【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 移住政策として行われている地域おこし協力隊制度は、現実には特別交付税措置の対象となる安価な臨時職員として利用されている実態もあるようである。本稿では実際に地域おこし協力隊として派遣された方が、その後どのような生き方を選んだのか、なぜそのような生き方を選んだのかを明らかにするとともに、それらのケースから、地域おこし協力隊制度が有効に機能するために受け入れ側の自治体がどのように制度活用を行うべきかを考察する。



地域おこし協力隊の現状を考える


北海道本部/道南地方本部 藤井 卓也・石井 淳平

1. ケース1 定着した協力隊員

(1) 概 要
・年齢 20歳代
・現在 派遣地に在住
・職業 会社員
・内容 協力隊として3年間勤務し、任期終了後に派遣地に残ることとなったケースである。

(2) 協力隊時代の活動内容
 着任初年度から町内の農家で農作業に従事していた。協力隊業務としては当初から農業系を希望しており、おおむね期待に沿うスタートとなったようである。任期終了まで着任当初にお世話になった農家とも良好な関係を継続し、農作業に従事することとなる。着任初年度は12月頃まで農作業に従事し、冬季の農閑期には町内の農家の聞き取り調査を行った。困ったことや農業の話題の収集を行ったという。どこの農家でも人手不足についての悩みがあることが印象に残ったという。
 2年次の4月に近隣にある大学につてを頼り、夏休みの学生のアルバイト先として町内の農家アルバイトの斡旋を依頼した。町内の農家の方には大学生がアルバイトに来るわけがないと言われることもあったが、実際には20人以上の大学生が農家アルバイトとしてやってくることとなった。「学生アルバイト誘致の小さな成功によって、自治体や農家から信用を得ることができたのではないか」と述べている。この年は、ボランティア学生の世話や宿泊の手配などに追われながら、初年次に引き続き農作業にも従事している。
 学生の農家アルバイトが好評だったことから、2年次の冬には3年次の宿泊先確保のため空家さがしを行うほか、農家アルバイト中に自動車運転免許取得ができるよう、近隣の自動車学校と連携した「免許合宿」の準備を行った。
 3年次には町内に農業者の団体を設立し、この団体を受け皿として学生アルバイトの受け入れを行っている。通常の学生受け入れの他、農家アルバイトの空き時間を利用して近隣の自動車学校で自動車運転免許を取得する「免許合宿」も行っている。この年は活動が軌道に乗り、NHKの取材などもあったという。また、この年の9月頃に銃の所持許可がおりたため、猟銃を手に入れ狩猟活動なども始めている。
 3年を経過した4年目の4月に協力隊を退任し、派遣地の事業所に勤務し現在に至る。協力隊時代に始めた農家アルバイトの活動などは継続しており、協力隊退任後の現在に至るまで仕事のかたわら継続的に活動を行っている。運転免許合宿に加えて「狩猟免許合宿」なども新たな取り組みとして実施している。

(3) 自身の協力隊時代を振り返って
質問 任期を終えたあとのことについて不安はなかったのか。
回答 余り不安は感じなかった。実は民間事業者からも就職のオファーがあり就職先に対する不安は感じていなかった。
 派遣地での人間関係やこれまで創り上げてきたものを継続していきたいと考え、派遣地での就職を決めた。
質問 あなたはかなりうまくいったケースだと思うが、うまくいったコツなどはあるのか。
回答 農家アルバイトの誘致がうまくいったことで小さな信用を得ることができたのだと思う。協力隊としてやってくる人は「これがやりたい」という強い希望を持っている方が多いと思うが、派遣地で最初から信用されることはない。最初に持っている希望と現実とのギャップをうまく折り合いをつけて、自分のやり方を変えていかざるを得ない。折り合いをうまくつけられなかった協力隊員の中には派遣地を離れてしまった人もいる。
質問 他の協力隊員を見ていてうまくいっている人、そうではない人がいると思うが、気づいたことがあれば教えてほしい。
回答 私生活をどう過ごしたかで決まると思う。地域の行事に顔を出したり、プライベートの時間も地域の人と過ごす時間を増やした人はうまくいっている。新規就農をめざして農地と家を往復するような生活だとなかなか地域に溶け込めず、地域の信頼を得ることがむずかしい。「都会で人に疲れたから田舎に来る」というような人はうまくいかない。田舎は都会よりも人づきあいで疲れる。人に疲れてしまう人は難しいと感じている。
質問 行政に対して思うところはあるか。
回答 行政は、協力隊員のタイプによって接し方を変えるべきだと思う。自分の派遣地の自治体はどちらかといえば放任主義的だった。自分はわりとこまめに役場に相談にいったし、担当者から肯定的なアドバイスを受けることができたので、自分にはあっていたと思う。ただし、協力隊員の中にはもっと受け身な人もいるので、そうした人には役場からもアプローチしていかないと定着は難しいと思う。そういう意味では個人の力量に頼りすぎているような気もする。
質問 派遣地の自治体では協力隊を受け入れて何をしたいのかがよくわからないところもあるのだが、どのように思うか。
回答 先ほども述べたように、放任的な面があったのだが、役場自体に協力隊に何をしてもらいたいというはっきりとした業務はなかった。共通的なミッションがないのは珍しいケースのように思う。

(4) 考 察
 このケースは協力隊の成功事例と言って良い。農家のニーズと学生のニーズを上手に組み合わせた取り組みは、少なく見積もっても町内に年間数百万円規模の経済循環を生み出している。協力隊任期終了後も取り組みが継続されている点でも特徴的であり、本人の満足度も高い。
 このケースは協力隊員の力量が極めて高い点が特徴であり、属人的な能力による成功事例ともいえる。協力隊員自身が述べているように、放任主義的な派遣地自治体の対応と本人の性格がうまく合致したことや、自治体側の担当職員と適切な信頼関係を築いていたことが成功の要因であろう。
 一方、当初の希望と現実とのギャップをうまく処理できなかった協力隊員の中には思うような活動ができず派遣地を離れてしまったケースもあったことも指摘されている。

2. ケース2 現役の協力隊員

(1) 概 要
・年齢 20歳代
・現在 協力隊員として勤務中
・職業 所属なし
・内容 協力隊員として1年間、第3セクターに勤務した後、所属組織を離れ、引き続き協力隊として定住の方法を模索しているケースである。

(2) 協力隊としての活動
① 初年度の活動
 着任初年度は自治体が100%出資する第3セクターに勤務し、短期移住者のコーディネートや短期移住住宅の管理、イベント開催等の業務に従事した。第3セクター勤務は組織的な活動を通じて派遣地での人との関わりのきっかけにしたいという本人の希望だったという。また、政策部門の役場担当者からファーストステップとして地域の人に顔を覚えてもらうためには何らかの組織に所属している方が良い、との助言も大きかったようである。着任後2年目からは第3セクターを離れ、協力隊個人として活動している。
② 2年目の活動
 現在は協力隊の任期終了後の定住をめざして収入確保の手段を模索している。
 具体的にはゲストハウスの経営を主力の収入源としつつ鳥獣被害防止のための狩猟活動による生計確保を考えている。ゲストハウスによる交流人口の増加と農作物の鳥獣被害防止による地域貢献が生計確保の手段となることを理想としている。
 協力隊時代に手がけた空家調査の結果なども活用しながら、すぐに住めそうな住宅をピックアップし、町内に物件を確保してゲストハウス開設に向けた準備を進めている。同時に、地域包括支援センターなどとも連携して地域の交流の場づくり(サロン育成活動)にも関わっている。

(3) 協力隊を希望した動機
 高校時代に狩猟に興味をもち、同時に獣害対策などがビジネスとして成立する可能性などを知ったことが協力隊に応募する遠因となっていたようである。大学時代には社会学を専攻し、環境教育に取り組んでいたことから農的な暮しや狩猟に対する興味が高まったようである。
 卒業後、会社員として約1年勤務した後、協力隊の派遣地に農家アルバイトで来ることとなった。そのときに先行する外部移住者から地域おこし協力隊制度のことを教えてもらい、翌年応募した。もともと関西圏での協力隊勤務を希望していたが、農家アルバイトで知り合った方とその後も連絡を取り合ったり、農作物を送ってもらうつきあいを続けていたことで、北海道での協力隊勤務を決めた。

(4) 協力隊終了後の見通しについて
質問 協力隊終了後は派遣地に残りたいということだが、ゲストハウスの採算の見通しはあるのか。
回答 夏場はなんとかなるのだが、冬場が問題だ。一泊素泊まりで3,000円程度の料金設定を考えているが、自分でシミュレーションしても赤字になってしまう。自分の都合の良いように計算しているのに赤字になるようだとまずいと思う。今検討している物件は家賃が2万円程度なのだが、それでも協力隊としての賃金がないと維持は難しい。他地域の民泊の事例なども調査して入り込み数や経費などの調査と試算を行っている。
質問 狩猟についてはビジネスとして行うのか。
回答 当初は農作物被害の防止業務の受託形式でわな設置と見回りなどを委託業務として行えるのではないかと思っていたが、なかなか簡単ではないと今は考えている。ただ、鳥獣被害については農家も頭を悩ませているので、地域貢献としては、自分の能力を活かせるものだと思っている。マネタイズは難しい。

(5) 協力隊制度をうまく活用するために
質問 協力隊として派遣地で勤務して、どのように感じているか。特に行政の対応について批判的な意見でかまわないのでお願いしたい。
回答 協力隊員が派遣地で力を発揮できるかどうかは担当者との関係によるところが大きいと思う。良くも悪くも担当者次第だと思う。自分の場合は担当者に関しては「当たり」だったと思っている。最初に第3セクターに入ったことも担当者のアドバイスだったし、やりたいことを相談すると、適切な町民の方を紹介してもらった。背中を押してもらえたと思っている。
質問 行政に対して不満はないか。
回答 協力隊の効果を求めるならば、もっと専門的な人を呼ぶべきだと思う。自分は「学ばせてもらっている」という感覚が強く、地域に貢献できている実感は少ない。行政として「こんなことがやりたいから、こういう専門性を持った人がほしい」というような募集をするべきだと思う。その場合、きちんと見合った賃金を支払うことが大切だと思う。直接お会いしたことはないのだが、現在はまちを離れてしまった方がよその町で同じ仕事をされている。賃金もこの町より高いときいた。一生懸命に仕事をされている方にきちんとした水準の賃金を出すことは大切だと思う。町役場などの臨時職員の方も5年で雇止になってしまうが、町に貢献されている方が低賃金で雇用も守られていないのは良いことではないと思う。また、町の遊休施設を活用させてもらうために相談にいったときに、窓口で相手にされず門前払いされたことがあり残念だった。内容を検討したわけでもないのに最初から相手にされなかったので、そのような対応は改善してほしいと思っている。
質問 協力隊員として派遣地に定着するためにどのような心構えが必要だと思うか。
回答 あまり派遣地に期待しすぎないことが良いと思う。田舎は決して牧歌的なところではない。最初からかわいがってもらえると思って行くとギャップに耐えられないのだと思う。期待が高すぎるとそのギャップがつらく、十分な努力をする前に見切りをつけて派遣地を離れてしまうケースもあるのではないかと思う。「来てくれと言われたので行ってやる」という気持ちでやってくる協力隊員もいるのではないかと思う。
質問 自治体によっては協力隊の目的が不明のところが多く、何を期待しているのかわからないところがあるのだが、そのように感じたことはないか。
回答 自分の派遣地も「数撃ちゃ当たる」方式でどんどん協力隊員を入れているが、結局、成果を出せるか、派遣地に残れるかが本人の資質に頼りすぎていると思う。協力隊員を入れる時に行政自体の目的意識が希薄だと思う。協力隊員だけではなく役場職員にも多いのだが、やる気もなく、能力もない人をみると残念に思う。協力隊のミッションが明確になっていれば、協力隊員がチームを形成して共通ミッションに取り組むということも可能だと思う。そのような取り組みが協力隊を受け入れるときの行政の役割だと思うが自分の派遣地ではそのような状況ではない。

(6) 考 察
 現役の協力隊員で、現在、派遣地で定住するための収入源確保と地域貢献の両立に取り組んでいるケースである。もっとも地域おこし協力隊らしい活動であるが、こうしたケースは意外にも少ないように思う。
 協力隊の受け入れ体制については役場の担当者とは良好な関係が構築されていたことがうかがえる一方、行政の方針として協力隊をどのように活用したいのか、町がどのような方針を持っているのかわからないという不満があるようである。
 能力もあり、地域でも良好な人間関係を築いている様子がうかがえるが、将来的に定住に結びつくかどうかは不透明である。定住の成否は第一義的に本人の人生設計の考え方や能力とも関わることであり、行政が直接的に支援するべきかどうかは判断が分かれるところであるが、協力隊としての任務に対しては雇用主である町がより積極的に関わるべきと思われる。協力隊員が結果として地域を離れることとなったとしても、協力隊としての勤務が地域に成果を残さずに終わるような事態は行政として避けるべきであろう。

3. 協力隊制度をより良いものにするために

(1) 協力隊募集と現実のギャップを埋める
 協力隊の応募に際して自治体は夢と希望をもたせるようなキャッチコピーで宣伝する。各自治体の協力隊募集のウェブサイトには次のような夢のあるキャッチフレーズが並ぶ。
・ 田園が広がる里山で地域と一緒に活性化事業に取り組みませんか?
・ 山・里・川の恵みを届ける地域おこし協力隊を募集します
・ ○○市の魅力を発見・創造・発信する地域おこし協力隊を募集
・ 地域に新たな風を吹き込む人材を待ってます
 これらのキャッチフレーズがすべていつわりであるとは思わない。広告活動である以上、目を引くキャッチフレーズも必要である。しかし、こうしたキャッチフレーズを真に受けて協力隊赴任を決めてしまうことの危険性は高い。聞き取りを行った二人の協力隊員が口を揃えて「派遣地で最初から信用されることはない」、「最初からかわいがってもらえると思って行くとギャップに耐えられない」というように、こうしたキャッチフレーズを地域の本音であると素直に捉えてしまうことは不幸の源となる。行政側はキャッチフレーズはキャッチフレーズとして、派遣された協力隊員に現実を伝えていく責任がある。

(2) 明確な目的意識をもった募集
 今回聞き取りを行った自治体ではやや無目的な協力隊募集がなされているようである。すべての自治体がそうであるとは限らないが「『数撃ちゃ当たる』方式」で隊員を募集していると述べられたことや、「役場自体に協力隊に何をしてもらいたいというはっきりとした業務はなかった」と明言されているように、協力隊の業務そのものが不明確であるケースが明らかになった。
 近年の自治体で、業務が不明確、無目的な職員が新規に採用されることなど考えられない。特別交付税措置の対象となる協力隊だからこそ、このようなコストパフォーマンスを度外視した任用が行われるのであろう。裏を返せば、使い捨てても惜しくない人材、という側面を協力隊員はもつことになる。聞き取りでは「もっと専門的な人を呼ぶべき」との意見があったが、行政自体が明確な目的意識をもって協力隊の募集を行うべきであろう。

(3) 定住させたいのか、能力を活用したいのか
 総務省の「地域おこし協力隊推進要項」によると協力隊制度の内容は、「各種の地域協力活動に従事」することと「地域への定住・定着を図る取り組み」の2点が中心となる。最終的な着地点が定住であることは明確だが、「地域協力活動」が具体的にどのような活動なのか、そのような活動を通じて定住・定着を図ることが可能なのか、という点は曖昧である。特に募集自治体において、地域協力活動を経て定住・定着へ移行するプロセスを戦略化できているケースは少ないと想像される。こうした曖昧さが、地域おこし協力隊が有効に活用できない原因の一つでもあろう。
 今回の聞き取りで明らかになった「具体的なミッションがない」という指摘は、協力隊の任務期間が一種のモラトリアム状態になっており、自治体が明確な戦略を持って協力隊を受け入れているわけではないことを示している。協力隊員を定住させたいのか、能力を活用したいのかだけでも明確にすることが必要である。「安価な臨時職員」でさえなく、任期を単なるモラトリアムとして「いてもいなくても良い存在」として過ごすことだけは募集自治体として避けなければならないであろう。