてきれいな電力を社会に供給するという計画です。
(3) バイオガス発電施設
滋賀県畜産技術振興センター内に平成14年7月に、家畜ふん尿を使ってメタンガスを発生させ、電気や熱を起こすバイオガス発電の施設が完成した。バイオガス発電は、微生物を活用し、化石燃料の利用減にもつながる新エネルギーとして注目されている。
この発電施設は、敷地約千平方メートルで、メタン発酵槽やガスホルダー、小型ガスタービンなどで構成されている。総事業費は、1億100万円。同センター内で飼育する乳牛や豚のふん尿を用い、施設内で1日消費する電力に相当する約2302kWhを発電する。
(4) 新旭町自然エネルギー学校
省エネルギー・自然エネルギーによるまちづくりを住民参加で実現していくことを目的に、その担い手や人材づくりを行うために平成13年度は次のような自然エネルギー学校が行われました。
① 自然エネルギーは楽しい!
太陽光・太陽熱・風力・水力など、身近な自然エネルギーの仕組みを学ぶ。
② 未来型原始生活の体験
自然の恵みをバイオマスエネルギーとして使う体験をする。
③ さわやか! 風のエネルギー
風をエネルギーに変える。
④ 考えよう! 風車村自然エネルギー公園
持続可能なまちづくりとしてのエネルギー利用のあり方・システムについて学び、生活における取り組みを考える。
⑤ 発表会 風車村自然エネルギー公園
参加者がつくった風車村自然エネルギー公園計画をグループごとに発表する。
この学校では、太陽光、風力等の自然エネルギーを私たちの生活にいかに取り入れるかを実践的、体験的に学ぶ講座である。
学校に集まった人がリーダーとなって、自然エネルギー普及の取り組みが町ぐるみで広がっていくことを期待されている。
(5) 河辺いきものの森
八日市市の「河辺いきものの森」では、市民による里山管理活動と伐採した木材(竹を含む)の資源としての利用が行われており、木質バイオマス利用の先進地といえる。
このような特性を活かして、「河辺いきものの森」における木質バイオマスのエネルギー利用のモデル事業が行われる計画です。
なお、木質バイオマスのエネルギー利用には、エネルギー以外の付随する効果もあることが特徴です。それは、生物の生息環境の確保・回復、目に美しい景観の再生・創出、文化・遊びの継承、健康(福祉)・教育(生活力・自然観の育成)への影響を通したコミュニティ発達などです。
(6) ラブエコステーション(仮称)
愛東町では、「環境・新エネルギー政策の体現としてのラブ・エコステーション」を現在計画している。このステーションは、自然との共生の必要性が「おもしろく」「楽しく」「直に触れる」ことができるような施設で、環境保全の必要性を考え、資源の有効利用を効率的に図り、町内のリサイクルシステムの拠点ともなる施設を検討されている。
また、これまでの地域のリサイクル活動を踏まえつつ、生活する町民が主人公となる環境要素を徹底的に探求し、地球環境の改善、環境教育の充実に資する環境情報の発信・交換できる施設の整備を目指している。
また、施設に必要なエネルギーを場内で全て確保することにより、エネルギー面で自立した分散型の施設づくりを目指している。
3. 愛東町における環境とエネルギーに関する取り組み
(1) 住民協働による「あいとうリサイクルシステム」
1981年から「消費生活学習グループ」による資源ごみ回収運動がスタートしました。年1回の回収から始まったこの運動は年々広がりをみせ、1986年には行政が支援する形で月1回の「あいとうリサイクルシステム」が誕生しました。その後、集落の協力が得られ、全国にもあまり例を見ない協働による資源リサイクル運動に発展しています。
現在は、毎月1回の資源の日(第2日曜日)に各家庭から集落の回収場所にびん(4色分別)・缶(アルミ・スチール)・ペットボトル・トレー、廃食油、紙パック、乾電池の7品目11種類に分別して持ち込まれます。そこからは、集落ごとにストックヤードに搬入されます。ストックヤードでは、エコライフ文化推進会議の会員や町議会議員、町職員などが搬入された物を検査し、荷下ろしを手伝っています。今では、このシステムは定着し、ほとんどの住民が一度はこの運動に関わりをもっています。
(2) あいとうイエロー菜の花エコプロジェクト
資源回収の品目に廃食油を早くから取り入れ、家庭から出る廃食油のほとんどを回収しています。回収された廃食油は毎月約300リットルあり、その内100リットルがエコライフ文化推進会議の会員によって粉石けんとして再生され、「愛しゃぼん」の名称で「道の駅 あいとうマーガレットステーション」で販売されています。残りの約200リットルはBDF(バイオ・ディーゼル・フューエル)に精製し、町公用車などに使用されています。BDFは、軽油に比べ排気ガスの黒煙は約3分の1に削減されるほか、硫黄酸化物の排出もなく、二酸化炭素の発生量も78%少ないというメリットがあります。
BDF化は、1995年に全国の自治体に先駆けて製造プラントを導入して取り組みを始めました。この活動をきっかけに、1998年には廃食油を燃料化するだけでなく、菜種を転作田に撒き、搾った菜種油を食用に使い、その廃食油を燃料にするという循環システム「あいとうイエロー菜の花エコプロジェクト」をスタートさせました。滋賀県をはじめ、県外の自治体やNPOなどでもこのプロジェクトに取り組まれてきています。
(3) 孫子安心条例と地域環境行動計画(大字の計画)
町総合計画の重点プロジェクトの1つとして「環境創造の町づくり」を揚げており、早くから循環型社会の構築を目指した取り組みが進められてきました。
この条例は、孫や子の代まで安心して過ごせる持続可能な地域社会を実現するため、愛東町の目指す良好な環境の保全と創造について、基本となる理念や方針を定めています。(2001年8月施行)
今年度、各大字において、地域環境行動計画の策定作業を進めていますが、孫や子が安心して暮らしていける地域を誇りを持って引き継いでいくためには、今住んでいる地域に目を向け、自分の地域のことを知り、地域のよさ(地域のたから)を再発見し、評価し、それをどう生かしていくかを自分たちで考えることが大事です。
これまでともすれば、「変化すること、新しいものを取り入れること」だけが「地域の豊かさ」を実現することだと思いがちで、足元にある「地域のたからの素晴らしさ」を見逃しがちでした。
しかし、利便性と機能主義を優先して進められてきた「まちづくり」は、地域が本来持っていたよさを捨て去り、結果的に「まちこわし」になってしまったという反省も生まれてきています。
こうした中で、愛東町では、環境を考え孫子に誇りを持って引き継いでいくために、私たちの生活の一番身近な単位である「集落」ごとに、自分たちの住んでいる地域のたからをもう一度見直す作業から始めようというのが、平成13年度から各集落単位で実施されている「地域のたから探し」と「地域行動計画づくり」の活動です。
自分が住んでいる地域を見直し、「ないものねだりをするのではなく、あるものをどう生かすかを考える」という観点から、この町、この地域に住んでいる私たちの知恵で良好な環境の保全と創造に向けて行動できる計画を作っています。
4. 自然エネルギーへ変換できるのか
「地球温暖化」といった言葉は、毎日といっていいほど耳にするようになっている。しかし、どれだけの人がこのことを理解し、実践しているでしょうか。なぜ、実践できないでしょうか。私自身も住む町の役場職員として、「リサイクル活動」「廃食油燃料化」「菜の花エコ」などに主体的に参加してきたが、取り組み中で本当に、「これでいいのだろうか?」「このことは何の意味があるのだろうか?」と悩みながら、1人で取り組んできた。ただ、「ごみを何とかしなければ」と一生懸命には取り組んできたが何も変わってはいない。これまでの環境行政にも当てはまるのではないだろうか。
滋賀県においても、いろいろな取り組みが行われており、その取り組みが全国へと広がっていったものもあるが、次に踏み出せていないのは現実である。
自然エネルギーへの変換には、「コスト意識」「品質」の視点を持った上で、今の社会にあった理念や生活様式の確立が必要といえる。
また、そのクリーンなエネルギーの導入をパブリックなところが積極的に、なおかつ、計画段階から、市民と議論していくことに何か見えてくるものがあると思う。
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