【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第3分科会 どうする? どうなる? これからの自治体

 国は、地方公共団体への任期付職員制度を創設し、特に東日本大震災からの復旧復興業務に対応すべく、活用を推奨し、岩手県でも採用を進めた。採用開始から6年以上が経過し、人事上の諸課題が明らかとなっており、県職労としても処遇改善に向けた闘争を進めてきた。震災から7年が経過し、任期付職員課題を集約し、任期付職員制度の妥当性の検証と任期付職員制度の運用改善に向けた自治労としての対策強化が必要である。



東日本大震災復興業務で見えた任期付職員制度の諸課題
―― 震災から7年が経過して ――

岩手県本部/岩手県職員労働組合・本部

1. はじめに(任期付職員制度について)

(1) 制度概要とレポートの狙いについて
 任期付職員制度は、2000年代初頭の小泉構造改革に係る公営事業の民間委託の促進などの行財政改革の一環(民間完全委託までの間の職員配置等)として、2004年の「地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律」の改正により創設された任用制度であり、任期付職員制度の趣旨として、総務省は、各地方公共団体の行政運営において、最適と考える任用・勤務形態の人員構成を実現するための手段の一つであるとし、「相当の期間任用される職員を就けるべき業務に従事する者」として位置づけられ、相応の給与や休暇等の勤務条件が適用されるほか、3年ないし5年以内という複数年の任期が保障されうる制度であるとした。さらに「任期付職員制度活用事例集」を公表して、各地方公共団体に関して同制度の活用を促している。
 直近では、2020年4月施行の臨時・非常勤職員の任用の適正化と処遇改善を柱とする「会計年度任用職員」制度の発足と併せ、臨時・非常勤職員の任用根拠の見直しに伴い、職の中に、相当の期間任用される職員を就けるべき業務に従事する職であり、かつ、複数年にわたる任期設定が可能である職が存在することが明らかとなった場合には、任期付職員制度の積極的な活用を促している(2018年3月27日付け総行公第44号・総行給第18号総務省自治行政局公務員部長通知。以下「総務省通知」という。)。
 特にも、総務省は、東日本大震災の復興業務の主要な担い手として、任期付職員制度の活用を促し、かつ任期付職員に係る給与等の所要額に関し、特別交付税措置を講じて財政的側面で担保をしており、岩手県・宮城県・福島県のほか、大半の被災自治体において任期付職員の採用を行っているほか、東京都をはじめ被災3県に応援職員を派遣する自治体においても、被災自治体への派遣者向けの任期付職員を採用し、派遣を行っている。その後、2015年4月発生の熊本地震など、大規模災害発生時における復旧・復興業務に向けた人材確保策として、国では任期付職員制度活用を基本とする仕組みを定着させつつあり、今後も同様の対応を行うばかりか、先に紹介した総務省通知から明らかなとおり、今後も会計年度任用職員の導入と併せて、各地方自治体への導入拡大を目論んでいるといえる。
 岩手県では、東日本大震災発災当初での県職員の被災者へのきめ細かい対応ができなかったことが住民から多く指摘され、岩手県議会でも度重なる行財政合理化に伴う人員削減による人員不足の弊害が露呈したことが明らかであったこと、県職労としても慢性的な人員不足の解消のため任期の定めのない職員配置の拡充を基本とし、復興の見通しとその後の複数年度を見据えた前倒し採用を要望してきた。しかし、県当局は、総務省の財政支援策もあり、任期付職員の採用を進めることで対応を講じ、職員定数自体の増に踏み切らなかった(総務省でも一時的な復興需要への対応であり、復興事業が一定の目途が立った後には定数を元に戻す前提での対応としたため、各地方自治体でも任期の定めのない職員採用に踏み切れない状況であった)。こうしたことから、2012年度以降、被災3県(岩手県・宮城県・福島県)間での実態交流や対策会議を開催し、総務省に対して震災復興に当たり、特別交付税措置において任期の定めのない職員を交付対象とする権限を各地方自治体の裁量に委ねるよう国会対策などを強化した経緯があったが、具体的な前進がないままとなっていた。
 こうしたなか、総務省における任期付職員の一層の活用という方針に警鐘を鳴らすべく、県職労として、東日本大震災における任期付職員の配置を巡る諸課題を踏まえながら、任期付職員制度の妥当性や今後の在り方を検討するに当たっての問題提起が必要と考え、これまでの運動を振り返りながら、任期付職員制度の諸課題と今後の展望に関してレポートとしてまとめたところである。

(2) 岩手県知事部局における任期付職員の配属状況について
① 2004年の法制度発足以降、東日本大震災発災前までは、岩手県産業技術短期大学校における職業指導員としての採用があったものの、任期が最大3年間と限定されていることなどの処遇面での課題があることから、任期付職員制度には反対の方針のもと、職業訓練職員協議会と連携しながら、採用された任期付職員の正規職員への転換などを求め要求交渉を強化した。その後、正規職員への転換が一部実現したことや、県当局側も応募しても募集者数が確保できなかったことから、任期付職員による募集は一旦終了した。

【職員定数の推移】

区 分

2010

2011

2012

2013

2014

2015

2016

2017

2018

職員定数

3,918

3,859

4,090

4,115

4,278

4,354

4,377

4,371

4,442

 うち任期付職員数

 

 

81

254

304

316

311

279

220

 うち他県応援職員数

 

 

156

163

172

172

164

129

96

 任期付+応援職員合計

 

 

237

417

476

488

475

408

316

 任期付+応援職員割合

 

 

5.8

10.1

11.1

11.2

10.9

9.3

7.1

 
【任期付職員の配置状況】
 

区 分

2012

2013

2014

2015

2016

2017

県配置

一般事務

43

90

103

92

105

95

総合土木

38

94

88

90

82

74

建築

 

4

4

5

4

3

電気

 

1

1

1

 

 

機械

 

3

3

3

1

 

81

192

199

191

192

172

市町村
配置

一般事務

 

31

58

67

64

57

総合土木

 

27

43

54

50

46

建築

 

4

4

4

5

2

保健師

 

 

 

 

 

2

 

62

105

125

119

107

合 計

一般事務

43

121

161

159

169

152

総合土木

38

121

131

144

132

120

建築

 

8

8

9

9

5

電気

 

1

1

1

0

0

機械

 

3

3

3

1

0

保健師

 

 

 

 

 

2

81

254

304

316

311

279

※ 各年度4月1日現在の状況。2018年度の内訳は未提供
② その後、東日本大震災における復旧・復興業務対策として、県職労としても人員確保などの諸課題を県当局に追及し、当初は「行財政構造改革プログラム」における職員定数の縮減からの転換と正規職員の採用で対応する方向となったものの、一転して県人事当局が任期付職員制度の導入へと転換し、導入が強行された。
 2018年度までの配置状況は、初年度の2012年度81人、2013年度は県で採用のうえ被災市町村に派遣する制度も設け、254人(内訳:県配置192人、市町村配置62人)が配属され、その後も300人弱の配属規模となっている。採用職種は一般事務と総合土木を中心としながらも、2013年度からは建築、電気、機械などの専門職種の採用も行っている。2017年4月1日時点での県知事部局の組織定数は4,371人であり、そのうち、任期付職員279人、他県応援職員144人(要請数。応諾数は129人)からしても、これらの職員数合計で408人を占め、組織定数の1割弱(任期付職員では7%)を占めるに至っている。さらに、東日本大震災時の2011年4月1日時点の組織定数が3,859人であり、県の組織定数上は増加に転じているものの、実質的には県の一般職員は震災前と同規模となっている(詳細は表掲載)
 県当局は、2018年4月に49人を採用したほか、2019年度も42人(内訳:一般事務22人、総合土木20人)を募集予定としているが、東日本大震災の復旧復興状況を踏まえた今後の採用見通しについては明らかとしていない。
③ 次に、任期付職員の年齢構成や前職の詳細なデータは持ち合わせていないが、任期付職員として採用された職員の傾向を踏まえれば、概ね次に大別される。
 ア 正規の県職員や民間事業者での採用を希望するが、希望する職種の採用試験等で合格できず、当面、任期付職員としての経験を積み、希望する職種の採用試験の受験に備える者。
 イ 民間事業所での勤務経験があり、その経験を踏まえて任期付職員として採用された者(出身は、岩手県内に限らず、首都圏をはじめ全国から応募。前職は郵便局勤務、建設会社、地方公共団体や国出先機関の非常勤職員経験者など多岐にわたる)。年齢の幅も20代から50代と幅広い。東日本大震災の復旧業務に従事したいとの熱意等をもって希望する者もいるが、一定期間の任期であると割り切って応募する者もいる。全体の多数を占める。
 ウ 定年退職等をし、これまでの業務経験を生かして、当面の間(年金支給開始年齢時又は満65歳となる年度まで等)任期付職員として業務に従事する考えで応募する者。
 ア又はウに分類される任期付職員に関しては、一定の従事期間が満了又は他の適する仕事に従事する機会が得られた場合には、中途での退職や任期の更新を希望しない場合がある。主にイに分類される任期付職員にあっては、任期後の処遇などが不安定であることなど、臨時・非常勤職員と同様の課題を抱えることとなる。同様に、アの場合にあっても任期途中に成就できない場合も同様の課題を抱える。特にも、任期付職員制度では、在職期間に応じた退職手当の支給対象となるものの、民間事業者のような失業保険制度は適用されておらず、任期満了後の生活保障の観点から極めて不十分な制度となっている。

(3) 岩手県職労の組織化の状況について
 県職労では、任期付職員の組織化を進めており、新採用職員と同様に各支部での加入説明会、当局主催の研修会での説明などを行っている。任期付職員の加入促進に当たっては、新規採用職員とは異なり、上記(2)③に記載のとおり、年齢層が幅広であるほか、ほとんどが民間事業者への従事経験者であること、3年又は5年の任期満了で退職する考えの方もいることから、個別のニーズに応じた加入促進を行っているところであるが、2018年6月1日時点での任期付職員の加入状況は、48人(組織率:21.8%)となっており、一般職の組織率より低迷している現状にある。


2. 任期付職員の取り巻く諸課題と対応(現場実態を含む)

(1) 任期付職員に係る勤務・労働条件上の課題
① 任期付職員の配属先として、大船渡・釜石・宮古・久慈地域の沿岸被災地の公署が中心となっているものの、沿岸地域に内陸地域の熟練のプロパー職員を重点的に配置するため、県庁や内陸地域の各公署に配属されている。このことから、採用された任期付職員としては、当初の募集目的であった沿岸被災地の復興業務に従事するものと期待していたが、結果として震災復興に直接関係しない業務に従事せざるを得ないこととなり、モチベーションの低下となっている事案も散見されている。とりわけ、県庁や内陸地域の各公署に配属されている任期付職員が従事する業務の大半が通常業務を担っており、本来であれば震災復興前から必要な行政需要である。このことは、震災復興という大義名分はあるものの、実際は単なるマンパワー確保の側面でしか捉えていない当局姿勢とも取れる。
 加えて、震災復興業務を直接担う部署に配属された任期付職員が従事する業務では、津波防潮堤の整備など工事完了まで3~5年の複数年要するほか、ハード整備後には維持管理の業務が必要となる。震災復興業務のうち、ハード整備はピークを迎えているものの、維持管理を見据えた中長期的な復興の観点を踏まえれば、任期付職員での雇用継続だけで業務水準を維持することが妥当であるかを含め再考が必要といえる。
② 当局は任期付職員を即戦力として位置付け、新規採用職員と異なり、当局主催の研修は採用の辞令交付日1日のみであり、ほとんどが配属先でのOJTに依存している。このことから、任期付職員の中には行政事務が初めてであり、業務の進め方に戸惑いを覚えるだけでなく、十分な研修体制もなく従事せざるを得ない状況から、任期を残して退職する方も少なくない。
 また、定年退職後に任期付職員として採用された方をはじめ高齢で採用された方の中には、膨大な業務量に比して体力が持たないこと、単身赴任をせざるを得ない環境下も相まって、体調を崩し、退職する方も発生している。
③ 2013年度から市町村派遣の任期付職員が採用され、大船渡市、陸前高田市、宮古市、大槌町、山田町、岩泉町、田野畑村、野田村に派遣されている。市町村派遣の任期付職員は、給与支払は県当局が行うものの、実際の業務指揮権や超過勤務手当などの業務実態に応じた諸手当支給は、派遣先自治体が行うこととしている。当局は、市町村派遣の任期付職員への個別相談や支援体制構築のため、人事課に「派遣職員支援専門員」(2人・非常勤職員)を配置し、メールを使用した情報伝達などを行うほか、年1回、人事課職員が任期付職員の所属を訪問し、ヒアリングを行っている。しかし、当局による業務指示や当局側が必要な場面のみ相談の場が設けられており、双方向での相談体制になりえていない(任期付職員も同様の認識である旨、任期付職員のオルグで聞き取り)。
 県職労では、組合員となった任期付職員に対しては、日ごろからの機関紙等の配布、定期的な職場訪問を通じて課題の把握と相談対応を行っている。とりわけ、大槌町では、過酷な勤務実態の報告を受けており、大槌町としては県からの派遣職員に対して過重労働を強いる傾向があり、不払い残業の実態も報告されたことから、県当局に対し、大槌町に対して労働条件の改善を求めるなどした経緯がある。同様の傾向として、山田町派遣の任期付職員(非組合員)から、長時間労働と不払い残業の横行などの相談も受けたところ、特に、市町村派遣の任期付職員にあっては、身分は県職員であるものの、直接の指揮監督権が派遣先市町村でもあり、具体的な相談ができにくい環境下に置かれていることもあり、きめ細かい対応が求められるが、県当局の姿勢は依然として消極的ともいえる。また、2016年3月には県が採用し大船渡市に派遣した任期付職員の自死事案も発生するなど、派遣の任期付職員への心のケア対策なども重要な課題だが、これが十分に対応しきれなかった背景もあったといえる。
④ 任期付職員の賃金水準は一般職との均衡を踏まえるとし、通勤手当・住居手当をはじめとした諸手当に関しても同様としている(総務省通知のとおり)。当県でも初任給の決定、昇給、昇格等は総務省通知に従って運用している(一定の勤続年数を経過すれば主事・技師級から主査級(主任)への昇格も制度化)。しかし、組合員である任期付職員へのオルグでは次の課題が確認されている。
 ア 賃金水準について
 任期付職員には一般事務に加えて、総合土木職、建築職、電気職などの専門職種も採用しているが、民間建設事業者における需要増加に伴い、人材確保が一層困難となっており、総務省通知と同様の一般職との均衡を踏まえた賃金水準では確保が困難となっている(一般職の専門職種も同様の課題があり、一般職を含めた改善が不可欠)。さらに、民間事業者から転職する方も相当数いるが、55歳以上で採用された場合には、一般職と同様に55歳昇給抑制の対象となることから、モチベーションの失墜となっている。専門職確保の観点からも是正が必要なところ。
 イ 赴任旅費の改善及び住環境の整備
 当県では、任期付職員に対しても新採用職員と同様に赴任旅費の支給対象(移転料は基準額の半額)となっている。しかし、首都圏をはじめ他県から当県に赴任する任期付職員も少なくないなか、新採用職員と同様の赴任旅費の支給対象となるものの、自己負担が多額に上ることからも、赴任旅費の移転料の全額支給対象等の改善も不可欠なところ。また、任期付職員の住環境の確保についても、配属先である各所属内での努力に委ねられていることも問題として挙げられている。
 ウ 首都圏などの他県から派遣されている任期付職員との処遇格差
 主に、市町村派遣の任期付職員から課題として言及されていることとして、東京都など他県で採用され、被災市町村に派遣される任期付職員に対しては、派遣に係る諸手当が支給されるほか、定期的に出身地に帰省するための旅費への支援などもあり、処遇面での格差に不満を持つケースが確認されている。他県から人材を確保するとした場合には、同様の処遇改善策を講じるよう強く求める必要がある。
 エ 退職時における生活保障制度
 前述したとおり、退職する任期付職員には一般職と同様に退職手当が支給される。しかし、退職手当支給額は在職期間に応じて算定されるため、仮に5年間の任期で退職時行政職3級とした場合、100万円程度となる。さらに、民間事業者とは異なり失業給付の対象とならない。このため、退職時における生活保障の観点でも不十分と言わざるを得ない。
⑤ 当県では、2006年度に人事評価制度が導入されており、任期付職員も人事評価の対象となっているが、一般職と同様に4原則2要件が十分機能していない課題があるほか、特に市町村派遣に係る任期付職員の人事評価に関しては、派遣先市町村に依頼して評価するとしており、任期付職員の勤務実態を適正に反映できているか、評価結果を昇給や勤勉手当にどのように反映しているか不透明となっており、運用実態を明らかにさせ、改善を求める必要がある。
⑥ 上記のとおり、任期付職員に対する処遇面を巡っての課題が山積したままであり、特にも人事配置上の課題が中心となっている。しかし、当局は具体的な任期付職員を取り巻く課題の実態把握が不十分であり、具体的な改善策が行われているとはいえない。人材不足が恒常化する中で膨大な業務を抱える復興業務や通常業務を担うための当面のマンパワー確保の側面しか考慮されておらず、極めて不十分かつ不安定な処遇であるといえる。実態として、県職員として経験がないままに一般職と同様の業務水準を求められ、過酷な業務の中でも踏ん張っている任期付職員の中にはメンタル不調に陥り、任期前退職をする職員も少なくない。少なくとも一般職と同様の人事配置の在り方(研修体制の構築、キャリアアップの形成)や処遇改善が必要ともいえる。
⑦ 任期付職員に対する一般職員の見方は様々である。沿岸公署で災害復旧業務等を担う職場では、任期付職員が重要な戦力でもあり、一般職と同水準の業務を担っていることからも、任期付職員と一般職との間での垣根は少なく、一般職としても任期付職員の課題の改善に向けた取り組みに理解を示す方も多い。しかし、任期付職員の業務遂行能力を問題視する一般職員もいることや、当局が示した任期付職員の募集要領に記載の勤務・労働条件を踏まえて応募した以上、任期満了での退職などは当然であるとの意見を持つなど、任期付職員と一般職員との格差を是認する姿勢を示している職員も少なくなく、心理的な壁も生じており、職場での分断も生じている。
⑧ 震災復興とは事情が異なるが、昨今、県当局は県職員を退職した方を対象としたOB任期付職員の採用も開始し、2017年度には任期付獣医師の採用を開始した。定年退職後の雇用と年金の接続の観点から、定年延長が実現するまでの間は、再任用職員制度を実施するとしているが、再任用制度では現役世代の約6割の賃金水準(格付けとしてフルタイム勤務は行政職3級、短時間勤務は行政職2級)であり、生活を維持する賃金水準を確保できない課題がある。一方で、任期付職員とした場合、格付けの改善(獣医師の場合には、4級格付け)とともに、賃金水準が一定程度改善することから、当局は、専門職の確保(県職員OBの活用)の観点で活用し始める動きも見せている。

(2) 県職労としてのこれまでの取り組み経緯と課題
① 県職労では、任期付職員の組織化以降、任期付職員課題の把握のため、各支部書記による定期的な職場訪問を進めるとともに、職場実態から明らかとなった諸課題、特にも市町村派遣の任期付職員の派遣市町村での勤務実態に関し、当局に質し、改善を促してきた(これまでの実績として、大槌町における長時間労働の実態改善、公舎として入居している応急仮設住宅の集約化に伴う移転に係る移転料の支弁の実現などがある)。また、2015年度・2016年度には、任期付職員との意見交換の場を設け、職場での働き方の実態把握と諸課題を共有し、改善要求に向けた要求の取りまとめなども進めてきた。とりわけ、被災市町村派遣の自治体のうち、自治労加盟単組は宮古市のみであり、それ以外は自治労連が組織化されており、県職労としても被災市町村単組と連携した対策が取り切れていない環境下であることも特徴的な課題である。
② 任期付職員を対象とした最大の取り組みは、任期付職員の任期の延長・更新の実現とともに、これまでの勤務実績を踏まえた任期の定めのない職員への採用制度の創設実現に向けた取り組みである。2012年度当初の任期付職員制度は、3年間の任期であったが、震災復興業務が長期化する中でこれまでの業務実績を踏まえ、希望者を5年間まで期間を延長するよう2013年度・2014年度県職労交渉で要求し、2014年度に実現させてきたほか、2016年度からは任期付職員の任期の定めのない選考採用制度を創設させてきた(県レベルでは当県が初である)。
③ しかし、これらの改善を当局に実現させてきたとしても、(ア)3年間の任期から5年間への延長における当局による考査、(イ)5年目となる任期付職員の任期の定めのない職員の選考採用による考査などで、これまでの現場経験での実績があるにもかかわらず、任期が延長されない事案や、任期の定めのない職員への選考採用で不合格となる事案も後を絶たない状況であることから、これらの改善を重点的に取り組んでいる。
④ ③(ア)に関しては、一例として、民間の建設会社での勤務経験を有していた任期付職員が県南地域の土木センターの道路整備課に配属され、慣れない設計書作成等に深夜まで時間を割いて従事するなど苦労したものの、採用から2年が経過しようやっと業務に順応してきた矢先に、9月になって県当局から任期の更新はしない旨の通知が示された事案が報告されている。当該事案に係る当局との協議では所属長からの更新を希望しない旨の所見を踏まえて更新しない判断をしたと主張しているが、慣れない業務に苦労してようやっと業務を理解し始めた職員にとっては、継続雇用を希望する職員の期待を裏切るとともに、不安定な雇用に陥れるなどの問題が現実化したといえる。職場の周りの職員は、当該職員の就職先確保のための就職活動に係る長期の年次有給休暇の取得に理解を示すなどしたが、配属した職場としても業務に習熟した職員を失う処置に疑念を抱く職員も少なくなかった。3年目から5年目への任期の延長に当たっても、その判断は当局による能力実証の名のもとに不透明な選別が行われている実態でもあり、県職労として希望者全員の任期の延長確保に向けた交渉・折衝の一層の強化が重要といえる。
⑤ ③(イ)に関しては、選考採用初年度の2016年度は、
 ・採用予定数が一般事務6人、総合土木若干名と極めて狭き門となったこと(申込者42人)。
 ・第1次考査として教養試験を課しているが、業務多忙で受験準備が困難であること。また教養試験の内容は、直接業務に関係のない分野(例:英語、古典など)もあり、教養試験の妥当性に疑問があること。
 ・第2次考査の面接時に勤務している各所属からの勤務実績を踏まえることとしているが、どの程度採用時に反映されているのか、適正に評価されているのか不透明な側面があること。
など、選考試験を巡る課題が散見されたこと、さらに100人を超える大規模欠員の早期解消の観点からも、選考採用枠の一層の拡大が必要であるとし、知事あて「任期付職員経験者の選考採用に係る要請書」を提出し、当局に改善を促した。しかし結果として、合格者数として一般事務7人、総合土木3人の計10人と、若干の合格者数の増となったものの、根本的な改善となっていない。
 2017年度も採用予定数が一般事務5人、総合土木若干名と前年度と同様の募集規模であったことから、要請書の提出とともに、各支部・分会からの決議文を添付(137分会)のうえ、改善を求めたところ、合格者数として一般事務7人、総合土木4人の計11人の合格者(申込者25人)となり、同様の問題が続いている(2018年度も採用予定数は2017年度と同様であったため(申込者16人)、昨年度と同様に7月4日に要請書提出をした)。
 また、選考採用については、任期付職員が5年目となる職員のみ応募対象とし、任期付職員の任期の定めのない職員の選考採用に不合格となり、改めて任期付職員として採用された方の任期途中での応募を認めていない。このため、該当者からは任期の定めのない職員への機会を限定しているとの不満とともに、任期付職員の任期満了時における処遇の確保を求める要望も強くなっている。
 当局は、任期付職員の任期の定めのない選考採用枠に関し、「退職者数や、他の採用試験の採用予定数を総合的に勘案して決定している。今回の選考は即戦力となる人材の確保等を目的としているものであり、その趣旨も踏まえて採用枠について判断」との姿勢を示しており、当局姿勢は任期付職員の雇用の確保や処遇改善の観点は極めて不十分と言わざるを得ず、現場実態と乖離している状況にある。
⑥ 県職労としては、上記③(ア)・(イ)の課題に関し、大規模欠員が生じている中にあって、人材育成の観点からも任期付職員の雇用継続や任期の定めのない職員の採用確保に向け、交渉・折衝を通じて改善を引き続き当局に求めることとしているが、当局姿勢は総務省通知にある「各地方公共団体の行政運営において、最適と考える任用・勤務形態の人員構成を実現する手段」として任期付職員制度を利用し、当面の震災復興と県の各職場における人員不足への当面の補充の意味合い(「当局にとって使い勝手のよい調整弁的な人材」という位置付け)でしかとらえていないのも事実であり、総務省通知にある任期付職員制度の活用方針自体を転換させなければ、安易な任期付職員制度の活用回避や、根本的な処遇改善は実現できないともいえる。県職場に配属されている任期付職員の任用上の諸課題の一層の分析・精査とともに、他自治体の任期付職員を巡る諸課題との突合せや課題共有を深めながら、自治労総体として問題点を総務省に追及しながら、任期付職員制度自体の諸矛盾の改善を促す対策も必要といえる。
 また、組合員から得た任期付職員のその他の処遇面の課題は、まだ具体的な改善の道筋には至っていない。引き続き組合員へのオルグ活動を強化しながら、要求・交渉を強化していくこととしたい。


3. 今後の課題と展望

① 東日本大震災から7年が経過し、国が定める復興期間まで残3年を切った。政府による任期付職員採用に係る特別交付税措置の継続など人材確保に係る財源動向は不透明であり、当局も2020年度以降の任期付職員の採用方向など将来的な考えは依然として示していない。しかし、2018年度時点でも220人の任期付職員が配属されていることや、2019年度も任期付職員の募集を行う方針としていることからも、任期付職員の処遇改善を巡る諸課題は県職労の重要な運動課題の1つとして継続することとなる。特にも、継続して県への勤務を希望する任期付職員の雇用の確保が最重要課題である。
② 今回のレポートは、これまでの県職労運動から得られた諸課題とこれを踏まえた取り組み経過を中心に概括的に取りまとめた内容に過ぎず、個別の諸課題の詳細な課題分析と対策までには至っていない。
 東日本大震災という過去に例のない未曽有の被害からの一日でも早い復旧・復興に向けた膨大な業務遂行のためには、人材確保策として、任期付職員の採用自体は(労働組合の立場として受け入れ難い側面はあるものの)、やむを得ない側面があった。しかし、本来は東日本大震災前から恒常的な人員削減が続けられ、通常業務であっても対応できない公署にも任期付職員が恒常的に配属されるなど、結果として、大規模災害からの復旧復興の名のもとに、安易な任期付職員の任用がなされた。さらに、期限の限られた事業期間のみ任用するという制度が、今後の職員の身分の安易な取扱い(分限免職等)に発展しかねない状況ともいえる。
 採用開始から6年以上が経過し、これまで列挙した諸課題を踏まえれば、任期付職員制度での諸課題は明らかであり、
 ア 任期付職員制度の活用ケースとして、より厳格に期間が限定される事案(期間限定の○○プロジェクトなど)にのみ限定して運用すべきこと、
 イ 本人の希望を踏まえた任期の定めのない職員への移行の仕組みを創設(労働契約法に基づく無期転換ルールとの整合性を踏まえた制度の創設)すること
など、制度面での改善こそ求められる。最適な行政運営という当局視点ではなく、職員の現場実態に立脚した労働者の視点での任期付職員制度の運用改善に向けた取り組み強化も重要である。
 そのためには、当県で明らかとなった課題に係る一層の分析・集約とともに、震災復興のために任期付職員を採用している宮城県・福島県の被災自治体の実態なども含めて、自治労総体として、任期付職員制度の課題を集約し、改善要求に向けた方針の確立を早急に進めていく時期にきているといえる。さらに、根本的問題として、任期付職員制度とは別論だが、行財政構造改革プログラムによる一連の職員削減の結果、大規模災害への対応ができないばかりか、通常の行政需要にも対応できない脆弱な職員体制となっている現実を踏まえ、安定的な公務運営の確保のため、任期の定めのない職員を基本とする職員体制の確立こそ重視すべきである。
 冒頭記載のとおり、総務省は、総務省通知で示しているとおり、2020年4月からの会計年度任用職員制度の運用開始と併せて、任期付職員制度の活用を強く推し進める姿勢であることからも、自治労として総務省に対し、任期付職員制度の諸課題を示しながら、各地方自治体における安易な任期付職員制度の導入に警鐘を鳴らし、実態に即した運用改善はもとより、安定的な公務運営確保に向けた職員の定数増を含めた対策への転換も含めて強く求めるべきといえる。
③ ②と並行して、県職労として、当局の任期付職員に対する「当局にとって使い勝手のよい調整弁的な人材」との姿勢を改めさせ、採用された任期付職員が安心して働き続けられる勤務労働条件の改善と、任期の定めのない職員への移行をはじめとした処遇の改善に向け、改めて7年間の取り組みを総括するとともに、任期付職員との意見交換の場を設けながら、任期の定めのない職員を基本とする職員確保体制の確立を前提としつつ、現在任用されている任期付職員に対するに任用採用枠の拡大をはじめとした今後の闘争の視点と到達目標の設定に向けた議論を加速していく必要がある段階となっている。