【要請レポート】

第37回土佐自治研集会
第4分科会 “土佐さんぽ”~若者と考える自治体の未来~

こどもが主体となったまちづくり
―― 『とさっ子タウン』『こうちこどもファンド』の
取り組みから ――

「こうちこどもファンド」アドバイザー 畠中 洋行

1. 「こうちこどもファンド」創設の経緯

(1) 「公益信託高知市まちづくりファンド」10年の見直しの中から
 高知市では、2003年4月に「高知市市民と行政のパートナーシップのまちづくり条例」が施行された。この条例にもとづき同年5月に、高知市が資金を3,000万円出損し、高知市を拠点とした市民の自主的なまちづくり活動を支援する基金として「公益信託高知市まちづくりファンド」(以下、「まちづくりファンド」と呼ぶ)が創設された。
 自然環境の保全・福祉・教育・子育て・文化・スポーツ・住環境の整備等々、様々なテーマで取り組んでいるたくさんの団体の皆さんが助成を受け活動してきたが、2012年にまちづくりファンド創設10年を迎えるにあたって、今後のあり方を検討する委員会が2011年に数回開かれた。
 2003年から9年の間に助成を受けた95団体(延数)の取り組み内容を振り返ってみると、その半数近くが、「こどもたちのために何かをしたい」というものであったため、検討委員会では「そろそろこどもが主体(主人公)となった取り組み、また、そうした取り組みを支援するしくみが必要かもしれない」といった意見が示され、そうした中から「こうちこどもファンド」創設に向けた動きが始まった。

(2) 「とさっ子タウン」が示した「こどものチカラ」の可能性
 「とさっ子タウン」は認定NPO法人NPO高知市民会議が呼びかけて組織した「とさっ子タウン」実行委員会などが主催し、2009年から始まった。
 小4~中3のこどもたち約400人が、年に1回仮想のまち(会場は高知市文化プラザ「かるぽーと」)に集い、2日間かけてまちを運営する取り組み。「とさっ子タウン」には、様々な仕事や文化、遊びを体験でき、異年齢間及び異なる学校のこども同士のコミュニケーションが生まれ、現実のまちや社会のしくみのことに少しでも関心を持ってくれ、高知のことをもっともっと好きになってくれるといいなという想いが込められている。
① 「とさっ子タウン」のしくみ
 こどもたちはハローワークにはり出されている求人票の中から、やってみたい仕事を選び、仕事場に向かう(約40業種の仕事ブースがあり、それぞれにその仕事の専門家がボランティアで参加)。働き終わったら、銀行で給料(タウン内の通貨「トス」)をもらう。給料をもらったら、銀行の隣にある税務署で給料の10%分を所得税として支払うようになっている(税率は毎年初日に行われる議会により変更したりすることがある)。税金を支払った後は、再び、ハローワークで新たな仕事を選んだり、まちの中で飲食や買い物をしたり、遊んだりできる。また、一定の職業経験を経て資金がたまれば、自分でお店を起業することもできるしくみになっている。
 さらに、市長選挙と議員選挙を隔年で行い、市長・副市長と5人の議員で、1日1回議会を開催し、まちの課題解決を図ったり、まちの営みをより豊かにするための話し合いを行う。

とさっ子タウン2017レイアウト

② 「こどものチカラ」の可能性
1日目の終わりに議会で決まったことを報告する
 わずか2日間の「とさっ子タウン」ではあるが、参加したこどもたちには変化が現れる。1日目の始まり時点では、まだ戸惑いがあったり受動的な様子が見受けられるが、次第に、どうすれば仕事が効率よく進められるか、与えられたプログラムにアイデアを足していったり、まちの中に不足していることを解決するために起業したり、議会で話し合ったりというように、こどもたち自らで考え行動に移す能動的な姿勢へと変化していく。
 高知市長は、2009年から始まった「とさっ子タウン」に毎年参加し、とさっ子タウン市長や議員とともに議会で話し合うのを楽しみにしている。こうした生き生きと活動するこどもたちとふれあう中から「こどものチカラ」の可能性を実感したことが、「こうちこどもファンド」創設の動きを後押ししたと言える。


2. 「こうちこどもファンド」の概要

(1) 「こうちこどもファンド」の目的としくみ
 上記のような経緯をふまえ、高知市では「自分たちのまちを良くしたい」というこどもたちの想いを実現し支援することを目的に、上限20万円までの範囲で活動に対する助成を行う「こうちこどもファンド」が高知市長の肝いりで創設され、2012年(平成24年)4月よりスタートした。全国の自治体に先駆けた新たな取り組みとして注目されている。
 高知市が新設した「高知市子どもまちづくり基金」により運営されており、賛同する企業や市民からの寄付も募り基金に積み立てを行い、こどもたちのまちづくり活動を継続的に支援するというしくみになっている。

(2) 応募するのも、審査するのもこどもたち
公開審査会でのプレゼンテーションの様子
 
質問するこども審査員
 
こども審査員の投票で助成決定
 「こうちこどもファンド」には、高知市に在住または通学・通勤する18歳までの3人以上のグループで、サポートしてくれる大人が2人以上いるという条件を満たせば申し込みができる。同一の取り組み内容に対しては3回まで助成を受けることが可能。
 助成は6月に開催される公開審査会の場で決定する。公開審査会では、①自分たちの考えたまちづくり活動の提案を審査員に向けてプレゼンテーションを行い、②審査員と質疑応答を交わした後、③こども審査員によるシール投票を行い、過半数の票を獲得したら助成が決定する。
 「こうちこどもファンド」の特徴は、こどもたちが提案し、こどもたちが審査して選び、こどもたちが取り組みを実行するというところにある。審査員は、こども審査員と大人審査員で構成されており、大人審査員はこどもたちの視野を広げる観点での意見やアドバイスを行う役割を担い、助成決定の最終判断はこども審査員に託されている。
 こども審査員は小・中・高校生で構成され、任期は1年。公開審査会でのこども審査員はとても真剣で時には厳しい質問も。あるこども審査員が「質問してあげないと、応募した人たちの想いを皆に伝えることができないから」と語るように、落とすのが目的ではなく、それぞれの活動を応援したいというこども審査員の想いを感じることができる。公開審査会が、応募したこどもたち、審査するこどもたち、さらには大人の参加者にとって学びの場になっている。


(3) 「こうちこどもファンド」アドバイザーの役割
 アドバイスを希望する団体に対しては、市が依頼したアドバイザーを派遣するしくみになっている。アドバイザーは、①応募するまでの段階で、「どんなことをやりたいか」考え方を整理するための相談、②応募してから公開審査会開催までの段階で、自分たちの想いを伝え、共感を得られるようなプレゼンテーション内容や方法を整理するための相談、③助成決定後の段階で、当初の思い通りに活動が進まなくなったり、思いもかけない課題が出てきて悩む時、対応の仕方を見つけ出すための相談にのっている。

3. 「こうちこどもファンド」助成を受けた活動事例

 2012年~2018年の7年間で延べ53団体が助成を受け活動を行ってきた。地域の商店街を元気にする取り組み、地域に現存する史跡・お店・郷土料理等地域の魅力を再発見し伝える取り組み、防災に関する取り組み、まちなかのシャッターに書かれた落書きを消す取り組みといったように、取り組むテーマは様々。その中から、いくつかの取り組みを紹介する。

(1) 住宅団地の空地で野菜を作り地域で交流
 高知市郊外に立地する住宅団地の一画、宅地として使われていない土地を借りて、この団地に住む小・中・高校生たちが大人に教わりながら野菜作りに挑戦。収穫した野菜を、いつも公園掃除をしてくれている老人クラブの皆さんや一人暮らしの高齢者にプレゼント。
 また、収穫した食材を使って料理をし、老人クラブの皆さんを招待して交流会も行っている。こうした取り組みの中から、こどもと地域の人たちが「知ってるだけの人」から「声のかけあえる身近な人」になってきている。

 
野菜を育て一人暮らしの高齢者にプレゼント

(2) 地域の人と連携した防災啓発活動
 南海トラフ地震が起きた場合に、校区の60%以上が津波のために浸水する危険のある中学校の生徒会メンバーを中心にした取り組み。校区内の避難所MAP作りや即興芝居「俄(にわか)」を創作し、校区内の保育所や小学校、老人ホーム、地区社会福祉協議会主催の情報交換会等で発表を行い、防災という視点から「地域のつながり」の大切さを啓発し、そのことが地域の福祉にもつながるという気づきを地域の人たちに与えている。

(3) 郷土料理の調査を通して地域とのつながりづくり
 高知市の中山間部にある中学校の生徒たちが、2年間にわたって地域の郷土料理を調査し、地域の人たちから調理の方法を教えてもらい、そのレシピを「食のカタログ」という冊子にまとめあげた。そして、地域の行事の際に、レシピをもとに自分たちで調理した料理を、地域の人たちに食べてもらい交流を深めるといったことも。
 そもそもこの中学校は、地域外からの入学を認める「特認校」で、冊子をまとめたメンバーの多くが地域外から通っており、「地域の人と出会ってこの地域のことをもっと知りたい」という想いから、地域の「食」を切り口にして、地域の人たちとのつながりづくりをめざした取り組みである。

 

4. 今後の展望~「こどものチカラ」を「地域のチカラ」に~

(1) こどもたちが主体になることで生まれる多様な人のつながり
 こどもが主体になった取り組みは、保護者、学校、地域の組織、企業等、周りの人たちに共感と支援の輪を広げていると言える。「こうちこどもファンド」の場合には、助成を受けたこどもたちの保護者、町内会や社会福祉協議会等の地域組織メンバー、学校の先生等がこどもたちの取り組みを応援してくれている。
 そのことは、公開審査会や3月に行われる活動発表会の際に、それぞれのグループの応援団として地域の大人の方々がたくさん参加している様子や「高知市子どもまちづくり基金」に、2016年度までの5年間で、企業や個人から約800万円もの寄付金が寄せられていることからもうかがえる。

(2) 「こどものチカラ」を活かせる「場」の提供
 こどもたちは自ら考え、行動するチカラを持っている。これまではともすると、大人が「うまくいく道筋」を示すことが多かったのではないだろうか。失敗を恐れずこどもたち自ら考え、行動に移せるような「場」を提供することが大切だと思う。そして、「こどものチカラ」を地域の福祉や防災等、地域・まちを元気にする活動に活かし、「地域のチカラ」を底上げしていくしくみづくりも必要と考えている。

参考資料(月刊自治研2018年6月号より抜粋)

プロフィール
*1951年高知市生まれ。
*1977年東洋大学大学院建築学専攻修士課程修了。
*1979年大学時代の仲間と㈱若竹まちづくり研究所を設立し、住民参加によるまちづくりに取り組む。
*2006年6月末同研究所を退職後、認定NPO法人NPO高知市民会議事務局長に就任。
*2013年6月に退職。
*現在、フリーの立場で市民活動・まちづくり活動のお手伝い中。
*2007年に「とさっ子タウン」のしくみを構築し、以後運営に携わるとともに、2011年には「こうちこどもファンド」の立ち上げに携わり、2012年から同ファンドのアドバイザーとして関わっている。