【自治研究レポート(個人)】
地球温暖化防止対策考
三重県本部/自治労上野市職員労働組合
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1. 国が消える?
南西太平洋、フィジーと赤道の中間付近にツバルという国(元英国領。1978年独立)がある。珊瑚礁の9つの島々からなる極小海洋国家で人口は約1万人。平均高度は2m、最高点でも4.5mしかない(2.5mとする文献もある)。珊瑚礁という土地柄は農耕には適せず、唯一の作物と言ってよいタロイモを主食として、あとは適当に魚を釣ってきて食べるという自給自足の生活が一般的である。
そのツバルに数年前から異変が起こっているという。加速的に海岸線が侵食され、また内陸部では満潮時に地中から海水が涌き出る。海水が入るようになった畑ではタロイモが根腐れし、伝統的な自給自足が不可能になって、海外に出稼ぎをする人も増加している。
海面計により現時点でツバルでの海面上昇はないとの確認はされているものの、IPCCによる今後100年の海面上昇の予測が出されて以降、国全体として移住を決意し、近隣のオーストラリアとニュージーランドに交渉を開始した。地球温暖化問題に熱心なニュージーランドは一部受け入れる方向(75人/年)であるが、対照的にオーストラリアは受け入れを全面拒否している。今後、キリバス、マーシャル、モルジブ、バングラデシュ、メコンデルタ地域もツバルに続き移民交渉に出るということになれば(あくまで仮定)、日本も二酸化炭素大量排出国としてなんらかの責任を負わざるを得ない状況になることも十分考えられる。
【IPCC】
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)。地球温暖化に関する科学的な知識をまとめ、各国政府に提供する目的で1988年に設立された政府間組織。日本の科学者も多く参加している。90年と95年に、地球温暖化に関する総合的な報告書をまとめたほか、個別のテーマごとに適宜、特別報告書をまとめており、温暖化予測シナリオについての特別報告書もその1つ。95年の報告書では、21世紀末に地球の平均気温は2度上がり、海面は最大で88㎝上昇するとした。 |
2. 日本の温暖化対策の現状
京都議定書が発効すると、日本は2008年から2012年までの第1約束期間における二酸化炭素の排出量を1990年比で6%削減しなければならない。"森林等吸収"といった逃げの手で削減量をまけてもらったものの、その森林吸収分(概算3.7%)を差し引いても、90年比で2.3%の二酸化炭素の排出量削減が必要となる。
【京都議定書】
(1) 気候変動枠組条約
大気中の温室効果ガス(二酸化炭素、メタン等)の増大が地球を温暖化し自然の生態系等に悪影響を及ぼすおそれがあることを背景に、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを目的として、1992年の地球環境サミット(UNCED。於リオ・デジャネイロ)で署名のため開放された条約。1994年に発効。平成13年3月現在で我が国を含む186ヵ国(含む1地域)が締結している。
(2) 京都議定書
上記枠組条約の目的を達成するためCOP3(第3回締約国会議)で採択された議定書。先進国等に対し、温室効果ガスを1990年比で、2008年から5年間で一定数値(日本6%、米7%、EU8%)を削減することを義務づけている。また、上記削減を達成するための実施メカニズム等を導入。
日本においては、5月21日、衆議院本会議において京都議定書の締結承認案が、全会一致で承認・可決された。地球温暖化対策推進法改正案も、同日衆議院本会議で可決。条約案件は衆議院の議決が優先されるため、国会での承認が事実上確定したことになる。参議院の審議を経て、改正推進法が成立した後、議定書締結を閣議決定し、条約事務局に締結文書の提出となる見込み。
欧州連合(EU)では、環境相理事会において、3月4日、執行機関の欧州委員会(EC)と15の全加盟国が地球温暖化防止のための京都議定書を批准することを正式に承認。また、EU加盟国全体で共同達成する90年比8%削減という議定書の削減目標の加盟国への割り振りも正式決定された。これらの決定を受け、ECと加盟各国は8月に開催されるヨハネスブルグ・サミットでの議定書発効を目指し、6月1日までにそれぞれ批准手続きを終わらせるとのこと。
京都議定書の発効要件は、55ヵ国以上の批准、及び締結した附属書I国(先進国等)の1990年における二酸化炭素の排出量の合計が全附属書I国の1990年の二酸化炭素の総排出量の55%以上を占めることとされている。日本、EUでは一歩前進しているもののアメリカ、ロシアの動向次第で当議定書の発効が大きく左右される。
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日本の現在の二酸化炭素排出量は、1999年実績で、13億7千万トン。1990年比較では、減少するどころか6.8%もの増加である。京都議定書の1990年基準が12億8千万トン。マイナス6%で減らすとすると、削減量は1億7千万トン。森林等吸収により、2.3%の削減で済むとしても、排出量目標値が12億5千万トンということになり、1999年実績から1億2千万トンもの排出量削減が余儀なくされることになる。これは日本の全自家用車による二酸化炭素の放出量、約1億3千万トン/年(98年実績)に匹敵する量である。
【気象庁も二酸化炭素濃度の上昇を確認】
今年3月、気象庁は国内3地点における観測結果から、2001年の大気中の二酸化炭素濃度は前年と比較して0.7~1.6ppm上昇しており、引き続き上昇傾向にあることを発表した。また、同庁が収集した世界の観測結果によれば、大気中の二酸化炭素濃度は産業革命以前の値と比較すると32%の上昇となっているらしい。 |
さて、二酸化炭素の排出量について、削減どころか増加の一途を辿るその原因はどこにあるのだろうか。自家用自動車の保有台数の増加とユーザー・ニーズの変貌に着目する見解がある。98年度の自家用乗用車の保有台数は4,990万台で、90年比でなんと42.9%の大幅増加。これには、都市近郊型の大店舗や全国チェーン系ストアなどが消費者のニーズに合っており売上も好調で、市街地型店舗が郊外に移転する傾向が継続しており、結果としてさらに、消費者に自家用自動車の交通手段選択に追討ちをかけているとする見解がある(あくまで1見解)。また、自家用車の車両重量も、90年の乗用車の平均車重は1.01トンだったものが、98年には1.18トンと1割も重くなっている。消費者が、安全性対策に目覚めたため、メーカーとしてはボディー剛性を強化せざるを得ないというのが背景にある模様。カーコンポやカーナビ装備の充実も消費者ニーズを考える上で欠かせなくなってきており、重量増に一役買っているらしい。
これらの状況を重く見て、国や自治体が「環境税」を課す動きが出てきた。前述のとおり日本の二酸化炭素排出量は99年実績で90年比較、6.8%増。アメリカに至っては12%の増。一方EUでは4%の減少。EUの二酸化炭素排出量の減少は、ヨーロッパ各国で環境税が導入されていることが大きな要因であるとされている。
【環境税】
環境税は環境の利用者に課せられる税金である。通常、環境は所有者が存在しないように見えるので、環境が浪費される(環境への負荷が過剰になる)傾向があり、これを適切な量に改善するために企業や住民に課せられる税金を指す。環境税というとCO2
に課せられる炭素税を指す場合もあるが、CO2 以外の環境負荷の高い排気ガス類(NOX[窒素酸化物]やSOX[硫黄酸化物]、HFC[ハイドロフルオロカーボン]などの代替フロン類等)、排水、土壌汚染、産業廃棄物、一般ごみ等、地球環境に負の外部性を有するものすべてが、課税の対象となるという考え方が主流となってきている。
また、環境税の目的が税収ではなく、環境負荷の低い活動への誘導(政策税制)であることを考えると、徴税だけでなく、環境への負荷の低い活動への税控除(補助金交付等も含む)も環境税施策として捉えることができる。通称“バッズ課税・グッズ減税”と呼ばれ、自動車による排気ガスを例にとれば、低公害車や低燃費車の自動車税は軽減(概ね13%~50%)される一方で、古いディーゼル車やガソリン車は重課(概ね10%)される"グリーン化税制"(三重県・平成14年度施行)などが一例として挙げられる。 |
京都議定書批准の審議が国会で進む中、独自の温暖化対策を進める自治体が増えてきている。以下はほんの一例。
・仙台市 5月14日、2010年に市地域における温室効果ガスの市民1人当たりの排出量を1990年より7%削減するという削減目標を定めた「仙台市地球温暖化対策推進計画」を発表。これは、1995年9月に策定したものを全面改訂したもので、具体的な対策として、この目標を達成するために、(1)住宅やビルなどにおける省エネの推進、(2)太陽光などの自然エネルギーの有効活用、(3)自動車への過度に依存しない社会の形成という3つの取り組みを重点的に進めていくとしている。
・京都市 市環境審議会は、温暖化防止条例の検討、温暖化防止基金の創設など重点17項目をまとめ、市に答申。
・福井市 「家庭版環境ISO」を発足。
・北九州市 「環境家計簿コンテスト」を実施し、電気・ガスなどの使用量削減を推進。
3. ヨーロッパの温暖化防止への挑戦
環境税の比較的古い取り組みとしては、ドイツで1981年から導入された「ドイツ排水課徴金」が代表的な事例として挙げられる。しかし、この課徴金に関しては、「水質改善目標を達成するだけのインセンティブ効果はない」と評する専門家もいる。
一方、炭素税に関しては、現在、北欧4ヵ国(フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマーク)、およびオランダにおいて導入が行われており、一番最初に導入したのが1990年に導入したフィンランドであった。その後、他の4ヵ国においても90年代初頭において炭素税が導入されている。税率はノルウェー、スウェーデン、デンマークが1~2万円/トン、フィンランドとオランダが2~3千円/トンであり、「税率が低く、CO2 の排出削減を促進する効果は期待できない」との論評もあるが、しかしながら、スウェーデンの自然保護庁が行った調査によると、CO2 の排出量は1987年の41,600キロトンから1994年の33,600キロトンまで約19%減少したとされており、この内、60%が炭素税によるもの(残りはエネルギー利用の効率化)と発表されていることもあって、成果有りと論ずる専門家も多く存在する。
また、デンマークでは、環境税はビジネスチャンスと捕らえられている。この国の経済状況は1988年からの12年でGDPは+27%、一方で二酸化炭素排出量は-11%。
当初、政府によって「エネルギー消費を減らし、二酸化炭素の放出量を20%削減することを目標として炭素税を導入する」という大胆な温暖化対策が打ち出された時、「エネルギーの消費量で税を課すことは産業にとって新たな負担が増えるだけだ」「国際競争力を失い、経済が停滞する」など産業界を中心に猛反発があった。そういった抵抗勢力からの圧力もあって、最初の環境税は税額も低いものでその税の目的としては決して効果的なものではなかった。そこで、環境税の引き上げを行うとの提案と同時に、政府は産業界に対してある理念を提示するに至る。それは「環境税を新たな財源にして、企業の成長を後押しする」「企業と政府はパートナーシップを持つ」というものであった。企業は環境税を負担するが、省エネルギーに取り組めば、その企業に対して補助金が交付されるのである。ある石油精製会社では、この補助金により隣接企業と温水を交換する設備を設置することで、エネルギーの消費量を10%減少させることに成功した。「補助金が無ければ、そのような設備を作ることは無かった。環境税の仕組みから恩恵を受けた」と石油精製会社関係者が語るように、企業の設備投資の活発化の傾向もあいまって、産業界では大きなビジネスチャンスと捉えている。また、自然エネルギー分野にも補助金が交付されることになったため、ある風力発電機の企業では20年前の起業時3名だった従業員が450名に増加するなど、風力発電関連の産業が15,000人の雇用が作られた。コペンハーゲン沖に世界最大の海上風力発電所が動き出したが、これはデンマーク国家の順調な経済発展と環境施策成功の象徴と言える。
「今、自分達が目にしている美しい風景を子どもやさらにその子ども達にも見せてあげたい」と、あるデンマーク市民は語る。この気持ちは決してデンマーク市民特有のものではないと思うのだが。
※参考にさせていただいた文献(全てウェブサイト)
佐藤 善幸 氏 「世界地図をつくろう」
Tadashi Mima 氏「まちづくりと情報化」
安井 至 氏 「市民のための環境学ガイド」
全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)
外務省
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