【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第4分科会 “土佐さんぽ”~若者と考える自治体の未来~

 全国的に人口減少・高齢化が進行しており、地方では特にそれが顕著である。地域社会を担っている地域団体は、役員の高齢化・リーダーの担い手不足により、次々に解散・休会に至っている。もう、すぐそこに既存の地域団体の枠は失われ、地域が崩壊する未来が待っている。このレポートでは、その未来像に待ったをかけるシステムづくりについて、きつき子ども歴史ガイドの事例を通して検討したい。



若者の地域活動参加と循環する地域社会の担い手
―― きつき子ども歴史ガイドの活動を通して ――

大分県本部/杵築市職員連合労働組合・大分県自治研究センター・
地域活性化専門部会 仲  正恵

1. 住民の社会参加の現状

 地方では、「いつも出てくる人が一緒」「役員のなり手がいなくて一人がたくさん役を抱えている」「これ以上はできない」とよく言われる。本当にそうなのだろうか。
 そこで、総務省統計局が行っている「社会生活基本調査」の結果を見てみよう(表1)。社会生活基本調査では、調査対象者の1日の行動時間を週平均で出しており、それが様々な角度から分析できるようになっている。表1は、県別の1日当たりのボランティア行動時間、ボランティアをした行動者のボランティア行動時間、行動者の率を表している。この数値については、調査期間中の数値であるので、普段ボランティアをしている人の割合を表したものではなく、たまたま調査期間中にボランティアを行った人の割合であることに注意したい。また、2006年、2011年、2016年の3回の調査結果を表している。これは、災害などで局所的・一時的にボランティアが増減している場合が考えられたため、できるだけ平常時を確認できるようにするためである。
 まず全国平均を見てみると、全体の行動時間はここ10年で5分から4分へと1分減少しているが、あまり変化はない。行動者の率は0.2%減少とあまり変わらないが、ボランティア行動者の行動時間はここ10年で8分減り、ボランティアを行っている1人当たりのボランティア時間が減っていることがわかる。
 次に県別のデータを見ていく。2016年の全体の行動時間が全国平均4分に対し、福井県、静岡県、滋賀県、香川県、愛媛県は7分、6分と、全体のボランティア行動時間が長くなっている。過去のデータを見ても、全国平均以上の数値となっており、比較的ボランティアが活発な県であることがわかる。
 さらに、県別の行動者の行動時間を見ていく。2016年の行動者の行動時間が全国平均158分なのに対し、大阪府は206分、香川県は200分、青森県は194分、と全国平均よりも30分以上長くボランティア活動を行っている。ここで注意しておきたいことは、行動者の行動時間が長いからといって、ボランティアが活発だとは限らないということである。行動者率と比較してみて、行動者率が低いのに行動者の行動時間が長い場合は、少ない人数に負担がかかりすぎではないかということが想定される。少ない人数に高い負担がかかっている状態だと、「役員になったらきついからなりたくない」という声が増え、今は良くても将来的に地域活動が低迷していく可能性が高くなってくる。災害時などで一時的にマンパワーが必要な場合を除いて、「一人の100歩より100人の一歩」、行動者率が高く、行動者の行動時間は長すぎないのが理想である。
 まとめると、全国的な数値を見ると、住民の社会参加自体は、やや減少している。都道府県によっては、一人に過度な負担がかかっているところもあれば、お互いに助け合い、負担をうまくわけているところもある。行動者の行動時間をあげていくのは限界があるが、行動者率が高い都道府県の水準まで行動者率をもっていくことは可能ではないか。その努力をしていくことが肝要である。

2. きつき子ども歴史ガイドの事例

 私が関わる「きつき子ども歴史ガイド」事業では、地域の魅力を多くの人に知ってほしいという目的で、たくさんの人が関わりを持てるような事業運営を心掛けている。

(1) 杵築城下町について
 杵築城下町は大分県杵築市の中心部に位置している城下町である。今でも武家屋敷などが保存されており、江戸時代の面影を残している。サンドイッチ型城下町といって、武家地である台山(北台・南台)に挟まれて間の谷に町人が住む(谷町筋)という構造が特徴的である。和服が似合う城下町として観光振興に取り組んでおり、2017年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。今後も町並みを生かした取り組みが期待されている。

(2) きつき子ども歴史ガイド事業の概要
 「きつき子ども歴史ガイド」は、現在城下町地区まちづくり協議会(以下、「まち協」と記す)の主催で運営している(画像1)。2014年度、まず杵築市教育委員会文化・スポーツ振興課と杵築青年会議所の共催で始まった。文化・スポーツ振興課主催の「きつき歴史探検隊」で1年間学習し、卒業試験(きつき子ども歴史博士試験)で合格(三つ星博士を取得)した人のみ子ども歴史ガイドになることができるシステムである。行政主導で3年間活動した後、継続的に事業をできるように、2017年度にまち協主催による運営に移行した。
 まち協は、「①城下町地区住民の暮らしやすさを向上させること、②城下町地区内外の経済を活性化させ、地区の活気を向上させること」が目的の志縁組織である。この目的に沿い、子ども歴史ガイド事業を引き継いで運営することとなった。「①これまでの学習に対しての自信をつけ、自己肯定感を高め、今後の生きる力を育む。②杵築のまち・商店街の仕事・ひとについての学びを深め、郷土愛を深める。③子ども歴史探検隊の子どもたちからあこがれられることで、よりモチベーションをあげ、学ぶ力を強くする。」の3点を目的に掲げ活動している。
 2017年度からの子ども歴史ガイド事業の活動内容は、①ガイド、②定例会、③研修会、④お楽しみ会に分けられる。
① ガイド
 毎週土曜日に定例ガイドを行っている。また、依頼があればその他の日程でもガイドの予約を受けている。定例会の時に毎回1~2人の当番を決め、当日は着物に着替えてから、城下町商店街中心部の酢屋の坂下広場で待機をしている(画像2)。大人の引率も、まち協の会員がまち協定例会の時に当番を決め、毎回2人程度で行っている。ガイドコースは子ども歴史ガイド自身で設定した4コースを準備している。1コース1時間から1時間半で回れるコースであり、これまでのボランティアガイドではあまり紹介しなかった商店街のお店の紹介も積極的にするようにしている。約1時間ガイドを行うので、ガイド中にお客様としっかり交流ができており、リピーターになってくれている方もいて、子ども歴史ガイドの励みになっている。ガイド終了後は、子ども歴史ガイド、引率の大人それぞれに報告書を書くことにしており、振り返りに役立っている。
 定例ガイド以外の特別ガイドは、2017年度は、文化・スポーツ振興課主催の「きつき子ども歴史探検隊」と「きつき子ども文化楽校」でのガイド、「自治研U35セミナーinきつき」でのガイドを行った。「きつき子ども歴史探検隊」と「きつき子ども文化楽校」のガイドでは、同年代の小学生を相手にガイドを行うことで、モチベーションを高めることができた。また、「自治研U35セミナーinきつき」では、大勢のお客様を相手に、班に分かれてガイドを行う大規模なイベントとして、よい経験をさせていただいた。
② 定例会
 月に1回開催している定例会では、1か月の活動のふりかえりや、今後1か月の当番決定、研修会等の企画などを行っている。また、定例会の冒頭でちょっとした研修を入れることにより、活動内容の確認だけにとどまらず、ガイドのスキルアップや情報交換にも生かしている。この冒頭研修は、子ども歴史ガイドの意向を聞きつつも、まち協担当者側で企画し、講師の人選を行っている。講師は一度参加すると、子どもたちに関心を寄せてくれており、継続的なつながりづくりになっている。
③ 研修会
 子ども歴史ガイドの自主的・自発的な企画としており、毎回企画責任者を決めることで自主性を高め、責任感の向上に役立っている。また、そのコースについて得意な人から教える形をとっており、お互いに教えあいをすることにより、より学習効果が高くなっている。
④ お楽しみ会
 士気を高めるため、季節のお楽しみ会を開催している。2017年度は、夏の「研修会&バーベキュー大会」、冬の「クリスマス会」、春の「中学3年生の卒業を祝う会」を行った。企画をすべて子ども歴史ガイドが行い、大人は見守りや補助をしている。

(3) きつき子ども歴史ガイド事業の参加の担い手
① 若者たち
 2017年度にまち協に運営が移ることでまず懸念されたのが、指導者の人数不足である。活動回数が多いが、まち協に所属している会員は10数人で、そのうちほとんどが自営業者で土日は予定がつきにくい。そこで、定例ガイドの土曜日はまち協会員が当番制で引率をすることとし、それ以外の活動である定例会や研修会については、外部の人の協力を仰ぐことにした。若手市職員や、中高生ボランティア団体を卒業した若者である。彼女らは子ども歴史ガイドたちを見守りながら、一緒に地元杵築市の魅力について学んでいる。
② 子ども歴史ガイド自身
 また、教育委員会から運営が外れることによって、教育委員会の学芸員が行っていた専門的な指導ができなくなることが懸念された。そこで、まず基本的には子ども歴史ガイドたちが、教科書を覚えるのではなく、自発的に学んでいくことを明確にした。子どもたちで学びきれないところを、まち協会員や、ボランティアガイド、知りたい分野の講師を呼び、子どもたちから質問をしていくというやり方にした。これにより、子ども歴史ガイドたちの自主性が育まれ、また周りの大人たちへと熱意が波及することになった。また関わった講師たちも子ども歴史ガイドを気にしてくれて、都合がつくときに顔を出してくれている。
③ まち協会員
 定例ガイドでは、まち協の会員が当番で見守りを行っている。地域団体のため個人差が大きいが、自分がガイドできるだけの知識を持っていなかった会員も、少しずつ子ども歴史ガイドからの刺激を受けて知識を取り入れていこうとしている。また、当番の会員によっては、定例ガイドの留守番時についでに紙芝居を催すなど、付随した地域活性化の取り組みができてきている。今後は地域の民話をもとにした紙芝居を作成し、観光客に語りたいというプランもでてきている。
④ 学習中の子ども
 定例ガイド以外に、文化・スポーツ振興課から、「きつき子ども歴史探検隊」や「きつき文化楽校」の子どもたちへのガイドも年1回ずつ依頼されている。この活動では、今まさに杵築の歴史を学んでいる小学生に対して、一足先に子ども歴史ガイドになった先輩がガイドを行っている。子どもたちから子ども歴史ガイド事業についての質問などもあり、子ども歴史ガイドが答えるなどして、興味関心をもったようで、2018年度は新しく7人の新ガイドが加入した。
⑤ 地域の先輩
 2017年度冬から、定例会時の冒頭研修会を取り入れ、他のガイド事業の取り組みの見学や、地域の先輩ガイドや歴史に詳しい人をお呼びしてアドバイスをいただくことも増え、お話ししていただいた講師がそのまま子ども歴史ガイドとの関わりを続けてくれている。今後の広がりが期待される。

(4) 循環する社会の担い手
 子ども歴史ガイド事業に関わっている人たちの多くはすでに地域活動をしている人たちであり、現段階では新たにたくさんの地域社会の担い手が増えているわけではない。しかし、少しずつ、子ども歴史ガイドたちや、新たに子ども歴史ガイドに協力してくれている大人として、担い手のタマゴたちが活動しはじめている。この事業を5年、10年と続けていくことによって、子ども歴史ガイドをしていた子どもたちが大人になって、後輩たちを応援しようと、今度は運営側に回ってくることを期待している。また、若手市職員の地域活動に出るきっかけの一つとして、この事業が関わっていけたらと考えている。

3. 担い手循環のまちづくりをめざして

 全国的に「地域社会の担い手がいない」「役員の高齢化」ということがよく言われている。これはなかなか若い人が地域団体に加入しなくなっているためである。それでは、若い人を地域活動に取り込んでいくにはどうしたらよいのだろうか。
 子ども歴史ガイド事業を通して、日ごろから若年層と関わる事業を行い、声掛けをして少しずつ関係を深めていくことを学んだ。若い人が「楽しい」と感じるような工夫や、いろんな人を巻き込む努力を積み重ねながら、地道な努力で地域活性化の担い手づくり(ひとづくり)に挑んでいくしかないと感じている。それこそが、地域の未来を明るくする、担い手循環のまちづくりである。

 
(画像1)きつき子ども歴史ガイドチラシ     (画像2)酢屋の坂下広場で待機している様子

(表1)ボランティア活動に費やされた時間(都道府県別)
出典「社会生活基本調査結果」(総務省統計局)をもとに作成