【代表レポート】

「豊中市における温暖化防止の取り組み」

大阪府本部/豊中市労連・豊中市職員組合・環境企画課 山本

1. 豊中市における温暖化取り組みの現状

(1) 豊中市の環境行政の推進体制
  ① 豊中市役所の体制
   ・環境行政全般
    環境管理委員会(最高意思決定機関・市長,助役,特別職、部長級職員)
      〃 ・幹事会(課長級)
      〃 ・作業部会(環境配慮チーム・環境学習チーム)
   ・地球温暖化対策推進
     環境管理委員会
      環境管理委員(各部局長)
       環境管理主任推進員(各部局総務担当課長)
        所属長・施設長
         環境管理推進員
  ② 市労連の体制
     市労連執行委員長
      市労連執行委員
       環境管理推進員
  ③ 豊中市民の体制
   ・豊中市民環境会議(会長・豊中市長)
     役員会
      156加盟団体(事業者団体、流通業界、ホテル、交通、金融機関、教育機関、病院、研究機関、官公庁、民間団体、社会教育団体、福祉団体、女性団体、労働団体、その他)
   ・豊中アジェンダ21推進会
     運営委員会
      部会(生活・自然・交通・産業)
       プロジェクト(花と緑のネットワーク、竹炭、企画屋本舗)

(2) 行政の取り組み
  ① エコオフィス指針の運用
   ア 1998年3月策定
   イ 主な削減目標(電気・ガス・水道・紙・燃料)
  ② 地球温暖化対策推進実行計画の策定と進行管理
   ア 2001年10月策定
   イ 計画の内容(参考資料
   ウ 具体的な取り組み
      2002年度から
(3) 市民の取り組み
  ① 豊中市民環境会議の設置
   ア 1996年6月設立
   イ 2002年6月活動主体のワーキンググループ分離
      アジェンダ21推進会設置
  ② 豊中アジェンダ21(地球環境を守るとよなか市民行動計画)の策定と推進
   ア アジェンダ21の計画内容
    101の行動メニュー
    ・カバンの中に薄手の買物袋を入れて歩こう
    ・地下水や湧き水を大切にしよう
    ・事業所へのマイカー通勤の自粛をすすめよう
    ・不要なアイドリングはやめよう
    ・地球環境問題を自分たちの日頃の暮らしのなかから考えよう
   イ アジェンダ21の実行(豊中アジェンダ21推進会)

  <生活部会の活動>
   家庭での省エネルギー・省資源活動
  ① エコライフカレンダー運動
    現在、継続されているエコライフカレンダー(環境家計簿)運動は、環境庁の提案する率先行動を生活部会での取り組みにしてみようと始められた。しかし、環境庁の提案する環境家計簿は記入する項目が多く、一般の人たちが継続して実施することは非常に難しい。テスト版を作成してそのことを確認した部会では、家計簿をつけたことのない人でもつけられるもの、そして、家庭で行ってほしい環境情報を伝えることのできるものにしようと、何度かテスト版を作成して試しながら1998年に初版豊中市民版環境家計簿を作成した。A3サイズの大きなものであったが、市内のさまざまな団体を通して5,000部の配付を行った。
    環境家計簿を配りながら、どうしてそれをつくったのか、環境庁の家計簿とどのように違うのかなどを説明して回った。この家計簿を配る過程が、とよなか市民環境会議の存在と環境問題への取り組みの必要なことを市民に訴えかける機会となった。
    2年目からは、使いやすいようにカレンダー形式にして、豊中アジェンダ21をできるだけ多くの人に知ってもらおうとさまざまな団体や発表の機会を通して市民に配布してきた。
    課題であった環境家計簿のデータ収集には、モニターを募集し、そのモニターに電話でフォローを行うなどして、年間を通して100人のモニターデータを集めることができた。
    また、市内のいくつかの学校から総合学習を活用した環境学習の要請があり、この環境家計簿が子どもたちの環境学習の教材としても使われてきた。
    多くの自治体が環境啓発活動として環境家計簿を作成して市民に配っているが、ほとんど市民からのデータを集めることができていない。とよなか市民だけで100人の継続データが得られたことは、市民が企画、運営に係わってきた成果である。
  ② マイバッグキャンペーン
    量販店での店頭での買い物客の意識調査を兼ねて、マイバッグキャンペーンを行いたいということで始まった。
    取り組みの趣旨を量販店側に伝えるために、懇談会を開催したが、量販店の招集と会場の確保は市が行い、会議の進行は市の司会で始めた。キャンペーンの趣旨、アンケートの内容については、市民が説明した。会議の結果、店頭でアンケートを行うことについて基本的に合意、店舗側から机椅子を貸していただくことになり、さらにアンケートに対する粗品まで提供していただくことになった。
    行動に参加する市民の日程調整は市民がコンサルタントに支援を受けて行い、量販店側との日程調整は市が担当した。当日行動には、市民、環境企画課、環境事業部、職員組合、コンサルタントが参加した。
    アンケートは市民が集計、集計結果をコンサルタントがグラフ化し、市民、市、コンサルタントで協力して報告書を作成した。
    2000年度、2001年度には、教育委員会の協力が得られて、小学4年生とその保護者、中学2年生とその保護者へのマイバッグに関するアンケートを実施した。

  <自然部会の活動>
   親しみ学ぶ、創り広げる、守り育てる
  ① 率先行動としての豊中観察
    ローカルアジェンダ21策定に集まった市民は、すでに活動を行っていた人、環境問題にある程度の知識を持っている人、公募で初めて参加した人など、さまざまなレベルの人たちが参加していた。ローカルアジェンダ21を考えるための基礎づくりとして、参加者全員で豊中の自然についての課題を共有する必要があった。初めての人でも取り組める活動として、豊中の環境マップをつくろうということになった。市内を8区域に分けて、分担して写真を撮ったり、地域の特徴をしらべたりして、部会で寄り集まって模造紙に地図と写真を貼り付けたマップ「歩いて、見て、感じた豊中の自然」を作成させた。
    できた地図を前に部会で感想を述べあい、ここがこのように変わるといいなどという意見を交換しあった。環境マップはその年の環境展に展示して、市民に豊中の自然について考えてもらう機会とした。
    また、市が行っている「ふれ愛ウオーク」で、コースになっている服部緑地の新宮池にバードスコープを備えて、ウオーク参加者に水鳥観察を楽しんでもらうような試みも行った。
    また、少ない自然が残っている旧猪名川河川敷の管理について、地元に出向いて自然観察会や樹木の名札付けなどを行って、身近な自然を大事にすることの大切さを一緒に学ぶ行動などを行った。
    これらの活動の中から、自然部会はローカルアジェンダ21の基本的な考え方、「親しみ学ぶ、創り広げる、守り育てる」という考え方を共通のものにしていった。
    策定課程の2年間はコンサルタントが会員への案内、活動写真の記録、会議の準備などの事務局業務を担当した。
  ② 身近な環境調べなどの市との共催
    環境企画課が市民への環境啓発活動の一環として、身近な環境調べ、自然観察会などの啓発活動を行っていた。自然部会の活動が活発化する中で、企画運営に自然部会の参加が求められて共同実施されるようになった。それらに加えて、大阪自然環境保全協会などの大阪府全体でのタンポポ調査やツバメ調査などにも自然部会として参加して、部会の活動として行われるようになった。
    市が行っていたイベントについては、市民が観察会に係わるようになってから、参加者数も飛躍的に増大、データも緻密なものになってきた。
    行政は会場手配、広報への掲載、講師謝金、参加者名簿の作成、報告書の印刷。
    市民は資料原稿の作成、市民への説明、収集データの整理作業、報告原稿の作成。
    説明会や観察会の当日運営や事務局は行政が分担している。
  ③ 剪定枝の堆肥化
    「学校で剪定した枝や葉を全部焼却しているけれど、うまくすれば堆肥にして学校で使えるのにもったいない。なんとかならないかなあ。」という自然部会での発言を、造園業者のI氏が受け止め、企画書として行政や市民に提案したことからこの取り組みは始まった。市民、事業者ならびに環境企画課の職員で教育委員会に交渉。教育委員会として責任はもてないが、学校現場でやるところがあればやってもいいという了解を得て開始された。教職員のOBのルートで参加する学校を求める、現場レベルでの交流で始まった。校務員さんたちへの講習会や児童生徒への説明は行政の立ち会いのもとで市民が行い、初年度は10校で実施された。市民が独自に切り返しの指導や堆肥化促進剤の投入指導などを行った。剪定枝のチップ化、堆肥化促進剤費用は造園業者のボランティア提供によった。その後順調に参加校も増え、現在は教育委員会が堆肥化促進用の菌剤の購入予算を計上するようになった。
    市民、事業者、学校現場とのパートナーシップで進んだ。
    行政は連絡、調整の役割を果たし、学校側の支持が得られるようになり、予算化が進められた。市民の運動に行政が加わってきた形になっている。
  ④ 15中ビオトープの建設
    豊中市内では千成小学校に続いて2例目となった15中学校の学校ビオトープづくりは、基本的には15中学校の生徒、PTA、教職員の力で行われた。
    しかし、この建設には神戸の学校ビオトープの情報を伝え、一緒に見学に行ったり、ビオトープの勉強会を行ったり、建設途中での技術提供や建設協力を行ったりした自然部会の協力、M社からのゴムシートの無償提供にむけたコンサルタントの調整、同校OBによる建設機材での池の掘削、無償でゴムシートの提供やシートの敷設作業を行ってくれたM社など多くの外部の力が注がれた。これらの外部の協力が学校長の熱意を支え、生徒たちのやる気を引き出した。

  <交通部会の活動>
   環境にやさしい交通体系への模索
   交通部会は市内に係わる交通事業者や市民で構成されている。環境にやさしい交通のあり方について、各地の事例を学ぶ中から、ストップアイドリングなどの環境に負荷をかけない車の運転方法を実践するエコドライブ、マイカー利用の削減、共同輸配送など車の利用を控えられる交通行動の変革、環境に負荷の少ない都市交通の実現をめざすまちづくりなどに係わる分野にわたる行動提案を策定した。
   策定に向けての率先行動としてのストップアイドリング運動は、環境庁の呼びかけや大阪府での条例制定による効果が少ないことから、単なるキャンペーン活動では効果を得られないと判断し、オリジナルステッカーを作成することにした。アジェンダ21制定の1年目はデザイン作成、2年目に秋の交通安全運動にあわせた街頭での配布活動、各団体への配布、豊中市公用車へのステッカー貼付などを行った。初年度の配布枚数は市内の車の台数の1割近くになるよう1万枚にした。
   しかし、最初の2年間は街頭でストップ・アイドリング・ステッカーを貼付した車を見ることはほとんどなく、効果も乏しかった。3年目から、団体名や企業名を入れたステッカーを印刷するようになり、企業や団体の社用車や自家用車に積極的に貼られるようになった。
   策定課程で庄内地区や豊中駅周辺のように、交通渋滞の激しい地区での発生交通量を削減できないかという議論があり、実際に共同輸配送を行っているところの例を実地見学しようと、豊中市の民間組織の財政的支援を受け、福岡天神地区共同輸配送株式会社への視察を行った。
   アジェンダ21策定後は、ストップ・アイドリング運動を継続しながら、産業部会同様、新田保次大阪大学大学院助教授にアドバイザーを依頼し、会議の方向付けについて助言を受けながら部会活動を継続している。
 しかし、市民や事業者だけで企画運営を行っていくには至っていない。

  <産業部会の活動>
   豊中の企業人としての環境への取り組み
   アジェンダ21策定のための産業部会は、それまで公害問題という観点から行われてきた市長と企業の懇談会メンバーに対して参加を呼びかけ、そこにワーキンググループに参加していた市民を加えて始まった。それまでのいきさつから、部会の立ち上げ時には、多くの参加者は環境問題で新たな宿題を行政からもらうことになるのではないかと身構えて始まったと言って良い。
   しかし、アジェンダ21策定に先立って、ISO14000シリーズの取得に向けた内外の動向を学習し、規制ではなく、自主的に環境問題に取り組む必要を認識し始めた。市民の策定した環境目標像に習って、企業人の環境目標像を策定しようということになった。環境の時代に豊中の企業はかくありたいというものを参加者で出し合い、KJ法で整理しながら、エネルギー、廃棄物など、分野ごとに環境目標像を短歌にまとめていった。
   この策定過程で、とよなか市民環境会議で扱おうとする環境問題は、規則や規制で強制されるものでなく、資源やエネルギーなど地球環境問題をそれぞれの企業の責任で受け止めて、できることを見いだしていこうとするものであることが浸透してきた。
   環境目標像に引き続き、事業者の環境度をチェックするための方法の検討に入った。しかし、産業部会に参加している企業の業種はさまざまであり、事業者の環境活動を共通に測るものが必要であった。たまたま、関西大学の和田研究室のエコオフィスチェックリストを教えてもらい、それを参考に、すべての事業者が共通して持っているオフィスの環境対応度を測るチェックリストを作成しようということになった。和田案を参考にしながらも、環境目標像の各分野をカバーできるものを検討し、事業者用30項目、個人用15項目のチェックリストを試行錯誤しながら作成した。
   産業編のアジェンダ21はこれらのベースの上に、豊中の事業者で取り組んでいけそうな項目を拾い出し、議論を行う中で策定された。
   病院連絡協議会の実施した機密書類のリサイクルは、部会の中での議論をもとに、環境事業部と病院連絡協議会が実施方法を詰めて行ったものであるが、一般の企業には広がるものになっていない。
   アジェンダ21策定後も継続して佐川直史氏にアドバイザーを依頼し、年間4回程度の会合や講演会、学習会を中心に運営してきたが、部会員自らが運営する自主的な動きになっていない。

  <花と緑のネットワークの活動>
   家庭でのごみ削減と生ごみのリサイクル
   生ごみ堆肥化プロジェクトは学校剪定枝の堆肥化運動と、大阪北生協の自主グループで生ごみ堆肥をつくる活動を行っていた人たちとがドッキングして始められた。1999年の最初の実験は民間企業の敷地内に設置した堆肥化装置に、市役所職員食堂の生ごみを運搬・投入して堆肥化の有効性を検討するとともに、栽培農家の協力を得て、実際に野菜栽培の肥料として使えるか否かを検討した。この実験は市民と豊中市職組との共同実験として、市民と市の職員が交代で分別された堆肥の運搬を行った。
   以後、規模を拡大し、何度か実験を繰り返し、平成13年度(2001年度)は市の事業として給食センター生ごみの堆肥化実験プロジェクトが実施され、平成14年度(2002年度)4月には堆肥化施設「緑と食品のリサイクルプラザ」が開設され、出来上がった堆肥を配布する役割をになっている。

  <竹炭プロジェクトの活動>
   里山保全活動と二酸化炭素排出削減運動との結合
   自然部会と生活部会の共同プロジェクトとして開始された。身近な自然環境である里山の雑木林も管理を怠ると竹林が広がって、樹木が枯れていくおそれがある。里山の竹を毎年刈り取って竹林の拡大を防ぐ必要があるが、伐採された竹もそのまま燃やすのはもったいないから、竹の炭にできないかという提案があった。池田市の五月山で行われている炭焼きを見学に行き、これなら豊中でもできるということで、環境企画課が炭焼き場所の交渉にあたり、豊中市伊丹市クリーンランドの一角を貸してもらえることになった。市民は簡易の炭焼き窯をつくるためのドラム缶の準備や、市の工事現場からの粘土の運搬などを行った。窯作りについては池田のグリーンエコーの人たちの技術指導を受けた。
   竹は市の公園緑地課が伐採したものを使用したり、島熊山で市民が伐採したものを運んで使用した。竹の伐採や炭焼きの現場管理に環境企画課が同行し、市民が交代で2日間の炭焼きを実施してきた。
   問題は恒常的に炭焼きを行うことのできる場所が確保されていないことと、市民と行政との役割分担が不明確なことである。炭焼きを行うことのできる場所がなくなってしまったことや、炭焼きの実行責任者を決めないまま作業が先行したため、炭焼きプロジェクトは止まったままになっている。
   ちなみに、池田市では、市民団体グリーンエコーと行政とで、五月山の竹林管理を共同で行い、共同で炭を焼いている。

  <企画屋本舗>
   活動のすそ野をひろげる取り組み
   企画屋本舗は、環境問題への初心者に魅力あるイベントを行って、楽しみながら環境問題にも関心を持たせるイベントの企画屋である。これまで、ハーブ茶を飲みながら環境問題を考えたり、トピアリー(園芸の装飾的刈り込み法)をつくりながら環境問題の意見交換を行ったり、日独の環境問題のディベートを行ったり、とよなか再発見ツアーを行ったりしてきている。市民と環境企画課で企画運営を担っている。行政サイドで見れば、自然観察会と同様、市民への環境啓発活動になり、市民サイドで見れば、豊中アジェンダ21の普及活動、新たな活動の仲間づくりになる。
   企画づくり自体が、新しいネットワークを作り出す効果をもたらし、アジェンダ21の普及にもつながっている。

(4) 豊中市における温暖化取り組みの課題
  ① 行政の課題
   ア 職員の温暖化防止対策への意識の醸成
   イ 総合的温暖化防止行政の推進
   ウ 専任事務局体制の整備
   エ 環境予算の増額
  ② 市民活動の課題
   ア 豊中アジェンダ21の法人化
   イ 事務局体制の強化
   ウ 活動の活発化(市民・事業者・関係団体などの参加人員増)

(参考資料) 豊中市地球温暖化対策推進実行計画(抜粋)