【論文】

第37回土佐自治研集会
第5分科会 人口減少社会をどう生き抜くか!?

少子・高齢化社会に抗する提言


千葉県本部/自治労松戸市職員組合 伊藤  淳

1. はじめに

 今日の少子高齢化の問題と課題については、たくさんの自治体で課題になっている。その現状は、とりわけ地方において深刻な問題になっている。この問題は、地方において若者が少なく、都市部への一極集中が一つの要因としてあげられている。実際に地方においては、就職口が少なく、地元の中学・高校を卒業していざ就職となっても、地元に会社(工場)があるにもかかわらず、他の地方の支店あるいは、都市部の本社に配属になり、地元に残りたくても残れないケースが多々見受けられる。これではいつまでたっても地元の人口は増えず、若い世代も少ないので、結婚して子どもを産んで育てるということができず、過疎化が進みいつまでたっても、堂々巡りの状態である。
 結果として高齢化社会となり地域集落の崩壊、自治体の崩壊にもつながる事態が進行している。会社が、地元の工場で若者の採用を控えているのは、工場のオートメーション化(ロボット)で仕事が足りてしまうという労働力人口の減少にも一因があると思う。企業は生産性向上、コスト削減のために、オートメーション化を進め、正規労働力(人間)が削られている。この問題は、資本のあくなき追求で大手グローバル企業が下請け・孫請け企業に商品の価値以下の価格を押し付け、中小企業への収奪を許していることに原因がある。政府は公正な取引を行わせる制度・政策を創る必要がある。連合の公正取引を求め中小企業労組で取り組んでいる共闘会議の役割が重大である。このように地方に雇用機会を創設することが少子化高齢化をなくす大きな課題だと思う。

2. 少子化の要因

 現在、若者の晩婚化が少子高齢化に繋がっている。最近の結婚適齢期の若者は、おしなべて晩婚化の傾向にあるが、その理由の一つに、就職難と非正規雇用の広がりがあると思う。非正規化の広がりにより、不安定雇用が拡大する中で低賃金労働者が増えれば、結果として家庭を持つことに躊躇するのは必然である。結婚適齢期になっても収入が低いうちは結婚を見合わせようという若者が増えていく。またそのような若者が結婚しても、子どもを育てていくのが経済的に難しいと感じ、子どもを作らず夫婦で共働きのケースも多々見受けられる。
 このような問題を解決するには、「同一労働同一賃金」重視の採用を推し進めていくことも一つの方法ではないだろうか。このような格差を無くす法規制が求められる。実際、私も長年自治体労働者として働いているなかで、雇用形態で所得格差があるケースをたくさん見てきた。本人の実力よりも残念ながら雇用形態や学歴(派閥)だけで決められる労働条件の格差がなんと多いことか 今のままでは日本の資本主義社会が持続することは難しいと思う。現に1997年以降、労働者の所得は低下し、GNPも実質的には増加していない。圧倒的多数を占める労働者購買力の低下が生じていくと思う。

3. 貧困の再生産

 学歴社会と収入の相関性について考えてみようと思う。今、わが国において、学歴社会の頂点といわれる東京大学の学生のほとんどは、裕福な家庭に生まれ、幼稚園から都内の有名幼稚園に通い、小学生のころから塾通いで、教育費に多額のお金をかけていた家庭の子どもだ。それに比べて中流といわれる家庭は、子どもの教育にお金をかけたくてもそれに見合う収入がないため、他の地方の国立大学や私立の大学に進学する。まれに有名私立大学に入れた優秀な学生でも、返済をしなければならない奨学金をもらって進学するケースが見受けられる。なかには生活保護を受けながら大学に通っている学生もいる。そのような学生は、卒業して働きはじめのスタートラインにおいて、すでに何百万円もの借金を背負っている。働いて稼いでも、奨学金を返すのが精一杯で、結婚して家庭を持つということが二の次になりやすい。いつまでたっても負の連鎖が続き、次世代までも続いていく。もはや、学歴もお金しだいということになっていく傾向にある。なかには、家が貧しいから、大学への進学をあきらめたとか、地方から都会の大学へ入学させる経済力のない親のためを思い、進学をあきらめる子どももたくさんいると思われる。
 それを打破するために私は提案したいことがある。今現在日本にある大学(国立大学・私立大学)全ての、偏差値をなくし、入学試験もなくし、全入とする。それにより、一流大学といわれる大学が存在している都市部への一極集中もなくなり、受験戦争もなくなり、学生は、自分の好きな学部・学校に行けるようになる。私立大学は授業料が高いので敬遠されると思われるが、それを防ぐため、何か一つ抜きんでた物を学べるなど、その大学の特色を出して、学生を集めたらよいと思う。そうすればあまり裕福でない家庭の子どもでも、大学の序列がなくなるので、子どものころから学習塾に通わなければ、一流といわれる大学に入ることができないという現代の受験地獄と違って、進学の意思さえあれば大学へ行けて、将来学歴で差別されるようなことはなくなっていくと思う。もちろん私立大学の入学金・授業料を国立大学並に近づけるよう、国の私立大学への教育費支援も必要と思われるが……。
 大学の偏差値をなくすことにより、就職のときも、評判の悪い学歴フィルターもなくなり、面接重視や、あるいは、今では形だけの筆記試験に重きを置くことにより、大学で如何に学んできたか(昨今の有名大学に入れば、4年間遊んでいても就職のとき大学名で優遇される現状)、如何に目標に向かって努力してきたかをはかれると思う。これは極論ではあるが、このような偏差値不要・学歴不要論をもっと世間でも問題にしてよいと思う。これをもし実践したら、今も世間でいわれる入学した意味のない大学はなくなり、社会に出てから、自分の出身大学を聞かれたとき胸を張って言えるようになると思う。またこれにより受験業界でいわれるFラン大学といわれる入試の時、偏差値が低く入学するのがフリーである大学はなくなる。偏差値をなくすことにより、卒業生も一生、意味のない劣等感に悩まされることがなくなると思う。大学に入る前のたった高校3年間の一時期の成績だけで決まってしまうのでは、今まで述べてきた経済力のない家庭に生まれた子どもは、とても不利に思う。今後、このような学歴不用論、偏差値不要論という意見がたくさん出てきてほしいと思う。

4. 晩婚化の原因

 次に、晩婚化の原因には以下のことが考えられる。
 ①女性の学歴上昇、②女性の社会進出の増加、③女性の所得増加、④女性一人で生きられる時代の到来、⑤女性の結婚願望の減少、⑥男性非正規雇用の増加、⑦男性の低所得者の増加、⑧結婚には経済力が必要と考えるようになった男性、⑨男性の結婚や育児への自信喪失、⑩「お見合いおばさん」の減少、⑪親戚・近所・友達付き合いの希薄化、⑫恋愛の多様化、⑬労働形態の多様化による余暇の減少、⑭ネット社会化、⑮親の介護
 順番を追って考察してみようと思う。
① 昔の女性は高校を卒業したら結婚を意識するという風潮であったが、今や共稼ぎも当たり前、男女とも社会で働きたいと思う若者が多くなっている。さらに少子化の影響で大学に入りやすく、一度社会に出れば仕事にも責任感が芽生え所謂、腰掛(お茶汲みOLと言われた時もありましたが)という意識がなくなり、自分たちは社会に必要とされている、そのためキャリアを身につけなければならないと思う女性も増えていき、ますます晩婚化になっていく。
② 男女雇用機会均等法により女性の社会進出が増え、いわゆる専業主婦は、減少している傾向にあると思う。昭和の時代は、女性は家を守り、男性は社会に出てバリバリ働き、家に収入をもたらす大黒柱といわれた時代があったが、男女雇用機会均等法ができて以来、キャリアウーマンといわれる女性も世に出始め、仕事が楽しく結婚して子どもを生み育てるという女性しかできないことよりも仕事のほうが楽しいと考えている女性が増え、こちらも間違いなく人口減少につながっていると思われる。
③ 男女平等という考えのもと、女性も長時間労働をするようになり、さらに、事務仕事が多かった時代から営業もこなす総合職という採用枠もできたため、男性なみに所得も増えていく傾向にある。
④ かつて女性は小学生のころから家庭科の授業で、裁縫や調理を習い始め、中学生になってもその授業内容は継続されていた(男性は技術科という、所謂製造業の一部ともいえる教科に変わっていく)。そのため、女性は結婚しなくても働きながら、家事も容易にできるため、男性に比べ一人でも生活していけると思われる。
⑤ 女性の考えに独身のほうが気楽であるという考えがでてきた。一昔前は、妙齢の女性が独身でいると「まだ結婚しないの? 早く結婚すれば」などという今ではセクハラといわれる言葉を平気で発する周囲の人もいて不愉快な思いもあったと推察されるが、今や考え方は多種・多様で、会社でも独身だから出世できないといったことなどがなくなり、実力主義になってきている。このように独身貴族といわれる、自分の考えで好きなように生きていくという考えもあると世間では容認されてきている。
⑥ 女性の大学進学率が上昇し、社会進出が著しくなってきたため、男性の就職の枠が以前に比べて狭くなってきたと思われる。その他の理由はバブルの崩壊で企業も採用を手控え、できるだけ安い賃金で働く非正規雇用の採用を増やしたことも一因と思われる。
⑦ 今の結婚適齢期の男性(30代半ば)は、派遣従業員の規制も緩和され、企業も非正規社員の採用を増やし始めたころに就職の時期にあたった。ちょうど彼らの世代は、若いときに自由な生き方に憧れ、ニート、フリーターといわれる若者が増えた時代だ。その後リーマンショックに代表される景気の落ち込みにより、まともな職歴もなかった彼らは、非富裕層になった。結婚適齢期になってもいつリストラになるかわからず、仕事も安定していないのでは、自分の生活が精一杯で結婚を考えている余裕はない。
⑧ 女性が結婚相手に求める条件で重視することは、収入があげられる。特に安定した収入が望め、少しでも経済力のある男性を求めている。女性の社会進出により自身の収入が増えたため夫にも高収入を望んでいる。一方男性は、結婚して、妻や子どもを養っていけるに十分と思われる収入がないため結婚に前向きになれないことが多いと思われる。そのため最近では、結婚適齢期を過ぎた、収入も少し増えてきた40代になってから婚活を始める所謂、晩婚の男性が増えてきているといわれている。
⑨ 男性は結婚しても働き続け、妻や子どもを養っている場合がほとんどの家庭で見受けられる。子育てには、場合によっては、妻の代わりに幼稚園の送り迎えもしなければならなかったり、共稼ぎの場合は夜間保育の託児所も探さなければならない。しかも最近は、保育所に入るのも、抽選で入れなかったりしている。そのため、結婚して、子どもをもうけて家庭を築いていくのをためらっているケースも考えられる。
⑩ 今の婚活市場において、仲人をたてたいわゆる見合いという制度は影がうすくなり、本人の気持ちを重視した結婚相談所がほとんどだ。昭和の時代は、仲人(お見合いおばさん)が探してきた相手を見合いで断るということはほとんどなかったと思われる。半ば、強制的に結婚させられたということも聞いたりする。
 ところが、現在は、仲人(お見合いおばさん)はほとんどおらず、結婚相談所の本人の希望だけの紹介で、結婚を後押ししてくれるケースもほとんどないと思われる。
⑪ 都会に若者が集中し、都会のマンションでは、隣に住んでいる人の顔も知らないケースが多い。また、地方から来た若者は田舎の親戚ともほとんど付き合いもなく何年間も音沙汰なしという人もいると聞く。それでは、仲人になってくれる人も当然少なく、見合いという制度も薄れつつある。
⑫ 結婚という形にとらわれず、同棲という形のカップルも増えてきているし、一緒に暮らさず、好きなときだけ会う恋人だけの関係や、付き合う人を一人に決めず何人とも同時に付き合っている人などさまざまな恋愛があり、今は、一緒に生活を、共に家庭を持つという結婚ではなく、自由でいたいという恋愛だけを楽しんでいくという、「結婚」という形にとらわれない生き方を選択している人もいる。
⑬ 男性も女性も会社で、生活のため休日や残業もいとわず働くサラリーマンが多くなってきたため、余暇が少なくなってきている。そのため恋愛や異性と交際する時間が持てず、せっかくの休日も家で寝ているだけという人も多くなっている。
⑭ 携帯電話やスマートフォンが普及し、使用者が急増している。朝の通勤電車の中でさえ老若男女問わずほとんどの人がスマートフォンの画面を凝視している。メールやインターネットでニュースを見ているのである。今や顔も知らない人と友人になり、交流することも可能になった。いつでも何処でもネットの世界で人と繋がることができるので、寂しさもあまり感じなくなる傾向があり、そのため、手間隙かけて一人の異性と付き合い結婚に至るというより、不特定多数の異性と知りあえるので、結婚が難しくなったと思われる。
⑮ 戦後核家族化が進み、昔のように兄弟が5人もいるという世帯は見受けられなくなった。多くて3人、それでも珍しく、1人という家庭も多い。そのため、親の面倒(介護)の問題がでてくる。男性、女性にかかわらず1人子の場合は、結婚相手を探すときに、本人、相手の親の介護が頭のすみにちらついて、1人子や長男とは結婚しない、ましてや相手の親と同居は嫌だ、兄弟がいればその人に介護を押し付けたい、それどころか自分の親との同居も嫌、自分達2人だけで幸せな家庭を持ちたいと考えている若者のなんと多いことか。そのため、婚活でも相手をえり好みし婚期が遅れていく。もっとも介護の問題は何も子どもだけの問題でなく、富裕層だけが介護つき高級老人ホームに入所でき、特別養護老人ホームに入所するのは順番待ちという、今の政治にもかなり問題があることは否めない。

5. 排外主義イデオロギー

 最近の少子化について、時折おかしな発言をする保守系政治家がいる。「女性は子どもを生む機械だ」と暴言を吐いた政治家や、「子どもを産まないほうが幸せじゃないかと勝手なことを考える人がいる」と発言した政治家もいる。言うまでもなくこの発言は、憲法に規定されている人権を理解しない政治家であり、特別公務員である議員をする資格がない。女性や、妻帯者に対し失礼極まりない発言であるし、癌などで子宮を摘出し、子どもを望んでも産むことができなくなった女性もおり、個々の事情があるはずだ。
 最近の「子どもを産まないほうが……」の発言も政治家が、子どもを産んでも、きちんと育てていけるような法の整備(産休、育休が取得できる職場環境、待機児童ゼロの保育所整備、児童手当を増やす、所得を上げる等)をきちんとせず、結婚した若者の考え方の責任にするとは、呆れたものである。このような今回の発言は、ネットで海外にも拡散し、日本の政治家のレベルの低さをさらけ出してしまったと思われる。公人が言ってはならない発言であると思った。
 このような人権を無視した思想は社会の基盤を個人の集合体ではなく、男が働き、女は男に従属する「家庭」を基盤に考えている思想で、民族的には排外主義イデオロギーに汚染されている。

6. まとめ

 今、安倍政権は外国人労働者の受け入れを推し進めている。日本の企業が、低賃金で働く外国人を、日本での技能実習生という体のいい制度の下、大量に雇用している。フランスは移民の受け入れに成功した国といわれている。
 フランスの移民は、かつてフランスの植民地だったアフリカからの移民が多いが、今ではフランスは児童手当の充実や事実婚と併せて移民による多国籍国家となっている。移民も市民権を得て子どもを産み結果人口増にも繋がっている一因となっている。
 安倍政権の外国人労働者の受け入れは、専門的労働者と研修制度であった外国人技能実習生受け入れから、労働力不足を理由に安価な単純労働者を受け入れる政策に変更しつつあり、研修後5年間は就労可能とする政策になっている。
 これは、介護、建設、農業等の産業で労働力不足を補おうとするもので、外国人を移民として受け入れるものではない。ドイツにおける100万人規模の受け入れに対して、日本での受け入れはドイツや欧米にくらべて極めて少ない。
 単なる安価な労働力不足を補うための外国人受け入れ政策ではなく、日本人と同様に社会保障や労働基本権等が保障され、外国人と共生できる受け入れ政策で、そのための少子化・高齢者対策でなくてはならない。
 以上大きく分けて6項目が、私の人口減少・少子化・学歴社会・晩婚化について提言したいことである。