【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第3分科会 どうする? どうなる? これからの自治体

 2006年の夕張ショックを機に、2007年「財政健全化法」が施行された。それから10年余りが経過し、国は地方自治体に対し、交付税を削減する圧力をかけ続けている。急速な少子高齢化、人口減少社会において、これからの地方財政はどのようになるのか、将来的な不安が拭いきれない状況下で、労働組合運動も進化を続けなければならない。組合活動において、賃金や労働環境を議論する上では、当局の財政分析を行うことも必要不可欠であり、継続的に財政の分析を行う必要がある。



財政分析から見える網走市の未来


北海道本部/網走市役所労働組合連合会・自治研推進部

1. 網走市の財政状況

図1 歳入歳出決算額の推移
 網走市の歳入・歳出状況は、ここ数年、250億円前後で推移し、赤字決算にはなっていないことが窺われる(図1)。2016年度決算では、歳入が約252億200万円に対し、歳出は約250億3,300万円で約1億6,900万円の黒字決算となっている。
 実質収支と実質収支比率においてもマイナスではなく、健全な財政運営が行われているといえる(図2)。しかしながら、実質収支は大きな黒字とは言えず、実質収支比率においても2011年に2.1%、2012年に1.6%となったものの、ここ数年は1%にも満たない状況が続いており、歳入に対し歳出を抑制し、何とか黒字を保っている状況であると分析される。
図2 実質収支と実質収支比率の推移

2. 網走市の財政運営

 網走市の積立金、家庭でいうと貯金は、2016年度末で約33億9,100万円程であり、数年間で増減はあるものの、10年前の2008年度末の約36億2,900万円に比べ若干減少していることが窺われる(図3)。単年度収支(実質収支-前年度の実質収支)において黒字となっているものの、黒字決算とするために少しずつ貯金を取り崩している状況が分かる。さらに、単年度収支と実質単年度収支の推移(図4)を見ると、2001年から実に5回の単年度収支赤字(03、06、11、12、14)があり、ここ10年間では3回の単年度収支赤字となっている。
 次に、積立金の内容を見ると、2016年度において「財政調整基金」は約6億2,600万円(18.5%)、「減債基金」が約12億9,200万円(38.1%)、「特定目的基金」が約14億7,300万円(43.4%)で、地方債償還のための減債基金と使い道が決まっている特定目的基金で実に81.5%を占め、今後想定される施設の老朽化対策や災害など何かあった場合に対応する基金は殆どない状況が窺われる。
図3 積立金と積立金取崩額の推移
図4 単年度収支と実質単年度収支の推移

3. 網走市の歳入傾向

 収支赤字に陥る原因は何か。網走市の歳入の約4割を占める「地方交付税」と約2割を占める「地方税(税収入)」を見ると(図5)、人口が減少傾向にある中、収納対策の成果から税収入はほぼ横ばいであるのに対し、地方交付税が右肩下がりの傾向にあることが窺われる。2007年に約77億円あった地方交付税は、2016年には約69億7,000万円となり、この10年間の間に△約7億3,000万円となり、率にして約9.5%の落ち込みとなっている。
 なぜ交付税額が減少しているのか。普通交付税の算定は、基準財政需要額と基準財政収入額との差であるため、税収入がそれほどまでに落ち込んでいないにもかかわらず、基準財政需要額が右肩下がりであるがために、交付税が減額されていると分析される(図6)
 交付税削減の背景には、経済財政諮問会議と財務省(財政制度審議会)が、将来に不安を抱える自治体が基金を増やす傾向にあることに、自治体に基金を積み立てる余裕があると捉え、地方財政計画に反映させるかたちで交付税の削減を行っていることも原因と考えられる。
 また、財政力指数(3年間の基準財政収入額の合計を3年間の基準財政需要額で割り求めたもの)の推移を見ると(図6)、0.4ポイント前後で概ね横ばいだが、基準財政需要額が削減されている分、市税の徴収強化などにより指数を維持していることが窺われる。
 今後の収入傾向としては、交付税が徐々に削減される一方で、収納対策を実施していくにしても、人口減少により税収も下がってくることは必然と考えられる。
図5 地方交付税と税収入の推移
図6 基準財政収入、基準財政指標、財政力指数の相関

4. 網走市の歳出傾向

 次に歳出の傾向を見てみる。目的別歳出の推移(図7)では、2007年と2012~13年の「麦乾燥貯蔵施設」の建設による農林水産費の増、2013年「流氷館(観光施設)建替え」による総務費の増、2014年「市民プールの建替え」による教育費の増、2016年「廃棄物処分場建設」による衛生費の増といった投資的経費の歳出が窺えるが、総じて近年、民生費の増加が顕著となっている。2016年度決算では、歳出の15.8%が扶助費の支出であり、10年前の2006年の11.7%に比べ4.1%上昇している。少子高齢化に伴う福祉分野への支出が増加傾向にあることが想像される。
 また、性質別歳出の推移(図8)を見ると、扶助費に次いで多い支出は公債費であることが分かる。2016年度決算では、歳出の14.8%が公債費となっており、過去に学校や社会教育施設を建替えたことによる付けが今なお続いていることが窺われる。
 人件費については、行政改革の名のもとに進められたほか、職員定数の削減により、2006年の14.5%に対し、2016年は10.2%と△4.3%となっている。
図7 目的別歳出の推移
図8 性質別歳出の推移

5. 網走市と他市との財政比較

 網走市の財政は、北海道内の他市35都市と比べてどうなのか。2016年度普通会計決算における7項目を比較してみた(図9)

図9 7項目比較

財政力
指数

経常収
支比率

人口1人あたりの
人件費・物件費・
維持補修費合計

将来負担
比率

実質公債
費比率

人口千人当たりの
職員数

ラスパイレス
指数
網走市データ0.4196.3179,025171.615.58.1597.8
道内都市平均0.4193.6181,25689.011.79.8697.6
道内都市での順位
(35都市中)
17142020
 ※ 表の数値については、総務省の決算カードより作成

 網走市の「財政力指数」は、0.41で35都市中17位、全道平均の0.41と同数である。市税等の収納対策等に取り組み、財政力指数はここ2~3年で0.02~0.03ポイント上昇している。人口1人当たりの「人件費・物件費・維持補修費」については、179,025円で14位、全道平均181,256円を若干下回っている。人口千人当たりの「職員数」は、全道平均9.86人を下回り、8.15人で20位であり職員数の削減が他都市よりも進んでいる。「ラスパイレス指数」は97.8%で、全道平均の97.6%を0.2ポイント上回る程度で20位とほぼ平均値となっている。
図10 道内市町村の財政力指数と実質公債費比率の相関図
 一方、上位になるほどよくないとされる、自治体の財政構造の弾力性を示す「経常収支比率」は、96.3%で全道平均の93.6%を2.7ポイント上回り8位であり、また、経常収支比率に影響を与える「実質公債費比率」は15.5%で4位、さらに、現在抱えている負債の大きさを示す「将来負担比率」は171.6%で財政再建団体に指定されている夕張市についで2位という状況にある。つまり、網走市は体力以上の借金を抱えている自治体であると言える(図10)
 2015年度決算時の将来負担比率は158.1%であったが、2016年度決算時では13.5%上昇した。2016年度事業において「廃棄物処分場」を建設したほか、養護老人ホームの民間委託に伴う「高齢者福祉施設」の建設償還補助を実施したことが将来負担比率を大きく高めた原因と分析される。

6. 網走市財政の課題

 財政健全化法のもと、実質公債費比率が18%を超える自治体は、「公債費負担適正化計画」の策定が義務付けられ、起債を発行するには許可を得なければならないといった制限が設けられている。いわゆるイエローカードが示される段階となるが、網走市はその一歩手前の段階である。
 労働組合としてはこれまで「職場定数の削減」や「給与の削減」、「水道事業及び現業職場の一部民間委託」など様々な合理化提案に対し、住民サービスの低下を招かないよう訴えながらも苦渋の判断をしてきた経過があるが、この背景には当局が言うところの「財政難」がある。
 身の丈以上の借金をして公共事業を行ってきた付けを、人員や賃金カットで何とか切り抜けてきた財政運営であることが財政分析からは分かる。詰まるところ、長期的な視点に立った財政運営を行ってこなかったのが網走市の財政である。その結果として、定数管理や給与水準、財政力指数が高まってきたに過ぎないと分析できる。
 網走市の根本的な財政課題は、公債費比率の増加による財政の硬直化であるため、建設費や民間委託に伴う建設補助などを極力行わないこと、さらにこれ以上公債費比率を高めず将来負担比率を下げる工夫を行うことが必要である。起債発行額の上限設定や予算段階で将来負担比率を高める項目に制限を掛けるなどの対策が急がれるが、現在、網走市においては、耐震性の乏しい市庁舎の建替えまたは耐震補強問題が課題となっている。さらに、市民会館や総合体育館も同様の問題を抱えている。老朽化に伴う建設には反対ではないが、人口減少社会に突入している状況下において、コストを抑える意味でも様々な選択肢を議論して欲しい。

7. 財政分析から見える網走市の未来

図11 地方債残高と公債費負担比率の推移
図12 人口の推移
 ここ数年、地道な行革を続け、網走市の公債費は年々減ってはいる(図11)が、急激な人口減少(図12)や交付税削減政策などで歳入も落ち込むことが予想されるため、財政の硬直化は一層進むことが想定される。そのような中で、これ以上の公債費の返還は現状では難しい。さらに、扶助費が年々増加していることも悩ましい課題である。経営資源でいう「人・もの・カネ」において、「もの」と「カネ」には現状では限りがある。そこでこれからの網走市の財政運営において力を入れる点は「人」ということになる。
 これまで度重なる人員削減によって、市役所の人員は減っているが、マンパワーを活用した政策が今こそ必要と思われる。扶助費の抑制も新たな税収や歳入の確保も、万一の災害時対応も、「人」なくして成り立たない。組合運動もまさに「人づくり」である。人を育てる仕組みづくりが自治体にも組合にも求められているように感じる。未来を拓く可能性のあるのは、「もの」でも「カネ」でもなく「人」であることを財政分析から見極め、今後の対自治体交渉において訴えたい。