【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 人口減少問題への対策の一環として2009年度からスタートした「地域おこし協力隊」の取り組みが2018年度をもって10年目を迎えるのを控え、道内自治体を対象としたアンケートを2018年春に実施した。その結果について報告し、道内自治体における地域おこし協力隊の実態と課題を整理する。



道内自治体の地域おこし協力隊の特徴と課題
―― 2018年春実施のアンケートの結果に基づき ――

北海道本部/自治研推進委員会・地域おこし協力隊部会

1. 地域おこし協力隊の調査の概要

 本レポートは、「地域おこし協力隊」をテーマとする自治労北海道本部自治研推進委員会の部会(以下、協力隊部会)の取り組みについて報告することを目的としている。
 地域おこし協力隊は、昨今の人口減少問題への対策の一環として、2009年度からスタートした。都市圏に住む若者などに3年を上限に過疎地域に赴任してもらい、地元住民との交流や生活支援などの諸活動を行うことを通して関係性を育み、最終的には赴任先自治体での起業や就労、定住が目標とされている。総務省が旗振り役となり、財源も特別交付税(隊員1人あたり年400万円交付)で措置されている。
 協力隊部会(委員10人で構成)では、道内自治体を対象に、2009~17年度における協力隊の現状や課題などを調査するアンケートを実施した。アンケート票の設計にあたり、本事業への着手が2010年度からと早かった喜茂別町を訪れ(18年2月8日)、担当職員と現役隊員の計2人から助言をいただいた。
 調査期間は18年3~4月。回答があった自治体は79団体(道庁、11市、58町、9村)で、回収率は、道内全自治体数180を分母とすれば44%に、隊員の採用実績のある道内自治体数149(総務省公表資料から算出)を分母とすれば53%になる。調査項目は以下のとおりである。
① 隊員の採用実績
 性別/着任時年齢/直前在住市町村/着任日/主な勤務先/主な仕事/退任日/退任のしかた/退任後の居住の継続状況/退任後の進路
② 自治体の実施体制
 所管課・所管年度・担当職員数/協力隊事業への一般財源の持ち出しの有無/隊員応募資格の独自設定条件
③ 隊員の処遇(2017年度)
 任用形態/基本的な勤務時間、土日祝日出勤の有無・出勤理由/給与・報酬/給与・報酬以外の支給の内容/社会保険の種類/住居確保の方法/家賃補助/出張旅費の支給の有無/有給休暇の有無/副業の認否
④ 隊員と役所・役場間のやりとり
 定期的な面談・会議の開催の有無/月報・年報の提出の求めの有無/定住・起業に向けたサポートの有無/サポートの内容
⑤ その他、課題や悩み(自由記述)

2. 調査結果の概要

 今次調査で把握された道内79自治体の2009~17年度の協力隊の現況や主な特徴を以下に概説する。79自治体の上記年度の隊員の採用数は、退任者(満期退任者、中途退任者)、現役者を合わせ、総計511人である。この511人について以下の特徴が指摘できる。

(1) 隊員の性別、年齢層、出身地
 性別では、男(340人):女(171人)=67:33となり、男性が2/3、女性1/3をそれぞれ占めた。
 年齢層の内訳をみると、最多は20代(188人)の36.8%、次いで30代(170人)の33.3%となり、それぞれ1/3ずつを占めた。以下、40代(96人)18.8%、50代(29人)5.7%、60代(8人)1.6%、10代(2人)0.4%である。20代と30代で全体の約7割(70.1%)、20代と30代と40代で9割弱(88.9%)を占める。
 出身地(移住直前の在住市町村)は、道内(30市町村)と道外(30都府県)で分けると、道内265人:道外242人=52:47とほぼ半々となった。
 道内出身者(265人)の出身地を市町村別に見ると、札幌市が154人(30.1%)で最多となった。札幌市は全体でも最多で、以下、帯広市が15人(2.9%)、旭川市10人(2.0%)と続く。道外出身者(242人)を都府県別に見ると、東京都が60人(11.7%)と最多で、以下、神奈川県37人(7.2%)、大阪府23人(4.5%)、千葉県と埼玉県が各22人(各4.3%)、兵庫県14人(2.7%)、愛知県11人(2.2%)と続いた。

(2) 主な勤務先と仕事
 隊員の主な勤務先については、「役所・役場」が244人と約半数を占め、以下、「観光協会」48人(9.3%)、「農家・農場」21人(4.1%)、「不定」17人(3.3%)、「地区・集落」15人(2.9%)と続いた。このほか、工場施設、道の駅、店舗、農協などの少数回答もあった。
 隊員の主な仕事については(複数回答)、「観光振興」 が143人(28.0%)と最多で、以下、「農業振興」93人(18.2%)、「地域活性化全般」70人(13.7%)、「地域資源開発」67人(13.1%)、「移住定住促進」60人(11.7%)、「情報発信」52人(10.2%)、「集落支援」32人(6.3%)と続いた。このほか、福祉、林業振興、有害鳥獣対策などの少数回答もあった。

(3) 退任者の居住の継続状況
 511人のうち、退任者は297人、現役者は204人、不明が10人となり、その割合は退任:現役:不明=58:40:2となった。
 退任者297人のうち、満期退任者は154人、中途退任者は143人で、その割合は52:48となった。ほぼ半々に分かれたが、満期が中途を若干上回った。
 本事業の最終的な目標は定住の実現だが、退任後の居住の継続状況については、退任者297人のうち、退任後も継続居住している者が140人、退任後に転出した者が149人で、その割合は47:52となった。これもほぼ半々だが、転出者が継続居住者を若干上回った。
 退任者の進路を尋ねたところ、居住継続者140人については、「起業」が34人と最多で、以下、「就業(就業先不明)」27人、「役所・役場に就職」17人(正規8+非正規9)、「民間企業に就職」15人、「就農」12人、「3セクに就職」7人と続いた。一方、転出者149人については、「不明」が98人と大多数を占め、転出者の足取りまでは把握していない実情がうかがえる。以下、「就業(就業先不明)」18人、「民間企業に就職」8人、「起業」6人、「役所・役場に就職」3人(全員正規)などと続いた。

(4) 任用形態・労働条件
① 任用形態
 隊員の任用形態は、「特別職非常勤職員(地方公務員法第3条第3項第3号)」が28団体と最多で、以下、「臨時職員(地方公務員法第22条)」17、「一般職非常勤職員(地方公務員法第17条)」16となったほか、「委嘱」が3団体、独自の「嘱託職員制度」が2団体あった。また、「特別職非常勤と臨時の併用」が5団体、「一般職非常勤と臨時の併用」が2団体あった。
 複数の任用形態を併用する場合、専門的なスキルや資格を持った隊員を特別職非常勤もしくは一般職非常勤で任用し、それ以外の一般的な隊員を臨時職員として任用するという傾向が見られた。
② 基本的な勤務時間と休日出勤
 隊員の勤務時間は、ほとんどの自治体で、原則、役所・役場の勤務時間に従い、平日5日勤務を基本とし、始業時間は8:30/8:45/9:00、終業時間は17:00/17:15/17:30/18:00というパターンに概ね当てはまる。
 一方で、勤務時間に複数のパターンを設けているところが14団体あった。その理由としては、「業種・勤務先によって違うため」が9団体、勤務する施設の性格上「シフト制を導入しているため」としたところが3団体、週あたり労働時間を38時間45分として、特定の曜日のみ短い勤務時間としているところが2団体あった。
 土日祝日出勤(以下、休日出勤)の有無については、「あり」73、「なし」2、「不明」4となり、ほとんどの自治体の隊員が休日出勤を行っていることが明らかになった。
 休日出勤の理由としては、「イベントの運営・参加」が64と最多で、以下、「農作業」(天候状態が良い場合など)7、「担当業務の性格上」6、「移住相談会、観光PRの運営・参加」5、「自治体の行事への参加」4、と続いた。
 有給休暇については、「あり」63、「なし」8となったほか、業種によって有無に差があるとしたところが1団体あった。

③ 給料・報酬(月額)など
 給料・報酬の月額は、「20万円台」が23団体と最多だが、「16万円台」も22団体と多かった。以下、「17万円台」12、「18万円台」8などとなり、「21万円以上」と「16万円未満」も各3団体ずつあった。職種や任用形態によって複数の額を併用しているところもあった。
 給料・報酬以外に支給しているものとしては、車両関係(現物支給、維持費、借上代、燃料費など)が37団体と最多で、以下、パソコン関係(現物支給、通信費)23、通勤手当14、時間外勤務手当・休日出勤手当14、期末勤勉手当8、寒冷地手当5、被服(作業着の支給など)5と続いた。このほか、少数回答として扶養手当、管理職手当、経験加算、研修補助費などが見られたほか、「一切なし」も12団体あった。
 自治体が事業者負担をしている公的社会保険の種類については、健康保険が63と最多で、以下、雇用保険54、厚生年金47、労災保険10、公務災害補償負担金7、介護保険5、児童手当拠出金3と続いた。上記の組み合わせとして、健康保険、雇用保険、厚生年金の3つセットでの負担が41と最も多かった。「一切なし」も11団体あった。
④ 住宅の確保の方法、家賃補助の有無
 隊員の住宅の確保の方法については、「自治体による公営住宅の斡旋」が22と最多、「自治体による民間賃貸住宅の斡旋」が21で次いだ。以下、「隊員自ら確保」15、「自治体による空き家の斡旋」11、「公営住宅の無料提供」8、「自治体による民間賃貸住宅の借り上げ、無料提供」8と続いた。調査者が想定していなかったのが自治体の職員住宅の利用で、貸与が6、斡旋が5、無料提供が1となった。
 家賃補助の有無については、「あり」51、「なし」23となった。職種によって補助の有無に差を設けているとしたところも1団体あった。
⑤ 任期中の副業の可否
 隊員に対し、主に将来的な起業に向けて、任期中からの副業の実践を認めているか否か尋ねたところ、「可能」47、「不可」23となったほか、「許可制」が3あった。このほか、職種によって差を設けているところが1団体あった。
 なお、副業の可否には任用形態との関係性が一定程度見られる。特別職非常勤職員の場合、副業が可能となる率が高く、副業「可能」47のうち特別職非常勤以外の任用形態のところが16、「不可」23のうち特別職非常勤は4にとどまっている。
⑥ 定住・起業に向けたサポートの有無
 任期終了後の定住や起業などに向けたサポートを行っているか、行っているとすれば、具体的にどのようなサポートを実施しているか尋ねたところ、サポートを「している」が46、「していない」が26、「不明(回答無し)」が7となった。
 「している」と回答した46団体におけるサポートの具体的な内容は、「相談への対応」と「起業資金の補助」が各17団体と最多で、以下、「定住・起業に向けた支援(地域への仲介など)」9、「研修・資格取得での支援(経費負担など)」7、「起業資金補助に関する情報提供」4、「就農支援」3、「就職先の紹介」2、などと続いた。
 上記のうち「起業資金の補助」は、任期終了の翌年度に起業する者を対象とする国の補助制度(推進要綱別添、特別交付税措置、上限100万円)もあるが、自治体独自の全住民対象の既存制度を適用するとしたところが多かった。

3. 何が居住継続と転出を分けるのか

 上記の結果を踏まえて、居住継続者(140人)と転出者(149人)の特徴や傾向について分析した。
 <表>のとおり、「自治体による起業や定住に向けたサポートの有無」と「在任中の副業の可否」については有意な差は認められなかった。とはいえ、自治体によるサポートや、副業の許容が不要と言う気はない。問題は、自治体がどれだけ有効なサポート策を打ち出せるか、各隊員が副業を任期終了後にどうつなげていくか、にかかっているということである。
 一方、隊員の退任後の進路について調べたところ、就職・就労(起業、就農含む)の実現が居住継続者では85.7%(120/140)と、転出者の26.8%(40/149)と比べて大きな差が出た。転出者のほとんどが「不明」ではあり単純な比較は避けるべきだが、定住の要件としてやはり地元での就職等の実現は外せない。

<表>居住継続者と転出者の比較

 今次調査での
把握数
退任後の進路自治体による定住・
起業支援の有無
自治体による副業の扱い
 人数自治体数起業者数就職・
就労者数
不明その他支援ありの団体数支援なしの団体数不明副業可の団体数副業不可の団体数不明
居住
継続者
140人43団体2793118299531111
19.2%66.4%7.9%5.7%67.4%20.9%11.6%72.1%25.6%2.3%
転出者149人49団体63498112814731162
4.0%22.8%65.8%7.4%57.1%28.6%14.3%63.3%32.7%4.1%

 起業や定住に向けたサポートに自治体が果たすべき役割で最も重要だと思われるのは、隊員の人柄や職業適性などを見極めながら、地域の住民や地元企業など各種団体へ任期中の段階から橋渡しをすることであろう。異邦人である隊員たちが地域に溶け込み、新たな仕事と生活の場を構築していくためには、自治体の信用度に基づく地域への後押しとコーディネート力が欠かせないと考える。
 以上から、自治体には、起業や就職・就労あるいは就農を実現させる効果的なサポートを行いつつ、それとは別に定住を実現させる有効な方策を隊員の立場から構想することが求められると考える。サポート方法としては、今次調査では「相談対応」、「起業資金の補助」、「情報提供」が多くで回答されたが、いずれにしても受け身の対応に終始することなく、積極的に「隊員と地域をつなぐ役割」が期待される。

4. まとめに代えて―今後の展望

 自治体から見た協力隊事業の課題や悩みについて自由記述欄での記述を求めた結果、27団体から回答があった。その内容は概ね以下のように類型化される。

○ 募集をかけても、希望する人材がなかなか来ない。
○ 就職先の確保など、任期終了後の出口対策が確立されていない。
○ 隊員側の希望と、自治体側の採用目的が一致しない。
○ 任用形態を同じくする他の臨時・非常勤職員の処遇との間に矛盾が生じている。
○ 業務過多により、担当職員としての隊員のサポートが不十分。
○ プライベートと職務の境界が曖昧で、隊員の業務管理が難しい。
○ 本事業に対する理解が自治体側で必ずしも共有化されていない。

 すでに道内自治体の多くでは、隊員の人材確保に一定の苦労が生じている。しかし、苦労して確保した人材であるにもかかわらず、退任者の約半数が赴任先自治体から転出している。これは上欄にもあるとおり、就労支援など、定住の前提となる出口対策の不十分さが大きく影響していると見られる。また、任用形態における矛盾の発生や、業務管理の難しさ、担当課の業務過多や他課の理解・連携の不足など、運用上の課題も生じており、その部分の解決も求められる。
 本事業の目的が、過疎地域の若年層の定住者数を増加させ、地域の活性化をめざすことにあるならば、受け入れ自治体で重視されるべきは、制度の趣旨に対する正しい理解、明確なビジョンに基づく募集、任期終了後の起業・就労や定住を実現させるためのサポートの充実化などである。これらを各自治体が実践するか否かで、本事業の姿は、移住・定住施策として飛躍するか、一時的な人材確保策に収まるか、大きく様変わりしうる。
 協力隊の取り組みは2018年度で10年目に入っている。ここに至って移住者や起業者の増加など一定の成果があがる一方で、本稿でも見たとおり、現場では様々な問題も生じている。今や、起業者・定住者の成功の秘訣、中途退任者・転出者の挫折の理由などを検証するデータも一定の蓄積に達しており、過去の経験を次に活かし、本事業の健全な推進を図る自治体が拡大していくことを期待したい。




※ 本稿の執筆は、正木浩司(公益社団法人北海道地方自治研究所研究員/自治労北海道本部自治研推進委員会委員)が担当した。