【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第2分科会 まちの元気を語るかよ~町ん中と山ん中の活性化~

食料・農業・農村はこれでよいのか
―― 国際的フードネットワークの確立 ――

青森県本部/自治研推進委員・十和田市議会議員 畑山 親弘

1. はじめに

 安倍自公政権が誕生してから、5年になろうとしている。安倍総理は突然に衆院を解散し、アベノミクス、憲法改正、消費増税等の、信を問うとしている。
 農業については、これまで成長産業の農業として輸出ができる農業、大規模農業、企業倫理のもとの農業を、推進しようとしている。実際、米の生産調整を廃止し、これまでの日本型農業、家族型農業からの脱却を、求めている。
 大規模農業や企業参入などを進め、農業収入も大幅に増やすというものだ。大変、耳ざわりの良い勢いのある進め方であるが、それでは、現在の日本の農業、農村、食料はどうなるのであろうか。
 既に、日本の各地方都市は、日本農業の衰退で人口減少が進んでいる。こうした方向に対し、今後の農業政策、地方政策はどうすれば良いのか、真剣に向き合う必要があると考える。

2. 経済界の動きと考え方

 第21回食料産業調査研究委員会(本間主査)によれば、日本農業の現状と課題について、次のようにみている。
 それは、日本農業は農業生産の停滞と農業経営の零細性労働力の高齢化と労働力不足、そして、農地集約と規模拡大が進まないとしており、20年後の日本農業を憂いている。
 具体的には
① 農業生産額が、1990年代以後減少しており、農業構造が脆弱化している。
② 農業労働者の高齢化が進み、新規参入者が少ない。特に稲作では、65歳以上が77%を占める。
  一方、酪農や施設野菜では、若い労働者が多い。
③ 農地の集約が進まず、経営面積は大でも分散圃場。
④ 近年、大規模経営の農家もみられ、3億以上の販売額のある経営体は1,800を超える。
⑤ 経営面積でも、100haを超える経営体は北海道で1,200近くあり、北海道以外でも400を超える。
というデータをもとに、最近の安倍政権のもとで目に付く政策を上げると、次のような政策を矢継ぎ早に進めている。
① 農地中間管理機構による農地の流動化
② 農業委員会の組織改編
③ 農地所有適格法人の要件緩和
④ 農協改革
⑤ コメの生産調整の転換
⑥ 収入保険制度の導入
 そして、今後の日本農業への期待として
① 稲作の規模拡大と乾田直播等による生産費削減
  農業機械の投資増大と効率的利用
② 情報機器、システムである程度高度に管理された野菜栽培、IT、ICT、企業との連携と農作業のマニュアル化
③ 農業の六次産業化の広範な取り組み
  他産業とのコラボレーション、バリューチェーン
④ 農業のサービス産業化と都市、農村の交流
  教育の活用、作るプロセスの商品化
⑤ 流通業との連携でマーケットインによる輸出戦略
以上が、経済界の考え方で、安倍総理はこれらの考え方にそって、伝統ある日本農業を改革しようとしていることは、明らかである。
 すなわち、これまでの農業改革は、農業所得の維持という社会政策と農業の発展という産業政策を混同しているが、これからは社会政策を切り離し、産業政策に徹した農業にしていくという考えである。

3. 小規模家族型農業、農村社会の存続のため

 こうした安倍自公政権、経済界の動きに対し、全国農民組合連合会の会長である斎藤孝一氏は、家族農業が社会安定の基礎であるとして、エネルギー自立社会を地域でつくるとのドイツ農民に学び、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)で、家族農業の新たなスタート台にしようと立ち上がっている。この方法なら農村集落が維持でき、家族型農家も守れるのではないかと考えるが、いかがなものだろうか。
 斎藤氏が実際進めつつある考え方が、「共生の絆」紙(2017年9月26日)に掲載されており、それらを紹介させていただこう。

地域から新しい農業像を打ち立てよう

全国農民組合連合会 会 長  斎 藤 孝 一

狂気の沙汰か安倍農政
 安倍政権は、「攻めの農政」と称して、農業を成長産業にするという。仮に農業が成長産業になっても、日本経済全体には百害あっても一利なし。「攻めの農政」は破れたアベノミクスを覆い隠し、憲法改正まで政権延命したいためだけだ。
 農業を輸出産業にすることや、流通産業や食品産業と連携して「六次産業化」させ、トータルとして食料産業にすれば、強い農業になり「十年間で農業・農村の所得を倍増する」というのだ。安倍農政のいう、農業・農村からは、見事に小規模家族農業が駆逐されている。輸出ができる農業、六次産業化し食品産業化できるのは、株式会社農業だけだろう。
 日本農業が、とことんまで追い詰められている。1990年代には、11兆円を超えていた農業生産額、20年後の今、その額は8兆円にまで減っている。当然農家戸数も、265万戸から133万戸と半減、農家所得も半減。基幹的農業従事者の8割は、65歳以上にならざるを得なくなった。農業の危機の進行は異常である。
 なぜ、ここまで来たのか。安倍農政とそれを支えてきた人たちは、その原因をすべて家族農業の小規模さと家族農業の経営能力不足に、その責任を転嫁している。「規制改革」で、小規模家族農家が退場せざるを得ないようにしたいのだ。小規模家族農業を退場させるためには、第一にコメ政策の廃止であり、第二が農地法の廃止だ。さらに、小規模経営を基盤にお互いに助け合う農協等の協同組合制度や、農業共済制度的なものの縮小廃止だ。
 農業・農村をお互いに競争させ、利益を生み出す株式会社企業の世界に変える。こんな農政を許せば、20年後の日本社会の将来はどうなるのか。そのような危惧は、いささかも安倍農政には見えない。
 食料危機が、いつ勃発してもおかしくない条件が、国際的にはそろっている。国民の食料をどうするのかという危機感もないし、食料自給をどう高めるのかという政策もない。日本の最大食料依存国アメリカには、輸出管理法がある。その中に、食料農産物輸出を外交戦略の武器に使うと明記している。口を開けば、国民の安全を守るために政治生命をかけるという安倍内閣の安全保障策は、底が破れている。あまりにも、口先だけの政治だ。家族農業を追い出し農村を砂漠化して、どうして地域の活力が創出できるのか。狂気の沙汰としか言いようがない。

家族農業が社会安定の基礎
 日本農業の産業的な萎縮が激しく進行している。激しい縮小の中でも頑張って農業を継続してきたのが家族農業だ。
 家族農業は、今まで日本社会の中心であった「基幹的人間関係」ではなかったか。家族農業を崩壊させてはならない。安倍農政は家族農業を退場させ、日本社会の在り方の根底を踏み潰そうとしている。分断、対立、競争を原理とするのは株式会社の世界だ。
 家族農業は、生産基盤と生活基盤が重なる経済だ。そこに、「参加」「連帯」「協同」の共生世界がある。株式会社の競争世界のみが跋扈する社会に、農村をしてはならない。安倍農政によって、日本社会の分断がこのまま進めば、トランプ大統領を生んだアメリカのように、「分断」「分裂」「対立」が精鋭化した、悲惨な社会になるだろう。
 問われているのは、家族農業を「共生世界」を担う中核として位置づけ、その力を取り戻すことだ。農業が果たすべき「より積極的な役割」を中心に据えた農業論が、今こそ必要だと内橋克人氏は説く。
 まず、日本農業の異常なまでの萎縮を、国民的な危機感として共存すること。さらに農業は、環境、食料、人口、福祉をはじめ21世紀の大きなテーマのすべてに、密接に関係していることを共有することだ。

エネルギー自立社会を地域運動で作っているドイツ農民に学ぶ
 行き過ぎたグローバリズムの弊害に対抗できるのは、自立したローカル経済圏をつくることではないか。
 苦い経験がある。中央政財界に依存し、バラ色の夢に惑わされ、結局受け入れるところがなかった核燃再処理施設を持ち込まれた。その結果、下北半島は世界でも有数の核物質集積所にされた。我々青森県は、中央依存で自立の政治風土が弱かった。
 エネルギーを核に、地域自立の道を切り開いているドイツ、デンマーク、オーストラリアの運動に学びたい。エネルギー自立運動とは、「地域から逃げていくエネルギーや熱資源への費用をできるだけ減らし、そのカネ、モノを限定された地域内で循環させる」ことを目的とする。
 それは、今から40年くらい前から、農村の草の根から長い時間をかけてゆっくりと発展し、チェルノブイリ原発事故等の過酷事故、地球温暖化等の歴史的追い風もあり、保守層をも動かした国民運動に発展する。ついには、1998年に自然エネルギー発電を国として助成する、「固定価格買取制度」を発足させた。これが、エネルギー自立運動のさらなる追い風となり、地域に新たな雇用も作り出し、地域経済圏を作りだしたという。ドイツが、福島原発事故後いち早く脱核エネルギーを、国家戦略にできた背景がこれだった。
 エネルギー自立運動で、再生可能エネルギー施設の所有権は、地域住民が25%、農民が11%、中小手工業者が14%、全体で67%が地域住民の手にあるという。いわば、中央集権だけの経済構造に、地域分散型経済圏が出来たのだ。

営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)で、家族農業の新たな兼業を
 青森県農民組合は、難題にぶつかりながら二つ目のメガソーラー発電所を、十和田市高見に建設中だ。メガソーラー発電を第一歩とし、これで得た資金やメガソーラー発電所建設で生まれた全国からの情報源を使って、農民自身が自然エネルギー発電家になり、新たな安定した兼業収入を確保する、「ソーラーシェアリング」の普及を計画している。
 第二号のメガソーラー発電所(十和田市高見)建設に融資してくれた城南信用金庫は、地元信用金庫を説得し協調融資まで持ち込んでくれた。城南信用金庫は、営業に脱原発のため自然エネルギー発電の普及を掲げる、日本金融界で稀有な存在である。城南信用金庫をリードする吉原氏の存在は、目先の金だけ、自分の利益だけが横行する中、ほっとする明るい思いだ。メガソーラー発電所建設で知り合ったのは、これだけではない。福島原発事故後、各地に生まれた自然エネルギー発電事業に取り組んだ、自立した市民の様々なグループだ。この市民グループをさらに大きな流れにするために、「(一社)全国ご当地自然エネルギー協会」をまとめ率いるのが、NPO法人「環境エネルギー政策研究会」の飯山所長だ。この飯山氏と吉原氏の提案が、農業と発電の両方ができる「ソーラーシェアリング」だった。農家自身がソーラー発電事業者になり、それを兼業収入としたドイツの農民に学びたいという我々の思いと、完全に一致した。
 農民組合が団体を作り、城南信金とリース契約を結べば、農家の初期投資負担はゼロに近い。50キロワット未満の低圧ソーラー発電一基で、ローン返済や諸経費を差し引いても、年に百万円を超える安定した新たな兼業収入が生まれる。納得のいくまで学習会を重ねて、このソーラーシェアリングの普及に取り組みたい。農家の自立と地域活性化、さらには、中央集権的な経済を地域分散型経済に変える糸口にもなることを展望している。