【自主レポート】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

地域包括ケアシステムにむけて
―― 高齢化社会と人口減少に対する地域サービス ――

鳥取県本部/衛生医療評議会 櫃田 範道

1. はじめに

 2005年の介護保険法改正で「地域包括ケアシステム」という用語が初めて使用され、少子高齢化の進行が引き起こすと予想される問題を緩和するために、地域住民の介護や医療に関する相談窓口「地域包括支援センター」の創設が決定しました。
 2011年の同法改正(施行は2012年4月から)では、条文に「自治体が地域包括ケアシステム推進の義務を担う」と明記され、システムの構築が義務化され、2015年の同法改正では、地域包括ケアシステムの構築に向けた在宅医療と介護の連携推進、地域ケア会議の推進、新しい「介護予防・日常生活支援総合事業」の創設などが取り入れられました。
 その後、2015年4月からスタートした「総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)」は、市町村が中心となって地域の実情に応じて、住民等の多様な主体が参画し、多様なサービスを充実することで、地域で支え合う体制づくりを推進し、要支援者等に対する効果的かつ効率的な支援等を可能とすることをめざすもの、としています。
 今回、焦点にした日南町は全国に先駆けて総合事業に取り組み、地域包括ケアシステム実現に向けた「地域づくり」、既存の枠組みにとらわれず、地域の実情に応じた柔軟なサービスを展開することにより、地域住民が安心して生活できる環境の整備を主眼として事業展開をしています。
 本稿では、各地で地域コミュニティの崩壊が問われ、行政が地域の在り方を定義するような情勢のなかで、日本の30年先を行く町としてしられる日南町に焦点を置き、医療、福祉、保健、行政と住民の連携で2025年の地域包括ケアシステムの構築に向けた取り組みと必要性について考察を行います。

2. 日南町の地域サービス

 日南町は1980年前後から、日南町役場の支援センターが主催する在宅支援会議を週1回開催し、会議構成は医師・一般病棟・療養病棟の看護師、介護職員、行政担当者など約30人が参加して在宅療養者の困難事例など検討会を開催していました。
 1982年頃からは、在宅支援会議の問題点を中心に行政の保健師が町内在住者宅を訪問し、全地域の生活状況の実態把握に努めてきました。その結果、①「歩けないので、薬を取りにいけない。」②「自分は寝たきりなので、長い間、風呂に入っていないから身体が汚れているので診てもらうのは申し訳ない、話しを聞いてもらうだけでいい」と、高齢者の方は訪問診療や行政支援を断る事例が多く確認されました。
 介護保険制度は1997年に制定され「介護保険法」に則り、2000年から施行・運用されている制度ですが、すでに日南町は介護保険制度が始まるまえから、この問題を改善するために、行政・医療スタッフが一体となりバスタブをかついで無償入浴サービスをはじめ、日南町は行政運営による訪問入浴発祥の地とも言われています。
 福祉・保健分野では「気軽に利用できるコンビニ的なサービスの提供」として、高齢化は重荷ではなく、むしろ新しい地域社会をつくるきっかけになる町づくりとして「地域の自立を目指して、住民自らが参画し自立するまちづくりを」スローガンに掲げています。ホームヘルパーによる訪問介護を年問5,000回以上も実施し、病院に隣接した健康福祉センターは、在宅介護支援センターとして機能し、健康教室やリハビリ訓練などの事業のほか、毎月一回病院、福祉、保健のスタッフミーティング、二ヶ月に一回は、行政トップも交えた会議を開催し、財政面や施策面も含めた検討を行っています。
 医療部門では、日南町国民健康保険日南病院(以下「日南病院」)は病床数99床(一般病床59床、療養病床40床)、日南町の中心部に1962年に開設された2次救急医療機関で、高齢化の進展した地域の病院であるがゆえに、開設以来高齢化社会における地域医療は何かを常に問い続けている病院の存在があります。日南病院では住民自らが地域の生活自立障がい者を支える力をつけるために、在宅医療を中心とした医療、保健、福祉の連携を続け、訪問診察・訪問看護に重点を置き、年間訪問診察2,000件、訪問看護2,000件の目標を立て実践しています。
 「まちは大きなホスピタル」、「まちの道路は病院の廊下」を院是として「在宅医療」に取り組み、外来診療を終えた午後から、院長自らが病院の在宅訪問用の車で「医療の出前」を行っています。中国・四国地方で最も広い面積の町だけに、「待っている医療」では住民の望む医療サービスの実行は不可能であり、医療の側が出向く体制を組んで、住民が気軽に必要なサービスを受けられるようにしています。
 介護部門では、日南町が運営していた特別養護老人ホームでは、年間1,500日を超える短期入所生活介護(ショートステイ)を受け入れ、町内に2ヵ所あるデイサービスセンターには、連日定員を上回る人が訪れています。日南町社会福祉協議会が受託運営していたデイサービス、訪問介護、居宅介護支援事業所を一つにし、日南町の住民が一体的な介護サービスを利用出来るように誕生した日南町で唯一の民間社会福祉法人を立ち上げ、保健・医療・介護・福祉の関係者が行政と連携して、寝たきりになっても安心して地域で暮らせる取り組みを推進し、後に厚生労働省の「地域包括ケアシステム」のモデルの一つとなりました。

3. 日南町の拠点位置と人口動態・高齢化率

図1 日南町の人口動態と高齢化率
 日南町は、1959年4月、7年間にもわたる厳しい議論を経て、7カ村が合併して誕生しました。当時、鳥取県知事による合併勧告、ついには、内閣総理大臣の合併勧告もあり、多くの難問を抱えながら、合併に踏み切りました。
 高齢化率は、全国市区町村1,741自治体の中で、19番目に高く、高齢化率は2045年までに6.7ポイント上昇し、55.9%に達し、おおよそ10人に6人が高齢者になると見込まれます。
 高齢化率50.9%(2017.10.1)と日本のおよそ30年先の姿と言われる高齢過疎の町です。
図2 鳥取県日南町の拠点位置
 中国山地のほぼ中央に位置し、西は島根県、南は岡山県、南西部は広島県の3県と接する県境の町です。面積は、鳥取県の10分の1(340.87m2)を有し、その約90%が山林となっています。
 豪雪地帯ですので、1963年の豪雪を機に始まったと言われる出稼ぎは、1970年には614人、実に5.6%もの町民が山陽から関西方面に仕事場を求めて出かけていたという記録が残っています。
 人口は1965年の16,045人から、約60年の間に現在、約1/4の4,458人となっています。

4. 地域コミュニティ

 都市部と地方部でのコミュニティの形成については大きな違いがありますが、地方部では、若年層を中心に都市部への人口流出が目立ち、過疎化や高齢化が進行していることから、地域内での世代を超えた交流が困難になるとともに、地域コミュニティの担い手の減少を引き起こしています。また、学校の行事等を通じてコミュニティ活動(図5参照)のきっかけとなる子どもの減少も顕著になっています。
 日南町の人口動態では、2015年では25~29歳の人口減少が顕著となり、2040年前後には25~29歳の年代層で女性が限りなくゼロに近い状態が予測されます。老年人口は2025年と2035年の予測では高齢率は高いものの2005年に最高推移していますので、全国的な高齢化に比較すると、この地域の老年年齢人口は徐々に減少する傾向にあると予想されます。
 世界的にみても希な仕組みであると言われている日本の町内会、自治会などの地縁団体の数や参加率は全国的にも大変高い数値ですが、日南町では高齢化率が高いにもかかわらず、寝たきり老人の比率は非常に低く、他の地域と比較すると、地域への参画の空洞化はなく地縁団体に参加されている人の減少傾向も殆どみられません。

5. 在宅へ向けての現状

 日南町は平成の市町村の大合併前までは、鳥取県で一番の広大な面積でしたので、医療・介護・福祉の連携は広範囲地域では重要なポイントとなります。
 日南病院を一例にとれば、対応できない疾患は大学病院をはじめ市内の大きな病院との連携が取られています。とくに市内の大病院へ紹介した場合、地域に帰ってきていただくために、年間を通して空ベッドを確保し地域・地域住民の方を支えることで地域づくりに成功しています。
 入院~治療~回復~退院~自宅までの一連のプロセスで考えると、適切な治療方法の選択、患者の回復を援助するリハビリ支援、適切な退院支援や後方受入施設との連携など、一連のプロセスに問題があると患者は予定通りに退院できず、入院の長期化に繋がります。

図3 日南病院一般病床平均在院日数
 一般病床における平均在院日数を全国平均と比較(図3参照)すると、全国平均より日南病院の平均在院日数が下回っていますが、県内の病院施設と比較するとさらに在院日数の差は広がります。
 2015年度までの平均在院日数は、地域での受け皿の介護・福祉サービスにより在宅支援が充実しているため、平均在院日数を短縮しています。
 しかし、2016年度から若干在院日数が伸びてきています。誘因は年間、約120人位の高齢者の人の自然減少があり、その結果、独居世帯が多くなり、認知症などの疾患の人の見守りが生活面で維持できなくなった可能性が強いと思われます。
図4 出典:厚生労働省 2018年8月7日更新
 地域医療は依然として、過疎の町で医師が往診カバンを持って担う、とのイメージが根強いようですが、町立日南病院が手がけたのは「訪問診療は地域医療の手段で目的ではなく、寝たきりになっても安心して生活できる、地域づくりを現代の医療」と提言し、訪問診療・訪問看護に重点を置き地域医療に対して将来予測を行い医療サービス提供しています。
 日南町では、高齢者の尊厳の保持、自立生活の支援を目的として、自分らしい暮らしを最期まで続けることができるよう、2005年の介護保険法改正で「地域包括ケアシステム」という用語が使用される以前から、高齢化に向けての取り組みを行っています。

6. 今後の問題点

 2020年の日南町の人口構成を予測すると、人口の1.9人に1人が65歳以上、3.0人に1人が75歳以上となり、高齢者と生産年齢人口の比率は、1対0.8となります。
 地域の年間人口減少は約120人から130人で、高齢者世帯での家族の助け合いが減っているなど独居世帯が増加し介護不足や認知機能低下、複数の要因が重なって在宅生活から施設への生活場面が変わる可能性が強くなります。

図5 日南町の小・中学児童数動態(2018.4.1現在)
 2020年の日南町の人口構成では、人口の1.9人に1人が高齢者で、生産年齢人口の比率は1対0.8となっています。すでに人口にしめる65歳以上の高齢者の割合は、税収入の低下や高齢者の医療・福祉の負担増から財政維持が難しいとされ、限界自治体の目安ともなっている50%を上回っています。
 出産や子育ての中心となる女性に着目すると、20歳~39歳の人口は約190人で、総人口に占める割合は4.7%です。5年前の同世代の女性数に比べると14.9%の減少となります。

7. 考 察

 日南町では、高齢化率が25%を超えると、福祉の関係者がどんなに頑張っても、重度の生活自立障がいのある方を病院から地域へ戻せなくなり、30%を超えると、保健・医療・福祉の関係者が束になっても地域へ戻せなくなります。さらに40%を超えると、行政、住民を巻き込み、保健・医療・福祉が一体となって地域で支える力を高めるしかなく、行政・地域サービスだけ躍起になっても、限界があると問題提起をしています。
 地域ぐるみで高齢者を支えるという観点から、郵便局の配達員は自主的にホームヘルパーの資格の取得に取り組み、郵便配達のオートバイの荷台には消火器と人工呼吸用のマウスピースを積み込み、災害時や緊急時に備え広範な地域に対応できる取り組みをしています。地域コミュニティを行政が支えることにより、近隣の人たちの健康状態や生活環境などを地域で把握でき、「あの人は最近、同じものを買って帰る」との情報があれば、行政・福祉・医療介護部門が情報を基に連携をとり、いち早く必要なサービスを提供することで、入院・入所ではなく在宅生活の援助につながり地域の連携も強化されます。
 2001年2月に地域の消防署に救急救命士が乗る高規格救急車を配属したのにあわせて、日南町では救急車の要請があった場合、消防署の救急隊がまず日南病院に立ち寄り医師を同乗のうえ、救急要請現場に向かう日南町方式救急自動車医師同乗システムを構築し運用を開始しました。生命予備機能の低下した高齢者の占める割合が高く、広大な管轄面積のために現場到着、病院収容時間が長い日南町において早期に適切な医療開始を図ることを目的として、平日(外来診療日)の13時~18時までに救急車の要請があった場合、日南病院の医師が救急車に同乗し現場もしくは救急車内で処置を施しながら病院へ搬送するものです。消防署から5分以内に現場到着が可能な一部の地区を除外した、日南町全域を対象としています。これは、救急自動車による現場到着所要時間は全国平均で8.5分、病院収容所要時間は全国平均39分ですが、日南町地域では所要時間が地域の面積が広大であることから、いずれも全国平均より約1.5倍かかるための対応策となります。(現在、このシステムは中断)
 以上のことから、日南町は日本の高齢化のおよそ30年先を行っているため、一般に考えられている地域医療を届けても、今の高齢者の方には30年遅れた地域医療が届くことになります。30年先の高齢化した地域では、何が必要か住民・行政が一体となり様々な地域事情を勘案したサービスを届けることが重要となります。

8. おわりに

 厚労省が掲げる地域ケアケアシステムは、高齢化社会に向けて必要不可欠な制度ですが、地域包括ケアシステムは、高齢者だけでなく子育て世帯、障がい者などを含むその地域に暮らすすべての人にとっての総合的、包括的な地域ケアのしくみとして考えていくことが大切となります。
 そのためには、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが重要であり、行政、地域サービス、住民を含めた関係者間で十分に情報共有を図っていくことが大切であることを述べ、このレポートを締めたいと思います。