【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第4分科会 “土佐さんぽ”~若者と考える自治体の未来~

 「中心市街地の衰退化」は多くの地方自治体が直面する問題のひとつであり、高崎市も例外ではありません。まちには魅力がなくなってしまったのでしょうか?決してそんなことはありません。まちを歩けば、まちの魅力を再発見できるはずです。本稿では、有志の職員が集まる「だるマルシェ」がまちの魅力を発信し、まちとのつながりをつくるために企画したまち歩きのイベント「まちステ」の実施報告と、その効果を検証します。



まちステ(高崎まちなかステークス)
―― まちを歩いて高崎を再発見 ――

群馬県本部/高崎市職員労働組合・高崎支部 掛川 和輝・野澤 厚志・関 志おり・田島 寛之
・藤守 崇洋・狩野志桜里・谷岡 奈月・稲垣 拓哉

1. まちステとは

① まちステとは
 まちステとは、職員ネットワークづくり研究会(通称:だるマルシェ)が主催する「高崎まちなかステークス」の愛称であり、高崎駅西口の中心市街地エリアにある特徴的な場所(以下、スポットという。)を探し歩き、見つけたスポットの合計点を競うゲームです。オリエンテーリングと似ていますが、大きく異なるのはルートが決まっておらず、与えられた問題を解きながらスポットを自分たちの力で探し出すという点です。
② ゲームのルール
 基本的なルールは「問題の答えとなるスポットの写真を撮る」ということです。細かいルールは、第6回大会まで随時変更しながら試行錯誤しているところです。各スポットには見つけやすさや重要度などに応じてポイントを設定しており、撮った写真の合計点が最も高いチームが優勝となります。参加者にはスタート直前に地図とスポットを探すためのヒント集を渡します。昼食はエリア内の飲食店でとっていただき、自転車等の乗り物の使用は禁止。ゴールまで頭と体を総動員してまちなかを散策します。
③ だるマルシェとしてできること
 「中心市街地の衰退化」耳が痛い言葉です。全国の多くの地方自治体と同様に、高崎市もその問題に直面しています。まちなかで商業を営む方にお話を伺うと「賑わいがなくなった」「平日も休日もさほど変わらない」と危機感を募らせています。有志の職員が集まった自主研究チームだるマルシェとして「高崎の顔」である地域のために何かできる事はないだろうか? と考えたときに、私たちにできる事は「発信」することでした。
 まちには魅力がなくなってしまったのでしょうか? 決してそんなことはありません。個性的なお店や人、昔ながらの路地や整備されている新しい施設、五感で感じる音や匂いなど、人それぞれに感じる何らかの魅力は確かに存在しています。それらを発信する方法として私たちが考えたものが「まちステ」です。
 まちステをつくるにあたり、水戸市政策研究会が主催する「市街地散策ステークス」を参考にさせていただきました。オリエンテーリング方式のレースで水戸のまちを遊び倒すというものです。SNS等で発信された情報を閲覧するよりも、現実の空間でまち歩きのゲームに参加する方がまちの魅力を感じやすく、それがまちの持つ強みではないかと考えました。
 まちを歩けば、まちならではの魅力を発見できるはずです。まずはゲームに参加し「高崎を知ってもらう、そして、高崎とのつながりを持ってもらう」ことを目標とし企画したイベントの実施報告と、その効果を検証します。

2. まちステ開催レポート

(1) まちステ1(2015年5月30日開催・参加者21人)
① 初めてのまちステ
 初めてのまちステはスポットを88箇所用意し、その場所の写真を撮ってきてもらうというシンプルなルールでした。参加者にはスタート前に地図と写真付きのヒント集を渡し、事務局はゴールをしてから写真のチェックと採点を行いました。
② 反省点
 大きな反省点は「採点作業」でした。用意した88箇所のうち優勝チームは47箇所、8チーム合計で278箇所の写真をゴール後に採点したため、参加者の皆さんを大変お待たせすると共に、作業の焦りからミスも生じていました。また参加者アンケートから「場所を知っている人には簡単すぎて知らない人には難しすぎる(知っている人が圧倒的に有利)。」「より多くのスポットを探すことだけに集中してしまい、高崎のまちをじっくりと見ることができない。」という課題も浮き彫りになりました。

■ヒントの例
 
高崎の玄関口の紅白だるま ときの高崎市民 之を建つ
■ゲームの流れ
① ヒントの写真と同じ場所を探す
② 写真を撮る
③ ①~②を繰り返す
④ 締切りの時間までにゴール
⑤ 撮った写真をスタッフが確認しながら採点

(2) まちステ2(2015年11月3日開催・参加者36人)
① ヒントの出し方と採点方法を改善
 「高崎を再発見」という目的を達成するために、ヒントの出し方を大きく変えました。写真ではなく、そのスポットを説明する文章をヒントとすることで、じっくりと考えてまちを味わってもらうことが狙いです。採点方法に関しては、写真を撮ってその場で送ってもらうという方法を考えました。利用したのはFacebookのメッセンジャー機能です。
② 反省点
 ヒント集に撮影するスポット名を記載していたことから、やはり知っている方が圧倒的に有利であり、スピード勝負である点に変わりはありませんでした。採点のシステムに関しては前回ほど時間はかからなかったものの、用意したスポットが100箇所、優勝チームからは67箇所の写真が送られてきたため処理が間に合いませんでした。

■ヒントの例

No.17 高崎城の乾櫓を撮影せよ
 もとは高崎城本丸の北西、戌亥(いぬい)の方角にあった櫓。明治維新後に払い下げとなり、近郊の農家で納屋として使用されていた。
■ゲームの流れ
① ヒントが示すスポットを探す
② 写真を撮る
③ メッセンジャー機能で送信(スタッフが採点)
④ ①~③を繰り返す
⑤ 締切りの時間までにゴール

(3) まちステ3(2016年6月5日開催・参加者39人)
① ゲーム性を高めてスピード勝負から脱却
 スピード勝負ではなく、まちをじっくりと歩いてもらいたいという思いから、よりゲーム性を高めようと考えました。大会当日に発表する「お題」をクリアしながらスポットを探します。お題はスポットに隠された「文字」を集めるというものでした。例えば【高崎市役所】には【た】の文字が隠れています。それらのスポットを巡って「た・か・さ・き・ま・ち・な・か・す・て・く・す」の12文字を集めます。
 また、まちステ2はFacebookを利用していない方、イベントに使うことに抵抗がある方にはご参加いただけないシステムであったため、より多くの方が利用できるであろうEメールを利用して写真を送っていただきました。
② 反省点
 巡ってもらうスポットの数を「12箇所+おまけ(任意)」に限定したため、問題文を読んでじっくりと考える時間ができ、「高崎を再発見」という当初の目標に近づくことができました。また、スピード勝負でなくなったことにより誰にでも優勝の可能性があるため、参加者のモチベーションも上がったようです。
 採点に関してはだるマルシェのGmailアカウントを作成し、そちらにメールを送っていただきましたが、メールが送信者毎にフォルダ分けされなかったため、どの写真をチェックしたのかわからなくなり、写真の総数は減ったものの採点が非常に困難でした。

(4) まちステ4(2016年11月12日開催・参加者26人)
① LINEを利用した申込みから採点までのシステム
 ゲームのルールはまちステ3と同様です。集める文字を「か・ん・と・う・し・ん・え・つ・つ・な・ぐ」に変更しました。採点方法が課題であったため、新たな方法として無料通話アプリLINEを利用しました。まちステ4のアカウントを作成し、そちらを通して参加受付・ルールなどの事前連絡・写真の受信を行いました。採点はチェックリストを作成し、LINEで送られてきた写真をチェックし合計点を計算するというものでしたが、非常にスムーズに採点を行うことができ、参加者の皆様をお待たせすることもありませんでした。
② 反省点
 文字を集めるというゲーム方法に変わりはなかったものの、採点をスムーズに行うために「○○の写真は13:50まで受付、××の写真は14:30まで受付、13:00までに送信するとボーナスポイント」などのルールを設けました。そのことにより採点はスムーズに行えたものの、参加者にとっては煩雑なルールになってしまいました。

■ヒントの例

No.7 ○●村園を撮影せよ
 日本最古とされる今でも飲める茶を有する、国登録有形文化財のお茶屋さん。
■ゲームの流れ(まちステ3・4共通)
① ヒントに隠された文字を解読
② スポットを探して写真を撮る
③ 写真をEメール(LINE)で送信(スタッフが採点)
④ ①~③を繰り返し「お題」を完成させる
⑤ 締切りの時間までにゴール

(5) まちステ5(2017年5月27日開催・参加者34人)
① 歴史をテーマにルールを再構築
 まちステ3及び4にて採用した「文字集め」というルールは娯楽性があり参加者からも好評でしたが、まちステの原点である「高崎を再発見」という部分を更に深めるべく、ルールを大幅に変更しました。歴史をテーマに高崎の多面性に着目し【歴史(市史)】【交通】【音楽】【商都】【現在】5つのジャンルのさまざまな歴史にまつわるスポットを各3箇所探します。ルールはシンプルになりながらも、ヒントの出し方はスポットの名称を記載せず、そのスポットにまつわる歴史を説明した文章のみとすることで難易度が上がりました。「調べて、歩いて、探す。」という3つのステップを踏むことにより、既に知っていた場所も違った視点で見ることができ、再発見につなげることができました。
② 反省点
 参加者からは「難しかったが勉強になった」「高崎が好きになった」といった感想をいただき、ゲームとしてほぼ完成形になったという手応えを感じました。反省点はイベントの周知方法はFacebookがメインであり、当日はLINEの利用を前提としたものであるため、参加者の裾野が広がっていかないことです。スマートフォンを利用しない方法でも運営できるようにすることが課題です。

■ヒントの例
高崎の「町」の出発点
 上野国高崎藩初代藩主井伊直政は、中山道と三国街道の分岐点にあたる交通要所を監視するため、廃城となっていた和田城地に高崎城を築城し(中略)この町名が書かれた中山道と三国街道の分岐点にあたる交差点の信号標識を撮影せよ!
■ゲームの流れ
① ヒントが示すスポットを調べる
② スポットを探して写真を撮る
③ 写真をLINEで送信(スタッフが採点)
④ ①~③を繰り返し5ジャンル×3箇所を巡る
⑤ おまけの超難問にチャレンジ
⑥ 締切りの時間までにゴール

(6) まちステ6(2018年5月26日開催・参加者22人)
① アナログ方式に転換
 参加者の裾野を広げることを目標にイベントの周知方法を見直し、Facebook等のSNSを用いたものに加え、紙媒体のフライヤーを作成し、高崎市内の文化施設や博物館などに設置してもらいました。また、ゲームの内容もアナログ化するべく「ヒント集に載っている写真と同じものを撮影」という方式にし、エリアを3つに区切りそれぞれに中間チェックポイントを設け、そちらに現像した写真を提出してもらいました。結果としては「高崎の再発見」につながったことはもちろん、初めてご高齢の方、市職員のお子さんではない小中学生にも参加していただくことができました。また、スマートフォンを利用した写真の送受信を行わなくてもスムーズに大会を運営することができ、まちステのアナログ化に成功しました。
② 今後に向けて
 開催する度に課題を見つけて改善を重ねてきましたが、参加者を募集する段階から当日の運営に至るまで、老若男女全ての方に開かれたものにでき、今大会を運営してみて初めて「これならどこでも開催できる」という手応えを感じました。過去6回は全て中心市街地で開催してきましたが、市内のほかのエリアでも開催できるものとなりましたので、今後は別の視点から見た高崎の魅力も発信していければと思います。

■ヒントの例
坂道と道祖神
 坂のたもとには行きかう人の安全を見守る道祖神が鎮座しています。
■ゲームの流れ
① 写真と同じ場所を探し撮影&現像
② チェックポイントに写真を届ける
③ ①~②を繰り返し3つのエリアをクリア
④ 締切りの時間までにゴール

3. 更なる「つながり」

 「高崎にずっと住んでいても、まだまだ知らないことがたくさんあるんだなぁ。とあらためて『高崎』が好きになりました。」まちステにご参加いただいた市民の方からいただいた感想です。この言葉に、まちステの狙いが凝縮されています。
 他にも、お気に入りのお店を見つけてそちらに立ち寄る方、常に優勝をめざして本気で取り組んでくれる方など、現在までに様々な形の「高崎とのつながり」を生み出すことができました。私たちだるマルシェのメンバーも企画を通して自身が働くまちへの理解が深まり、高崎とのつながりが強くなったと感じています。
 イベントの開催という意味では軌道に乗り、完成度も高くなってきましたが、回数を重ねたことで新たな課題も感じています。当初は「中心市街地の衰退化」という問題に対し中心市街地の魅力を発信し「まちとのつながり」を生み出すことを目的としていましたが、「中心市街地だけを見ていれば良いのか?」という疑問を抱くようになりました。
 例えば世界の記憶に登録された「上野三碑」など、高崎市には発信できる魅力が数多くあります。有名ではなくても歩いて感じることのできるものはあり、それらを発信することで更なる「高崎とのつながり」を生めるのではないかと考えています。そのつながりが「高崎が好きになった」という方を生み、その中から中心市街地に回帰する方がいれば私たちの取り組みは成功と言えるのではないかと思います。

(まちステ大会写真)
 
・ヒント集を熱心に読む参加者 ・地図とヒント集を片手にスポット探し

 
・優勝商品は高崎名産だるま ・最後はみんなで記念撮影