【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第2分科会 まちの元気を語るかよ~町ん中と山ん中の活性化~

 日田市において木質バイオマス発電が稼働して5年。これまで山に放置されていた低質材などの山林未利用材に新たな価値が生まれ、林業を取りまく情勢は大きく変わりつつある。また、木質バイオマス発電は、林業の活性化のみならず、新たな雇用創出など地域活性化につながっていることから、その地域経済に与える影響やエネルギーの現状について報告する。



木質バイオマス発電と林業の活性化について


大分県本部/日田市職員労働組合 永楽 智史

1. はじめに

 日田市は、スギの生育に適した気候と肥沃な土壌に恵まれたことから、古くから林業地として発展してきた。また、九州北部の交通の要衝であったことから、製材所や原木市場など木材加工・流通の拠点として独自の発展を遂げてきた地域である。
 我が国の林業は、木材の輸入の影響などにより長らく低迷の時代を経験してきたが、これまで全国的に植林したスギやヒノキが一斉に利用期を迎えてきたことから、国は近年、育てる「保育」の時代から「伐って使う」時代へと大きく施策をシフトチェンジした。
 ただし、国は明確な出口対策を打ち出したわけではないため、木を伐っても需要がなければ丸太の価格が暴落するだけであり、逆に先に出口を作っても丸太の供給が不足すれば逆の現象が起こる。これは、俗に言う鶏が先か卵が先か問題であるが、不思議なことに大量かつ安定的に木材が市場に流通し始めると、すぐに大手企業は国産材にシフトチェンジし始めたのである。ちょうどこの頃、円安傾向の上、為替リスクが大きかったことも要因にあるが、大手企業にとってはこれまで国産材は小ロットで不安定な商品(原材料)だったから使わなかっただけかもしれない。
 このため、日本の木材自給率は2002年の18.8%から現在は34.8%と上昇している。この木材自給率の主な要因は住宅用材やパルプ、合板などが外材から国産材に切り替わっているためであるが、もう一つ新たに燃料用としての木材需要が生まれことが挙げられる。それが今回のテーマである「木質バイオマス発電」である。

2. 再生可能エネルギーとFIT(固定価格買取制度)

 東日本大震災の原発事故以降、国は原発に代わるエネルギーとして再生可能エネルギーを推進してきた。原発事故前は0.5%だった再生可能エネルギー(水力含む)は2011年度で2.7%、2016年度では7%と増加しているものの再エネの全体に占める割合はまだまだわずかなものであり、他の先進国に比べると大きく遅れている状況にある。
 しかしながら、全国的に次々に再エネ事業に参入する企業が後を絶たない。これは、FIT(フィット)と呼ばれる固定価格買取制度により、電気の買取価格が20年間保証されているからである。特に多いのは太陽光発電と木質バイオマス発電であるが、木質バイオマス発電は、太陽光発電や風力発電と違い、原料さえ確保できれば、気候や天候に左右されることがなく、安定した発電ができること、また、多くの雇用を創出するなど地域経済の活性化が期待できる特徴がある。
 また、木質バイオマス発電で作られた電気の買取価格は、原料である木材の由来により価格が異なり、計画的な森林整備により発生した木材を使用した場合などに買取価格が高く設定されているのが特徴であり、林業との関りが重要な仕組みとなっている。

木質バイオマスでの電気の買取価格(抜粋)
間伐等由来の木質バイオマス
(計画的な森林整備により発生した木材など)
一般木質バイオマス
(製材所などの端材チップなど)
リサイクル材
(建築廃材)
32円~40円/kw 24円/kw 13円/kw

3. 日田市における木質バイオマス発電

(1) 日田市の現状
 本市では、2007年に「(株)日田ウッドパワー(現(株)エフオン日田)」が木質バイオマス発電を開始。当時は、FIT法の前身であるRPS法(詳細は省略)による発電事業であったことから、原料はすべてリサイクル材(建築廃材等)での事業であった。
 その後、2012年にFIT制度が始まると、2013年11月に本市で2社目となる木質バイマス発電所「(株)グリーン発電大分」が発電事業を開始。
 (株)グリーン発電大分は、林業の生産活動で発生した木材のうち、建築用材などには利用されない低質材(山林未利用材)のみを原料とする発電所としてスタート。
 同社は、敷地内にチップ会社を併設し、山林未利用材を直接買い取る仕組みを構築したことから、林業関係者(素材生産業者)が直接山林未利用材を持ち込むことができるようになった。
 そして、最大のメリットは、7,000円/トンという破格の買取価格である。これは、当時、福島県内の同事業者の買取価格の4,000円/トンを大きく上回る価格であったこと、また、当時スギの原木が暴落し8,000円/m3(最近の平均は10,000円/m3)を割った時期と重なったため、林業関係者が驚いたのを覚えている。(単位が異なるが概ね同じと考えて問題ない)
 後に、(株)グリーン発電大分が設定した買取価格は、全国の買取価格の基準となっている。

(2) 木質バイオマス発電と林業
 (株)グリーン発電大分の操業開始後、これまで、山に放置していた価値のなかった木材や原木市場で叩き売りされていた低質材に、一定の価値(7,000円/トン)が生まれたことにより、木材の底値(最低価格)が決まるという林業界にとっては画期的な仕組みが構築された。実際、発電が始まる前までは原木価格の乱高下が頻繁に見られたが、発電が始まった後は、価格が上昇したうえ乱高下が見られなくなった。
 また、森林所有者の収入が増えるだけでなく、生産量の増加にともない、生産者や運送業者、そして、バイオマス発電所での新たな雇用の創出につながるなど、地域経済の活性化にも大きく寄与している。
 また、これまで収支が合わず放置されていた人工林も徐々に更新(伐採・造林)が進むようになり、人工林資源の循環につながっている。

(3) 市内他産業への影響
① 市内製材所への影響
 市内には約60社の製材所があり、一般住宅用の木材を中心に生産しているため、発電所建設時や操業当初、市内の製材所の関係者から「木を燃やすとはどういうことか」などの批判があった。製材業は木材を原料とする最大の産業であり、仕入れ価格の高騰や、将来的にはすべての木が燃やされるのではという危惧があった。
 実際、市内にはB材と言われる、少し質の低い丸太材で安い木材を生産する製材所も少なくなく、その製材所にとっては丸太が競合するなどの影響も出ていると聞かれる。
 しかしながら、全国的な発電所の建設により、木材チップが高騰。市内の(株)エフオン日田においてもRPS法からFIT法に切り替えたため、市内の製材所からも木材チップの買取を積極的に行っていることから、製材所にとっても新たな利益を生み出している。
② 市内畜産関係への影響
 畜産には、製材所のおが粉が敷料として使用されているが、宮崎県において木質バイオマス発電が林立したことによりおが粉が高騰(約2倍)。宮崎県内の畜産に大きな影響が出ているという情報があったため、市内の畜産関係者への聞き取りを行ったところ、現時点で市内のおが粉については、大きな影響はなかった。これは、市内の製材所の規模と畜産業のバランスが取れていると考えられる。
③ 製紙業界への影響
 市内には製紙会社がないためこの影響はないものの、木質バイオマス発電の開始により最も影響を受けているのは製紙業界である。
 国内のパルプ用チップは7割が輸入で3割が国産の木材であるが、日本の全木材需要の約4割を占めるなど最大であり、林業・木材産業に与える影響は大きい。しかしながら、国際的にパルプの需要が逼迫しているうえ、国内においても木質バイオマス発電の開始にともない、木質チップが高騰したことからWパンチを受けている状況である。
 しかしながら、製紙会社自身も木質バイオマス発電を始めるなど、利益を生みやすい新たなエネルギー産業ともいえる。

(4) 木質バイオマス発電所の熱利用
 (株)グリーン発電大分では、全国的に珍しい取り組みとして、発電で得られる熱(温排水)を、隣接するイチゴハウスへと供給し農業利用へ役立てている。
 木質バイオマスによるエネルギー効率は、発電ではわずか約20数%程度であり、残りの7割以上は熱として捨てているのが現状である。これほど低いエネルギー効率でも利益が出るのは、FIT制度のおかげであり、全国の他の木質バイマス発電所は、発電のみで十分な利益が出るため、熱利用を行っていない現状である。
 しかしながら、(株)グリーン発電大分においては、地域の農林業への貢献を目的に、自社で温排水供給設備を設置し熱供給(40℃前後)を行っている。
 これにより、同規模でのイチゴ生産と比べ重油の使用量は1/3以下に抑えられるなど、低コスト農業とCO2の削減などエコな循環型農業を実現している。

(5) エネルギーの地産地消
 市内の木質バイオマス発電所で作られた電気については、当然市内で使われているものだと市民は思っているが、実はこれまですべて関東などの新電力会社に売電されていた。
 そのため、(株)グリーン発電大分は電気の地産地消を進めるため、新たに売電会社を設立し地元事業者用に高圧電力の売電を始めた。
 本市においても、「日田市環境基本計画」により地球温暖化対策としてエネルギーの地産地消の推進をはかることとしており、2017年10月から市役所庁舎をはじめ学校施設、他の公共施設を順次再エネ電力へ切り替え、経費削減と林業の活性化と環境教育にも役立てている。

4. 今後の課題

 本市は、FITによる木質バイオマス発電所がスタートして2018年で5年。全国でも一番長くその経験を有している地域であることから、更なる先導的な取り組みも必要である。
 現在、大きな課題の一つとして、木質バイオマス発電に利用する原材料の供給バランスの調整である。2年程前まで、全国で次々にバイオマス発電所が建設され、全国的な原料不足が心配される中、特に発電所の建設が集中した九州では原料の確保は大きな懸念材料であった。
 しかしながら、現状では、素材生産量の増加などに伴い、木質バイオマス発電に集まる木材が年々増えている状況にあり、現在は供給過多の状況が続いている。このような事態は、誰も予想していなかったことであり、今後も先が読みにくい状況であるが、5年を経過したこともあり、今後の伐採計画や林地残材の発生量予測、新たな発電所の建設などの検討も必要である。
 また、FITが価格を保証しているのは20年間であり、その先はまだ何も決まっていないことから、特に携わっている関係者が多い木質バイオマス発電については、早めにFIT終了後の方針やプランを打ち出すことが必要である。
 さらに、国際的に木を燃やして電気だけ作るというのは時代遅れであり、70%もの熱をただ捨てるのはもったいないことから、
より熱を利用できる仕組みの構築が必要である。既存の発電所で熱利用することは、現実的に難しく、新規に建設される発電所における計画段階での熱利用を検討することが必要である。
 最後に、木質バイオマス発電をはじめ、パルプや合板など国産材の需要が以前にも増したことで、人工林資源の有効活用がはかられるようになったが、重要なのは伐って植える「資源の循環」である。どの産業も人手不足の中、林業の担い手不足も深刻な問題であり本市の基幹産業として、魅力ある地域循環型産業を構築し、持続可能な林業を続けなければならない。

5. 考 察

 これまで林野行政は、「低迷する丸太価格を上げること」と「生産コストを下げること」を重要な課題としてきた。生産コストについては機械化などにより徐々にコスト削減を実現してきたが、丸太価格は出口対策が進まず低迷を続けた。
 しかしながら、木質バイオマス発電の操業により、燃料としての新たな木材需要が創出されたことから、丸太価格の上昇と安定につながっている。
 当時、一部の製材所からは、「行政は丸太価格を上げて我々を苦しめるのか」との声もあった。逆にある製材所からは「原木価格が上がってよかった。これ以上価格が下がれば山から木が出てこなくなり我々は仕事が出来なくなる」との声も聞いた。
 市内の発電所は、行政が誘致等を行っておらず、完全な民間主導で行われた事業であるが、建設費については木材の需要拡大を目的として一部を助成している。そのため、行政として地域経済に効果的な施策を行う必要がある。また、来春には隣の玖珠町に、大型の国産材合板工場が操業を開始するなど、国産材需要は更に増加する。
 目まぐるしく変化する情勢であるが、今のところ木質バイオマス発電は、本市の林業・木材産業をはじめ地域経済にとっても大きなメリットを得られているのではないかと思われる。しかしながら、今後、更なる木材需要に対して、林業地日田がどれだけ対応できるか取り組まなければならない。
 最後に、再生可能エネルギーは原子力などに比べ大幅にコストがかかることから、すべての電気利用者に「再エネ賦課金」として上乗せ請求され、国民が大きな負担をしているのが現状である。今後、原発事故を起こした我が国において、現在の主力である化石燃料による発電や再稼働される原発に対して、再生可能エネルギーの将来をどう描くのか国民全体で考える必要がある。