【自主レポート】

第10回福島県原子力防災訓練見学・検証行動報告

福島県本部/自治研原発部会

1. はじめに

 今回で10回目となる「福島県原子力防災訓練」が2000年11月28日(火曜日)に、双葉町・大熊町をメイン会場に開催された。
 今回の訓練は、今年6月に原子力災害特別措置法(原災法)が施行され、事業者が通報すべき事象の基準など、国や自治体に対する通報連絡が明確にされたこと。そして、現地に置いてはオフサイトセンターを中心とした応急対策活動が行われ、原子力災害への対応の仕組みが新しくなっている事などから、これら新しい仕組みの中で、防災体制がいかに機能するのか、検証する意味でも大変重要性をもっていた。
 この訓練に浜絵支部と自治研原発部会は、社民党双葉支部協、双葉地方平和フォーラムと共に見学・検証行動の取り組みを行った。

2. 防災訓練の内容

(1) 基本想定
   7時45分落雷による送電事故により原子炉自動停止。8時00分原災法第10条該当。その後原子炉への冷却水注入手段喪失したため、原災法により緊急事態宣言を発出。原子炉水位低下に伴い放射性物質の放出の恐れがあるとして、防災対策を実施することとされた。

(2) 訓練の進行概要
 8時00分 特定事象の発生(事故発生)
 8時10分 発電所から第1報(原災法第10条通報) 、県災害対策本部・各町災害対策本部設置
 8時20分 国の判断結果の連結「緊急事態には該当しない。放射性物質の外部への放出はない」
 8時30分 県災害対策本部・各町災害対策本部会議(住民避難の準備)
 8時35分 現地本部の設置(県出先機関、関係6町、双葉消防本部、事業者)
 8時40分 発電所から第2報8時45分現地事故対策連結会議
 9時00分 住民広報9時05分副知事現地到着
 9時10分 県現地本部会議
 9時25分 発電所から第3報(事故の進展)(原災法第15条通報)
 9時35分 緊急事態宣言、 住民広報、 国本部・現地本部設置
 9時40分 国現地本部長到着
 9時45分 合同対策協議会議(全体会議①)
 9時55分 合同対策協議会議(対応方針決定会議)、避難広報、住民避難(自宅から地区集会所へ)、 合同対策協議会議(全体会議②)
 10時00分 住民広報10時15分住民避難(地区集会所から避難所へ)
 10時45分 住民避難(避難所へ到着)、 合同対策協議会議(全体会議③)
 10時55分 終了式
 11時00分 訓練終了
 

3. 各見学・検証報告

県原子力センター入口 (オフサイトセンター)

(1) オフサイトセンター
   (県原子力センター)

  ① 情報の共有化とは言いながら同じ内容を「事故対策会議」「県現地災害対策本部会議」「合同対策会議全体会議」(※各の会議は議長が資源エネルギー庁の責任者であったり、副知事であったり、通産省の責任者であったりした)で順次報告していた。一刻を争う事故の際に実に役所的な会議システムは不十分ではないのか。特に、副知事の到着を待っての「県現地災害対策本部会議」は現実的ではない。
  ② 会議参加者は県で用意したシナリオを読んでいるだけであった。最も必要な「得られた情報」を基に「判断をする」訓練が欠けていると思われる。原子力災害が起こったときのために訓練をしているというより、原子力防災訓練というイベントを無事行うことを目的としている。

大熊町役場正庁 (町災害対策本部)
(2) 町災害対策本部(大熊町役場)
  ① 机、椅子などの準備は既にできていた。
  ② 会議の各構成者(課長等)は、自席から会議参加ではなく、正庁のある3階及び2階に待機をしていた。
  ③ 防護服を来ている人はいないし、その準備もしていない。
  ④ 靴は、普段の靴を履いていた。スリッパ履きの人はさすがにいなかった。
  ⑤ 会議と会議の間には喫煙席で一服していた。
  ⑥ 屋外への放送が庁舎内には流れていなかった。
  ⑦ 会議内容は指示と報告だけで、対策の内容については質問もないし、町長の発言は一度もなかった。
  ⑧ 庁舎内は至ってゆるやかな雰囲気であった。

(3) 避難指定地区(大熊町夫沢地区「夫沢2区集会所」)
  ① 最初に集会所へ来た人は8時18分頃(予定は10時)
  ② 防災無線放送は表にいれば聞こえるが車の中では聞こえない。
    放送の仕方もいつもの放送の仕方(exピンポンパンホン……明日は町民体育大会です。各戸もれなく参加しましょう)で行っているので、緊張感がなく、まともに聞く人も少ないかもしれない。
  ③ 車両は自衛隊と町のバスで、自衛隊の車は9時6分に到着していた。
  ④ 28坪程度の集会所では狭いのではないか。
  ⑤ 10時27分に避難広報があったが、既に4~5人集会所に来ていた。避難広報があってからバスの出発までの時間はどのくらいかかるか、などのデータ収集も必要ではないのか。
  ⑥ 何か手違いがあったのか、盛んに携帯電話で連絡を取っていた。住民は待ちくたびれた様子であった。(災害の際は携帯電話が使えない場合もある)
  ⑦ 避難訓練としては、「早く集会所へ来て、遅く集会所を出る」のは大変まずいことではないか。
  ⑧ 広報車は来なかった。
  ⑨ 全体的に緊張感のない訓練と感じた。

大熊町文化センター(避難所)
(4) 避難所(大熊町文化センター)
  ① 会場の設営は既にできていた。
  ② 8時前には担当者が会場に来ていた。
  ③ バス到着が遅れ混乱をしていた。
  ④ スクリーニングは行っていなかった。(ヨウ素剤の服用の説明に合わせ、訓練終了後の講演会で説明)
  ⑤ 防護服を着用している人はいなかった。
  ⑥ 予定時間を過ぎても避難の指示が出ているのか分からず、何度も携帯電話で連絡を取っていた。連絡態勢が不十分と感じた。(災害の際は携帯電話が使えない場合もある)
  ⑦ 避難住民登録は代表者のみ行っていた.
  ⑧ 全体的に緊張感のない訓練と感じた。

4. まとめ

 アメリカ原子力規制委員会(NRC)の防災担当者は、原子力防災訓練について「突然発生する状況にどう対応するのかの訓練が必要。予め準備をしての訓練で、うまく行ったとしても意味はない。自分たち(原子力関係者)に弱点がないと勘違いしてしまうだけだ。」と言っている。
 日本では、国も事業者も多重防護システムを理由に「重大な事故は起こらない」として判断をする訓練は必要がないとしてきた。今回の訓練も、この考え方を基に「安全をアピールするための訓練」として訓練を見せるための訓練に終始したと言える。実際の事故の際に、原子力関係者に求められることは、住民を守るため早め早めの判断であり、情報を集めてパニックを起こさないように、住民にその判断と状況を知らせることである。実際の気象条件などを基に判断をする訓練が必要ではないのか、そのことが判断力を鍛えることになるし、防災体制の課題も明らかになるのではないだろうか。
 そのためにも、他県(茨城県)で実施されているような、抜き打ちの通報訓練などの実施や、核燃料サイクル開発機構東海事業所で実施しされた「シナリオを参加者に秘密にした訓練」も必要である。勿論すべての訓練でシナリオを参加者に知らせない訓練を実施する事はできないと思う。住民参加の訓練であれば、事前にシナリオを周知しておくことも混乱を避ける意味で必要とは思う。しかし、原子力防災の最前線で活動する原子力関係者の訓練としては、必要なことだと思える。
 また、住民避難の決定から避難完了までの時間とか、どのような時どのような所で、混乱が生じるのかデータなどの収集も行われたようには見られなかった。訓練全体をチェックしている人も見られなかった。これらの積み重ねがない中で、いくら防災計画の見直しや防災訓練を行っても意味のある事とは言えないのではないだろうか。日本の危機管理の不十分さが言われているが、それを如実に表した訓練となったと感じた。
 一人ひとりの防災関係者や地域住民が、実際の災害に遭遇したときにどのように行動すべきかを体験しつつ学ぶのが、訓練の本来の目的と言われている。事故を起こさないことは勿論だが、事故が起きたときに被害を最小限にするために有効な対策を講じる事が必要である。そのために形骸化されショー的イベントと化した訓練に終止符を打ち、実効性のある原子力防災訓練を原子力開係者に求めたい。

毎日新聞

平成12年度福島県原子力防災訓練フロー図

平成12年度福島県原子力防災訓練参加協力機関