【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第2分科会 まちの元気を語るかよ ~町ん中と山ん中の活性化~

 新たな林業用樹種として、全国で初めてコウヨウザン造林に取り組むことになった経緯と現在の活動状況等について報告する。



コウヨウザンと広島県の取り組み


広島県本部/自治労広島県職員連合労働組合 黒田 幸喜

1. コウヨウザンとの出会い

 今から10年ほど前のことである。広島県の北部に位置する庄原市にコウヨウザン造林地(0.6ha)があることを偶然知った。樹幹は通直かつ完満でありながら、優勢木の胸高直径は50cmを超え、上層木の樹高は30m以上、一見して長伐期林のように見えるが、林齢はわずか45年生であった。しかし、もっと驚いたのは、伐採跡(伐根)から萌芽枝が多数発生していたことだった。つまり針葉樹でありながら萌芽更新の可能性があるということだ(写真1、2)

写真1 コウヨウザン造林地

写真2 切株から萌芽する様子
 それから2年が経ち、当時、九州森林管理局に勤務されていた大貫肇さん(現 国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林保険センター所長)から、コウヨウザンの合板や建築材の試作品と強度について、話を伺う機会があり、これがコウヨウザンに関心を持ったきっかけだったと記憶をしている。

2. 広島県庄原市のコウヨウザン


写真3 故八谷正義
 庄原市にあるコウヨウザンを造林したのは、北海道大学名誉教授で林学博士の故八谷正義さんである(写真3)(以下人名敬称略)。八谷は1891年に広島県庄原市に生まれて、広島市内にある旧制中学校を卒業した後、北海道大学の前身である札幌農学校に進学した。卒業後は、中津小林区署長や、スマトラ興業株式会社に勤めていたが、台湾総督府が台北に高等農林学校を創設するということになり、母校北海道帝国大学の勧めで1922年、31歳で台湾に渡り、同校林学科講師となった。八谷は、その2年後、台湾総督府の命により4年間の欧米留学を経験し、帰国後、台北帝国大学付属農林専門部(現在の国立中興大学の前身)の教授として1938年の47歳まで長期に渡り台湾で活躍した。その後、1938年に北海道帝国大学の教授として母校へ転勤し、職責を果たしたが、終戦後の日も浅い1949年、58歳で依願免官、地元の庄原市に引き揚げた。広島に帰った後、1955年から2期8年間、庄原市長を務め、庄原市の発展に尽力された方でもある(坂村 2011)。コウヨウザンが庄原に造林されたのも、この1950年代中頃である。
 少し話が変わるが、台湾に自生するコウヨウザンの変種ランダイスギを中国原産のコウヨウザンと分けて考えるならば、コウヨウザンが栽培目的で台湾に導入されたのは1840年前後である(洪 1969)。一方、材の利用はそれより古く、明朝(1368~1661)の末頃と言われている。この頃から台湾では、福建省や広東省などからの移住が盛んとなり、こうした移民達が、建築材料や家具材としてコウヨウザンを中国大陸から輸入して利用していたという経緯がある。その後も、毎年大量のコウヨウザンが中国大陸から輸入され利用されていた。それから時を経て、森林鉄道が開通(1912)し、1917年からのコウヨウザン造林の拡大が進むことになるが、これを進めたのは日本政府である。
 戦前の台湾は50年ほど日本の統治下にあったが、日本政府は台湾におけるコウヨウザンの重要性に着目し、この樹種の研究に取り組むとともに、積極的に普及を行っていた(呂 1979)。ちなみに八谷が台湾に赴任したのは、コウヨウザン造林が台湾で本格的に進み始めてから5年後の1922年である。八谷は当時、日本でも数少ない林政学の専攻で学位を得た方であり、何等かの形で、台湾でコウヨウザンに関わっていたであろうことは容易に想像がつく。
 戦前・戦中、東京帝国大学の台湾演習林や台湾総督府林業試験所蓮花池試験地などで福田次郎がコウヨウザンの研究(福田 1954)を行っているが、戦後、台湾大学の演習林や台湾省行政長官公署農林処林務局に引き継がれたようである。
 庄原市のコウヨウザン造林地は現在の所有者である正義の孫に当たる文策さんからの聞取りや、国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 林木育種センターの調査で、実生苗木を母樹として、挿木苗を作りそれを植栽して造林されたものだとわかっている(磯田ら 2017)。

3. コウヨウザンの生育適地と造林特性

図1


出典:呂錦明(1979)の図を引用(一部改変)
 コウヨウザンは、中国、台湾の主要造林樹種であり、日本に入ってきたのは江戸時代と言われる。コウヨウザンの分布は、中国の長江(揚子江)以南であるが、標高が高い所に生育している。呂(1979)によると、この生育地を緯度で3分割し垂直分布をみると図1のようになる。それに生育可能な延長線を入れ、広島県の緯度35度付近を付け加えると、広島県では標高0~1000m程度は成育が可能なようだ。ちなみに八谷の標高は400m程度であるため、コウヨウザンの適地であることが資料により推測される。
 なお、林木育種センターが国内のコウヨウザンの林分や単木の分布を調査した結果、照葉樹林帯に相当する気温帯が生育の適地であることが示唆された(山田ら 2016)。この照葉樹林帯は、西南日本を中心に広範囲に広がっており、コウヨウザンの造林可能な範囲も同様に広いことが期待されている。
 次に造林特性であるが、劉(1999)によると、コウヨウザンは萌芽力が強く、病虫害が少なく、成長が早く、木理が通直である。材の乾燥は早く容易で、反りや割れがほとんどでない。切削などの加工も容易で、仕上げ面は良好かつ光沢が出る。耐朽性が高く、特にシロアリに強いことで知られ、強さは比重の割には高い値を示すと述べている。
 中国の人工林ではコウヨウザンが最も多く植栽されており、中国江西省安福県の例によるとコウヨウザンの造林は数千年の歴史を持つと言われる。植栽後の枝は自然落枝して、下刈りは3年程度であり(立花 2009)、発芽率の良い中国系の種は実生から、発芽率の低い台湾系は挿木から育成する(福田 1954)。また、先端が折れても不定芽が出て、立ち上がるという優れた性質を持つ(森田ら 1989)。
 私が最初に関心を持った萌芽更新は、台湾や中国で実際に行われていた。最初の造林では、当然、苗を植栽する必要があるが、伐採後2~3回の更新が可能で、萌芽力が衰えれば、その後は植栽を行う(呂 1979)。なお、萌芽枝は複数本の株立ちを防ぐため芽かきが必要だが、除去した萌芽枝は挿木に使うと発根が良く苗が作りやすい。この萌芽更新は、福田が東京帝国大学台湾演習林で萌芽更新の調査を行い、僅かな補植のみで更新が可能であることを述べており(福田 1954)、高知県の辛川山国有林の事例でも実際に収穫された後、萌芽で更新できる可能性が指摘されている(佐々木 1989)。ちなみに、庄原市においても下刈りをせず更新していることから、低コストな更新技術として、調べる価値のあるものだと考える(写真4、5)

写真5 伐採後10年目(2017年3月)
    樹高8m 胸高直径12cm




写真4 伐採後2年目(2009年8月)

4. 広島県におけるコウヨウザン造林の取り組み

(1) 苗木生産と造林の取り組み

写真6 苗木生産に取り組む事業者

写真7 シカの食害にあったコウヨウザン
 既存の資料や造林地ではコウヨウザンの長所が目につく。主要造林樹種としての特性は優れているようだが、苗木作りや造林においては、既存のスギ、ヒノキと比べて、難易度がどうであろうかと興味がわく。そこで、2012年から、広島県内の苗木生産者に声がけをして、一緒に苗木づくりに取り組み始めた。まず、挿木により育成を試みたが、発根は挿付け本数の半分程度、更には芯立ちせず、枝のまま横に向かう枝性の問題が起きた。その後、枝性の残る2年の挿木苗の地際部分には萌芽が発生し、植栽後2年目頃には萌芽枝の方が逆転し芯立ちするので問題なさそうだ。挿木は、実生苗に比べ植栽後の芯立ちが遅れるが挿木の場合、母樹の優れた性質をそのまま受け継ぐ長所があるため、この研究も非常に重要であると思う。
 一方、広島県内には、緑化用種子の輸入や、苗木生産を専門に行う会社があり、当方からコウヨウザンに関する情報提供を行った結果、2013年の春から試行的ではあるが輸入種子による苗木生産が開始された。種子による苗木作りでは、量産化が可能となる長所がある。その後の育苗状況から、実生による苗木生産は可能であることが確認でき(写真6)、5年目になる2017年度現在では、県内9名1団体が苗木生産に取り組んでいる。
 植栽されたコウヨウザンは、活着や植栽後の成長が優れた造林地が見られる一方で、シカやノウサギの食害等で何等かの対策が必要であることも明らかになってきた(写真7)。ノウサギに対しては、植栽直後と冬場に、塗付式や噴射式の忌避剤が有効であるとの情報はあるが、今後、多くの事例で検証が必要なところである。また、シカの食害の見られるところでは、スギ・ヒノキと同様の対策が必要だ。
 なお、コウヨウザンはシカによる剥皮被害を受けにくいという報告(門脇ら 2006)があるが、安芸高田市にある小学校教材林のヒノキ・コウヨウザン21年生では隣のヒノキ林が剥皮被害を受けたものの、コウヨウザンは受けていないという実例があるのでこれも検証の価値があるものと考えている。

(2) 材質試験の取り組み
 2014年に、現在の所有者の協力を得て、中国木材株式会社とコウヨウザンの試験挽きに取り組んだ。この試験挽きは、一本のコウヨウザンを伐採し、5本の丸太に造材して、平角材を製材、乾燥して破壊試験を行い、その性能を調べたものである。この結果、曲げヤング率はヒノキに迫るもので、建築用材としての可能性に手ごたえを感じた(涌嶋 2017)。
 また、2014年の秋には、苗木作りのアドバイスを受けるため、茨城県日立市にある国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 林木育種センターを訪問することができた。同センターでは海外協力事業での調査・研究の実績がありコウヨウザンに精通されている方も多く、同センターにある20年生のコウヨウザンの見本林の調査も行っており、その成長や強度等について試験をされていた。冒頭に述べた合板や建築材の試作品の強度試験も、大貫さんが育種センターの報告書を検証するため取り組まれていたものだった。この育種センター訪問では、コウヨウザンの将来性について研究員の皆さんと大いに思いを共有することができた。
 その後、林木育種センター、中国木材株式会社、鹿児島大学と広島県林業技術センターの四者が参画した共同試験である、2015~2017年度農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「西南日本に適した木材強度の高い新たな造林用樹種・系統の選定及び改良指針の策定」が実施され、国内のコウヨウザンの系統や基礎的な苗木生産方法、材質について調査・試験が行われた。今後、その成果が順次公表されることで、コウヨウザンの普及の一助となることが期待される。なお、その成果の一部は、2017年3月に行われた遺伝育種学会主催のシンポジウム「これからの林業とコウヨウザン」で関係者の講演が行われ、内容が学会誌にまとめられており閲覧できるのでご参照いただきたい。

(3) 造林事業としての支援の取り組み
 輸入種子により当面の苗木生産の目途がたち、研究によりコウヨウザンの材質等が明らかになりはじめた中、広島県では造林事業での支援を要望する声が高まってきた。その後、県のこれまでの取り組みや今後の植栽見込等を整理し、国に対しての外国樹種申請を行った結果、2016年度より造林事業での補助採択が可能となった。
 合わせて、県では市町村森林整備計画や、地域森林計画でコウヨウザンの人工造林、保育等の標準的な方法などを明記し、関心を持つ事業体が造林できるように、育林技術体系を暫定ではあるが作成した。
 2016年度には、全国で初めて造林事業による7ヶ所1.6haの造林が行われた。2017年度から2018年度にかけての造林では10ha程度が計画されている。

(4) 現在進行中の新たな取り組み
図2 農林水産業みらいプロジェクトの内容
農林水産業みらいプロジエクト
~コウヨウザンの苗木生産と耕作放棄地への植林~
2016年 助成対象決定(3ヶ年)
 2017年1月~2019年12月 助成期間

〈事業内容〉

1 種子・穂木の安定調達体制の構築
  県内産穂木による採種園・採穂園の造成(0.5ha)
  国外からの種子の調達(20㎏/年、山行苗木20万本分相当)

2 山行苗木の安定供給体制の構築
  育苗センターの整備(20万本級)
  コンテナ苗生産施設の整備(10万本級)
  「コウヨウザン育苗マニュアル」の作成

3 植林・育林技術の研究普及
  モデル林の設置(県内3ヶ所15ha。耕作放棄地を含む)
  「コウヨウザン植林・育林手引書(暫定版)」の作成

4 苗木生産や植林に携わる人と土地のマッチング
 2016年末に、一般財団法人広島県森林整備・農業振興財団、広島県樹苗農業協同組合が事業主体となって、農林水産業みらいプロジエクト助成事業「コウヨウザンの苗木生産と耕作放棄地への植林」が採択になった。広島県も、この事業に対して外部支援スタッフとして普及員、研究員の両方が参加をしている(図2)
 この事業を契機に、関係する事業体と連携して普及・定着に繋げたいと思う。