【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第3分科会 どうする? どうなる? これからの自治体

 若年層の人口減少や需要の回復などを背景とした企業の人手不足が急速に進行しているというニュースを目にする機会が増えています。物流・飲食業界ではサービスの見直しや店舗閉鎖に踏み切る企業もあり、今後多くの業種において深刻な問題になると思われます。邑南町役場においても新規採用職員の採用者数が採用試験応募者数の減少によって予定採用者数に満たない年が続いています。本レポートでは行政サービスの軸となる職員の確保を問題ととらえ、職員一丸となって取り組める提案をし、現在の状況を報告します。



公務職場の人員不足解消に向け私たちに出来ること
―― 管理職も含め全職員で取り組む
職員採用試験受験者増加作戦 ――

島根県本部/邑南町職員連合労働組合 小笠原 淳

1. はじめに

 邑南町は、人口11,100人、世帯数5,000世帯、高齢化率43%となっており町内のどの産業に目を向けても担い手不足の問題が喫緊の課題となっています。町の施策としては2011度から「日本一の子育て村構想」「A級グルメのまち」「徹底した移住者ケア」の3つの戦略実施の結果、2014年から2017年まで3年連続で人口動態が増加しています。邑南町役場においては2004年の町村合併時には311人【図1】いた職員が2017年度4月には216人にまで減少しています。職員数減少の理由については町が策定した定員適正化計画の履行、合併による業務の広域化や仕事量の増加を理由とした早期退職、団塊の世代の定年退職などが挙げられ2013年度末まで毎年約11人の退職がありました。一方で新規採用職員の数は2012年度の定員適正化計画の見直しまでは採用者数に極端なばらつきが見られ、採用のない年もありました。2012年度以降は各課の仕事量を勘案して見直された定員適正化計画により222人の総職員数を2020年度に達成する予定となっており毎年採用すべき職員の数が決定したところです。
 本報告は私が人員確保の取り組みについて深く関わるようになった2015年から現在までの現状、問題、特に職員採用に係る取り組みについて報告します。
図1(職員数の推移)
年度 年度当初職員数 採 用 年度中 職員数 退 職 年度末 職員数
正規職員 任期付 職員 再任用 職員 定 年 勧 奨 自己都合
・その他
任期付 職員 再任用 職員

2004

311

 

 

 

311

4

8

 

 

 

299

2005

299

 

 

 

299

1

10

 

 

 

288

2006

288

5

 

 

293

3

12

 

 

 

278

2007

278

 

 

 

278

5

18

1

 

 

254

2008

254

4

 

 

258

2

6

3

 

 

247

2009

247

2

4

 

253

1

6

3

 

 

243

2010

243

7

3

 

253

4

10

 

1

 

238

2011

238

3

3

 

244

4

5

2

 

 

233

2012

233

 

 

 

233

6

10

 

1

 

216

2013

216

10

1

 

227

3

6

6

2

 

210

2014

210

5

2

1

218

5

1

2

 

1

209

2015

209

6

 

2

217

5

3

1

 

2

206

2016

206

7

 

1

214

6

3

1

2

 

202

2017

202

7

4

3

216

 

 

 

 

 

216


2. 現状分析と町執行部との協議状況

(1) 定員適正化計画とその履行状況
 2005年度に町側は国の指導もありその当時の職員数が多すぎると判断し、当時299人(内一般職213人)の職員数を2015年度に211人(内一般職169人)とする計画を同規模の他市町村の職員数を参考としながら立てました。その後、各年の人員確保闘争の度に見直しを要求してきましたが組合側も適正な定員数の把握がしきれずにいた現状もあり計画の見直しには至りませんでした。2012年度になり各課の執行委員を中心に仕事量と必要人員数を調査する作業を行い、取りまとめ数字を町側と交渉の結果、2015年度に244人(内一般職229人)とする計画が出来上がりました。その後、同じ手法で2014年度にも見直しを行い、2020年度に222人(内一般職222人)とする計画で現在に至っています。
 2016年度においても、各課で必要な人員数を課長も含めて検討し取りまとめ、要求数248人(内一般職238人)で町側へ提出し交渉をすることになっていましたが、年度中の交渉が出来ませんでした。次年度に複数のプロジェクトの立ち上げや課の機構改革の予定があり計画の策定が困難であったと町側から説明を受けており、2018年度末までに計画変更を行うこととなっています。

(2) 職員採用試験の受験者数の減少
 やや不完全な定員適正化計画ですが現状として慢性的に職員が不足している状況の中、それを改善するには新規採用者数を増やしていく以外に方法はありません。計画での退職者数はあくまでも定年退職者数であり早期退職の数は予測不能なので町は少なくとも毎年約9人の新規採用を実施しなければいけないことになります。
 2015年度の町側の説明は、採用の意向はあるが受験者数が少なく1次試験の合格者も少ないとのことでした。交渉では採用年齢制限撤廃、地元の県立高校、矢上高等学校推薦枠の新設、地域枠(羽須美・瑞穂・石見)の新設等、採用増に繋がる可能性について交渉の話題になりました。結果的に具体的な決定事項はありませんでしたが、書面では「人員確保を図るため最大限の努力をする」と確認ができました。
 2016年度においても状況は改善しておらず、職員募集の時期を早める等若干の改善策を町側が講じましたが、依然受験者数の増加には至っておらず更なる改善策が必要な状態です。交渉の中では他の地方公共団体の受験者数を増やすための取り組み例を挙げながら、町だけで実施していくのでは無く組合としても受験者数を増やすための施策を一緒になって実施したい旨を説明し更なる具体策を実施するため「邑南町職員の採用については、受験者数を増やすための具体的な施策を講ずる。」と確認しました。
 しかしながら、2017年度4月の新規採用職員は4人と少なく、更には2018年度末の退職者数が10人と正規職員が増えるどころか減る形になりました。職員定数上は再任用職員3人、任期付職員3人、専門職3人の採用があったため増えた形となりましたが4月から再任用、任期付、専門職が担う業務はこれまで非正規職員が充てられていた業務であったり、新規業務であったりと実質の事務職員は約5人の減となりました。
 各年の受験者数は公表されておらず非公式ながらここ数年は20人~30人の間と人事担当から聞いています。約10年前の合併後数年は40人弱、合併前の旧町村時代(羽須美村、瑞穂町、石見町)は当時担当した職員への聞き取りで70人弱は試験を受けていた過去があり確実に受験者数は減少しています。専門職(保健師等)においては更に状況が悪く受験者は数人となっており、合格者も本町の役場ではなく他に就職するケースもあり2018年度5月時点で3人の募集を行っています。
 受験者減少の背景には、好景気? による民間企業への人材流出、若年層の人口減、公務員の人気不足等様々な要因がありますが、これらの状況はこの先も続くと思われます。

(3) 職員のいびつな年齢構成と社会人採用
 【図2】は2017年度4月1日現在の邑南町役場職員の年齢別職員数のグラフです。
 この図を見てわかる通り38歳以下の職員の数がそれ以上の年代の職員の数と比べて少ないことが分かります。10人いる年代もありますが多くの年代が5人以下となっています。ピンポイントに年齢別での採用は難しいですが、町村合併前後の職員採用抑制で採用試験のない年がありそのことが少なからず影響していると思われます。この状況はこれまでの新卒者を対象とした試験区分では、年齢制限が29歳以下のため、解消できないことが明らかです。
 このことは町側も認識しており、2015年の交渉の中では町長の口から年齢制限の緩和について研究を始めるとの回答が得られ、2016年の交渉では「職員の年齢構成を是正するため、2017年度から社会人採用試験を行う。」と、書面で確認が取れました。そして、邑南町として初めて社会人採用に踏み切られ、2017年1月から8月までの期間で30歳から40歳の社会人5人程度の職員募集が始まっています。
 町側は2017年度以降も年齢構成の是正が出来るまで継続して社会人採用試験を行うとしており、このことによって2018年度からは社会人枠の新規採用者が入ってきて、年齢構成のばらつきはある程度改善すると思われます。

図2 年齢別職員数の状況


3. 労働組合の取り組み成果と課題解決に向けた活動状況

(1) 執行委員会でのワークショップ
 前段でふれていますが、2016年度の交渉の中で町側と組合が一緒になって職員採用試験の受験者数を増やす為の施策を協力して行っていくことを確認しています。その確認を取る前段として全執行委員約25人でワークショップを行いました。内容は、他の自治体が行っている職員採用試験の受験者数増加の取り組みを情報共有し、邑南町で何が出来るかを考えました。4班に分かれて、最初は受験者数を増やすためのアイデアを出して貰いました。個別で考えその後、班の中で発表して最後に全体に発表する形を取り、さまざまなアイデアが出てきました。少し頑張れば取り組めるものが多く、又、すぐにでも実行したいと思わせるものが多く出てきました。次に他の自治体が行っている職員募集用のポスターのキャッチコピーを考えて貰いました。こちらはなかなか難しかったようで数は少なかったですが職員個人ごとの思いを反映したものが出来ました。このワークショップを通して貴重な意見が多く出たのも嬉しかったのですが、それ以上に参加してくれた執行委員全員の人員確保への意識が高まったことも成果の一つでした。実際、数日後には自作のポスターを作成する職員も出てきました。
 そして、2017年度も同様に4月の執行委員会でワークショップを行いました。2018年のアイデアを見ると受験者数の数を増やすための具体的な施策だけではなく、筆記試験のハードルの高さ、役場の持つ負のイメージが障壁になっているのではと感じる意見が多く出てきました。
総務課長へ組合の提案を説明

(2) 全職員での宣伝活動
 2016年に労使協力することを確認して人員確保への気運は高まりましたが、その年の職員募集に対しては具体的な行動がとれないで終わっており、これは人員確保闘争が6月にあり交渉確認後の2ヶ月(募集締切迄の間)総務課人事係、組合側も他の業務に追われてしまっていた事が要因であると分析しています。その反省から2017年度は4月にワークショップを行い、その後の具体策を町側に提案するスケジュールを組みました。
 数あるアイデアの中から全職員が取り組めるものとして、春と秋の闘争期に使うワッペンの有効利用を考えました。イラストにあるようなシールを作成し、全職員が着用して職員自ら広告塔になる作戦です。これを着けることによって、知らない人がワッペンの意味を聞いてくる可能性は高いと思われます。更に聞かれた職員はこれに対応して今の邑南町職員の現状を自分の口で説明してくれると思われます。今回は8月上旬が受付期限の社会人採用試験の告知となりました。効果の程は初めての募集形態であることもあり検証は難しいですが、毎年継続的に行うことで効果が必ずでると思われます、この取り組みを続けられればワッペンを着用していないときでも自ら広告塔になってくれる職員が必ず増えるものと期待しているところです。
 4月28日にワッペンの図案を持って総務課長と協議をし、係る経費(250枚、約7万円)についても町と組合で折半の話でまとまり5月中頃には課長も含め全職員の胸にこのワッペンが着用されワッペンによる周知が始まりました。
 それに併せて名刺に貼り付けるシールも作成し、全職員に配布したところです。これについても同様の効果がみこまれるはずです。
ワッペン図案 名刺シール


4. 今後の取り組み及び課題

 ワークショップで出たアイデアを見るだけでもまだまだ実現可能なものは多いですが、魅力あるポスター・HPでの募集告知の強化・おおなんケーブルテレビ協力の下のPRビデオ作成等早めに実現させたい施策です。
 一方でPR強化をどれだけしても、役場の仕事に魅力が無ければ意味がありません。毎年、町内の多くの中学生が職場体験にやってきます。更に大学生のインターンシップも毎年数人ではありますが受け入れています。どちらも短期間な上に業務上個人情報を多く扱う仕事のため、体験を終えた学生には役場の仕事の本質ややりがいが伝わっていない可能性があります。特にインターンシップを希望してくる学生は数年後に働きたいであろう職場を体験して役場に就職するかどうかの判断をします。仕事の魅力、邑南町の魅力を更に伝えていく必要があります。
 人員確保においては、業務量に応じた適正な定員と毎年の職員採用が最も重要な課題です。このバランスの崩れた状況が続くと、業務量に見合った人員がいないために行政サービスの低下に繋がります。他にも職員の男女比率、毎年一定人数ある早期退職、社会人採用者の賃金の格付け等課題は多くあります。
 毎年の組合交渉では様々な確認を労使で交わしますが、その殆どの確認事項は町側が履行していくものです。当局の努力だけでは成果が出るまでに時間がかかったり、期待した結果が出ないことも可能性としては否定できません。今回私たちは、確認した内容を先送りせず、すぐにでも成果を享受するために、組合側ができる事から始める事で、課題の解決に向けて前進が図られると考え、実行に移しました。今回の取り組みは町側だけでなく全職員での取り組みになっていることは大変意義深い事であると感じています。それだけ重要でありかつ大きな問題なのは言うまでもありませんが、町側だけに履行責任の全てを任せるのではなく、様々な問題において、組合側も関与できることは積極的に行動に移して行く必要があると考えています。今回の取り組みはその第一歩であると私たちは実感しています。