【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

 2006年に、1市3町と合併した福地山市は、人口では8万人に近い値を示しているが、全国的な人口減少社会のなか、福知山市もその例にもれず、減少している。そのうえ、中心部と周辺部では大きな格差が生まれている。そこで、中心部と周辺部の双方に居住する「二地域居住」に対する住民ニーズの高さに着目し、福地山市を対象に住民調査を行いながら、課題の整理をし、地域活性化への提言を試みる。



福知山市周辺部における衰退の歯止めについての提言
―― 企業・行政・地域の3者連携による二地域居住の促進 ――

京都府本部/福知山市役所職員労働組合 吉良 謙吾

1. 序 章

(1) 本市の概況
 京都府北西部に位置する本市は、1937年(昭和12年)4月に京都府で2番目の市として誕生し、以後、数度の合併を繰り返すことで市域を広めてきた。一番新しいものでは2006年(平成18年)1月1日に、旧福知山市、三和町、夜久野町及び大江町の1市3町が合併し、現在では総面積は554.54平方キロメートル、人口は8万人弱を誇る地方都市である。
 京都市及び神戸市からは約60キロメートル、大阪市からは約70キロメートルの距離にあり、国道9号線をはじめとする多くの国道や舞鶴若狭自動車道、JR山陰本線・福知山線および京都丹後鉄道宮福線などが通る北近畿の交通の結節点となっており、また内陸型の工業団地としては国内有数の規模を誇る長田野工業団地が存するなど、鉄道のまち、そして商業のまちとして現在まで栄えてきた。
 人口においては、8万人に近い値を示してはいるが、全国的な人口減少社会のなか、本市もその例にもれず減少している。
 しかしながら、全国的にも高い出生率や、転出者よりも転入者が多いなどの原因により、人口の減少率は、京都府北部の周辺市町村と比較した場合では、下表のとおり格段に良い値を示している。

(2) 本市周辺部の衰退
 本市の人口推移については、周辺市町村と比べれば良い値を示しているのは、前述したとおりである。
 しかし、本市人口を地区別に見た場合では、中心部と周辺部では大きな格差がある。
 下表は、福知山市の各地区を2006年(平成18年)の合併時の、旧福知山市、三和町、夜久野町、大江町ごとに分け、さらに旧福知山市内のものについては、地区内に福知山市都市計画における市街化区域を含む地区か否かに分けたものである。

 この表のとおり、旧福知山市では2010年(平成22年)から2015年(平成27年)の間に1パーセントの人口増となっているが、旧3町はいずれも10パーセント以上の人口減となっている。また、旧福知山市の地区においても、市街化区域を含む中心部エリアと含まない周辺部エリアに分けた場合、中心部では2.7パーセントの人口増であるのに対し、周辺部では8.5パーセントの人口減となっており、旧福知山市内のなかであっても格差がみられる。
 周辺部ではこの人口減少に伴い、商業施設やガソリンスタンドの撤退、小学校の閉校などが相次ぎ地域の衰退が顕著になっている。

2. 二地域居住

(1) 定義と意義
 では、ここからは表題にも掲げている二地域居住について論じていく。
 二地域居住とは、国土交通省が2004年度(平成16年度)に実施した調査「『二地域居住』の意義とその戦略的支援策の構想」の報告書によると「都市住民が、本人や家族のニーズ等に応じて、多様なライフスタイルを実現するための手段の1つとして、農山漁村等の同一地域において、中長期(1~3か月程度)、定期的・反復的に滞在すること等により、当該地域社会と一定の関係を持ちつつ、都市の住居に加えた生活拠点を持つこと」と定義されており、二地域居住を促進することは、都市と農村の交流・人材の流動化という観点からは非常に有効な施策であると考えられる。
 この二地域居住を推進することにより、受入側である農村と都市からの二地域居住者の双方に利点がある。
 農村にとっては、都市部から人材が流入することにより、新しい知見の獲得・マンパワーの補充を図ることができ、担い手不足の解消につながる可能性がある。また、都市部とのつながりができることにより、生産物の販路拡大など経済的なメリットも考えられる。
 二地域居住者にとっては、都市部での抑圧された生活から解放され、精神的な充足を得ることができ、また、農村部での地域活動により自己実現欲求を満たすことも期待できる。
 このように、農村側にとっては物質的、二地域居住者側にとっては精神的という双方に正反対の利点が生じると考えられる。

(2) 需要と課題
 さて、二地域居住の需要については、移住の需要に比べると非常に高いという調査結果がある。
 一般財団法人都市農山漁村交流活性化機構が2006年(平成18年)2月に実施した「グリーン・ツーリズムニーズ調査(交流意向調査)」によると「農村への移住」の希望者は全体の6.6パーセントに過ぎなかったのに対し、「都市と農村を行き来するような生活」の希望者は3倍以上の22.9パーセントに上り、また、国土交通省国土計画局広域地方整備政策課による「2009年度(平成21年度)二地域居住推進施策のための基礎的調査報告書」においては、実に44.2パーセントが「自然豊かな地方と都市を行き来する暮らし」を「してみたいと思う」と回答した。
 しかし、このような意向があるにもかかわらず、二地域居住の実現の前に立ちはだかるのは経済的な課題である。
 前述の「2009年度(平成21年度)二地域居住推進施策のための基礎的調査報告書」では、二地域居住促進策の要望として「短期間安く借りられる住宅」「高速道路の無料化」「廉価で手軽に泊まれる宿泊施設」など、経済的な促進策に要望が集中しており、また、これらの促進策が行われた場合では、実現可能性が大きく上昇することも述べられている。

3. 二地域居住促進策への提言

(1) 本市の地理的要因
 さて、二地域居住の概要やニーズ、課題についてここまで述べてきたが、ここからは本市における実現可能性について言及したい。
 本市の地理的要因については、序章にて述べた通り、京都市及び神戸市からは約60キロメートル、大阪市からは約70キロメートルの距離にあり、北近畿の交通の要衝として栄えた故、いずれの場所へも電車または高速バスにより、乗り継ぎ無しで片道1時間半から2時間で行き来することが可能である。
 これらの都市は、人口100万人以上の大都市であり、京阪神地域をターゲットに二地域居住を促進するのであれば、本市の地理的要件は有利であると考えてもよいだろう。
 現に、京阪神地域と本市を行き来する二地域居住をすでに実践している者も何人か見られる。

(2) 官民協働による二地域居住促進
 さて、具体的促進策としては、都市部の企業、特に京阪神の企業と行政による官民協働の促進策を提言したい。
 まず、企業の役割だが、農村部へのサテライトオフィス設置である。企業が設置したサテライトオフィスと本社を定期的に労働者が往来することで二地域居住を実現させる。
 二地域居住促進策への要望のうち「高速道路の無料化」については、一自治体で対応することは難しいが、企業がサテライトオフィスへの移動費用として、サテライトオフィスの社員に支給することができれば、実質的な無料化は可能であり、促進策への要望へのアプローチも可能だ。
 企業側の利点としては、背景に企業の社会的責任(CSR)が叫ばれて久しく、また、2015年(平成27年)12月からは、50人以上の労働者がいる企業についてストレスチェックの実施が義務化されるなど、労働者のメンタルヘルスについても社会問題となっている点がある。
 そこで、テレワークをする社員を、サテライトオフィスの拠点の地域活動に参加させることでCSRを果たしつつ、前述したとおり、農村での生活は精神的な充足を得ることができるため、労働者のメンタルヘルスにプラスの影響を与えることができると考えられる。また、企業のイメージアップにつながる可能性も考えられる。
 次に、行政の役割としては、サテライトオフィス及び社員の宿舎となる建物の提供である。
 本市の公共施設は総数で700施設以上あり、延床面積は約46万平方メートル。人口1人当たりの面積は5.7平方メートルで、全国平均の約1.7倍、京都府内では2番目となっている。
 維持管理や更新にかかる経費が市財政を圧迫しつつある今日では、公共施設のマネジメントが喫緊の課題となっており、サテライトオフィスを設置する企業に、無償または低価格での移譲も検討の余地があると考える。周辺部では閉校となった小学校などもあり、廃校をサテライトオフィスとして活用することは他市町村でも事例がある。
 さらに、行政が社員の宿舎となる建物を提供できれば、二地域居住促進策への要望の「短期間安く借りられる住宅」「廉価で手軽に泊まれる宿泊施設」へ対応することができる。

(3) 地域の責務
 二地域居住者が精神的な充足を得るためには、ただ単に二地域居住をするだけではなく、地域社会との関与の度合いも関連性があると「2009年度(平成21年度)二地域居住推進施策のための基礎的調査報告書」の中では述べられている。
 そのため、二地域居住者が地域に貢献できる場を用意し、その活動を受け入れることが地域の責務となる。
 ただし、地域がすぐに二地域居住者を受け入れることは難しいため、地域と二地域居住者とをつなぐ、コンシェルジュのような役割を担う組織や人物が地域にいることが望ましい。
 本市においては、旧3町にそれぞれ住民自らが地域について考え行動するための組織として、地域協議会が設立されており、コンシェルジュの役割を担うことができる。
 二地域居住の促進を行うのであれば、このような支援を行うことができる組織がすでに設立されている旧3町域を対象にすると、二地域居住者と地域のミスマッチが起こりにくいのではないだろうか。


(4) 本市での都市部企業との連携
 最後に、本市における都市部の企業と地域、行政の連携の事例について述べたい。
 本市では、2017年2月に、都市で働くビジネスパーソンが地方に短期滞在し、自治体職員が設計した地域の魅力や課題に直に触れることができるオプショナルツアーに参加する「アクティブワーキング」を実施した。自治体が実施するものとしては宮崎県日南市に続き2件目となる。
 この取り組みは、業務から離れる宿泊研修とは異なり、用意されたコ・ワーキングスペースで日常業務を続けながら、地域の事業者や住民と交流・体験するもので、参加者は今後の業務におけるヒントなどの気づきを期待できる。
 受け入れる地域側にとっては、外部の知見から様々なアドバイスをもらうことで、新規事業の可能性を広げることができ、都市部のビジネスパーソンと地域双方のニーズを満たすことが狙いである。
 本市で実施された際には、本市のなかでも「林業」「教育」「ジビエ」「農業」などで目立つ取り組みを行っている事業者、そして地域に暮らす人々との交流がツアーのなかに組み込まれ、参加者と受入側の双方がそれぞれ気づきを得ることができたが、それだけにとどまらず、ツアーを設計した行政側にとっても地域の魅力を再発見する良い機会となった。
 地域の衰退は、ほとんどの周辺部の自治体にとっては喫緊の課題となっているが、厳しい財政状況のなかでは、行政だけでは対応しきれないのも実情である。
 そのようななかでは、行政だけでなく民間企業の協力がなければ、解決は難しいといっても差し支えないだろう。
 本市においては、民間との連携はまだこれからといったところではあるが、今後、企業、民間、そして地域の連携が進むことで、周辺部衰退の歯止めとなることを期待したい。