【要請レポート】

第37回土佐自治研集会
第3分科会 どうする? どうなる? これからの自治体

 平成の大合併を経て、日本一広い基礎自治体となった高山市。国際観光都市として観光産業を中心にまちづくりを進めている中で、外国人観光客をはじめとする観光客も増加しているが、人口減少にともなう少子高齢化によって地域の疲弊は深刻化している。国が地方創生を掲げている中で、市町村合併前と合併後の状況から今後のまちづくりの課題について考察した。



日本一の広域合併 その後のまちづくり


岐阜県本部/高山市職員労働組合連合会・特別執行委員 小井戸真人

1. はじめに

 岐阜県の北部に位置する高山市は2005年に周辺9町村を編入合併しました。日本一広い面積の基礎自治体の誕生ということもあり、全国的に注目をされた合併となりました。
 合併から13年が経過しましたが、合併当初に思い描いていた姿とは違った現実的な課題に直面しています。合併時策定された総合計画では合併10年後の目標人口を10万人に設定して策定されましたが、高山市においても人口減少時代を迎えることとなりました。多くの自治体がそうであるように人口減少は少子高齢化をともなうことによって、様々な面で影響がでてきています。日本一広い市である高山市の合併後の姿とまちづくりの課題を報告します。

2. 市町村合併の前後と現在

(表1)
合併前合併後現在
人 口約66,000人96,231人(2005国調)88,566人(2018.4.1住基台帳)
面 積139.75km22,177.61km2(東京都2,187km2
東 西約27km約81km   県境 長野、富山、石川、福井
南 北約12km約53km   標高 最低 436m、最高 3,190m(奥穂高岳)
森林率70.6%92.5%
高齢化率21.6%23.9%31.1%(2017.4.1)
財政力指数0.7400.4830.522(2016年度決算)
地方債残高266.8億円1,150億円 全会計587億円 全会計(2016年度決算)
基金残高72億円157億円563億円
経常収支比率70.985.778.9%(2016年度決算)
支所数0か所9か所
職員数577人1,250人832人(2017.4.1)
道路延長592km1,818km1,879km

(1) 合併後の行財政改革
① 定員適正化計画による職員の削減
 市町村合併の目的のひとつとして財政の効率化をめざすための行財政改革を推進することがありますが、高山市においても国の求める「集中改革プラン」に基づき行政改革大綱を策定し、行財政改革を推進してきました。
 合併当時の土野市長の「退職金を上乗せしても職員数が100人減ることとなれば、単年度で数億円の削減効果がある。」との発言にもあるように職員定数の削減に取り組むことによる財政面への効果は大きなものがありました。
 職員定数削減の方法として、高山市では30歳以上を勧奨退職の対象者として定年退職までの残期間に対して年5%~10%の加算を行い、退職を促しました。こうした取り組みにより合併1年後には103人、2年後には99人が退職することとなり、合併によって1,250人となった職員数は2015年度の当初で837人となりました。10年間で471人の退職に対し、職員採用はわずか58人にとどまっていることから、職員数は413人の減となり、10年間でほぼ3分の1の職員が削減されたこととなります。
 合併から10年が経過し、職員削減も限界に達したことから、2016年からは退職者に相当する職員が採用されることとなりました。しかし、技術職はどの自治体においても必要とされる人材となっており、募集をしても応募がない状況となっています。過去にも大量採用、採用抑制を繰り返してきましたが、長期的な展望をもった人材育成と職員採用が重要なことをあらためて考えさせられています。
② 地方債残高の減少と基金の増加
 大幅な職員の削減とともに、合併で大きく膨らんだ起債の償還にも積極的に取り組みました。合併時には旧町村分も含め1,150億円の起債残高となりました。人件費の抑制によって確保された財源を繰り上げ償還も含め、起債の償還に充当したことにより、2016年度決算における起債残高は587億円となっています。
 また、この間、基金の積み増しにも積極的に取り組んできた結果、2016年度決算では、財政調整基金272億円を含み基金の総額は563億円となっています。市町村ランキング情報によると高山市の2015年度財政調整基金残高ランキングは全国の市町村の中で15位となっています。人口10万人未満の市における財政調整基金の残高は高水準であるといえます。 

(2) 人口減少と将来推計人口
(表2)高山市の将来推計人口(国立社会保障・人口問題研究所資料)
 2015年2020年2025年2030年2035年2040年2045年
総 数89,18285,33281,09076,67272,10767,41962,866
0~14歳11,97310,7459,5778,6347,7807,1636,615
15歳~64歳49,61946,24643,54540,49937,35033,09229,769
65歳以上27,59028,34127,96827,53926,97727,16426,482

 合併直後の2005年の国勢調査の人口は96,231人でしたが、10年後の2015年には89,205人となり、7,026人の減少となりました。住民基本台帳人口では2018年4月時点で88,566人となっています。2018年3月に公表された国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口では高山市の人口は、今から2年後の2020年には85,332人、2025年には81,090人、27年後の2045年には62,866人と推計されています。
 深刻なのは、少子高齢化の進行で、2025年には年少人口が10,000人を割り込み9,577人になり、人口全体に占める構成比は11.8%、老年人口は27,968人で構成比は34.5%、そして、生産年齢人口は43,545人で53.7%となっており、生産年齢人口の極端な減少は地域の経済活動に大きく影響することが予想されます。

(3) 合併特例終了後の地方交付税
 市町村合併後10年間は合併時の地方交付税を保障する特例措置が設けられていましたが、10年後からは5年間で段階的に特例額が削減され、15年間で特例期間が終了します。
 高山市の合併特例額は1年で50数億円となっていました。(表3)のように合併10年目である2014年度には普通交付税が148億円となっていましたが、13年目となる2017年度決算では118億円となり、約30億円の減額となっています。
 国は支所に要する経費の算定や、人口密度等による需要の割り増し、標準団体の面積を見直し単位費用に反映する等の交付税算定の見直しを行っていますが、高山市の普通交付税はこの3年間で大きな減額となっています。
 2018年度の予算においても普通交付税は前年度交付額より約7億円の減額が見込まれており、合併15年以降の地方交付税は更なる減額が想定されます。地方交付税の減額は高山市の財政運営に大きな影響をあたえることから、動向に注視することと、合併後15年間の特例期間終了後の地方交付税を想定した予算編成が必要とされています。

(表3)合併10年後以降の高山市の地方交付税の推移
(単位:千円)
 2014年度2015年度2016年度2017年度2018年度(予算額)
普通交付税14,808,98914,214,05612,766,45911,766,39711,000,000
特別交付税2,327,0291,904,7062,008,7461,797,5821,200,000
17,136,01816,118,76214,775,20513,563,97912,200,000

3. 地方創生の取り組み(高山市まち・ひと・しごと創生総合戦略)

(1) 高山市まち・ひと・しごと創生総合戦略
 国は大都市における低出生率に加え、地方における都市への人口流出による低出生率が日本全体の人口減少につながっているとしています。東京への一極集中を是正し、若い世代の結婚・子育て希望を実現することにより人口減少を克服する。そして地域特性に応じた処方箋が必要であるとして、まち・ひと・しごと創生法を制定し、すべての自治体に地方版総合戦略の策定を求めました。
 高山市においてもまち・ひと・しごと創生法の趣旨に基づき、「高山市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定しました。総合戦略では、以下の3つの基本目標を設定しました。
① 飛騨高山にひとを呼び込む
② 飛騨高山のモノを売り込む
③ 住みやすく働きやすい飛騨高山をつくる
 これらの基本目標に数値目標を設定して具体的な施策を掲げ、2015年度には地方創生先行型交付金事業として15の事業が実施されました。

(2) 協働のまちづくりの推進
 高山市は、地域における人口減少や少子高齢化によって地域社会の疲弊が大きな問題となっている中で、多様化・複雑化する市民ニーズや行政課題に、これまでのような仕組みや体制で対応していくには限界があり、持続可能なまちをつくるためには、地域社会を構成する多様な主体が協働して課題解決に取り組み、市民福祉の向上や地域コミュニティの活性化を図る必要があるとしています。
 そこで、「高山市まち・ひと・しごと創生総合戦略」の基本目標である「住みやすく働きやすい飛騨高山をつくる」ための特に重要な取り組みとして協働のまちづくりを推進することとしています。
 合併後11年目となる2015年度から市内全ての地域(概ね小学校区、20地区)においてまちづくり協議会が設立され、支援金制度を創設しました。まちづくり協議会は、地域が自主的・主体的に組織し、運営するもので、市では地域の維持・改善・振興に取り組む地域を支える担い手として位置づけています。

(3) 飛騨高山大学連携センターの設立
 高山市には、四年制大学がないことから、毎年高校卒業後の若者の多くは、都市部に立地する大学等に進学し、流出している状況であり、20歳前後の若年層が極端に少ない人口構造となっています。高山市は、これまで大学本体の誘致を継続的に実施してきましたが、少子高齢化の進展、地域経済の低迷、大学キャンパスの都心回帰などにより、現実的には難しい状況であると判断しています。
 そこで、「高山市まち・ひと・しごと創生総合戦略」の基本目標である「飛騨高山にひとを呼び込む」ための施策として大学連携を位置づけ、高山市が全額出資して2017年6月に「(一財)飛騨高山大学連携センター」を設立しました。センターでは、大学の保有する高度で専門的な知見と連携して、高山市の政策研究活動の充実・強化、行政課題や地域産業、地域コミュニティに関する問題・課題の解決、地方創生を担う人材の育成・確保などの自治体シンクタンク事業と、将来的なUIJターンや地元定着も視野に入れ、大学が実施するフィールドワークやゼミ合宿、インターンシップなどの様々な活動を誘致・支援し、"多くの大学生が来訪・滞在・活動する高山市"をめざした大学コミッション事業も重要な業務として推進することとしています。

(4) インバウンドの取り組み
 「飛騨高山にひとを呼び込む」ための特に重要な取り組みとして、海外からの誘客(インバウンド)に取り組んでいます。1986年の国際観光都市宣言から長年積み重ねてきたプロモーション活動と地域資源の魅力創出にさらに磨きをかけ、日本を代表する観光地としての地位が確固たるものとなるよう官民協働して全力で取り組むとともに、昇龍道プロジェクトをはじめとする広域連携による誘客も推進しています。

4. これからのまちづくりの課題

(1) 生産年齢人口の減少と産業振興
 少子高齢化を伴う人口減少の問題の一つとして、生産年齢人口が減少することによって、地域経済が停滞することが大きな懸案事項となっています。人口推計によると2025年に生産年齢人口は43,545人で53.7%と推計されており、高山市の人口全体の約半分にまで、減少することが予測されています。高山市においては進学や就職によって高山市を離れる高卒者は7割近いといわれています。業種によっては労働力不足も心配される中で、地域の産業活動が停滞することによる高山市の市税収入への影響も心配されます。
 高山市の市税収入は2005年度の143億円に対し、2016年度は135億円と約8億円の減少となっています。この間、リーマンショックによる日本経済の景気後退等の要因もありますが、人口減少による納税者の減少も影響していると思われますし、今後においても同様の傾向が予測されることから、地域の産業振興施策の充実と労働者の雇用環境の改善に取り組むことは重要です。

(2) 医療・福祉・介護の充実
 合併当時2005年の高齢化率は23.6%でしたが、合併から12年後の2017年には31.1%にまで上昇しています。さらに将来推計人口では今から7年後の2025年には34.5%と予測されている中で、高齢者の増加に伴い要介護者も増加すると予測されます。また、介護保険料も制度がスタートした時点で基準額が2,700円であったものが7期目を迎えている現在では5,520円とほぼ倍増しています。さらに、介護保険事業計画では2025年に7,327円にまで上昇すると試算されていますが、これ以上の保険料負担は年金も減額される傾向が予測されており、高齢者にとってかなり厳しいといわざるを得ません。また、担い手の不足も大きな課題となっている中で、要介護者の増加によって担い手不足はさらに深刻化することが予想されます。
 これらの問題はそれぞれの地方自治体が単体で解決できる問題ではないことから、介護保険制度全般における抜本的な見直しが必要であると考えます。
 また、介護保険制度のみの問題ではなく医療や福祉の分野に関しても同様に担い手不足が大きな課題となっており、担い手の確保と育成は市民一人ひとりが地域で安心して暮らせる地域社会づくりにとって重要な課題となっています。

(3) 公共施設のファシリティマネジメント
 市町村合併によって高山市は多くの公共施設を保有することとなりましたが、それらの施設の多くは老朽化が進み、施設の改修や改築の時期を迎えようとしています。しかし、公共施設の維持管理や更新は財政的に大きな負担となることから、公共施設のあり方が大きな課題となっています。こうした状況をふまえ高山市は「高山市公共施設白書」を策定しました。
 公共施設の中には、道路、橋梁、上下水道等の日常生活における重要な施設もあることから、市民生活の安心・安全を確保するためには、それらの施設の維持補修や施設の更新を計画的に行う必要があります。公共施設白書の中では建物、道路、橋梁、上下水道の更新に必要な費用として年間138億円が必要であると予測されていますが、こうした財源を確保することは厳しい状況であり、施設の再配置や長寿命化等により、計画的な事業の実施が必要とされる中で、高山市においてもファシリティマネジメントに関する取り組みが重要になっています。

(4) 災害発生時の対応
 高山市においてもここ10数年の間に何回も台風や集中豪雨が土砂崩れや河川の氾濫を引き起こし、大きな災害となっています。また、豪雪による倒木は停電や交通網にも大きな影響を及ぼし、市民生活も大きく混乱しました。
 2018年も7月に豪雨、また猛暑と経験したことのない気象状況は市民に大きな衝撃となっています。特に7月の豪雨は、高山市にも避難指示、さらには特別警戒警報も発令され、もはや、想定外のことを常に想定しておかなければならない状況であることを自覚する必要があります。
 こうした様々な災害の発生に対応できる市民意識と防災意識の醸成、また、危機管理体制の確立は必要不可欠となっていますが、災害弱者へのサポート体制も重要です。地域が高齢化する中で、様々な災害を想定するとともに災害発生時に対応できる体制づくりと防災体制づくりによって地域住民の安心と安全を確立することが大切です。
 また、高山市は合併により広域的な対応が求められることとなりました。職員が削減されている中で、地域在住の職員も減少してきています。7月の豪雨の際には全市で避難指示・避難勧告合わせて、21,502世帯、55,002人に発令され、78ヶ所の避難所が設置されました。災害時における職員には多くの役割がありますが、職員が削減されたことによって、支所地域における地域在住の職員が減少していることにより、避難所対応する職員体制にも大きな課題が残りました。

5. おわりに

 積極的な観光政策の取り組みを推進している中で、高山市の2017年の観光客の入込み者数は、対前年度比2.48%増の462万3千人となり、過去最高の入込みとなりました。また、外国人観光客数は、宿泊ベースで過去最高の51万3千人となり、対前年比で11.31%の大幅な増加となりました。高山市2017観光統計では2017年に高山を訪れた観光客の消費額は940億円と公表されており、観光産業は高山市の基幹産業として、地域経済にも大きく貢献しています。
 まちにはたくさんの観光客が高山市の町並みなどを楽しんでおり、高山市も活性化している状況といえますが、生活の面では、人口減少・少子高齢化の影響が大きくなっています。地域に子どもがいなくなり、高齢者世帯は増加する中で、地域社会のあり方が問われています。また、市民のライフスタイルの多様化、生活意識の違いにより、地域における文化の伝承等も先行きが見通せなくなっていることを実感しています。
 国は地方創生を掲げ、東京一極集中を是正するとしていますが、公務員賃金をみても地域手当の導入によって地域の格差は広がりました。人口減少は以前から課題となっていましたが、特効薬もなく現在に至り、今後益々深刻化していきます。こうした現実に向き合い、それぞれの地域で生活する人が将来に夢のもてる地域とするためには市民の協力は不可欠です。高山市が考える協働のまちづくりを推進するためには一層の市民の理解と協力が必要となっています。