【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 全国的に人口減少が問題となる中、減少の中でも人が集まり、地方でも定住するのに魅力を感じる地域づくりと、人口減少を食い止める地方自治体戦略が問われております。本レポートでは、そのような人口減少社会にどう生き抜くかを課題に、地方公共団体の一つである「茨城県那珂市」の取り組みを紹介しながら、地域が輝くまちづくりを模索し、いきいきと持続的に発展できる街の姿(将来)を考えます。



人口減少社会を見据えた自治体戦略
―― 人が集まる“いぃ那珂 暮らし”をめざして ――

茨城県本部/那珂市職員組合

1. はじめに

 那珂市は、東京の北東約100㎞、茨城県の中央よりやや北寄りに位置し、南側は県庁所在地である水戸市に、東側はひたちなか市、東海村に、北側は常陸太田市と常陸大宮市に、西側は城里町に隣接しています。
 市の北側を流れる久慈川と西側を流れる那珂川の沿岸には、広大な水田地帯が広がり、両河川に挟まれた那珂台地の畑作地帯では、四季折々の農作物が生産されています。また市の西部に位置する那珂西部工業団地では、最先端技術を用いた電気電子部品・製品が製造されており、市の東側に位置する向山工業専用地域には、金属製品、機械部品、化学製品などを製造する事業所が立ち並んでいます。一方、本市には、白鳥が飛来する古徳沼や一の関ため池親水公園、日本のさくら名所100選に選ばれた静峰ふるさと公園、ホタルが飛び交う清水洞の上公園などもあり、豊かな自然に恵まれています。
 市のほぼ中心には、首都圏へのアクセスを容易にする常磐自動車道那珂インターチェンジが位置し、3路線ある国道のうち、国道118号と国道349号は、本市の交通網の基軸となっています。鉄道はJR水郡線が通っており、市内には9つの駅が点在しています。
 昭和40年代以降、県都水戸市やひたちなか市などのベッドタウンとして発展し、現在も幹線道路の沿線へ商業施設が多く進出しています。
 自然と調和のとれた住環境が整い、買い物など日常生活の利便性も高いことから、2015年度の市民アンケート結果では、8割以上の市民が「那珂市は住みやすい」と回答し、東洋経済新報社が全国の都市を対象に毎年公表している「住みよさランキング2016」では県内3位、関東5位、全国40位の評価を得るなど、全国的に見ても生活しやすい環境が整っているといえます。

2. 人口減少社会の到来

 少子高齢化の進行によって、我が国の総人口は、2008年をピークに減少に転じています。2015年国勢調査によると、2015年の総人口は1億2,709万人です。
 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、総人口は2030年には1億1,913万人、2053年に1億人を割り、2060年には9,284万人にまで減少すると見込まれています。
 また、このような人口の減少の程度は、地方圏ほど大きくなるものと予想されており、その背景には地方圏から都市圏への人口流出があります。
 地方圏から都市圏への流出の背景としては、賃金や安定性、やりがい等の点で良質な雇用が不足していることから、若者が相対的に良質な雇用を求めて都市圏に流出していることがあります。若者流出による人口減少は、労働力人口の減少と消費市場の縮小という需要/供給の両面から地方経済に負の影響を与えます。地方圏における定住人口の減少を抑えるためには、地方圏における良質な雇用を増やし、地方圏からの人口流出を止めるとともに、大都市圏からのUターン・Iターンといった人口流入を増やしていくことが求められます。
 同様に、地方圏である那珂市の人口も将来人口を推計すると、2022年では52,500人、2027年では51,100人に減少すると見込まれます。全国的に人口減少が急速に進む中、本市は比較的安定した人口を維持しているといえるものの、若年層の未婚化・晩婚化や都市圏への流出、子育てに伴う経済的負担などから少子化が進行し、今後の人口減少が避けられないのが実情です。今後のまちづくりを進めるに当たっては、特に若い世代の人口の減少を最小限にとどめなければなりません。そのためには、生活環境の充実を図り、安心して子どもを産み育てられる環境を整えるなど、本市の特徴でもある「住みよさ」の向上を図っていくことが重要です。
 産業別就業人口を推計すると、特に第1次産業従事者の減少が進むことが想定され、人口減少とともに地域経済の縮小も懸念されることから、産業基盤の強化や雇用の創出につながる取り組みが求められています。
※ (出典)2015年まで:総務省「国勢調査」、「人口推計(各年10月1日現在)」、2016年以降:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年4月)」(出生中位・死亡中位推計)

3. 将来を展望した戦略

 このような状況において、今後とも地域社会の活力を維持・向上していくためには、子どもを産み育てやすい環境をつくるとともに、交流人口の拡大や定住の促進を図っていかなければなりません。那珂市では、「安定した雇用の創出戦略」「那珂市への人口還流戦略」「結婚・出産・子育て応援戦略」「時代に合った地域の創造戦略」を4本の柱とした「那珂市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定しています。
 戦略では、那珂市独自の魅力を活かしつつ、持続可能なまちづくりを実現するため、地域特産品の開発や販路拡大への取り組み、創業・起業支援の強化、移住定住への取り組み、子育て世帯への支援強化など創意工夫を凝らした様々な取り組みを展開しています。また、シティープロモーションを推進し、那珂市の魅力について効果的・効率的に情報の発信を積極的に行っています。
 そして、これらの取り組みを市民の方々と共有し、那珂市に「住んでいてよかった」「戻ってきてよかった」「知ってよかった」と感じてもらえる方を増やし、一緒にまちの魅力や価値を高め、さらなる住みよさの向上につなげていこうと取り組んでいます。

4. 地方生活のメリット

 地方(那珂市内や周辺市町村)で仕事をすることには、都会では感じられないさまざまなメリット(魅力)があります。

(1) 自然豊かで健康な生活
 那珂市に移住すると、豊かな自然が常に身近にあり、ゆとりある暮らしができます。空気や水がおいしく、周囲の景色や四季の移り変わりに心を和ませられる環境は都会ではなかなか得られません。自然に触れながら、友人と家族との時間をゆったりと過ごすことができます。自然の豊かさについては、毎年実施されている市民アンケートの中でも、「自然の景観の美しさ」、「空気の清らかさ」、「まちの静けさ」「生き物(昆虫・野鳥・魚など)を身近に感じられるか」といった項目で多くの回答がされています。

市鳥である白鳥の飛来地「一の関ため池」

多くの市民が訪れる茨城県植物園

(2) 通勤ラッシュから解放
 都会では、毎日満員電車で職場に通わなければならないことも少なくありません。それだけで仕事に行くことが億劫になってしまう人がいる中、那珂市に移住すると都会のような通勤ラッシュとは無縁です。通勤は毎日のことですので、それが改善されるだけでも気持ちに大きなゆとりができます。車で中心市街地までは市内の遠い地区からでも15分程度、近隣の水戸市やひたちなか市まではおおよそ30分程度でアクセスでき、また市内は平地が多いため自転車で移動している住民の方も多く見かけます。

(3) 生活費が安い
 都会とくらべ、生活費が安く抑えられるのも那珂市移住のメリットです。とりわけ、その差が目立つのが、家賃などの住居費です。都会では1人暮らし用のワンルームマンションでも月額7~8万円は下らず、更に駐車場を借りるとなれば2~3万円は掛かります。ところが那珂市へ移住すると、5~7万円もあれば駐車場付きのファミリータイプアパート(ハイツ)を借りられます。もちろん、土地付き戸建て住宅の購入価格も、格段に安くなります。若いうちに"庭付き一戸建て"を手に入れることも夢ではありません。実際に市内では多くの住宅分譲地が現在整備されていますが、那珂市内だけでなく、近隣市町村からの転入者も増加しています。

(4) 食べ物が新鮮で美味しい
 那珂市に移住すると、取れたての新鮮な野菜や果物が身近にあります。しかも、それらの食材は、地元の直売所や近隣市町村の道の駅などで、都会とは比べ物にならない安さで手に入ります。市では地産地消を推進し、市の特産品ブランド認定制度により地元特産品の普及にも力を入れています。地元特産品である「那珂かぼちゃ」や「那珂パパイヤ」、「ひまわりっこ卵」を使用した料理やスイーツのような、都会にはないふるさとの味を堪能できるのも、那珂市移住の楽しみの一つです。

ひまわりっこなめらかプリン

那珂かぼちゃ

(5) 子育てがしやすい
 都会と那珂市では、子育て環境も大きく変わります。都会では子どもを保育園に預けられず、仕事をしたくてもできないという人が多くいます。一方、那珂市では、都会と比較すれば保育園や幼稚園にも入りやすいため、仕事と子育てのバランスが取りやすい傾向にあります。更に、那珂市では地域の人同士が顔見知りになり易く安心感があり、地域みんなで子どもを育てるという意識が高い傾向にあります。保育所などでも、お祭りや運動会など、地元のパパさんママさんと協力しながらイベントの運営を行っています。

(6) 人とのつながりができる
 那珂市移住のメリットとして、仕事においてもプライベートにおいても、人とのつながりができやすい傾向にあります。都会は良くも悪くも人とのかかわりが希薄になりがちです。一方地方である那珂市では、周囲との人付き合いを大切にする傾向があります。人は人、自分は自分と割り切った生活ではなく、人の温かみや助け合いの心を感じられる地方に魅力を感じる人も多いです。子どもが悪いことをしたら近所の方がきちんと叱る、地区のイベント等も住民が協力して取り組むなど、現代社会において失われつつある地域コミュニティの形が、那珂市にはまだ残っています。

5. いぃ那珂暮らし


いぃ那珂暮らしロゴマーク
 「いぃ那珂暮らし」とは、那珂市のシティプロモーション指針に基づいた那珂市の住みよさをアピールするためのキャッチコピーであり、「田舎暮らし」の良さを掲げ、那珂市ならではの地方生活の良さをウリにしています。市ではいぃ那珂暮らしのホームページを常設し、移住者にむけて住まい探しや教育・医療などについて紹介するとともに、那珂で暮らしている住民が感じる「田舎暮らし」の魅力について、「たのしい」「のびのび」「美味しい」「伝えたい」といったジャンルに分けて掲載しています。那珂市に流れるほどよい田舎のゆったりとした時間の中で育むことができる豊かな生活を、市の財産としてとらえ、まちづくりに生かしています。

いぃ那珂暮らしPRポスター

(1) いぃ那珂暮らし応援団の取り組み
 いぃ那珂暮らし応援団とは、那珂市の知名度の向上と活力あるまちづくりを推進するため、市が元気になる活動を心から応援する人たちです。
 主な活動内容は、
 ・応援団のフェイスブックやインスタグラムに情報を投稿する
 (グルメ、歴史、イベント、お気に入りスポット、便利情報等)
 ・那珂市の情報を口コミで広げる
 ・那珂市産のものを買う
 ・那珂市に遊びにくる
 ・ふるさと納税をする
などあげられますが、ノルマはなく、那珂市のPRをできる範囲ですることが応援団の取り組みです。この取り組みでは、地元民しか知らない名店や地域資源を掘り起こし、多くの人々に知ってもらえるような活動を行っています。那珂市に住んでいても、離れた地区のことは知らない住民の方は多くいます。移住してきてすぐの方も、「那珂市にはこんなところがあるんだ」といった情報の収集や、自分から発信できるツールとして活用することができます。
① いぃ那珂暮らし応援団スポット紹介
 いぃ那珂暮らしで実際に投稿されている内容を見ると、地元民おすすめの飲食店やパン屋さん、小さいころからある駄菓子屋や文房具屋をはじめとした地域に根差したお店の紹介や、自然豊かな公園や地元のお祭り、イベント情報などがアップされ、住民の間で情報交換がされています。
② いぃ那珂暮らし応援団ミーティング
 いぃ那珂暮らし応援団では定期的に活動強化のためのミーティングを行っています。ミーティングでは、フェイスブックやインスタグラムでの情報発信力の強化を目的とし、「SNS映えする写真の撮り方講座」として、プロのカメラマンを講師に招き、見る人を引き付ける写真の撮り方を住民の方に学んでもらうなどの取り組みを行っています。

(2) 高速バスラッピング事業の取り組み
 那珂市では、市の魅力発信を目的として「いぃ那珂暮らし」のロゴマークを車体に描いた高速路線バスの運行をしています。このバスは地元の企業である茨城交通(株)と連携し、那珂市の「いぃ那珂暮らし」PRとして、1日に1往復、常陸太田市(那珂市の北側)を発着場所とし、東京のバスタ新宿とを結ぶ定期路線として、2017(平成29)年4月より運行されています。バスには「いぃ那珂暮らし」のロゴマークが大きくラッピングされ、県内外へアピールしています。

(3) いぃ那珂暮らし応援事業
 また、那珂市ではこれから新たに、またこれからも引き続き那珂市で暮らそうと考えている住民の方に対し様々な支援を行っています。
① いぃ那珂暮らし結婚新生活支援補助金
 市では、結婚に伴う新生活にかかる対象経費の一部を支援する「いぃ那珂暮らし結婚新生活支援補助金」の交付を行っています。那珂市内で結婚する夫婦や結婚して那珂市に引っ越してこようとしている方に対し、住宅の取得費用や賃貸費用、引っ越し費用に対し、一定額まで補助しています。
 また市では、独自に妊産婦及び小児マル福制度を拡大し、所得制限を撤廃することで、多くの住民が医療費の控除を受けられるようにしています。
② いぃなかパーティーの取り組み
 市では商工会青年部および茨城県出会いサポートセンターと連携し、婚活支援事業として「いぃなかパーティー」を開催しています。
 いぃなかパーティーでは「いい那珂」と「いい仲」をかけ、市内在住者向けに様々なコンセプトでの出会いの場を提供しています。これまでに7回、計120人以上の参加者をもって多くの出会いが生まれています。

6. まとめ

 那珂市では、人口減少問題に取り組み、将来にわたって活力あるまちづくりを進めるため、2015(平成27)年度に「那珂市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、これまで、4つの戦略に掲げる様々な取り組みを実施してきています。
 2017年までの事業効果を検証すると、本市の人口動態は社会増傾向で推移しており、特に近隣市町村からは転入超過傾向にあります。一方で、出生者数については、基本目標に達していない現状であり、自然減を子育て世帯の転入を主要因とする社会増でカバーしている状況です。
 これらのことから、住みよいまち「いぃ那珂暮らし」の形成にかかる様々な施策については、2018(平成30)年3月に策定した第2次那珂市総合計画において引き続き実施することとし、総合戦略の残り2年間は、特に雇用と移住定住、仕事と子育ての両立にかかる部分を進化させると共に、シティープロモーションの推進を継続していくことになっています。
 周辺地域のベッドタウンとしての特性を踏まえ、那珂市の持つ「住みよいまち」という強みを生かした施策に、今後も職員・市民の創造的発想の英知を結集し、市民が幸せを感じるまちづくりに積極的に取り組んでいくことが必要です。