【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第3分科会 どうする? どうなる? これからの自治体

 茨城県のもつ農業教育、研修、研究環境を活かし、先進的な経営をめざす農業経営体を育成するため「いばらき農業アカデミー」が開設された。遠隔地の多忙な農業経営者でも参加しやすいようサテライト教室を設置することとした。メイン教室とサテライト教室は茨城県が整備した「いばらきブロードバンドネットワーク」を活用することでテレビ会議システムを構築し、低コストで導入、運用することができた。



県域ネットワークを活用した
農業講座サテライト教室の実現

茨城県本部/茨城県職員労働組合連合 小林 則夫

1. はじめに

 茨城県では「いばらき農業アカデミー」を2017年度に開校した。これは茨城県農業の第一線で働く農業経営者等を対象とし、経営感覚に優れた強い農業経営体を育成するために、県が所有する農業教育、研修、研究環境を活かして、国研究機関や民間企業とも連携して、高度な経営や技術に関する学習ができる場として開講したものである。
 農業に関しての研修事業は既に県内各地域農業改良普及センターで農業学園が行われているが、これは主に就農間もない農業者を対象に農業技術の基本を指導している。アカデミーでは農業学園では対応しきれない発展的な内容をカバーすることを視野に、経営の高度化をめざしている農業経営者を主な対象としている。
 「いばらき農業アカデミー(以下、アカデミーという)の本部は県央地域の笠間市にある茨城県農業総合センターに設置して講座を開催するとともに、現地見学や体験実習をともなう講座を県内各地で開催することにした。講義による講座については主にアカデミー本部の教室で開催されるが、農業の盛んな県西部からは距離が遠く移動に時間がかかることから、第一線で働く農業経営者が参加しやすくできないかという課題があった。また、次世代の茨城農業を担う農業大学校の学生がアカデミーで行う先進的な講義を聴講したいという要望もあった。

2. サテライト教室設置の検討と準備

 県内遠隔地からでも容易に受講したいという要望があったことから、現地見学や実習をともなわない講座については県内各地にサテライト教室を設置して受講できないかを検討した。サテライト教室の設置は県内各合同庁舎などへの設置も検討されたが、最終的に茨城町にある農業大学校の長岡キャンパスと坂東市にある岩井キャンパスに設置することにした。これにより農業総合センターのセンター教室とサテライト教室2か所の計3か所にテレビ会議システムを導入することとし、機材の選定とそれを繋ぐネットワーク回線の検討を始めた。
 機材は大学等の遠隔授業で実績のあるメーカー製のHDテレビ会議システムを基本とし、液晶モニターとプロジェクタを使って二画面に表示できることや、センター教室からはサテライト教室の受講者がモニターに見えること、サテライト教室からはセンター教室の講師とパワーポイント資料が二画面に映せるなど講義に適した投影モードが可能なことなどを要件に、パナソニック社のHDコムまたは同等性能の製品を条件とした(表1)
 アカデミー開校準備のための2016年度は補正予算を組んだが11,433千円のうち、サテライト教室準備のためのテレビ会議システムにはほぼ半額の5,242千円を予算計上して準備にあたった。

表1 テレビ会議システムの主な仕様表
機器(機能)数 量備 考
HDテレビ会議システムユニット3式カメラユニット、マイクロホン各1個を含むこと
①通信帯域はセンター教室では10Mbps以下、サテライト教室では2Mbps以下で次の構築要件のシステムを実現し、三拠点間の接続が可能なこと。
②最大解像度720p、フレームレート30fps以上。
③画像圧縮方式H264ハイプロファイル対応。
④H239デュアルストリーム対応、各教室のプロジェクタとディスプレイへの2画面表示を実現すること。
データプロジェクタ3台5000ルーメンス以上、解像度WXGA以上
スプリング巻上スクリーン3台アスペクト16:10の100インチ、ホワイトタイプ
液晶ディスプレイ3台48~50型液晶テレビ、スピーカー付き
ディスプレイスタンド3台テレビ会議システムユニット、カメラも搭載できること
配線、機器設置、設定調整費3式教室三拠点における設置調整を行うこと

3. いばらきブロードバンドネットワークの利用

 テレビ会議システムを実現するための三拠点を結ぶネットワーク回線について検討した。農業総合センターではサーバ機材を設置して運営している「農業情報ネットワークシステム」が、すでにインターネット接続回線として「いばらきブロードバンドネットワーク」を2004年から利用していることから、これを利用してテレビ会議システム用の県域ネットワークを構築することを検討した。
 「いばらきブロードバンドネットワーク(以下、IBBN)」は、県内情報格差の是正、産業の振興、行政サービスの効率化・高度化を推進することを目的に、
図1 いばらきブロードバンドネットワークの概要
(茨城県ホームページより)
県民・企業が便利で廉価に利用できる情報通信環境を提供するため、茨城県が、県内市町村と共同で整備した高速・大容量の情報ネットワークである。この目的を達成するため、IBBNの活用を希望する事業者・団体に無料で開放されており、利用者はIBBNのアクセスポイントまでの回線料金等を負担するだけで利用することができるものである。IBBNの開設は2003年で、県内15か所のアクセスポイントと県内全市町村を光ファイバーで結んでいる(図1)。現在は、NTT東日本が提供する広域イーサネットサービス(NGNビジネスイーサワイド)を専用に利用し、機器を二重化した高信頼性、L2スイッチのVLAN技術を使用して、利用者専用のネットワークとしてセキュリティを確保しているということである。すでに、農業総合センターで運営している「農業情報ネットワーク」では、IBBN利用以前はSINETを上位ネットワークとしてつくば市の農林研究団地まで専用線で結んでいたので高額な専用線利用料を支払っていたが、2004年のIBBNへ利用変更後は通信費を大幅に節約できるようになった。今回はインターネットへの接続ではなく、IBBNを利用して拠点間の機器同士を結ぶ広域ネットワークを構築することにした。

4. 行政情報システム基盤を利用してコスト削減

 IBBNは茨城県が管理していることから、利用については県担当課への利用計画書を提出することで申請を行った。利用計画書には目的、概要、その効果を記載する必要があるが、これについては、「2017年度からいばらき農業アカデミーが開設されること。そこにテレビ会議システムを設置し、センター教室からサテライト教室に遠隔講義を行うこと。これにより県内各地に居住する農業者がアカデミーの授業を受講することが容易となり、設置により効果が高まること」などとした。
 さて、県内の広域回線はIBBNを利用することとしたが、アクセスポイントまでの回線使用料の負担の問題があった。例えばIBBNアクセスポイントまでの接続にビジネスイーサを使用すると、テレビ会議に必要な速度を確保すると1か所で年間30万円近い回線使用料の負担が発生する。しかも拠点数が増えるごとに費用は増加し、3か所では年間100万円近い負担となり、回線の使用頻度からすると大変コストパフォーマンスの悪いシステムとなってしまうという問題があった。
 一方、茨城県では行政情報システム基盤が整備されており、基幹回線にIBBNを利用してアクセスポイントから各公所へは光ファイバー回線で接続されている。LGWANに接続されている行政業務系システムもこれを利用しているが、L2スイッチにより論理的に分割してセキュリティを確保して情報提供系ネットワークや別の業務用ネットワークを構築することができる。今回はこれを利用し、業務系ネットワークの新設を申請することにした。申請の概要には「行政情報システム基盤を使用してIBBNに接続する。IBBNを利用して3か所の公所を独立したネットワークで接続する。それぞれの場所にテレビ会議システムを設置してセンター教室からサテライト教室に遠隔講義を行う」とした(図2)
図2 いばらき農業アカデミーテレビ会議
システムネットワーク概略図
 独立したネットワークを構成するには、各公所に置いたL2スイッチで既設光ファイバーを論理的に分割して回線を構成する必要があった。すでに農業総合センターでは行政情報システム基盤にL2スイッチが設置されていたが、農業大学校長岡キャンパスと岩井キャンパスの2か所にはL3スイッチしかなかったので、これを購入して交換し、さらにL2スイッチを設置してあるラックから遠隔講義を行う教室までのLANケーブル配線工事を行った。機器購入には1台3万円ほど、LANケーブル配線工事は1か所あたり10万円以内で行えた。2017年3月までにVLAN回線調整と、テレビ会議システムの設置が完了し、開講に備えることができた。

5. 活用状況と今後に向けて

 以上のように、基幹回線としてIBBNを使用し、そのアクセスポイントへ接続する回線に行政情報システム基盤を使用することで、継続的な回線使用料の負担なく、テレビ会議システムを構築することができ、アカデミーのサテライト教室を県内2か所に設置することができた。
 アカデミー開講後のテレビ会議システムの利用状況についてであるが、2017年度のアカデミーは22講座が開かれ、その内、7講座でサテライト教室を使った遠隔講座を行った。遠隔講座を行った7講座には延べ1,264人の参加者があり、414人がサテライト教室での受講であった。実技や現地見学をともなう講座など遠隔講義に適しない講座の受講者を含めると、2017年度のアカデミー受講者数は5,000人を超えるので、サテライト教室での受講者数は全体からは1割に届かないが、座学だけでなくグループワークの講座でも実施しサテライト教室での受講ができた。
 また、アカデミー以外の利用であるが、テレビ会議システムは茨城町の農業大学校本校と坂東市にある園芸部に設置したので、農業大学校長岡キャンパスと岩井キャンパスの職員で合同会議を行う際には、テレビ会議で済ませることができるようになった。さらに、農業総合センターを会場に行政施策説明会を市町村担当者を対象に開催した際には、岩井キャンパスのサテライト教室にもテレビ会議による説明会場を設定したところ、県西地区市町担当者の大勢の参加があり、遠くの会場まで行かなくても十分説明を聞くことができたと好評であった。
 今後の利用拡充についてであるが、県内各地の合同庁舎にはすでにIBBN回線がつながっているので、合同庁舎にテレビ会議システムの機器を設置し、L2スイッチのVLAN機能でアカデミーの独立したネットワークに接続すれば、サテライト教室の増設が容易である。また、IBBNは県内全市町村とも繋いでいるので、サテライト教室を市町村庁舎に設置することも理屈としては可能である。一方で、家電メーカー製の操作が容易な機器を導入したのだが、それでもプロジェクタ投影と液晶モニターによる二画面表示など受講に快適な設備を入れたので操作が若干複雑になり一定の慣れが必要である。いまのところ、会場には操作担当者を置いたうえで遠隔授業を実施しているのだが、サテライト会場が増えた場合にどのように運営するかなど、多少の課題は残っている。

図3 テレビ会議システムによる3会場同時講義
(写真左)テレビ会議システムの主要な装置。スクリーンとテレビの二画面表示。三脚の上にはカメラ。
(左下)いばらき農業アカデミー本部とセンター教室が設置された茨城県農業総合センター
(右下)サテライト教室を設置した 農業大学校長岡キャンパス