【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第2分科会 まちの元気を語るかよ~町ん中と山ん中の活性化~

 私たちは、外国人観光客の増加を見据え、ベジタリアンやムスリム等の食に制約がある方のニーズを飲食店等に伝えたり、現場のニーズに対応したイベントを開催することで、課題解決を図っています。また、研修会を開催することで「食のバリアフリー」対応を進め、マニュアルやマップにより情報発信しています。フットワーク軽く、他自治体や民間事業者と広く連携することで、県内各地の旅館や飲食店に対応の輪が広がっています。



「食のバリアフリー」みんなと群馬でいただきます
―― 県内ベジタリアン・ムスリム対応の実践活動 ――

群馬県本部/市町村課・おいしい群馬開国プロジェクト 谷田 卓哉(代表者)・根岸 舞子
・太田 正樹・佐々木 慶・髙島 優子・竹井 美咲・田部井 健
・相原 康宏・長澤 忠昭・大島 絵里・石田 優子

1. 活動趣旨

 ベジタリアン(菜食主義者)やムスリム(イスラム教徒:豚・アルコール禁忌)といった、健康や道徳、宗教等の理由から、食生活等においてタブー(禁忌)なものがある方は、アジアだけでも約115万人が来日しており、今後も増加が見込まれます(注1)。さらに、群馬県は総人口における外国人比率が全国3位と非常に高く、多文化共生の観点からも食環境の整備は重要です。
 そこで、「食に制約がある方々が、群馬に来県・在住したときに、食を通じて群馬を知り、好きになってもらいたい」という想いのもと、私たちは食に制約がある人のニーズ調査を行うとともに、そのような方でも安心しておいしいものを食べられる「食のバリアフリー」の普及に向けた活動をしました。

ムスリム・ベジタリアン訪日外客数推計
2016年来日人数(人)ムスリム(人)ベジタリアン(人)
中国6,373,56495,603
台湾4,167,51225,005416,751
タイ901,52581,137
シンガポール361,80753,909
マレーシア394,268238,138
インドネシア271,014208,681
フィリピン347,86117,741
インド122,93915,12151,634
合 計24,039,053735,388468,386
 
各都道府県における外国人人口構成比(上位5抜粋)
順 位都道府県総人口外国人人口構成比
東京都13,624,000500,8743.68%
愛知県7,507,000224,4242.99%
群馬県1,967,00050,2202.55%
三重県1,808,00044,9132.48%
大阪府8,833,000217,6562.46%
都道府県総人口は2016(H28).10.1現在(総務省統計局。千人単位)
外国人人口は2016(H28).12.31現在(法務省。外国人登録者数統計)

(注1)国籍別来日人数につき、日本政府観光局(JNTO)国籍/月別訪日外客数。ムスリム数については、訪日外国人数にムスリム率をかけたもの。ムスリム率については 店田 廣文、イスラーム教徒人口の推計、2013、(http://imemgs.com/document/20150714mij.pdf)。ベジタリアン数については、訪日外国人数にベジタリアン率をかけたもの。ベジタリアン率については、日本ベジタリアン協会(www.jpvs.org)及び、はま通信(www.hama-tsushin.com)参照

2. 食に制約がある人と食を提供する人をつなぐ実践活動

 私たちは、まず群馬の現状を知るために、ベジタリアンやムスリムと一緒に飲食店や観光地を巡り、実際に体験しながら情報収集を行いました。その結果、「食に制約のある人」の声をリアルタイムに「食を提供する人」につなぐことができました。私たち自身も、食に制約がある人の価値観に触れることで、食に制約がない私たちでは気づかないことにも関心を持てるようになりました。たくさんの現地調査を踏まえ、「彼らとともに、同じ食卓でそれぞれが食べたいものを食べられる群馬県」をつくるためにはどういった課題を解決していくべきか、どんな場が必要なのかを当事者目線で考え、自主イベントを開催しました。

(1) ベジタリアン対応
① 飲食店・観光地へのベジタリアン対応の提案等

日 付 内  容
2016. 9.25精進料理について意見交換(高崎市 少林山達磨寺・慈眼院一路堂カフェ)
2016. 9.25ベジタリアン料理店の調査及び意見交換(前橋市 あわたま)
2016.10. 2ベジタリアン料理店の調査及び提案(高崎市 なっぱ畑)
2016.11.19草津温泉の温泉旅館組合への聞き取り及び提案(月の井、そばきち)
2017.12.17 弁当店における食のバリアフリーに関する意見交換(安中市 峠の釜めし本舗「おぎのや」)
2017. 5.13精進料理体験及び意見交換(埼玉県飯能市 正覚寺)
2017. 6.17ベジタリアン料理店の調査及び意見交換(桐生市 はんの樹)
2017. 8. 5ベジタリアン料理店の調査及び意見交換(前橋市 マムズケイク)
2017.11. 3ベジタリアン料理店の調査及び提案(高崎市 Naturellement(ナチュレルマン))

○「野菜を多く使用する飲食店」であっても、店主がベジタリアンでもともと野菜のみを使う店、別途ベジタリアンメニューを用意する店、対応の可否を店員に聞いて確認しなければならない店など対応状況は様々でした。
○訪問した飲食店では店主の方との意見交換を毎回行い、対応に対する考え方などを伺うことができました。
○ベジタリアンから直接飲食店に対し、料理の感想や「こうしたらベジタリアンはもっと嬉しい」というアドバイスを伝えられました。

草津温泉視察(温泉旅館組合) 弁当店の対応調査(おぎのや) 精進料理体験(埼玉県正覚寺)
  
ベジタリアン向けマップを配布 ベジタリアンの意見を聞き
自信がついた様子
 群馬県内では提供されていない。
観光コンテンツにもなりそう。

地元野菜のベジタリアン対応料理
② 現場のニーズを踏まえた「ベジタリアン向け・おやさいをまるごと楽しむ食事会」の開催
 活動を通して、ベジタリアンは対応店の情報が知りたい一方で、飲食店は集客に悩んでいるということがわかりました。そこで、両者のニーズに応えるため、野菜の生産者・料理の作り手・ベジタリアンの三者が顔を合わせてのイベントを開催。こだわりの野菜など、取り扱い素材を含む自店の取り組みをPRしたい飲食店と、情報がほしいベジタリアンを繋ぐための一つの手段となると考えられます。


(2) ハラール対応
① 飲食店・観光地へのムスリム対応の提案等

日 付 内  容
2016. 3.30ハラールショップ調査・ハラール料理の実食・モスクにてヒアリングや意見交換、ムスリムと交流(伊勢崎市 アルモディナレストラン、伊勢崎モスク)
2016. 4.23ハラールショップにおける状況調査・ハラール料理の実食・モスクにてヒアリングや意見交換(館林市 ドスティ、クバモスク)
2016.11. 3ハラール料理店における対応調査、ムスリムへのヒアリングや意見交換(前橋市 マムタージ)
2017. 1.21量販チェーン店における外国人対応調査及び提案(太田市 ドン・キホーテ)
モスク、礼拝の見学(太田モスク)、コワーキングスペースでの意見交換
2017. 2.23群馬県内のラーメン店における外国人対応についての意見交換(伊勢崎市 景勝軒本社)
2017. 3.11食肉卸業によるハラール肉取り扱いの調査及び意見交換(前橋市 肉の青木)
2017. 9.23モスクにてヒアリングや意見交換(伊勢崎市 境町モスク)
2017.10. 8前橋祭りの出店に関するハラール対応調査(前橋市 日本おもてなし学院)
2017.11. 5ムスリムによるチャリティバザーイベント調査(栃木県小山市 小山モスク)

モスクでのヒアリング
(県内外各地)
 ハラール肉取り扱い調査
(肉の青木)
 出店の対応調査(前橋まつり)
  
日本食や肉への需要あり
礼拝スペースも必要
 欧州産のハラールミートあり
口コミで買いに来る
 在住外国人が祭りを楽しむ
ためにも対応必須

② セミナー・視察ツアーの開催

日 付 内  容
2016. 7.13群馬温泉ムスリムおもてなしセミナー(渋川市伊香保 ホテル松本楼)
2016. 6. 5群馬×栃木(両毛地域)連携に向けたセミナー(栃木県佐野市 日光軒)
2017. 2.17浅草先進事例視察ツアー(東京都台東区)
2017. 3.15弁当店に対する社内セミナー(安中市 峠の釜めし本舗 おぎのや)
2017. 5.21温泉旅館に対する従業員向け対応セミナー(渋川市伊香保 ホテル松本楼)
2017. 6.27弁当店のクライアント向け対応セミナー(高崎市 峠の釜めし本舗 おぎのや)
2017. 7. 2温泉旅館に対するセミナー(渋川市伊香保 ひびきの)
2018. 3.20調理師向けムスリム対応セミナー(高崎市 全日本司厨士協会北関東地方本部)
温泉地向けセミナー 両毛インバウンド交流セミナー 先進地視察ツアー
  
県内4温泉地参加
メディアで多数報道
 栃木との相互交流 県内企業と外国人の受入れ
を体験(浅草)

ハラール肉の交流会
120人参加のBBQ
実需者との交流の場作り
③ 現場のニーズを踏まえたイベント「両毛ハラールバーベキュー」の開催
 ムスリムのハラール肉へのニーズに応え、ムスリムと一緒に楽しめる場をつくるため、両毛地域で連携し、栃木県佐野市と高崎市でバーベキューを開催しました。群馬県初のムスリム向けイベントとなるバーベキューは、県内外の企業にも協力いただくことができました。当日は国籍を問わず想定を上回る参加者が集まり、ハラール対応についてPRする機会となりました。


4. 活動成果

(1) 「食のバリアフリー」という考え方の普及・啓発
 セミナーや現地調査を通して民間事業者に現場のニーズを伝えることで、「まだ必要ない」「難しい」と考えていた方も、「自分にも出来る対応方法を知ることができてよかった」「できるところから始めてみたい」と前向きな考えを持ってくれました。また、フェイスブックも活用し、活動レポートやイベントの告知を掲載したことで、県内のみならず外国の方や他県の方にも活動を周知することができました。さらには新聞、テレビなどのメディアにもとりあげていただき、「食のバリアフリー対応」の大切さを色々な媒体を通じて伝えることができました。

(2) 県内飲食店やホテル旅館等への受入れ対応開始
 県内温泉地の女将さん向けセミナーをきっかけに、伊香保温泉の「ホテル松本楼」は、旅館において県内初のムスリム対応を開始しました。対応にあたっては、従業員の理解やメニューの開発等、課題もありましたが、専門家とともに寄り添い、ともに考えながら解決していきました。
 また「景勝軒グループ」もハラール対応を開始しました。県内初のハラールラーメン店「かぐわし」については、ムスリムのニーズを伝え、提案を行った結果、店内に「礼拝スペース」の設置、「アクセスマップ」や「英語表記のメニュー」作成、「ハラールラーメンのベジタリアン対応」についても実現しました。

ホテル松本楼 景勝軒グループ(8店)
   
厨房内では
豚肉・アルコールを分離
 従業員むけセミナーも開催 調味料等の成分を確認 礼拝室の設置相談も行う

(3) マニュアルやマップによる情報発信
 調査結果については、注意点等をまとめた対応マニュアルを作成し、飲食店等の食のバリアフリー対応に役立てていただいています。また、現地調査を行った県内のベジタリアン、ハラール対応の飲食店・ホテル旅館を中心に情報をマップ化しました。対応店舗が一目でわかるこのマップは、観光地のインバウンド対応や在住外国人による活用をめざしています。

完成した「ベジタリアン対応マニュアル」 マップによるネット情報の発信
 
対応の注意点がわかります 情報が一目でわかる

5. 今後の展望

 この2年間で県内外の現状を調査し、セミナー等を開催して普及啓発をするとともに、対応事例を作ることができました。しかしながら、課題もあります。例えば、ハラール対応につき、ハラール肉の入手ルートを整備するため、生産者と加工者をつなげることはできましたが、入手ルートを広げるためには、食材としてハラール肉を使用する飲食店等を全県的に増やしていく必要があるとわかりました。このように、全県的な取り組みにしていくためには、まだまだ時間がかかり、一自治研の取り組みだけでは限界もあると感じています。そのため、両毛地域での連携をはじめ、県内外の観光・インバウンド団体との連携を強化し、食のバリアフリー対応の普及をさらに強化したいと考えます。

6. 自治研究活動を通して気づいたこと

(1) 公務員としての原点への気づき
 自治研として活動するなかで、現場に出ることの大切さに改めて気づくことができました。群馬県は在住外国人が全国的にも多いですが、その在住外国人が普段どんな生活をしていて、何に困っているかは、現場に出て実際に当事者と話して初めてわかりました。統計上の数字や他県の状況を調べたうえで業務を進めることもとても大切ですが、さらに現場に出て自分で見聞きすれば、よりよい政策につながるはずです。自治研として活動し、現場の声を聞いた上で活動内容を考えることができたことは、公務員としての「原点」に気づくことにつながりました。

(2) フットワーク軽く連携していくことの重要性
 自治研究として活動することで、立場を問わず幅広い職種の人と連携することができ、多種多様な人々と食のバリアフリーについて考えることができました。また、民間事業者と連携してイベントやツアーを企画したことで、民間が仕事を進めるうえでのスピードの早さとコスト意識を学ぶことができました。業務として何かに取り組む場合は、ある程度の見込みを立ててから動き出さなければなりませんが、自治研究は「自身で計画し、即実行できる」機動性があり、また「とりあえずチャレンジしてみよう」という自由さがあります。フットワーク軽く、多職種と連携していく姿勢は、今後の業務においても生かしていきたいと思います。

(3) 自治研究だからこそ応援してもらえることもある
 飲食店の方々等に私たちの活動内容を紹介すると、「公務員がプライベートの時間を使って、業務外のことに取り組んでいる」ことに驚かれることがありましたが、多くの方が活動を肯定的にとらえてくださり、応援・協力をしてくれました。調査の際も深く話ができ、色々なことをスムーズに進められたのは、私たちが「公務員」として自治研究活動をしていることが理由のひとつであると思います。自治研究活動だからこそ、行政の手が届かないことができ、公務員の枠を超えた新たなつながりを生むことができました。そして、喜びを共に分かち合えるかけがえのない仲間とともに、この2年間、本当に楽しく活動することができました。これからも楽しくやりがいのある自治研究活動を続けていきたいと思います。