【論文】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

多子化施策の重点的集中的投資について


千葉県本部/自治労松戸市職員組合 丑澤 正浩

1. はじめに

 「少子化」、「超高齢化社会」、「生産人口の減少」、「非正規労働者の増加」、「所得格差の増加」、「人口減少」、「子どもの貧困率の増加」など、悲観的なキーワードが新聞・テレビ・雑誌等で毎日のように目に触れる世の中となり、少子高齢化になってしまったから、あるいはさらに進んでしまうから、それに対してどのようにしたら良いかという論点で物事が語られることが多い。
 本来であれば、少子高齢化にならないために、あるいは少子高齢化がますます進まないようにするためには、今後どうしたらよいか、という視点を強く出す論客は少ない気がする。少子化にならないためには、事実婚も含めて結婚する人が増え、沢山の子どもが生まれて多子化が進めば、世の中を支える人が増えることになり、あらゆる問題が解消される。超高齢化が進むと、支える人口が減少するため、社会保障などの問題が生じるが、医療費・介護費も同じ構造である。そうなると現在の仕組みが成り立たないので、制度設計を見直すのも重要だが、これ以上悪化しないための20年、30年、あるいはそれ以上のタイムスパンで、多子化施策を集中的・重点的に推し進めていくことが重要だと思う。少子化、超高齢化社会になった時の対策も重要だが、そうならないための対策を同時並行で推し進めなければならない。
 少子化を嘆く前に、多子化対策に積極的に取り組む必要がある。それを成し遂げるには、今すぐに始めてもその効果が出るのは何十年も先のことになる。単純に結婚する人が増え、みんなが2人以上の子どもを作れば、人口は減少せず、社会を支える人も減少することはないと思う。そのためにはどうしたらよいのか、その阻害要因はどこにあり、どのようにすれば解消できるのかを探っていく。

2. 現在の就労構造の問題点

 民間企業にあっても官公庁にあっても、今や非正規社員・非正規職員に頼る比重が高まっている。民間では、3人に1人は非正規社員であり、もはや正規社員・正規職員は選ばれしものである。健康保険組合にも厚生年金にも加入できず、不景気になると真っ先に解雇される。資本の論理からすれば最小費用で最大の効果が上げられるかもしれないが、一部の資本家だけが富を独り占めするのを社会が許すべきではないのである。
 民間企業と同様に官庁がワーキングプアを増加させている現実も見逃すことはできない。労働者が望むなら様々な働き方があることはけして悪いことではないし、否定されるべきことでもないが、現在の状況はあまりにも目に余るものであり、バランスを欠いている。資本の論理、いわゆる経営者側の論理を優先すると、際限なく非正規社員・非正規職員が増加することになる。政治家、行政、マスコミ、大学、研究者、評論家、労働組合もどんどん警鐘を鳴らすべきである。自由主義経済、民主主義にあっても資本の論理の前では社会的規制をしなければ、資本の論理が優先されてしまう。

3. 経営者側の責任

 短期的な利益の追求、固定費である人件費の無理な削減。そして行きつく先はデータの改ざんや検査偽装。メイドインジャパンは高品質の代表であったはずが、このところ日本の代表的な大手企業がマスコミを騒がせている。
 経営資源には「人・物・金」と様々なものがあるが、その中で最も大切にされなければならないのは人材であるはずだ。しかし、コストカットに走りすぎたために非正規社員が増加し、本来いるべきはずの正規の検査社員までいなくなってしまった。多くの企業に多大な内部留保があるにもかかわらず、人への投資があまりにもないがしろにされてきた。企業を動かしているのは結局人であり、人を大切にする会社が最終的には利益を生み出す、という初心を忘れてはならない。人件費をカットしないと価格競争力が落ち、国際競争力に勝てないと経営者側は言うが、人材は唯一無二の存在であることを肝に銘じなければならない。

4. 働き方改革の行く末

 「誰もが生き生きと働ける社会をめざす」そのキャッチコピーだけ見ると、誰もがそう願うのは自然なことであると思う。しかし極論かもしれないが、見方を変えると、家族みんなが生涯一生懸命働かないと豊かな生活を営むことができないとも言える。一人一人の所得が昔に比べて少なくなっており、一人で支えることが大変になったので、みんなで一生懸命働かないと生活が成り立たないのである。
 ひと昔前なら専業主婦も数多くの比率を占め、夫の給料で多くの子どもを養っていたが、今では家族みんなが働かないと豊かな生活はできなくなってしまった。大黒柱一人が家族全員を支える社会も、別に悪い社会とは言えない。一部の大手企業に勤める正社員なら別だが、所得格差が広がり、所得の少ない世帯の比率がかなりの数を占めるようになってしまった。働くなら誰もがいつまでも生き生きと働ける社会は望ましいが、現実的には生活が大変なので、家族みんなが必要に迫られて仕事をしている人が数多くおり、あるいはもっと豊かな生活を求めて働いているのが現実ではないかと思う。
 現在労働者の3人に1人が非正規社員であり、多様な働き方といっても非正規社員と正規社員の間には経済格差や待遇格差など、大きな格差がある。また、望まない非正規社員が数多くいる。今回の働き方改革もキャッチフレーズに踊らされる傾向があり、経営者側にとって都合の良い仕組みになってしまうおそれがある。ますます格差社会を広げてしまうのではないかと心配する声があるのも無理はない。色々な働き方があり、様々な働き方を選べて一定の所得が確保できるのであれば理想的かも知れないが、実際は正規社員の枠は限られ、今は正規社員であることがいわば選ばれた人間であり、正規社員になりたくてもなれなかった非正規社員がますます増加し、経営者・官庁にとって使いやすい人材があふれているのが現実である。同一労働格差賃金が増加しているのである。
 現在のアラフォーにあっては就職氷河期の世代にあたり、非正規社員やニートが数多くいるアラフォークライシスの問題に直面している。この世代が親の介護の時期を経て親が亡くなった時、財産がある親なら別だが、財産がなければ早晩生活保護になり、非正規社員が増えることはかえって社会的費用を増加させることにもつながる。
 この働き方改革は今国会で法案が成立し、長時間労働の是正、同一労働同一賃金の実現、脱時間給制度の創設の三つが柱であり、大企業は2019年4月、中小企業は2020年4月に施行される。非正規の待遇を均等か均衡にすることを義務付け、待遇差が生じる場合は企業が説明する必要がある。同一労働同一賃金ということは、正社員の時給並みに非正規社員の時給が上がるのか、ボーナスはどうなるのか、社会保険には加入できるのか、また同一労働をどうとらえるかなど、色々な疑問がわく。この法案が本当に労働者のためのものになるのか、あくまでも企業側にとって都合の良い仕組みになってしまうのか、十分見極めていく必要がある。

5. 非正規社員の今後

 非正規社員同士が結婚しても、収入は正規社員の一人分にも満たず、出産して妻が子育てに専念すると、あっという間に生活が成り立たなくなる。また、非正規社員が老後を迎えると、国民年金を満額受け取っても6万円たらずであり、生活保護受給者の単身生活者の月額生活扶助費の7万円にも満たない。国民年金を払って国民年金を受給するよりも、年金を払わず生活保護を受給する方がましなのである。親が財産を残してくれれば別だが、非正規社員は将来の生活保護予備軍になってしまう。そのことをもっとマスコミ、学者、評論家、労働組合などが指摘しなければならない。

6. 地方と国の役割

 大きな制度の実施にあたっては、国が音頭をとって地方に働きかけ、助成金や補助金を使って地方をコントロールし、施策を押し進めてきたのが従来のやり方であった。それもけしてすべて悪いわけではない。しかし、国はベンチャー企業と違って、機動的あるいは小回りが利かない弱点がある。地方自治体は、国がすぐにできないことでも、法令に反しない限りすぐに実行できる長所があるので、その長所を生かして、国で取り組めないことでも先んじて取り組み、それが全国に広がり、結果的に国を動かしていくことにもつながる。よってこれからは、地方自治体自らが真っ先にできることはなんでもすみやかに取り組む必要がある。もはや国の顔色をうかがうことなく、あるいは補助金・助成金を頼りに政策を推し進めるだけではなく、自らが主体的に考え実行していくことが求められる。それこそが地方分権なのである。
 しかしながら、地方自治体にあっても従来型の自治体の場合、ベンチャー企業のように小回りが利かず、お役所仕事と揶揄される、遅々として物事を決められない、あるいは実行してもあまり効果が上がらない手法をとる自治体がまだまだたくさんある。できない理由を探すのは得意であるが、やろうとすることは不得意である。市町村や県の単独事業が数多くある自治体は、それだけ住民のニーズを酌んでさまざまな施策を実行しているとも言えるが、ただ予算を増やしてもあまり効果が上がらない単独事業も数多くある。最初は単独事業であっても、広くその施策が広まれば、いずれ都道府県や国から補助金・助成金が出ることもある。これからの地方自治体は、ベンチャー企業のように機動的に小回りを利かして、効果が上がる施策をすばやく実行することが望まれる。自治体自らが国ではすぐにできないことでも、20年、30年先を見据えて手を打つべきである。単なるパイの奪い合いのゼロサムゲームではなく、パイ自体の拡大を図る施策の実行が望まれる。

7. 政治家のなすべきこと

 歴史が物語っていることの一つに、権力が長期に渡ると腐敗し、社会の変化に対応できなくなるといったことがある。そういう意味では、政権交代は権力者を変え、社会改革のひとつのチャンスであった。残念なことに日本では政権交代が失敗した。日本人は忘れやすいといった国民性があるが、当時の民主党政権は、普通に考えればやれないことをやると言って国民に約束し、それを守ることができなかった。国民にいわゆる嘘をついたのである。この嘘については余程のことがない限り忘れることができない。嘘をついたのに謝りもせず、総括もせず、相変わらず野党間の離合集散をしているだけであれば、どんなに自民党政権が失敗を犯しても国民から支持を受けることはないのである。
 今後高齢化が進むとますます医療費もかかり、少子化で年金を支払う人も少なくなり、受け取る人がさらに増えることは誰が考えても容易に想像がつく。現在の制度を続けたのであれば、早晩立ち行かなくなることは明白である。それを防ぐには大改革が必要となる。そのためには、新たな政党が権力を握って大改革をしないと、既得権を擁護する政治家にはそれが到底できるとは思えない。今の社会をどう変えるのか、具体的なグランドデザインを掲げた政党を作り上げて政権交代を果たし、社会の仕組みを変えていかなければならない。あらさがしや批判ばかりしているだけでは無意味であり、生産的な施策を打ち出して与党につきつけるようでないと、政治は変わらないと思う。
 政治家が行政を動かし、マスコミを動かし、さらに国民を動かし、三すくみで取り組まなければ社会の変革はできないのである。「一億総中流社会」は終わり、中流層があらゆる面で破壊され、格差社会が進行し、中流層自体も下層化し、一部の者が富み、貧困層が拡大する社会になってしまった。今後中流層を大切にする社会にしなければ国は発展しない。

8. 多子化の阻害要因の解消

 現在は事実婚も含め結婚する人が少なくなった。男女2人とも非正規社員であったり、結婚しても経済的に子どもを産み育てることが困難なため結婚に踏み切れなかったり、核家族で共働きのため、子どもを産んでも保育所に預けないと仕事もままならないので、2人目以上の子どもをあきらめたり、そもそも出会いが少なく結婚のチャンスがなかったりと様々な問題がある。
 現在の合計特殊出生率が1.4倍前後で、出生数が100万人を割り込み、長寿化が進むと人口自体も減少し、高齢化率がますます進むことになる。多子化の阻害要因として考えられることには様々あるが、その阻害要因をあらゆる角度から分析し、個人・政治家・企業・マスコミ・大学・労働組合すべてが共有し、その阻害要因を解消するような施策をすぐにでも実行に移し、社会全体で取り組むことが大切であると思う。多子化を阻む阻害要因には、経済格差の広がりや、子育て環境の劣悪化などがその大きな原因として考えられるが、なぜ経済格差が広がったのか、子育て環境が劣悪化したのはなぜなのか、しっかり分析し、その改善を図るための施策を国・地方自治体で進めなければならない。

9. 国・地方自治体が今やるべきこと

 多子化の阻害要因の解消のため、今すぐに取り組まなければならないことの一つに、国・地方自治体に多子化を推し進める組織を作ることである。子ども関係の部署は国・都道府県・市町村にもあるが、少子化対策と多子化対策を同時に専門に実行する部署はほとんどないのが現実だと思う。専門の部署を設けて、そこに資源と予算をつけて多子化施策を強力に進めるべきである。少子化対策の部署は設けられ、多子世帯支援のメニューはあるが、多子化を進めるための支援メニューはないのが実情である。都市間で若者を奪い合うためのゼロサムゲームの支援策はあるが、その根本である若者自体を増やす施策、いわゆる多子化の施策は不十分なのである。
 現在官公庁自らが非正規職員を増やしてコストカットを行い、行政サービス、行政ニーズに対応しているが、官公庁自体が所得格差、経済格差を生み出しているのはけして望ましいことではない。逆に非正規職員を減らすような対応を取るべきであり、適正な人件費がかかるのはやむを得ないことである。
 また、自治体は結婚する人を増やす方策を進めるべきである。結婚は個人の自由であるし、結婚がすべてではない。また様々な価値観があるのも事実であるが、事実婚を含めてそもそも結婚する人が増えなければ子どもも増えないのである。忙しすぎて付き合う時間もない、出会いも少ない、非正規社員同士で経済的に子育てもままならない、草食男子が増えて付き合う男女も少なくなってしまったなど色々な事情があるにせよ、男女が一緒になり子孫を残すことをしなくなっては人類が滅びてしまう。そうならないためにも、自治体自ら出会いの機会を増やすために自治体直営の公営結婚相談所を運営したり、民間の結婚相談所を活用したり、または助成金を出したり、街コンなどを積極的に開催するなど早急に取り組むべきである。

10. 国あるいは地方自治体の多子化施策の重点的集中的投資

 上記で様々と述べてきたが、結局のところ、今後10代から50代の労働者については、一定の内部留保や一定の利益率がある法人について、国が原則正規労働を義務づけるぐらいの施策を推し進めなければならないと思う。所得格差はますます広がり、結婚したくても経済的な理由で結婚できない人がますます増え続けることになると思われる。
 同一労働同一賃金になれば、非正規であろうと正規であろうと関係なくなると思うが、現実には厳然と壁があり、その理想を実現するのはかなり困難だと思われる。仮に今すぐ国がその施策を実行できても、その効果が表れるのには数十年の歳月がかかる。どのような形にせよ所得格差を縮める施策を早期に、重点的・集中的に行わないと社会の分断にもつながると思う。本来であれば合計特殊出生率が低位横ばい、ないしは下がり始める前の1980年代から多子化施策に取り組むべきであったが、それをしてこなかった。今後も取り組まない場合は、人口減少も続き、高齢化も進み、生産人口もますます減少し、年金や保険料を担う世代が減少し、社会システムや制度がいずれ立ち行かなくなる。
 首都圏の地方自治体にあっては、民間の保育士確保のために、国とは別に独自に保育士手当を創設している自治体も多くなっている。保育士手当はいわゆる所得補償であり、多忙で大変な仕事にもかかわらず、給料は他の業種と比べて低く、年数を重ねてもそれほど給料が上がらないが、都市圏にあっては保育士が足りず、保育士の確保のために保育士手当や住宅手当を助成している。保育士確保のためとはいえ、自治体は機動的に独自の施策を創設し、実行することが可能なのである。
 根本的な対策は非正規社員を減らし、正社員を増やすことあるいは、同一労働同一賃金を実現することだが、その実現にはやはり時間がかかる。保育士に所得補償をしているのであるから、非正規の夫婦にあって一定の所得水準以下であれば所得に応じて地方自治体が若者手当や住宅手当のように独自の所得補償をして、正規社員との格差を減らすぐらいの政策を打ち出しても何ら問題がないと思う。そのような話をすると、すぐに地方財政も国と同様に厳しいとの話になるが、現に保育士手当を創設しているわけであるので、できないことはないと思う。今すぐに少子化対策と同時に多子化施策を打ち出し重点的集中的に実行すべきである。
 地方自治体は予算と知恵を出して、けして大きなことではなくてよいので、ありとあらゆる多子化につながる施策を機動的にすみやかに実行に移すべきである。国は最初に述べたように一定の内部留保・一定の利益率がある法人については、原則正規労働を義務付けるくらいの大局的な施策をすみやかに実行すべきである。国ができない、あるいはやらないのであれば、地方自治体が地元の企業に働きかけてこの大局的な施策を推し進めても良いのである。

11. 最後に

 今のままの状況が続くと、40年後には日本の総人口が1億2千万人から1億人を割り込み、生産人口も7,600万人から5,000万人を割り込む可能性がある。国は1億2千万人を適正人口と考えるのか、9千万人を適正人口と考えるのか明確にし、それにふさわしい制度設計を国民に示し、それに向けた施策を打ち出すべきである。
 超高齢化も分子の比率であり、多子化が進み高齢者の比率が下がれば、超高齢化社会とは呼ばないのである。現在日銀は異次元の金融緩和策を継続しているが、実質賃金が上がらなければ物を買おうと思わないし、少子化で高齢者だらけであれば消費が増えるとは思えない。そうなると物が売れないのであるから、需要と供給の関係から物価が上がりようもない。実質賃金が上がり、多子化が進めば国内消費も増え、物価も上がることにつながる。多子化が進めば、社会保障を担う人も増えることになる。生産人口も増えれば消費も増え、消費税収入等も上がるのである。
 これからますます少子化や高齢化が進むと、消費が減少し、消費税収入等も減り、さらに消費税を上げていかなければならない負のスパイラルに突入する。そうならないためにも多子化施策の重点的集中的投資を今すぐに取り組まなければならない。