【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 「地方の経済活動・産業振興の今後の方向性はどうあるべきか」を改めて考える場合、「一次産業=農業」は外すことができません。6次化推進や後継者問題等を抱える地方の農家が「食べていけるのか」、「地方で農業は継続できるのか」について、不明な点も多いところです。本レポートでは、実際の農家の方等に話を伺いながら、「これからの農業(農家)の方向性」について、提言します。



『小農(しょうのう)』からみる
持続可能な農業のあり方と自治体の支援

福島県本部/自治研推進委員会・第二専門部会

1. はじめに

 我々の生活に経済は切っても切り離せない存在である。誰もが、何らかの産業に携わり、そして生活の糧を得ている。そして、その産業が国や地域の生活様式や政治形態に大きな影響を及ぼしていることは言うまでもない。
 かつてマルクスやエンゲルスは、「史的唯物論」(注1)を提唱し、産業のあり方がその時代の政治・宗教・生活形態を形作ることを論じた。彼らは、経済が発展段階的に進歩し、革命によって資本主義社会が駆逐され、社会主義による平等社会の到来を唱え、現在まで続く大きな思想的潮流を生み出した。かれらの産業に対する視点は、産業と生活・国家等が構造的に密接に結びついていることを我々に明らかにしてくれた。
 近年は経済学者ピケティが、膨大な資産関係のデータを分析し、18世紀以降の各国の資産分布の解析から、20世紀の中間層の出現は世界史的に特異な出来事であり、世界が再びかつての格差社会に移行しつつあることを突き止めた。
 残念ながらここ日本においても、その論証を裏付けるように、格差の広がりが危惧されてきている。最近は戦後最長の好景気と言われているが、労働分配率をみると企業の内部留保が拡大するばかりで、労働者の賃金の向上は芳しくない。また、雇用形態をみても非正規労働者人口が増え、低所得者層が拡大してきていると言われている。
 さらに、福島県においては、東日本大震災・東京電力福島第一原発事故発災以来、人口の社会減が続き、特に浜通りを中心に産業構造は大きく変化せざるを得ない状況となった。
 自治労福島県本部では、上記のような時事・経済状況を踏まえ、今年度「地域産業のあり方のまちづくり」をテーマに第二専門部会を設置、個別具体的に事象の研究を行うことにより、地元福島の産業振興の一助とすべく、自治研活動の基本姿勢である「自由・かっ達」を軸に議論を行ってきた。

2. 議論の進行状況と研究対象の絞り込み

(1) 各部会員が属する自治体の産業について自由に現状や意見を発言
(第1回専門部会)
 第二専門部会には、地域産業に興味のある組合員が集まった。しかしながら一口に「産業」と言ってもあまりにも範囲が広く、共通の意識・方向性を持って調査・研究を進めるため、部会のテーマに基づき、各部会員が勤務する自治体の産業に関する課題や意見を自由に出し合った。

(2) 各発言を受け、地域産業の課題を整理
(第1回専門部会)
 各部会員から出た内容を整理し、以下の通り地域産業の課題をまとめた。
・ 人口減少は避けて通れない現実、大前提として考えなければならない。
・ 日本全体では人口減少になる。東京への一極集中により、地方は自然減以上に減少のスピードが速い。
・ 自治体の活性化にはその場所に「仕事」があることが重要。「仕事」がなければ人は出ていく。
・ モータリゼーションのため、観光客の移動範囲が広がり、かつて観光地であった温泉街等が衰退化している。その場所に人を留めておくだけの魅力がなくなった。
・ 企業は誘致しても、撤退することもあり得る。二次、三次産業における資本は自治体を超えて流動するが、自分の所有する土地や近隣の海等を生産基盤とする一次産業は、衰退したとしても逃げることはない。
・ 原発事故の影響による風評は、福島県に住んでいる人と、遠く離れた人では依然として考え方に深い乖離がある。

(3) 整理した課題を受けて研究すべき産業部門を導き出す
(第1回専門部会)
 人口減少時代において人口流出を食い止めるためには、地域に「仕事」を創出しなければならない。地域の産業を活性化するためには、政治的影響や資本流動の影響を受けやすい企業誘致の取り組みと合わせて、地場の一次産業を成長させていく必要がある。そこで当部会では、主に県内の一次産業を研究対象とし、地域産業の振興のあり方を探っていくこととした。

(4) 研究対象の絞り込み
(第2回~第3回専門部会)
 各部会員から一次産業に関するイメージや意見等をワークショップ形式により自由に述べてもらった。結果、部会員の多くが農業政策に関わっていることもあり、農業に関する話題・意見が多く出されたため、研究対象を農業とした。

(5) 具体的研究対象と今後の進め方
(第3回専門部会)
 農業と言ってもさまざまな経営形態が存在する。大規模専業経営や小規模兼業経営等、全ての業態を一括りに捉えてしまっては議論が散漫になり、結論が一般論化してしまう懸念があるので、業態についても具体的に選択していくこととした。まず「農業を活性化させること」を考えると、必ず農業人口減少という産業全体の大きな壁にぶつかる。その解決策としては、最新機器の導入による合理化も重要だが、やはり就農者自体を増やしていかなくてはならない。しかしながら、農家の後継者ではない新規参入での就農は「起業」と同じレベルで考えなければならず、土地や機械等の経営資産確保には相当の資金が必要であり、なおかつ栽培ノウハウの習得や販路確保までにはそれなりに時間もかかってしまう。よって、就農のしやすさという観点で考えれば、初期投資(資金・時間等)が小さい方が新規参入のハードルが低い、という点で意見がまとまった。その議論の中で、部会員の一人から「小農」という経営形態が紹介された。「小農」とは「家族等の小規模でありながら、専業で継続的な経営を行っている農家」のことである。就農の方法として、リスクが少なく、小さいながらも農家として定着できる形態として「小農」を切り口に研究を進めていけば、一定の研究成果が見出せる可能性が高いという点で意見が一致したため、研究対象を「小農」とすることとした。さらに、当部会では「小農」を原則「家族経営(親戚や近所等の手伝い含む)による専業農家」と定義した。法人や集落営農等に代表される大規模経営ではなく、家族経営等の小規模でも生業として成り立つ経営体が増えていけば、農業が活性化していくと考えた。一方で、専業では生活が不安定になるのではないかという先入観もある。そこで我々は「小農」でも十分な収益を上げられることを検証していくこととした。

3. 調 査

(1) 「小農」の具体的事例の収集と選定・調査の方向性
 一口に「小農」と言ってもさまざまな経営形態が考えられるので、各部会員から4つのカテゴリー(加工品開発・農家民宿・農家レストラン・他組織等との連携)ごとに1例ずつ事例を挙げてもらうこととした(当該組合員が属する自治体のみではなく広範囲に)。提出された多くの事例の中から実際に調査対象とするものを選定する作業を行ったが、最終的に選定された事例の特徴から、「自己完結型」と「ネットワーク型」に分類した。前者は1経営体のみの経営(作物生産+レストラン等)、後者は経営体同士が連携し販路拡大等を取り組んでいるものとした。より正確に現状を分析するため兼業農家等についても調査した。

(2) 選定事例
① 自己完結型「小農」    3件
 ・ がぶりガーデン(会津若松市)
 ・ 穂多瑠(ほたる)(会津若松市)
 ・ ファーム白石(いわき市)
② ネットワーク型「小農」  1件
 ・ 会津自然塾(会津美里町)
③ 兼業農家等の現状と意見  6件

(3) 調査期間
・ 2017年12月25日~2018年2月17日
・ 現地視察の実施
  2018年2月17日(別紙)

(4) 調査結果
① 自己完結型「小農」
 ア 会津若松市「有限会社 がぶりガーデン」
  ・ 会津若松市北会津町で果樹を中心とした園芸農家である。
  ・ 経営主はかつてサラリーマンであったが、実家の都合で脱サラし、夫婦で果樹園を始めた。その後、観光農園・菓子工房を開業。近隣の農家とも連携し、多角的な経営を行っている。栽培している果樹は、いちご・さくらんぼ・メロン・もも・プルーン・りんご・ぶどう、と多岐に渡り、各作物の収穫時期をずらすことによって、ほぼ通年で観光農園を開園できるよう工夫している。
  ・ 菓子工房では、自社で採れた作物を菓子の加工に回す等、いわゆる6次化に取り組んでいる。また、自ら収穫した果樹を使って大福等お菓子作り体験をできるようにしている。お菓子売り場を併設させることで、売上向上を図っている。
 イ 会津若松市北会津町「穂多瑠(ほたる)」
  ・ もともと北会津町で水稲栽培をしてきた農家。
  ・ 「穂多瑠」は農家レストラン兼民宿。
  ・ 経営者は会社を定年退職後、「ずっと現役でいたい」という希望から、農家を継ぎ、野菜を中心とした園芸作物の栽培を行う。
  ・ 当初はJAが経営する直売所に卸していたが、自分の作る、無農薬で安全な野菜を直接食べてもらいたいとの思いで、10年程前に自宅を改築し農家民宿を開業した。数年前からは、自家栽培や地区農家からの野菜をふんだんに使った料理を提供するレストランを開設した。
  ・ 隣接する建屋には加工所を設置し、ドレッシングやジャム等の生産を行っている。
  ・ カフェスペースがあり、より楽しい時間を過ごせるよう、大掛かりな音響機器を設置している。
 ウ いわき市「ファーム白石」
  ・ 水稲3ha、畑作1.5haを作付けしている。
  ・ MOA自然農法の(注2)認証を受けている。国家認証ではないが、有機JAS(注3)よりも厳格な規格となっており、有機質肥料を若干使用しているのみで、あとはなにも与えていない。
  ・ 畑作での自然農法は0.8ha、水稲では0.25ha。残りは慣行栽培(注4)となっておりJAに出荷している。自然農法分は直販である。
  ・ 家族のみで経営しているが(経営者の実母が若干アルバイトをしている)、ここ数年は研修
生を受け入れている。
  ・ 加工品としてドレッシングを作っているが、知り合いのレストランが一部を改築し加工所を作ったため、そこを利用している。
  ・ 園芸作物はブロッコリー、キャベツ、ねぎ、にんじん、大根、さといも等を作付けしており、ハウスを利用しながらほぼ通年で収穫している。
  ・ 農家イベントツアーや企業研修の受け入れも実施しており、年間1,500人程度が農場を訪れる。企業研修の中には「田んぼオーナー」に近い形で実施しているところもある。
  ・ 最近は、近隣の農業関連会社に参画している。
  ・ もともと白石家の農地は夏井川の氾濫域であり、尚且つ、一部鶏舎から出る鶏糞置き場になっていたことから、自然と肥沃な土壌となっており、行政関係の研修会でも白石家の畑を使っていた。そのような経緯から自ずと自然農法に興味が沸いたという。
② ネットワーク型「小農」
 ア 会津美里町「会津自然塾」
  ・ 設立から12年後の2013年にNPO法人の認証を得る。
  ・ 現在構成農家は10件(会津若松市・喜多方市・会津美里町・磐梯町)。全て有機農家。
  ・ 法人として、農作物の宅配や直売のほか、首都圏マルシェ(注5)事業、料理教室、講演会等の事業を多角的に行っている。
  ・構成農家の1軒である長峰氏は、代々の農家であったが、40年前「複合汚染」という単行本を読み感銘を受ける。両親を説得し有機農業への転換を決心。
  ・ 当時、有機農業は世間でそれほど認知されておらず、集落内では「変わり者」扱いであった。
  ・ JAは高価な有機米を買い取ることは不可能とし、自分で販路を開拓するしかなかった。
  ・ 東京方面を営業するにしたがい、次第に理解を示す顧客ができ、独自の販路を開拓することがで
きた。
  ・ 近年は、息子が会社を辞め就農するため実家に戻ってきた。妻子がいるため、土日は休みとしている。長峰氏自身は現代的な農業のあり方として肯定的に捉えている。
  ・ 息子は会津自然塾後の農業者団体にも所属しており、そこで実施している遊休農地等を利用した発電事業にも関わっている。
  ・ 会津自然塾に加入し、園芸作物(野菜・柿)も栽培している。また、平飼いでニワトリを飼育し、卵の販売も行っている。近年は飼料も有機作物を原料にできるよう試行錯誤を続けている。
  ・ その他の農家からは、一般的な有機農業の負のイメージ(収穫量減少・害虫被害等)とは違う実態が語られた。有機農業開始後2~3年目は、残留栄養分が枯渇するため一時的に収穫量が減るが、それを乗り越えると回復するという。農薬や施肥に係る手間がなくなるので、時間的・金銭的にコストが少なくて済むという。
③ 兼業農家の現状と意見
 ア 福島市(60代 男性)
  ・ 本人および同居家族(計4人)。繁忙期には家族が農業を手伝っている。
  ・ 時代の変化に合わせ、果樹栽培⇒和牛繁殖⇒養蚕と規模を縮小しており、現在は水稲と露地野菜の出荷のみを行っている。
  ・ 作物は、ほぼJA出荷。
  ・ 近年の国の減反廃止、TPPによる輸入農産物との競争等、農業の今後に光が見いだせない。
  ・ 今ある水稲面積(2.5ha)では専業農家としての収入を得ることは困難であるが、数年前に機械を更新したため、やめるわけにはいかない。
  ・ 餅、漬物、菓子類等の加工品も許可をとって製造を行っている。
 イ 西会津町(福島市在住の50代男性の父親)
  ・ 水稲0.5haのうち0.2haは自家消費にまわし、0.3ha分は近所(西会津町)の農家に作業委託している。
  ・ 基本的に父親1人で農業を行っており、後継ぎがいない状況。耕作放棄地も増えてきており、高齢のため集落内での農作業(道修繕や水路管理)が困難になってきている。
 ウ 鏡石町(男性 60代)
  ・ 30代までは専業であったが、40代になって子どもの教育費がかかるようになり兼業になった。
  ・ 50代で水稲を委託に出し、キュウリ栽培のみに特化。退職とともに再び専業となった。自身の高齢化に伴い、規模は縮小せざるを得ない。また、委託している水田を返される可能性もある。
  ・ 子どもは農業を継がない予定だが、まったくの他人にも経営を譲る勇気がない。地域の衰退も含め今後が非常に不安。集落に新規就農する人がいれば応援したい。
  ・ 今後、農産物の生産量が減少するので、雇用等を活用しながら良質のものを大量生産していきたい。
 エ 福島市(50代 男性)
  ・ 父が病に倒れたのをきっかけにサラリーマンを辞め、就農。アパート経営も行っている兼業農家。
  ・ かつては桃や水稲を栽培していたが、現在は梨のみ。
  ・ 収穫量増による全国的な価格下落や、ダニの発生により実が小さくなってしまったこと等、様々な経営危機を乗り越えてきたが、震災・原発事故の影響を大きく受けた。さらに、出荷先の販促の良し悪しも大きく売り上げに関わってくる。
 オ 三春町(70代 女性)
  ・ 基本的に本人が農業に従事(高齢のため、息子が手伝うことがある)
  ・ 20年前までは、「ネギ」「じゃがいも」「たばこ」「トマト」等を作っていたが、年齢を重ねたことと人手不足により「ネギ」「ジャガイモ」のみに絞り、作付面積も減らした。
  ・ 作物を売り歩く小売りをしていたが、購入者も高齢になり、亡くなってしまった人もいるため、購入者が減ってしまった。
  ・ 小売りするにも、本人が高齢ということもあり移動が容易ではないため、小売りをやめてしまった。現在は、自分で食べる分と知り合いに売る分程度を生産している。
 カ 福島市(男性)
  ・ 果物の生産販売を行っている。(サクランボ、モモ、リンゴ)
  ・ 正社員は4人(うち2人は家族、息子と娘)
  ・ 約4年前に法人化した。
  ・ 農業は2代目で、贈答用、個人販売をしていたが、震災以降に売上が激減したため、販路開拓を行った。(主に、観光物産館、通販業者、インターネット販売、駅中販売)
  ・ 果物そのものを主力としながら、加工・販売を行うことで年間を通じて売り上げを出せるようにしている。
  ・ 今は、「農業の発展」よりも「農地を維持すること」が重要だと考えている。
  ・ 耕作放棄地になると再開が難しくなり、それは農業振興のチャンスを失っていることであると、自治体には気づいてもらいたい。
④ その他:全国的な農業を取り巻く現状
 ア 農業経営体の推移
  ・ 農業経営体は年々減少していることがわかる。
  ・ 上記のグラフをみると、2005年から2015年までの間に60万強の経営体が減少したことになる。
 イ 農業経営者の年齢構成
  ・ 農業経営を担っているのは50代後半以上の世代が多い。さらに1995年から2015年の20年間で、平均年齢が7歳以上上昇、高齢化が深刻化している。
  ・ 特に、2015年時では高齢化が一気に進み、60代から70代の農業者が増加していることが見てとれる。
 ウ 農地の推移
  ・ 1960年以降、農地面積が減少している。
  ・ 特に、水陸稲の作付面積の減少が著しい。

4. 結 論

 今回の調査の結果を以下のとおり整理した。
① 「専業」の経営パターン
 ・ 有機農業等、作付方針の先鋭化を図っている。
 ・ 家族や周辺農家から反対等の意向があっても、自分の方法を貫いている。
 ・ 系統出荷(注6)のみではなく、付加価値を高めながら独自の販路を開拓している。
 ・ 加工品の製造等、農作物の作付のみならず多角的な経営を行っている。
 ・ 集落内で1軒でも「前向き」な経営を行っている小農がいると、集落全体が活性化していく。
 ・ 小農であっても、十分に生活していけるだけの収益を上げることができる。
② 「兼業」の経営パターン
 ・ 慣行栽培、系統出荷を経営の基本としている。
 ・ 国やJAの影響を大きく受けるため、制度改革によって優遇措置が減らされると経営に打撃が出る。
 ・ 次代の担い手がいないため、経営が縮小傾向にある。
 ・ 「儲け」に対する欲求が小さい(あまり集落内で目立ちたくない)。

(1) 総 括
 以上、調査した経営体から見て取れたパターンを列記してみた。今回の調査を通して、小農が専業農家として家族規模で継続的に経営し、尚且つ所得を伸ばしていくことが可能であることがわかった。小農が「成功」するためには、他の経営体との差別化が非常に重要であり、経営の方針を曲げずに実直に拡大していくことが必要なようだ。やはり、単に農家というよりは、確固たる経営方針に基づく「経営者」となることが不可欠。それとは反対に、JA系統に全量出荷をしている農家は、自ずと出荷先や国の制度の影響を大きく受けてしまうため、補助金削減や市場の価格変動により経営にムラが出てしまい、仮に大きな損失が出てしまった場合の対処選択肢がほとんどない状況となる。そのため、どうしても兼業にならざるを得ず、年齢とともに規模を縮小せざるを得ないケースが発生してしまう。しかし、独自多角的経営を行っている場合、ある分野に大きく損害が出てしまっても、別作物の収穫や加工製造・研修受け入れ等によってある程度カバーも可能である。さらに、有機作物等付加価値が高い経営をしており、高価格帯での販路を確保できているならば、所得の伸びしろも期待できる。

(2) 現行農政に対する提言
 農業政策は毎年度大きく方針を転換することから、「猫の目行政」と揶揄されることもあるほど変化が激しい。しかも、農家への支援方法が補助金交付という形をとることが多いため、実質的な経営収益よりも補助金による収入が大きなウェイトを占めてしまい、本来の産業としての姿からかけ離れている側面も否定できない。併せて、今後は農家の高齢化及び農業人口減少により、日本の食糧事情に大きな影を落としている。そのような中でも、堅実な経営で着実に収益を上げている小農が存在していることを忘れてはならない。当部会では、今回の成果から以下の点について行政へ提言したい。
 ・ 農業を単に農作物を作付けするだけの産業と括らず、「経営」という観点から今まで以上に支援できる体制を整える。
 ・ 補助金交付や各種認証事務をスムーズにできるよう、申請や実績報告提出等文書事務の支援を行う。
 ・ 加工品製造に関する支援は、実質的な技術を教示できるシステムを拡充する。
 ・ 販路拡大に関する事業を行う際、単にイベントを開催するだけでなく、継続的に支援できる体制を整える。
 ・ 新規就農しようという意欲のある人が「お試し」できる機会を増やす。
 ・ 各自治体(場合によっては若干広域的にでも)に農業に関する専門職を配置する。

5. おわりに

 今回の研究では、期間的な制約もあり広範囲な調査をすることができなかった。しかしながら、アンケート調査による統計的側面のみからでは見えてこない経営の実態を掘り起こすことができたことに関しては、非常に貴重な情報を得ることができたと考えている。
 今後の日本は人口減少が続くが、世界的には人口が増加していく。日本の労働人口を補完する形で外国人労働者が益々増えていくと考えられる。それに併せて、地方の地域社会でも外国人が身近になってくると思われる。
 2016年12月に開催された国家戦略特別区域諮問会議では、国家戦略特区における規制改革事項として、「農業の担い手となる外国人材の就労解禁」を追加することを決定した。これを受けて、適切な管理体制の下、一定水準以上の技能等を有する外国人の入国・在留を可能とするため、特例措置を盛り込んだ「国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律案」を国会に提出している。このことからも、将来的に農業分野に外国人が参入してくることが予想される。
 このような状況のもと、やはりこれから農業で「成功」していくためには、独自の経営戦略を持ち、着実な経営をしていく者のみが生き残っていく時代が到来する。経営のビジョンさえしっかり持ち続けることができるならば、小規模な「小農」であっても十分に成功する可能性を秘めている。しかも、大規模農家と違い、初期コストも小さくてすむ。
 行政は、これら「小農」を生かす方法をきちんと分析し、効果的な支援を行うことが可能となるのであれば、これからの地域社会はさらに活性化し、引いては、遊休農地問題や地方の人口減少の改善に寄与することが期待できる。
 また、農業の衰退は、「国民の食糧確保」という安全保障上の問題も抱え込んでいる。いざ有事の際、多くの食糧を外国からの輸入に頼っていれば、一気に飢餓状態に陥る可能性すらある。この点を考えても、農業の産業としての振興はまったなしの状況となっている。




(注1) 史的唯物論   マルクス主義の歴史観。歴史発展の原動力は人間の意識・観念にはなく、社会の物質的な生産にあり、生産過程における人間相互の諸関係は、生産力との関係で弁証法的に発展すると考える立場。
(注2) MOA自然農法 「MOA自然農法ガイドライン」に記された基準とルールに従って、行われる栽培(農法)のこと。具体的には、農薬・化学肥料を使用(依存)しないで栽培する農法。
(注3) 有機JAS   有機食品のJAS規格
(注4) 慣行栽培    化学肥料を使い(堆肥など有機質肥料を一部使ったとしても、一般的には化成肥料が使用。)、病害虫の駆除、防除に農薬(化学薬品)を使った栽培方法。
(注5) マルシェ    フランス語で「市場」を指す。
(注6) 系統出荷    青果物の生産農家が農協組織を通じて出荷すること