【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第4分科会 “土佐さんぽ”~若者と考える自治体の未来~

 現在羅臼町では、協働のまちづくりに取り組むために、地域活性化のキーマンとなる青年層(若い町民や高校生)の社会参画をねらいとした取り組みが様々行われています。今回は、20~30代の有志で組織された羅臼町活性化ワーキンググループの実践例である「しれとこ羅臼こんぶフェスタ」等の取り組みを紹介し、町長の人づくり・まちづくりの重要施策である"Kプロジェクト"と照らし合わせ、地方における持続的なまちづくりを行うポイントについて探ってみたいと思います。



羅臼町活性化ワーキンググループの取り組みと今後の可能性
―― 20年後のふるさと羅臼を見据えた若者たちの挑戦 ――

北海道本部/釧根地方本部・羅臼町職員組合

1. はじめに

 地方自治の政策に切り離すことのできない「協働のまちづくり」は、地方自治の本来あるべき姿を模索する上で重要なキーワードとなります。地域に住む者が自らの安心・安全な生活を確保することや幸福を追求しようとしたときに、様々な課題や問題に直面していきます。行政と住民がお互いに不足な部分を補い、ともに協力して課題や問題解決に向けた取り組みを行うことを「協働のまちづくり」とした時に、地域が持続的に発展していくためには大切な要素です。しかし、「協働のまちづくり」をどうにかこうにか実践しようと形とスピードに拘るばかりに、地域住民やNPOをはじめとする行政からの一方的な持ちかけという状況(地域住民が置いてきぼり)や、行政事務の責任転嫁や単なる下請けに終わる事例も少なくありません。
 現在、羅臼町では地域のコミュニティを大切にした総合型地域スポーツクラブや産業関連団体及び企業の活躍が目立ち、地域経済を含めたまちづくりの一翼を担っています。しかしながら、羅臼町の将来を担うべき青年層の社会参画は乏しいと言わざる得ない現状が続いており、各々分野においては組織的な取り組みが見られるものの、特定の利益や権利を目的とするものも多く、より広義的なまちづくりを行うための社会参画とは言いがたい状況にあります。
 羅臼町職では、将来まちの後継者となる若者の取り組みを実践例として紹介し、自治を研究する上での今後の展望についてご提言させていただきます。
★文中の使い分け
 社会参加……社会の活動に参加・協力すること。
 社会参画……よりよい社会の形成のために主体的に関わること。単に社会の活動に協力するということだけでなく、企画・計画段階から関わること。

2. 羅臼町の青年層に関わる現状について

(1) 青年団体について
① 羅臼漁業協同組合青年部
 羅臼漁協には魚種別・漁法別の部会が多数存在しています。その担い手として下部組織である青年会が存在し、漁協青年部としては、ほたて稚貝青年会・うに青年会・養殖青年会・刺網青年会・定置青年会の5部会で構成され、90人あまりの部員で組織されています。
 各青年会では資源管理に努めた活動や、日本全国の物産店等で食材PR活動を精力的に行っている他に、製品開発にも力を注ぎ付加価値向上をはかっています。
② 羅臼町商工会青年部
 商工会の会員である商業者やその家族で年齢満40歳以下の者で組織され、現在賛助会員を含め約20人の会員で構成されています。商工業者の後継者にふさわしい経営者としての資質向上をはかることで、地域の商工業の総合的な改善発達をはかり、あわせて地域社会に広く貢献するための活動を行っています。羅臼岳清掃登山の実施や各イベントの参加協力の他、毎年2月に開催しているオジロ祭りは羅臼の冬の風物詩として定着しています。

(2) 社会教育の視点から
 羅臼町第7次社会教育中期計画(2016年度~2019年度)より現状と課題について一部抜粋

◆これからのまちづくりの担い手として期待される青年の活発な活動や社会参加が、持続的かつ活気ある地域づくりには重要である。
◆この世代の特徴として、必要な情報をインターネット検索で入手することや、SNSによって人とつながっている状況が多いため、集合型・体験型の学習への参加意欲は低い。
◆漁業の不振等(就職先の選択肢)により高校卒業後、若者の多くが町外へ流出する状況である。
◆青年同士の交流や視野を広め、感動を実感できる機会の提供が求められる。
◆人と人とをつなぐ事業展開が教育行政として求められる。

(3) 中学校2年生対象の意識調査と人口推移

↑「子どもの笑顔は輝いているか」
釧路・根室地域の中学生アンケート① 
2015年11月30日釧路新聞 

↑「子どもの笑顔は輝いているか」
釧路・根室地域の中学生アンケート②
2015年11月30日釧路新聞 

↑「子どもの笑顔は輝いているか」
釧路・根室地域の中学生アンケート③
2015年12月1日釧路新聞

↑町内中学校の卒業後の進路状況
資料:羅臼町「羅臼町人口ビジョン」

↑羅臼高等学校の卒業後の進路状況
資料:羅臼町「羅臼町人口ビジョン」

↑羅臼町の年齢3区分人口の推移
資料:羅臼町「羅臼町人口ビジョン」

3. 人づくり・まちづくり重要施策「Kプロジェクト」について

4. 羅臼町活性化ワーキンググループについて

(1) 羅臼町活性化ワーキンググループとは?
 2014年4月、将来の羅臼町を見据え"活性化へのチャレンジ""羅臼町の魅力発信"等を考える若者が主体的に集まり発足された。構成メンバーは、役場職員・町内企業・漁協職員・観光業者・ガイド業・金融機関等の様々な業種から20~30歳代が中心となり組織されています。しれとこ羅臼こんぶフェスタは本会が主催しており、2015年度からはスキルアップ事業や情報発信事業等の計画も盛り込まれるなど、積極的かつ主体的な活動を展開するこの団体は、将来の担い手育成が急務な羅臼町にとって、"協働"のまちづくりについて考えるうえで期待されます。当初は20人あまりの会員からスタートし、5年を経過した現在38人の会員を有しています。

(2) 発足経緯
 「市街地区の商店街寂しくない??」「そういえば本町通り活性化計画はどうなった??」「子どもらってどこで遊んでいるの??」「羅臼の漁業ってぶっちゃけこの先ある??」
 とある居酒屋にて集合した4人の若者が発した地域課題の話題が全てのはじまりと聞いています。
 その後、居酒屋メンバーに賛同した数人の若者でお試し座談会を実施しました。

5. 羅臼町活性化ワーキンググループの取り組み

(1) 第5回しれとこ羅臼こんぶフェスタ

<開催趣旨>
 羅臼昆布にスポットをあてたイベントを開催することで羅臼昆布のPRと消費拡大につなげることを目的としています。夏の観光集客が一番多い時期に本町旧国道で開催することにより本町通りの活性化と様々な分野との連携で羅臼町全体の活性化につなげていく。
 「みて、さわって、たべて」をキーワードに、羅臼昆布特有の作業工程の体験を元漁師の方や昆布漁に携わっていた浜の母ちゃんの手ほどきを受けて体験することができるコーナーや、羅臼昆布漁師になりきり記念撮影ができるなりきりコーナー、昆布料理や地場産品を使用した料理などを楽しめる飲食コーナーなどを企画し、羅臼昆布が商品になるまでの昆布漁師の工夫や苦労、思い出などを体感することができるイベントである。
①日時 2018年7月20日(金)~7月22日(日)
②時間 11:00~16:00
③会場 羅臼町本町通り(旧国道)歩行者天国特設会場
④主催 羅臼町活性化ワーキンググループ
⑤主管 しれとこ羅臼こんぶフェスタ実行委員会
⑥後援 羅臼町・羅臼漁協・羅臼町商工会・知床羅臼町観光協会・本町町内会・本町界隈を活性化する会
≪しれとこ羅臼こんぶフェスタ体験ブース≫ 製品にするまでの5工程(極一部)を体験

①『採る』

②『干す』

③『巻く』

④『切る(ヒレ刈り)』

⑤『選別・製品』

小学生限定コンプリート特典

昆布漁師パネル展

昆布を使用した料理を存分に味わえる飲食ブース

おぼろ昆布加工体験

等級別昆布の比較コーナー

役場管理職によるおでん・焼き鳥販売

自治労羅臼町職員労働組合によるかき氷・綿あめ販売

羅臼漁協青年部による加工品販売

「とっどる」による出店

 2016年度より羅臼町立春松小学校4年生の皆さんに、羅臼の魅力を再発見する授業(総合的な学習の時間)の一環で、メンバーが地域講師として招へいされ授業を行っています。2016年度は体験コーナーで使用する船のデザインをしていただき、デザインから色付けまでクラス全員で意見を出し合い、「知床らうす」のイメージを船いっぱいに描きました。(2017年度は、顔出しパネルを作成。)


(2) スキルアップ事業「うちらの羅臼を考えknight(ナイト)
 羅臼町活性化ワーキンググループが提案するまちづくり講演会。自分達のスキルアップの向上と仲間集めに加え地域課題を探ることもねらいとしている。
 このタイトルを付けるのに一番時間を費やしたとのことであるが、結局自分達のやりたい方向性が定まる機会ともなり良い結果となった。
※ 当初は単なる「まちづくり講演会」だった。固すぎ・なんだか行政っぽい・若者っぽくない。名前のイメージだけでターゲットとしている層(若者)は絶対に集まらない。との意見からこのタイトルになった。
① 若者が主体的に参加するまちづくり 講演会

2016年3月15日(火)実施
講師:NPO法人ezorock
代表 草野竹史氏 76人参加
≪参加者事後アンケートより≫
Q1 今の羅臼町の課題は何だと思いますか??
   No.1 働ける場所が少ない……
   No.2 人口が減少し続けている……
Q2 またこのような機会があればまた参加しますか??
   参加してみたい      73%
   わからない(内容による) 21%
   参加しない        6%
≪その他ご意見≫
○ 前向きな気持ちになる良い機会となった。(30代女性)
○ こういう機会がなかなかないのですごくためになりました。ひとつでも良いので実践していきたい。(40代女性)
○ 今度は参加した者同士ディスカッションしたい。(20代男性)
② 地域活動推進講座「地方創生塾」(2017~18)
 第2回 ワークショップ「ミニ四駆から考えるプロジェクト運営のコツ」

 2017年11月24日 18:30~20:30 atギャラリーミグラード 14人参加

写真1:自己紹介

写真2:ミニ四駆作り

写真3:素材集め

写真4:コース作り

(3) 羅臼町活性化ワーキンググループの今後について
・一人ひとりが、できる範囲で、できることを行う場ということを大切にすること。
・一人ではできないことを、仲間が集まれば"何でもできる"ことを実践を通して証明すること。
・人に頼り、人を信頼し、できてもできなくても行動できたことを素直に喜び合う関係を築くこと。

<草野塾長からのメッセージ>
    "応援"したい人 1,000人
                 "一緒に"始める人 10人
                             "続けて行ける人" 1人

 やり続ける信念を持つ者が一人でもいれば、一緒にやってみようとする仲間が10人集まり、共感する人が1,000人いるという考え。社会を変えたいと思うときや何かを始めたいとしたとき、一人ひとりがしっかりとした思いを持つだけで、社会のうねりとして時には大きな成果を生み出すことをメンバーは志しています。

6. まとめ(個人的な思い)

 人口流出と少子高齢化、冷え込む地場産業の問題は、知床世界自然遺産のブランドを有する羅臼町も例外なく苛まれています。限界集落の到来も頭をよぎる昨今、それでも地域に住む大人は、生まれ育ったふるさと羅臼を持続可能なものにしていくため、豊かな自然環境や代々受け継いできた水産業などを後世につないでいかなければならないと考えています。そして、羅臼町に生まれ育つ子どもたちには、この地に生まれ育ったことを誇りに思って欲しい思いと、この地に生まれて良かったと思えるものにしていきたいという思いもあります。
 若い世代がいきいきと活動している姿は、地域の活力として写すことができ、それだけで魅力あふれるまちとして感じることができます。その活気はまちづくりの潤滑油として機能することはもとより、人や地域を循環させる原動力そのものであることから、より良い地域社会を築くためにも、若い世代に対し、地域をフィールドにした達成経験・感動経験が必要であり、そこから社会参加から社会参画につなげていかなければならないと考えています。
 かつての羅臼の青年団体は自分たちの余暇時間を大切にするため現在の「漁休日」を勝ち取った歴史があると聞いています。自分たちのやりたいことへの実現のために、直面する諸問題に目を凝らし、解決に向けた取り組みを自分たちの手で切り開いていくことは大変素晴らしいことであります。若い世代の社会活動はそれだけ大きな力があるということを先人は証明しています。まちの青年を統括する羅臼町青年団体協議会が消滅して久しい羅臼町における若者の社会参画は、この羅臼町活性化ワーキンググループの誕生から5年が経過した今、ようやくスタートラインに立ったと言えることができ、地域社会に大きなプラスの影響を及ぼすことを期待することができます。
 私たち自治体職員が青年層の社会参画に関して「協働」の言葉に立ち返ると、団体に所属しイベント事業を通して経験する達成感や感動、苦労する時間を共有し或いは与えていくという一つの方法のなかで、まずは"相互理解に立つこと"が重要であると考えます。若い世代の自治体職員と地域住民が交流をはかり、「役場職員」と「町民さん」との関係ではなく、同じ仲間という意識のもと、それぞれの思いや、これまで話すことのできなかったことなどを気兼ねなく話し合える場を作ることが重要です。行政職員と地域住民が真の相互理解に立ったとき、町民が連携し主体的なまちづくりが展開され、ねらいとする「協働」の意味に近づいていくものと思います。
 羅臼町活性化ワーキンググループに参加する自治体職員の仲間からは、「単純に友達ができて楽しい」「役場の仕事は日頃から色々な職種と関わることが多いが、そのつながりから効率化・充実化をはかれる仕事も生まれてきた」「羅臼の役場の人は、役場の人っぽくなくて話しやすいと言われた」「メンバーではないが、青年部としての手伝いを率先して引き受けてくれる」「青年層が頑張る姿から、庁舎内でも応援してくれる人が年々増えてきたように思う」「地元の人たちから『移住してきた人たちが羅臼を盛り上げてくれている。自分達も頑張らないと』といううれしい声をいただいた」等と、行動することが労働組合の組織強化や職場の雰囲気づくりに影響していることはもとより、地域づくりにつながるようなプラスの意見が多く寄せられています。
 これからの地方にとって必要なことは、継続性でなければならない……、常に戦略性を意識し……、意外性を持った……、他町にないオンリーワンの追求等……云々言われていますが、こと羅臼町において、実践している人たちが兎に角やりがいを感じ、人のつながりと温かさを感じられるまちづくりが大切であると感じています。実践者自らが楽しむ様子・頑張る姿を地域の子どもや大人が見て「羅臼ってやっぱいい町だな」と感じて貰うことが何よりの喜びとなり、連鎖していくことがまちづくりの原点であると私は思います。若い世代のこうした取り組みを行政として支援できることは惜しみなく行い、自治体職員や地元単組で活動する多くの仲間に対しては、1歩でも外に踏み出し、1秒でも多くの時間を行政の枠外に身を置いて活動することを希望します。
 今後も地域で働く一労働者として、「協働」を念頭においた活動と交流を広げ、羅臼町全体が活性化することを切に期待し、より良い自治活動の研究と継続をしていきたいと考えています。

↑第1回しれとこ羅臼こんぶフェスタ集合写真(2014.8.10)